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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

高校受験

作者: Hora
掲載日:2023/08/03

僕の名前は太郎(たろう)。来年春に高校入試を控えた中学3年生。最近バスケットボール部を引退した。


 中学から始めたバスケットボールだったがメキメキ上達した。部活のメンバー同士の仲も良く、中学2年の時には県体で優勝でき、全国大会の出場を果たした。そのおかげで中学校内でバスケ部は随分優遇してもらっていたように思う。ただ3年の夏の最後の大会、地区大会の準決勝で負けた。相手が物凄く強かった訳ではない。レギュラーメンバー全員のちょっとした不調であったり、試合を行った体育館のコンディションが絶妙に悪く力を発揮できなかった。過去に何度も勝っていた相手で舐めていたのもあったのだろう。こうして3年8月下旬の全国大会リベンジを果たすどころか、7月の上旬にあっけなく部活動は終わってしまったのである。

 

「あんた部活終わったんだから、ほんとに勉強頑張りーな!」

母が言う。志望している近所の公立高校の合格点から現在40点程足りていない状況。1教科平均で8点上げれば良いだけなのに母はおおげさだ。悔しい事に僕以外のバスケのレギュラーメンバーは学力が高く、もう勉強の必要が無いぐらいで、

「高校でもう一回このメンバーでバスケ全国行こうぜ!」

と盛り上がっている。一方で、

「負けたのはめっちゃ悔しいけど、部活無い夏休みは嬉しいな。みんなでめっちゃ遊ぼうぜ!」

と夏休みに遊ぶ予定をしている。ストリートバスケやみんなでオンラインゲームを始める予定が夏休み前からドンドン入っている。まだ入試まで半年以上あるから大丈夫。大丈夫…だろうけども。僕は学力が足りていないことを他のメンバーに言えていない。

 

「今日から週3回で家庭教師の先生がいらっしゃるからね。優しい感じの女の先生よ。ちゃんと部屋片づけておいた?」

夏休みに入るタイミングである7月23日から僕は自宅で1対1形式の家庭教師で勉強を教わる事になる。夜の時間なので部活のメンバーに家庭教師なんてつけていることはバレないと思う。母いわく、

「こんな中途半端な時期から塾を通っても途中からになるから」

らしいけど、別に塾の解説がどこからでも、同じテスト範囲なんだから問題ないと思う。同級生が多くいる塾の方が良かったなぁ。とにもかくにも本日は家庭教師の初回の日。100分間の授業。

「はじめまして。家庭教師の道場(みちば)つくしです。」



「はじめまして。家庭教師の道場(みちば)つくしです。」

私はにっこりと笑いながら涙を流す。暑い夏の夜。太郎(たろう)君にはまだ目に光がある。


 私は昨日、2024年の2月27日にいた。泣いて泣いて泣いて泣いて、、、涙が枯れる程泣いた。高校入試の合格発表の日、太郎君は合否の確認をするために高校の玄関前に設置された掲示板を訪れる。その7時間後にトラックに飛び込み亡くなる。私はその連絡を受けたのだ。太郎君の高校合格にかけるこれまでの意気込みや、掲示板に自身の受験番号が無かった事を確認したそのあと7時間もの間、家に帰らずに何を思っていたのだろう…。そして自死を選択した気持ちを(おもんばか)りやるせない気持ちになった。


 去年の夏から太郎(たろう)君の指導を任され、週3回というかなり多い回数の指導ではあったが太郎(たろう)君はのらりくらりと勉強を避けるタイプであった。好きな事はするけど、嫌いな事はしない。特に憶えることを苦手とする。入試に関してはかなり致命的な欠点であった。

「嫌って言わないで。憶える事自体の難易度は低いから、回数をこなそう。必ず点数になるから。」

と根気良く伝え、宿題にもしたけれどやってくれない。昼も夜もバスケットボールの元部員と遊んでいるようで、夏休みの学校の宿題すら終わるかどうか怪しい。受験生と言う事で確かに宿題の量は多いのだが、受験生ならば早々に課題は終え、模試への対策に移らなければいけない。勉強計画が軌道に乗らず私は焦っていた。

 しかしその一方で、週3回と一緒にいる時間が長い事。部活で全国大会に出場経験があるからかコミュニケーション能力がとても高い事。勉強に関する注意をしても、部活で注意され慣れているのかあっけらかんとしていて憎めない事。そういった事からこれまで担当してきたどの生徒よりも仲良くなった。

 夏休み明けの模試の結果が出る。点数は少し…5教科でわずか10点程ではあるが伸びた。まだボーダーには届かないが太郎君と母は喜んでくれた。学校が始まるが、授業の暗記すら追いつかない程、太郎(たろう)君は勉強時間が短い。より仲良くなる2人の関係に反比例して、得点はじりじりと落ちていく。寒くなる頃、太郎(たろう)君は笑わなくなった。11月、12月と入試直前期とも言える時期も学力が上昇していかない。学校ではプライドがあるのかガリベンになれないとの事。2024年に入った1月、最初の指導で太郎(たろう)君が相談してきた。

「つくし先生…。僕、高校いけると思う?」

「うん!絶対いけるよ。でも何度も言うけど憶える時間を含んだ勉強習慣つけないと難しいと思うよ。頑張ろう!」

「もう来月入試だけど間に合うと思う?」

「得点でいえば1教科10点上げればボーダーは越えるから冬休み後半はちょっと暗記多めで計画組んでるから。」

「うん。入試まで頑張る。」

と言うが太郎(たろう)君は勉強をしない。どうすれば?何をすれば?と幾度となく聞いてくるが、答えてもやらない。聞いてくる時には本気なんだろうけれど、やる気が長続きしないタイプなのだろう。もしくは友人が一緒にしていないと頑張れないのだろう。

