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第36話:赤い悪魔、よりも悪魔

 時間はまだほとんど流れていない、会議室の窓から飛び出した長机が、コンクリートの上に落下し、派手な音を立てて壊れてしまった。僕たちはそれの様子を見に行った


 「うわぁ……曲がってる」


 「全く、あいつらなにやってんだ?」


 また会議室の窓から何かが飛び出してきた

 何かというか、人だ、明らかにうちの制服を着ている生徒が飛び出した。彼は運良く大きな木に引っかかって、勢いを殺されて地面に落ちたから大丈夫そうだ

 もし長机と同じ場所に落ちていたら……そこまでは飛ばないか


 「落ちてきたバカから話を聞こう」


 秋馬は地面に座り込む落ちてきた生徒の方へ走っていった。そして胸ぐらを掴み揚げて投げ飛ばした


 「話せ!」


 「いや、話しますよ。いきなり投げないでくださいよ……」


 ホント、何でわざわざ掴んで投げたの?


 「副委員長が……暴れ出して、会議室にあったものを片っ端から赤い髪の生徒に投げつけて、最終風紀委員の生徒まで投げ始めました」


 「えぇー? 逆じゃないの?」


 「風紀委員が……こういうのが取り締まるべき事だろ」


 「副委員長を止めてください……委員長が行方知れずで止められないんです」


 「知るかっ……といきたいところだが、俺たちは正義のために協力しよう」


 「暇なだけでしょ? 僕帰るよ」


 「テメェ……俺の正義を暇つぶし? そして帰る? 許さん、実戦練習だと思え」


 だからそれ冗談……

 なんで進んで暴力沙汰に巻き込まれていかないといけないのさ! ちょ、手放せ!





 結局引っ張られて会議室までやって来てしまった

 入り口のドアが曲がっている……


 「失礼しまーす」


 秋馬がドアを開けた、会議室の中では、椅子に座っていかにも余裕という顔をした藤井の顔を、少し距離を取って睨み付けている大河内先輩がいた


 「許さないんだろ……? もう2歩近づいてこい」


 「う、うるさい! お前こそ椅子から降り、いやっ! 待て、座ってろ!」


 大河内先輩の制服に靴の裏の汚れ、顔にはそれと同じ形に赤くなった跡が残っていた

 どうも近づいたために蹴り飛ばされたらしい、それも2回


 「帰って良いか? 俺ここに来てからずっと座ってるんだけど? 腰がいてぇ」


 それはそんな変な座り方してるからだと思うけど……

 ふんぞり返りすぎ……


 「バーカ! それこそこっちの策、うっ嘘! 座ってろ!」


 「いや、だから腰がいてぇんだって。悪いけどもう立つ」


 「分からん奴だ! 座っていろと言ってぷふぉっ!」


 容赦なく藤井は大河内先輩の顔面を蹴り飛ばした

 顔の位置が低いので、藤井の強烈なケリの威力が余すことなく大河内先輩に伝わり、派手に部屋の床を転がっていった


 「お前さぁ、何が気に入らないの?」


 「それだそれ! その言葉遣い! そして偉そうな態度に、その目つきに髪型! あと理不尽なその強さも!」


 「ふっ、なんだか文句を言われた気がしないな。褒めてんのか? それ」


 「よし、良い度胸だ。お前のことはだいぶ理解した、どうやらもう力でねじ伏せるしかないな」


 大河内先輩が藤井の方へとゆっくり歩いて行く

 この空気、僕たちは入り込めない。というか入り込みたくない


 「待て、何でも力で解決するのは良くない」


 そこへ僕たちの後ろから入っていく人がいた

 風紀委員長、謎の人一ノ瀬迅先輩


 「だが力でしか解決できないこともある。だから俺からの提案なんだが……」


 そして1人で喋り始めた


 「ここは、我が校の風紀委員に代々受け継がれてきた伝統あるゲームで決着をつけよう」


 「すみません会長、それって昨日考えたあれですか?」


 「いや、赤い彗星は今回は使わない。伝統あるゲームなんだ、それは……SUMOUだ」


 ようするに相撲ですね、絶対藤井そんなのやらないだろう……

 もしやったとしたら、そんなの藤井が絶対勝つ。というか赤い彗星って何? モビルスーツを真っ赤に塗装する例の人のことですか?


