第1話 恐怖
「助けて……!誰か……誰か助けて!!」
私を取り囲むように広がっていく火、初めて聞いたはずなのに聞き馴染みのある警報音。悲鳴。爆音。警報をかき消すほど大きな爆撃機の飛行音。その全てが現実だった。
「いや……いやいやいや!誰か!!だれかァァァ!!!」
・・・
「え……?夢……」
必死に手を伸ばして立ち上がった時、私はベットの上にいた。周りを燃やし続けていた火も無く、うるさい警報音も、爆音も、飛行音も無い。
「嫌な……夢」
べっとりとした汗が体をおおっている。いつの間にか外は暗くなっていて、自分がかなりの時間眠っていたことを示していた。
「シャワー浴びよ……」
嫌な汗と夢の記憶を洗い流したくて、私は夕飯を作ることなくシャワールームに向かった。食欲なんて、元々あまり無かったけど。
「よいしょ……」
『卯麗様、湯船の準備は完了しております』
「今日はシャワーだけでいい」
『了解いたしました』
AIの進歩が急激に進み、AIに育てられる子供、通称WPC (without parents child)が増加している。かくいう私もその1人だ。
「……」
『何かあったのですか?』
「……どうしてそんなことを聞くの?」
完全に人間にしか見えないAIメイドが、私の服を脱がせながら機械的な声で聞いてきた。正直話したくないし、例え本当の親に聞かれたとしても言いたくない。
『卯麗様らしくない顔をしていらっしゃるので』
「そう……じゃあ、ニアーに質問」
私は、八つ当たりだなと思いながら、AIに自分の中に渦巻いている何かを少し、ぶつけた。
「命って……何なんだろうね」
『え?』
私の質問に戸惑いを隠せないかのように、ニアーの動きが止まる。私は、ニアーの顔を見るのが怖くて、シャワールームに逃げるように入った。
心の中に渦巻く何かは、より一層大きくなるだけだった。