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第28話:天草の怪、憑依

 「まぁ、記憶喪失ではないですね。これは、医学的に説明すると、彼が、記憶喪失の自分を演じている状態なんですが、おそらく医学では説明できない状況なんでしょうね」


 ようするに、非科学的な事が起こってしまったということらしい。現段階分かったのは、これは記憶を失った秋馬というよりは、記憶を持っていない別の人格、という考え方の方が正しいみたいだ

 

 「二重人格というのに近いのでしょうけど、そういった異常は見られませんね」


 イマイチ分からないが、イマイチ分からない幽霊の仕業なので仕方がないことは仕方がない


 「じゃあ、どうしたら良いんですか?」


 「とりあえずは、何もできないわね。病気ってわけじゃないから」


 幽霊が引き起こした現象を、ただの人である医者に解決してもらうというのは無理な相談だよね


 秋馬はとりあえずは病室にいる

 病院の方からは秋馬には何も伝えられていない。というよりは伝えることができることがなに1つとして無いという事みたいだ。だから、状況を知っている、僕たち3人だけに担当の医師個人としての意見を伝えられたわけだ


 この状態から抜け出す方法を見つけることは、僕ら3人にしかできない事のようだ

 まぁ、1つだけ考えもあるけど……


 「霊媒師じゃね? それしかなくねぇか?」


 「言うなよ、僕もあえて言わなかったのに」


 「何でだよ」


 「何となくだよ」


 岡辺の言う霊媒師というのも方法の1つかも知れない、しかし胡散臭い。そんな方法では解決にはならない気がするし、僕らが決着をつけるしかないような気がする

 本当なら、この決着をつけよう、というのは岡辺に言ってほしい言葉だけど


 「あの幽霊、何か未練があるんじゃないの? 僕たちでどうにかしようよ」


 僕が言う。とうの岡辺は真っ先に霊媒師だったからだ


 「未練? いやいや違うだろ。どう見てもお怒りだろ」


 西が言うことももっともだ、だからこそ鉄の棒やら色々投げ込んだ秋馬に呪いをかけたとも想像はできる。だけど幽霊というのはやっぱり未練があったからこそ、旧倉庫に現れたんじゃないのかな


 「だったら、とりあえず俺らでもう一回行くか、旧倉庫」


 「そうだね」


 岡辺の意見に従い、僕たちはもう一度旧倉庫に向かうことにした

 岡辺は準備をすると言って、一度僕たちと別れた


 そして15分後、もう一度旧倉庫前に僕たちは集まった


 「とりあえず、岡辺。その大きい荷物は?」


 「ふふ……聞いて驚くな」


 岡辺が持ってきたのは大きな風呂敷包みの何かだ、何を持ってきたのかは知らないが、ろくなものじゃないだろうな


 「塩だ!」


 新品の塩、それも10袋以上。重さにして10キロは超えるであろうと思われる、そして荷物はそれだけではない


 「日本酒!」


 日本酒は一本だけだったが、まだある


 「御札!」


 鎮火御守と書いてあるが、こんなところで火に用心して何をするんだ? と冷静に分析してみるが、おそらく家にあった御札を意味も知らないではがしてきたんだろうな……


 「さぁ、来い!」


 旧倉庫に即席ではめ込まれた木製のドア代わりのものを、岡辺は蹴り破ると、中に塩を投げ込んだ


 「……何も出てこないな」


 「あぁ、そうだな」


 西は呆れていた

 僕としては少しだけ心配していたところもあったが、「博多の塩」と日本酒「八千代」と一般家庭の火事予防の御札ではねぇ……

 開け放たれた旧倉庫からは、前の時のような異様なオーラも、冷たい空気も何もなく、ただ散らかった汚い倉庫だった


 「さて、帰ろう」


 「そうだな、行こうぜ岡辺」


 「ちょ、塩とか持って!」


 さぁ、帰ろう






 そして翌朝、秋馬はとりあえず、病院に入院することもできないので自宅に帰った。両親にどうやって説明したのかは知らないが、落ち着いてはいるらしい


 学校はどうするのか知らないけど、様子を見に行ってみよう


 秋馬の家は、僕の家からそう遠くはない、けど歩いて行くとちょっと遠い坂を登らないと行けない場所にある。昔はしょっちゅう遊びに行っていたけど、最近はあまりないな


 「この坂の上に……いっ!?」


 秋馬の家の前に……秋馬にそっくりな人が? いやいやあれは秋馬のはずだ。どう見ても秋馬の顔だ


 「しゅ、秋馬?」


 「……」


 そうか、名前は……でも聞いたよね? 岡辺から

 というか変だ、秋馬に女装癖があるなんて知らない……知らないだけ!? もう訳が分からない……あれは秋馬が演じているということは、今の人格は女性なのだろうか


 「私は、穂月。今は秋馬ではない」


 「い、今は?」


 「……ミスった。秋馬なんて人は知らない」


 「……あの」


 「うるさい黙れ!」


 突然秋馬、今は穂月という人格らしいが襲いかかってきた

 ちょっと待って、それは秋馬の体だから迂闊に攻撃はできない! じゃなくて腕力とかやばいんじゃないの!?