 私も打開策を明確にできないまま無為(むい)に受験日当日を迎えさせてしまった。その夜、家庭教師の指導は入っていなかったが太郎(たろう)君の出来が気になったので家に訪れるのだが、

「先生すみません…。太郎(たろう)がちょっと会えないと言っていて…」

玄関先で太郎(たろう)君のお母様からそう言われ会う事ができなかった。


 そして1週間後の志望校の合格発表の日に至る。私は何度も太郎(たろう)君を励ますために「大丈夫!」「合格できる!」と言ってきた。しかし太郎(たろう)君からすると不合格という結果は私に裏切られた・嘘を()かれたと思ったのかもしれない。だがもう太郎君は亡くなってしまった。私は泣き疲れて寝てしまう。


その夜に私は珍しく夢を見た。


「夜分にごめんなさいね。つくしさん。私達はあなたの現状を見ていられなかったので助けに来た、あなた達の世界で言う神という存在です。」

「…っ…あ…」

「ごめんなさいね。そちらは話す事ができないから、一方的にこちらから話す事を許して下さい。あなたは太郎(たろう)君が自死してしまったことに関して深い後悔をしていますね。仲良くなってしまった事から遠慮してしまい強く出られなかった事。もっと暗記の時間を確実に行えるように一人で全部背負わずに母親にも頼んでおけば良かった事。」 

「…ぅ…、ぅ…」

私は夢の中にも関わらず心の中を言い当てられ涙を流す。

「私達は太郎(たろう)君が合格する未来を見ていましたが、別の神による干渉があり、本来不合格となる生徒が合格し、太郎(たろう)君が不合格となってしまいました。これは私達の本意ではありません。


…そこで、つくしさん。

あなたは記憶を持ったまま、太郎(たろう)君の指導を開始した去年の7月23日に戻ることができます。記憶を引き継ぐのは世界の中であなただけです。太郎(たろう)君も忘れています。あなたの行動だけを変えて太郎君を合格に導いてあげて下さい。もし、これを了承していただけるのでしたらうなずいて下さい。」

そう言われ、私は即座にうなずく。

「分かりました。ありがとうございます。それでは目を覚ましたらあなたは7月23日の朝です。初回の指導の時間は手帳に記されていますので間違えないで下さいね。もしまた失敗してしまっても私達は何度でもあなたのサポートをします。では失礼します。」







ミーン!ミーン!

うだるような暑さで目を覚ます。外では蝉が鳴いている。私は7月23日に戻ってきた。本当に2023年なのか、テレビや新聞などを確認し、間違いないことが分かる。最初の指導の時間まで12時間程。ひたすらに太郎(たろう)君の勉強計画を練り直す。

 夜、指導の時間になり私はこの半年間見慣れた駐車スペースに車を止め、見慣れた玄関を開けると、お母様と太郎(たろう)君が玄関に立っていた。

「はじめまして。家庭教師の道場(みちば)つくしです。」


「はじめまして。家庭教師の道場(みちば)つくしです。」

と、自己紹介した先生は何故か笑いながら泣いていた。母と顔を見合わせ、来る前に何かショックなことでもあったのかな?目に埃でも入ったのかな?と僕は考えていた。部屋に案内し、先生と1対1になる。表情や口調は優しい先生ではあるのだが、勉強計画や課題がみっちりと書かれておりかなりえぐい。バスケのメンバーとのストリートバスケやオンラインゲームは禁止と言われた。夏休みの課題は7月中にすべて終わらせ、間違えた問題の正答を憶えるための準備まで行なうよう言われた。何でもそれができなければ高校に必ず落ちるらしい。確かに僕は勉強に関しては任されてもサボってしまいそうなので厳しい方が良いのかもしれない。


7/26 宿題を進められていない事が見つかり、模試の過去問課題を3年分15枚追加される

8/2 宿題が終わらなかったので自室に鍵がつけられ、毎日母親が勉強の進み具合をメールで送るよう言われる 

8/11 抜け出してバスケのメンバーと遊んでいたことが見つかり、思い切りビンタされ100分説教される

8/24 模試の得点が70点上がりボーダーを越える。先生と僕は喜んだが、勉強メニューの量は減らされなかった

               ・

               ・

10/2 模試の得点がわずか2点だが落ちる。先生は火がついたかのように怒り、思い切りお腹を蹴られる

10/5 睡眠時間は入試まで1日3時間に設定される。日中ぼーっとすることが増えた。                    ・

               ・

11/19 現在夜中の2時30分、2階の自室から窓の外を見ると先生と目が合った。

               ・

               ・

12/10 ストレスからか何も覚えられない。トイレにも許可が無いと行けない。

               ・

               ・

12/23 冬休みは家庭教師が無い日も毎日先生が来るらしい。顔を見るともどしてしまう。

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               ・

1/10 入試直前の模試の自己採点では20点下がっていた。明日の指導が怖い。怖い。怖い。

1/11 先生に100分間殴られ続けた。先生の細い腕、拳も血だらけである。高熱が出る。


翌、1/12の朝。太郎(たろう)君がベッドでぐったりした状態で亡くなってる状態で発見され、そして私は逮捕された。事件はセンセーショナルに報道される。家庭教師が生徒の学力が落ちたことに怒り狂い殴殺(おうさつ)。コメンテーターは無責任に私の過去や家庭環境、卒業文集の写真を全国ネットで晒している。お前らには何も…何も分かるまい。


2024年2月27日。夜に寝る事によって去年のあの暑い夏に戻れる。そう考え私は目を(つむ)る。


目を覚ますと留置場の天井が見えた。神はいたずらに未来を掻き乱す悪魔だった。

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