第37話:藤井の特殊能力、エンカウント率100倍
――頭が痛い、そして寒い……
ここ廊下だ、廊下で寝てる……保健室でも良いからベッドの上じゃないと……
「背中痛い……」
「起きたか冬貴」
「……あのやろう……」
「お、おい。こいつ怒ってねぇか?」
そりゃそうだよ藤井。僕は多分藤井や秋馬に比べたら確実に大人しいし、気も長いけど、怒るときは怒るよ
でもなんか怒りというか、あの人嫌だ
「はっはっは。元気か七曜冬貴」
その笑い方が嫌だ、何かを企んでいる笑い方だし。それに目が笑ってない
「先輩のせいで、こうなったんですけど」
「まぁ今回のことは忘れよう」
「いや、それ僕のセリフだし、そんなこと欠片も思ってないので」
「あっはっは、では。アディオス」
笑いながら帰って行った
もうどうでもいい、できる限り関わらないようにしよう……
「なんなんだあいつ……?」
「さぁな、それは俺にもわからねぇぜ」
「時間も時間だし帰るか、藤井はどうするんだ?」
「時間は時間って今何時?」
「「8時」」
随分寝ていたらしい、一ノ瀬先輩のせいで
外も暗くなってきているし、というかほぼ真っ暗だな、部活帰りが遅いときもこれくらいだけど
よし、帰ろう
「じゃあ帰ろう」
「そうだな」
今日は秋馬と、そして藤井と帰るという今までにないパターンだ
夜の道はほぼ真っ暗で、この3人の中だと藤井は1番家が遠いので、最終1人なる。けど全然藤井だと心配にならないから不思議だな
むしろ目立たないのを良いことに絡んできた輩の方が心配だ
とか思っていたら3人で歩いているときに心配な輩がやってきた
「おい、藤井郁弥。俺の顔を憶えているな?」
「知らん」
完全スルーで通り過ぎようとするが、輩がなぜか僕の腕を掴んだ
「おい待てぐあっ!」
藤井のパンチが顔面を捕らえて、輩が吹っ飛ぶ。腕を掴まれていた僕ごと
「ちょ、離せ、何で僕まで飛ばなきゃいけないのさ!」
「て、てめぇ、あんまり調子に乗ってると、てめぇのダチが死ぬぞ」
「へー、お前そいつに勝てるの? 多分お前が死ぬと思うぜ」
無茶苦茶言わないでよ。僕は誰かさんとは違って、暴力反対平和主義なんだって
喧嘩なんてほとんどしたこと無いんだけど
「くそぉ!」
「まぁ落ちつけって、話ぐらい聞くから。まずお前誰?」
「はぁ!? マジで忘れたってか!? ふざけんなよ、朝っぱらから蹴り飛ばしといててめぇは!」
「いや、いちいち蹴り飛ばした相手なんて憶えてるわけ無いだろ……」
憶えてるでしょう、普通なら
一体日頃から何人殴ったり蹴ったりしてるのさ
「それで何がしたいんだよ」
「仕返しに決まってるだろうぐふっ!」
藤井の右手が輩の鳩尾にねじ込まれ、何か吐き出しそうになりながら地面に膝をついて、そして倒れた。腕を掴まれたままの僕ごと
「なんで離さないんだよ!」
気絶してもまだ離そうとしない輩の腕を何とか引きはがす
2人は既に何事もなかったかのように歩き出している
「なんか藤井と帰るの嫌だ」
「え、なんで? 俺の事嫌い?」
「そうじゃないけど……どうせもう1人か2人は絡んでくるんでしょ?」
「オイ! そこのふざけた赤髪ヤロー! 面憶えてんぞボケェ!」
どうやら2人ではすまないらしい、まださっきの人から3分経っていないのに、また3人も来たから合計で4人だ……
「……誰だ?」
「いきなり肩ぶつけてきて顔面殴り飛ばしやがって……歯が折れちまったじゃねぇか!」
「ホントかよ、つかお前がぶつかってきたんじゃねーのか?」
「あぁ!? いい加減なこと言ってるんじゃ、痛っ」
藤井が先頭に立って、俺の歯が折れたと抗議していた輩の顔面にフックを浴びせた
口の中から白いものが吹き飛んでいった
「お、おい。マジで差し歯かよ」
「……」
「なんか、ごめんな。元気出せ、これやるから」
藤井は可哀相な輩に飴玉を差し出した
輩は飴玉を受け取り口に放り込んだ
輩が仲間になりたそうな目でこっちを見ている、え? マジで
「てれれれー、輩Aが仲間になりました」
「いや、いらないでしょ……」
輩Aは悲しそうに去っていった
「まだ続くのぉ?」
「いつもの調子ならまだ出てくるな」
「ちょっと、君たち」
また敵とエンカウントだろうか、でも今回は明確な敵意は感じ取れない
「ここら辺で暴れている高校生がいるらしいんだけど、知らない?」
……ポリスマンだ。警察官だ
そして暴れている高校生ってめちゃくちゃ知ってますよ。心当たりバリバリありますよ。だって真横にいますから
でも、言うわけにもいかないしな
「しらねっす。でも向こうの方で暴れていた人がいましたよ」
「そうだな、うん。喧嘩してる輩がいた」
藤井も秋馬も、それは確かに嘘じゃないけど……喧嘩の相手は藤井だからね
「今度は警察……心臓に悪いよ」
「いつものことだ、そろそろボス戦だと思うぜ」
ボス戦って、そんなRPGみたいな流れでは進まないでしょ
「だから、お前ら先帰れ。巻き込まれんぞ」
「え? 既に結構巻き込まれてますけど」
「そうそう、ここまで来たんだ、ヤバイなら手貸すぜ」
「そう言うと思ったから帰れって言ってるんだよ。多分そろそろ出てくる奴は、倒せばいいって奴でもないんだよ」
すごく強いのだろうか
それとも藤井に対してすごく大きい恨みがあるとか?
「帰った帰った、お前ら家そこだろ?」
確かに出てくる輩たちの相手をしながら歩いているうちに、僕の家のすぐ近くまで来ていて、僕の家から秋馬の家までは坂を登ればすぐだ
その後は藤井は家まで1人だ
「送って行ってやろうか?」
秋馬がにやけた顔で言う
「ざけんな気色悪い、さぁ帰れ帰れ」
藤井は小走りになって、坂道を一気に登っていった
僕はのんびり家まで歩いて、家に入ったら晩ご飯を食べて、しばらくテレビとか色々見て、それから寝た。何事もない、いつもと変わらない日常だ