 「ごふっ!」


 さすがは秋馬、捕まったら外れない……

 秋馬の体なら多少は大丈夫だろう


 「ぐっ、はぁ!」


 渾身の頭突き、全く効いていないという顔だ


 「はァ!」


 そして反撃、無茶苦茶な蹴りだけど、秋馬の筋力が可能にするこの速さは、この距離では避けられない


 「ぐはっ!」


 「……忘れて」


 「イ、イエッサー……」


 とりあえず、秋馬がどういう状況なのかを聞いておかないと


 「あの秋馬は?」


 「そんな人知らなーい。じゃあ私は街を見てくるから」


 それは秋馬が絶対に嫌がるはずだ

 自分の知らないうちに女装した自分が町中をうろつくわけだし、確実に変態だよねそれ……

 でもなんだかかわ……じゃなくて女の子に見えなくもない。僕は騙されないけど、それはつき合いが長いからだ

 ほとんど秋馬を知らない人なら普通にかわ……じゃなくて女の子に見えるかも知れないし大丈夫かもしれない


 でも聞いておかないといけないこともある


 「秋馬……じゃなくて、なんて言うか、君はどうしてここにいるの?」


 「……別に怒っているわけじゃないわ、未練はあるけど、あなたじゃ何もできないし、何もしなくていい。ただ体を借りるだけよ」


 ……借りるだけって事は、ちゃんと秋馬に帰ってくるというとらえ方で良いんだよね?



 なら、まぁいいか


 「でも、あなたは学校行かないの?」


 「へ?」


 現在時刻、学校の門が閉まる10分前。全力で走っても間に合うか間に合わないか……


 「ヤバイ!」


 「いってらっしゃい」


 「うん! って、あまり無茶しちゃダメだよ!」


 「分かってまーす」


 とりあえずはあの穂月という人を信じておいても問題はなさそうだ

 今は自分のことを考えよう……遅刻は、まずい!


 全速力で坂を下る

 登もそこそこ大変な坂だが、走って下りるとなるとそれはそれで大変だ。一歩一歩転びそうになる。気を抜けばこのまま飛んでしまいそうだ

 飛んで学校まで行ければ良いんだけどなぁ


 とりあえず坂を下りきる、そして一度曲がる。後は学校までは直線

 距離にして約2キロ。タイムリミットは9分弱。間に合う、とにかく走れば間に合いそうだ


 ん? 100メートル前方、大きな荷物を持ったおじいちゃんが! 朝からそんな大荷物どうするのさ! 今は手伝えないよ……

 そんな目で見ないでくださいよ


 「ちょ、え!?」


 突然道に人が混雑し始める。一体何があったんだ?

 この辺にあるものと言えば……あれだ、『ドラクエ9』か。いや違う、『プレステ5』まだ4も出てないのに


 「みなさん騙されてますって! 道開けてください!」


 「ちょっと! 割り込み厳禁!」


 「いりませんから!」


 どうなっているんだ、今日は異様に僕の邪魔をするものが多いぞ……


 学校……まだギリギリか

 行ける!


 「お兄ちゃん、助けて」


 「え……?」


 そこには小さな女の子……ダメだ。今日僕は遅刻を免れそうもないです

 いくら何でもこれを見捨てては行けない……


 ついて行こう。成績より大事なものがある





 「……はい、どうぞ」


 「ありがとー!」


 ヘリウムガスが入っていて、浮く風船。あれが背の高い木に引っかかっていた。僕がちょっと木に登って掴んで下りてくると笑顔になって喜んでくれた

 ……僕は満足ですよ


 「このご恩はわすれませんっ!」


 「はは、いいよ。もう放しちゃダメだよ」


 なんでそんな堅苦しい……

 


 ……はぁー、もう今日はサボろうかなぁ





 そういうのはダメだよね、結局閉まった校門まで僕はやって来た


 「むっ、遅刻か? 制服が汚れているな」


 木に登ったからだ、生活指導の先生は恐ろしいと聞く

 もう覚悟は決めた


 「はい、女の子を助けていたら遅れました」


 「ほぅ……また上手いこと考えたな、常連でもあるまい、初めてか? 何をしていたんだ?」


 「女の子の夢を、掴んで放さないようにと」


 「ほほー、おもしろい、入って良いぞ」


 ……えぇ!?


 「ま、百点とは言えないが、夢があって良いだろう、遅刻は見逃してやろう、早く入れ」


 「は、はい!」


 なんだか知らないけど、助かった。情けは人のためならずか

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