日常:中章Ⅰ 理不尽はすぐそこに
俺は幻覚が見えるまでには精神的に追い詰められていた。たまに幻聴も聞こえてくる。
「ヒッ!?」
まただ。あのときのゾンビ化した男が突然道路に現れた。
幻覚とわかるだけまだいいが、これが現実との区別がつかなくなったときが恐ろしい。
「うわっ!?すみません!」
今度は曲がり角で人とぶつかってしまった。ぶつかるということは幻覚ではないだろう。
「……………………………」
ぶつかってしまった男は何かをブツブツと言いながら、そのまま歩いていこうとして……俺を見つけて止まった。ぶつかったことにも気づかなかったのかもしれない。
全身黒ずくめの服装で黒いコートまで着ている男と目が合う。
その目は大きく見開かれて、血走ってはいなかったが、なにか狂気的なものを感じた。
「すみませんでした!」
俺は一刻も早くその場を離れようとするが……
ガシッと腕を男に掴まれてしまった。
「フヒッ、フヒヒヒッ。お、俺は悪くない。こんなことにさせたあいつらが悪いんだ。そうだ。俺は、俺は俺は俺は俺は俺は俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺」
なんだコイツ。気味が悪い。早く逃げようと腕を振り払おうとするが、振りほどけない。
そんな俺など関係ないとでも言うように、男はコートのポケットから何かを取り出した。
透明なケースに入ったあれは……注射器?
男はケースからそれを取り出すと俺の腕に向ける。よく見ると、中では透明な液体がちゃぷちゃぷしていた。絶対にヤバいやつだ。
「や、やめろ!」
俺の抵抗も虚しく、男は俺の腕に無造作に注射器を突き刺した。
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