第26話:秋馬ゴーストバスターズ
「入院って暇だね」
「そうだなぁ、でも冬貴がいるだけましだ」
「僕も、一日でこれだ。秋馬がいないとホントきつかったと思う」
のんびりとした会話が続く入院生活2日目、といっても今日退院で、今からこの部屋から出て行くわけだけど
携帯が光った、マナーモードになっているから音はしない
「メールだ……僕と秋馬は大会は出なくて良いってさ」
「はぁ?」
そのメールはトメさん……改め大悟郎先生からだった。内容は前日に入院したんだから、ゆっくり休んでいろというものだった。応援に来ても良いが、試合には出さない、だそうだ
そのメールを読み切るとまためーる受信、それを見る前に受信、また受信。どれも空手部の先輩で団体戦に出る人からだ
みんな似たような内容だ、要するに俺たちに任せとけ、というものだ
「おいおいなんだこの扱いの差は?」
「どうしたの? 秋馬」
秋馬は僕の携帯をのぞき込んで文句をこぼした。僕は秋馬の携帯をのぞき込む
『最初っからお前の出る幕はなかったよ』by須藤先輩
『これで初戦敗退はまず無い、安心しろ』by南先輩
『本戦で秋馬抜きはきついから、今は休んどいて』by五十嵐さん
……五十嵐さんはともかく、先輩達に好かれてはいるけど、まぁ秋馬が本当に戦力になるからこその内容だろうけどね
というか3人勝ったら団体は勝ちだし、あの3人が負けるとは思えない、心配は不要っぽい、けど応援は行こう
「秋馬、応援行く?」
「あぁ行くぜ、負けやがったら先輩だろうと俺がかつを入れてやるよ!」
それはやめてほしい
会場は昨日の個人戦と同じだ
入り口には大勢の人がいた、昨日よりはどう見ても多い。そして昨日あのバイクが破壊したガラスはまだ直っていない、立ち入り禁止と書かれている看板と、赤コーンがある
時間的にはそろそろ始まる、というところのはずだ
「おい、冬貴。もうやってるぜ」
会場では既に団体戦が始まっていて、ちょうど須藤先輩の番だ
「須藤先輩……容赦ないしね」
「相手死なないと良いな」
須藤先輩は僕の目から見て戦うのが上手いわけではない、でも強い。どちらかというと総合格闘技向きに感じる
案の定、須藤先輩は相手を初撃で倒した。起き上がれないわけではないが、試合開始時ほどの覇気は相手から感じられない。須藤先輩の殴り方はダメージはさほど無いのに痛いのだ。そしてそれが強さで、一気に殴られた方は戦意を失う
そこからポンポンとリズムよく、簡単に須藤先輩は勝ってしまった
「次五十嵐さんだな」
「あの人はヤバイよね……」
五十嵐さんは……空手こそトメさんに勝てないけど、ルール無しで殴り合えと言われれば多分無敵だ、天賦の戦いの才能を持っているとしか思えない。普段の優しい姿からは想像できないほどに喧嘩となると恐ろしい
あ、一本とられた
「顔面いったな……」
「もう、無理だね」
次の審判の始めの声が響いた瞬間、五十嵐さんの相手は床に転がった。明らかな喧嘩パンチだったけど、審判はどうも見てなかったらしい
殴られた方は鼻血を流しながらどうにか起き上がるが、血が止まらない。棄権をよぎなくされた
そして南先輩。まぁ主将だし、強い。けど南先輩が主将なのはやっぱり統率力とかカリスマ性とかそういうのだ。2対2でこれで勝ち負けが決まる、こういう試合では絶対に負けない、というのもある
相手の攻めをうけながらも、危なげなく勝利した
「お疲れ様でーす」
秋馬は不自然なにこにこ笑顔で南先輩の方に歩いて行く、顔は笑顔だが、その裏には「あのメールなんだよ?」という言葉が浮かび上がってきていた
南先輩は「本当のことだ」と笑顔を崩さない
