日常:終章Ⅰ 転機は突然訪れる
襲われた翌日。俺は何事もなかったかのようにバイトに来ていた。普段と違うところがあるとすれば腕に包帯を巻いているということくらいだろう。
腕の変色はまだ治っていなかったが、じわじわと治ってきている。
別にいつもと変わらない。
変わったのは俺の背負う十字架の重さだけ。
どんどん重くなっていくこの十字架を、いつか降ろすことができる日が来るのだろうか。いや、俺にそんな資格はないんじゃないか?俺はもう二人も殺した。こんな俺なんて……生きている資格はないんじゃないか?
「はぁ」
無意識に大きなため息が漏れる。
「なによぉ〜ため息なんかついて。まだ若いのになにしてんの」
耳ざとくそれを聞きつけた先輩が俺の背中をバシバシ叩きながら笑顔で話しかけてくる。
今の俺は吸血鬼と同じだ。その太陽のような明るさで消えてしまいそうだ。いや、俺には消えることも許されない。俺は、俺は……。
「なーに辛気臭い顔してるの。ねぇ、前に付き合ってっていったの、覚えてる?そんな顔じゃ接客業はできないわよ?今日のバイトが終わったら、ちょっと付き合いなさい」
「ぁ……」
俺が何かを言い返す間もなく、先輩は仕事に行ってしまった。俺も仕事しないと。
俺は辛気臭い表情に無理やり笑顔を貼り付けて、いつものように接客に向かった。
一日の業務が終わった夕方、というには少し遅い夜。俺と同じタイミングで仕事が終わった先輩についていくようにして、俺はとぼとぼと歩いていた。
「なに?その様子は。美人の先輩とデートできて嬉しくないの?」
「……すみません。今は、そういう気分じゃ……」
「ふぅ〜ん」
意味ありげな相槌を打った先輩の様子には気がついたが、それを気にかけることができるほどの心の余裕は俺にはない。一人で帰っているときと同じように最低限周りに気をつけながら、罪の意識に苛まれつつ前に進むのが精一杯だった。
「ほら、ここ曲がるよ」
「あ、はい」
まっすぐ進もうとしていた俺に先輩が声をかける。どうやらこの建物に入るらしい。俺はその呼びかけに機械的に答えると、体を半回転させて先輩と同じ建物に入ろうとして……固まった。
「先輩……、ここに……入るんですか?」
「うん?イヤだったかな?」
「いや……嫌というわけじゃ……というか、ここは……」
俺の十字架による呪いを一時的に跳ね除けるには十分なインパクトのあるものが、そこにはあった。
そう。その建物とは……男女が二人で事を為すために入る例のホテルだった。
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