魔女
少女は何故生まれてきたのか考えた。
少女は何故今まで生きてきたのか考えた。
少女は何故今ここにいるのかと考えた。
幸せを探す為に生まれ、幸せになる為に生きてきた。
決して十字架に張付けられる為に生まれ、生きてきた訳では無い。
だが、少女は今十字架にキリストのように張付けにされていた。
少女には親がいた。優しい父と母が。
「何で人は愛し合うの?」
そんな事を二人に聞いた事があった。
「きっと独りはさびしいからじゃないかな」
父がそう言った。少女はなんだかはぐらかされた気がした。
ある日、兵士達に母がつかまった。ここ最近行なっている『魔女狩り』だった。
少女と父が街に買い物に行っている間に連れて行かれてしまった。
張付けにされて群衆の前に晒された母を、ひとごみに紛れて見ていた。少女の手を握る父の手は、少し強く私の手を握り、細かく震えていた。
群衆の中の二人を見つけた母が、少し見つめたあと、微笑んだ。
目隠しをされても、足元に火を掛けられても、母は微笑んでいた。
「その魔女を殺せー!」
周りの人々は口々に叫んだ。
父は少女の手を離し、ひとごみをかき分け、燃え上がる炎の中に飛び込んで行った。
「魔女の仲間だ!その男も殺せー!」
また周りの人々が叫んだ。
少女は父と母を涙を流しながら呼び続けた。その声は叫び声にかき消されて届く事がなかった。
群衆の間から見えた炎の中に、張付けにされた母を抱き締める父の影が見えた。
しばらくして少女も魔女として捕まった。母と同じように張付けにされ、群衆の前に晒された。
少女は目隠しをされ自分の命の終わりを悟った。視界の暗闇の向こうから群衆の叫び声が聞こえる。
その声が何を言っているのか、何か得体の知れない化け物の声のように聞こえた。
少女は恐怖に顔を歪めると、暗闇が光に包まれた。
光の中には父と母がいた。
二人の顔は三人が一緒に過ごしていた時のように、幸せに満ちている微笑みを浮かべていた。
少女は自然と笑顔になっていた。
独りじゃない事がうれしかった。
私たち三人の間に愛があった事がうれしかった。
愛のないこの世界を出て行ける事がうれしかった。
炎の中にいる少女は微笑みが絶えなかった。
それを見た人々は、
「炎に焼かれながら笑ってるぞ」
「魔女は化け物だな」
口々に言葉を発し、自分の目に涙が浮かんでいるのにも気付かない。