 「ただし、まわしを巻く必要はない。そして土俵は俺が用意しよう」


 一ノ瀬先輩は、会議室を出て風紀委員専用大会議室へと移動した。その名前の通り風紀委員以外は使用しない会議室。なぜこんなものがあるか、というとただ単に空き教室に名前を勝手に風紀委員がつけただけで、学校が正式に認めたものではない


 「さぁ、ここが土俵だ」






 「「「「は?」」」」


 2人がやっと立てるような狭い土俵は、床より少し上の位置に作られて、床にはなにやら怪しい、むき出しの導線のようなものが敷き詰めてある


 「なんですかこれ?」


 「七曜冬貴君、これは土俵だよ」


 「それは聞きました、でも僕の知ってる土俵とはなんだか違う気がするんですけど」


 「あぁ、だから風紀委員伝統のSUMOUだからな」


 一ノ瀬先輩は、なにやら奥の方にある怪しい機械の前に立った

 見るからに怪しい、というか何で学校の中にこんな空間があるんだろう


 「対戦者は土俵に上がれ、そして観戦するものは観覧席に座れ」


 端の方にベンチが置いてある

 ここに座れということらしい


 「準備OKだな? 勝負、開始だ!」


 一ノ瀬先輩が機械についていた大きなレバーを動かした。なんだかそのレバーの根本辺りに「DANGER」と書いてある気がするんだけど……

 レバーが引かれると、何か怪しいゴゴゴゴという音がして導線の一部がバチンとショートした


 「気にするな、仕様だ。ただ……落ちれば、どうなるだろうなぁ」


 藤井の目が変わった。大河内先輩の小さな体が土俵から飛び出し敷き詰められた導線の上に落ちた

 大河内先輩の触れた部分が激しくショートしてバチバチと火花を出している


 「熱っ! 痛い痛い! イタタタタ!」


 「はっはっは。どうやら龍介の負けだな」


 「イダァァ! と、止めてください!」


 「はっはっは。それは無理だ、3分は止まらん」


 3分間は止めない、の間違いでは?

 完全にレバーから手を放して、ストップウォッチだけを見てますけど





 3分後、大河内先輩はぐったりとして動かなくなっていた

 よく見れば湯気が見える。いや、煙なのか?


 「服燃えてますよ!」


 「なに萌える?」


 「違います! 燃えてるんですよ!」


 「それは大変だ」


 一ノ瀬先輩がまた機械の方に向き直り、別のレバーを引いた

 ガコン、という音が天井の方から聞こえて、それからすぐにスプリンクラーによる放水が始まった


 水が火を消したのは良いが、まだ放電できずに残っていた導線の電気がショートした


 「ギャァ!」


 大河内先輩は一度以上に飛び跳ねて動かなくなった


 「ちょっと電圧が高すぎたか……?」


 「どう考えてもそうだろう」


 「俺も落ちていたら……こうなってたわけか、えぐい」


 「とりあえず先輩を助けましょうよ」


 「それはいいんだが七曜冬貴君、誰が犠牲になる?」


 犠牲? すでに大河内先輩が犠牲にはなってますけど


 「おそらくこの溜まった水に次に触れたものも感電する」


 「えぇ!?」


 じゃあ助けられないよね……


 「というか何でそんな危ない事になるの!? スプリンクラーで逆に状況悪くなっただけじゃないか!」


 「はっはっは、考えてなかった」


 こんなものを作るのはすごいけど、もう賢いのかバカなのか分からなくなってきた


 「仕方ない、風紀のため犠牲もやむなし」


 「えっ?」


 突然体が前に押し出される

 さっきまで機械の前にいた一ノ瀬先輩が僕のすぐ後ろに、押し出されたみたいだ……


 えぇ!? 犠牲になるの僕!? そこは委員長でしょ!


 「冬貴!」


 「ちょっ! 助け!」


 「はーっはっは」


 というか風紀のための犠牲じゃないし! 先輩がビリビリが嫌なだけじゃないか


 水の冷たい感覚、そして同時に伝わるこの痛み

 全身がバイブしたみたいに震えて動かせなくなる。声も出なくなりまぶたも重くなり、意識も切れそうに……




 この外道……一ノ瀬先輩は藤井以上に悪魔だ。そして多分ドSだ

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