送還
女神が口を開く。
「さて、確認は終わりましたか?皆さんのステータスプレートには称号〈勇者〉が出ていることかと思います。その称号が魔王を倒す為に必要な物なのです。さて、この中で一人、恐らく勇者に選ばれなかった者がいるかと思います。そうですね。前に出てきてください、岩樹冬仙さん?」
やはりか、色でバレてるとは思っていたが、やはりか。俺は前に出る。制服のポケットに手を突っ込んで女神を・・・ヘルティアを睨み上げる。
「で?俺が一体どうなるんだ?ここで死ぬのかどこかに送られるのか。それはもう決めてんだろう?」
女神は俺をみて、微笑む。・・・いや、微笑みは消えてないんだ。ただその微笑みが深くなっただけであって、普通は気づかないんだと思う。その女神が俺に言う。
「貴方には、未踏破の迷宮に行ってもらいます。そこをクリアできたら、貴方は晴れて自由になれます。こちらからは干渉しないと誓いましょう。やってくれますか?」
それを信用することはできない。何せ俺を謀殺しようとしているのだから。しかし俺はここで何も言い返せない。実際に称号〈勇者〉は出ていないのだから。俺はヘルティアをみて、一言言う。
「武器をよこせ。それがなきゃ無理だろ。」
と言い放った。それは当然だ。いくら体術ができても決定打は欲しい。そのための武器は欲して当然だ。女神は手を叩く。後ろからメイドが出てくる。
「彼に召喚武具を。」
一、二分ほどだろうか。メイドが宝刀と包丁を持ってきた。宝刀は青く、包丁の握りは赤くなっている。何故ここに宝刀と母さんの作った包丁が?
そう。あれは父さんが昔「神を封じた」と言っていた宝刀、確かその刀が解放される時はその世界が終わる時って言ってたなぁ・・・まぁ良いや。きっとそれは暴走のせいだろ。聖剣や魔剣は時折暴走するって聞くしなぁ。包丁だって確か母さんが作った奴で、食料に困った時に使えるって言ってた奴だ。
女神の説明が入る。
「皆さんはここに召喚された際、三つの物が与えられます。それはあなた方の星由来の物であったり、こちらの世界の物であったりです。もちろん、皆さんの分も後で配りますね。」
俺は間髪入れずに女神に問う。二つしか出してないから嘘なんだろとは思う。或いは触れた瞬間に呪いが発生するタイプのトラップアイテムか?
「もう一つはなんだ?ここには二つしかないのだが。あんたの言うことが本当ならば、ここにもう一つ有るはずなのだが?」
すると女神は袋を投げてくる。
「次元の袋です。魔力を用いて物の出し入れができますからそれを持っていきなさい。」
俺は刀を腰に刺し、脇差の位置に包丁を、袋をズボンに結び魔法陣に向かう。
「最後の言葉は有りますか?」
ふん、死ぬ前提か。まぁ良い。
「そうだな・・・あぁ、俺は基本的に優しいが、事恨み辛みにはねちっこい。覚えておけよ、俺はお前を殺すからな。神殺しの子、その本領は・・・」
光に包まれる中俺は手を広げて叫ぶ。
「今、始まったばかりなのだから!」
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黒き世界で男が目覚めていた。
その男はとある神界を眺めていた。
そして呟いていた。
「へぇあの一族が召喚された?まぁあの世界はもう終わりかなぁ。多分僕もあとちょっとで解放されるでしょ?準備運動はしておかないとね。楽しみだねぇ。」
その神の名をここには記さないでおこう。だが、その神は破壊に特化している。終末の十二の規格外の中の最高位に存在するのは確かなことである。これからどうなるのか。それを知っているのは現在は誰も知らない。