オオカマキリくんの憂鬱
嫁が欲しいぜ。
草むらを彷徨いながら、腹の中に溜まったハリガネムシを吐き出すように俺は呟く。
以前は「俺の心と鎌もドキドキするほど光ってるぜ!」なんてオラついてたけど、嫁いない歴=年齢を拗らせると、もはやそんな気力はどこかに消えちまったぜ。
そのくせ理想だけはどんどん膨らむ。
ああ、お尻が大きくて、くびれがキュッとなってて、緑色が鮮やかな女性が、コスモスの花のから落ちてきてくれないかな。
そしたら俺は、最高のクルマバッタモドキにヤマトシジミを添えて、彼女にご馳走してやるのに。
ほんと最近の女性ははバカばっかりだぜ。
ここにこんなにステキな男がいるっていうのに、誰も誘ってこないなんてな。
そりゃたしかに、少し翅が傷ついているし脚も一本取れちゃってるけどが、これだって俺が修羅場を潜り抜けてきた証、いわば勲章だぜ。
ほんと、見る目がないぜ。
それにしても、さっきから俺を眺めているこのニンゲンは何なんだ?
情けないツラしやがって。こういう弱っちい男は、どうせ嫁の尻に敷かれて、頭を叩かれながら生活してんだろうな。
まったく哀れな男だぜ。
◯
お、オオカマキリのオスじゃん。
玄関の壁にへばりついてて、門灯の光に誘引された虫でも狙ってきたのかな?
しかし、なんか翅も傷ついてるし、脚も一本取れてるし、不細工な個体だなぁ。
これじゃメスにも相手にされないんじゃないかな?
そういやカマキリって、交尾のあとメスに食われる場合があるらしいよな。
嫁の尻に敷かれている俺だけど、食われるよりは全然マシだよな。
まったく哀れな男だぜ。