「はいはーい、うちはこの1試合で終わりだから帰るわよ」
大悟郎先生……ではなく今はトメさんキャラの顧問が帰る準備をさせていく。別に集まることもなく帰る、どうもこれが普通らしい
それにしてもあっさりだ
「おおおおおお……」
「ど、どうしたの?」
秋馬が、訳の分からない声を上げている、眼が恐い、一体どうしたんだ
「死合いてェ……」
「ちょ、どうしたの!?」
秋馬がヤバイ、とりあえずちょっとした事故でも爆発してしまいそうに、これはおさまるまで僕がどうにかしないと、大変なことになる。巻き込まれた人が
とりあえず話を変えるとしよう
「昼からどうする?」
試合は午前中で終わったので、昼からは自由なのだ。そして6日後、個人で勝ち上がった人の本戦が、7日後には団体の本戦がある
「強者をさがしてさすらう……!」
「ま、待て! それはダメだ」
何か、この戦いに飢えた幼なじみの気をそらすような、面白い話題はないのだろうか
誰かに助けを求めよう、とりあえず誰か……
「よう! 秋ちゃん冬ちゃん」
「ごめん、君の助けはいらない」
「なんだそれ? それはそうとお前ら暇だろ?」
やって来たのは、愛されないバカ岡辺太一とセットの西大輝。絶対助けを求めてはいけない2人組じゃないか
実は野球部の岡辺太一は、相変わらずのボウズだ
「出るらしいんだよ……」
「何が?」
「分かるだろう冬ちゃん」
今日のテンション鬱陶しいな……
ここにきて黙っていた西が口を開いた
「学校に、超美少女の幽霊が出るらしいんだ」
その設定がイマイチ分からない……胡散臭さにより拍車をかけるな
「見たのはこいつなんだけどな……」
どうもバカである西ですら信じてはいないらしい。だいたい岡辺だってそこまでオカルトが好きなわけでもないはず、だとしたら……裏がある
「しかし」
秋馬が突然話し始めた
「お前、まだ前の髪のほうがよかったな」
「へ?」
秋馬が一歩前進、岡辺も一歩下がる
「うぜぇ」
「はい?」
「アイアンナックル!」
鉄の拳が岡辺を吹き飛ばした。理不尽な暴力に為す術もなく、一応野球部の岡辺は会場の床を転がる
しかしよく転がる、止まることがない、そして何かにぶつかる
「ボウズが転がってきた……」
夏帆の足にぶつかっていた、慌てて起き上がった岡辺は、隣に立っていた人物に思いっきり激突する。慌てて夏帆から距離をとろうとしたからだ、まぁ正解かも知れない
でもやっぱり失敗だ、ぶつかったのは河瀬だ
「ごふぅっ!」
無言で回し蹴り、一応男子高校生が宙を舞う
「ハットトリック!」
確かに三発目の夏帆の蹴りが岡辺にヒットする、今度は男子高校生がこっちに飛んでくる、だが途中で地面に落ちてまた転がっていく
悲惨だ、とりあえず話くらいは聞いておこう
「ところで、幽霊ってどこで見たの?」
「今の惨劇は流すのか!?」
心の中では一応感想を言ったよ
秋馬が「うるせぇ」と呟くのが聞こえた、静かに岡辺の方に歩み寄っていく。惨劇は繰り返された
「で、どこで見たの?」
「……えーと、旧体育倉庫」
「また妙な場所に……」
旧体育館が取り壊されたのはかなり昔のことなのだが、倉庫だけは残っている。色々備品を置いているらしいが……
しかし一般の生徒がふらふら行く場所でもない、いわくも多い場所なだけに
「俺は、連れて行かれたんだ」
「へぇー、その美少女に?」
「幽霊をつけろ、ハッピーなイベントじゃねぇか」
ハッピーじゃなかったみたいだ、だったら美少女なんて言わなければいいのに
「体育倉庫には美少女の幽霊がいた」
「それで?」
「もういい、と言われた」
「……謎だね」
「謎だろう?」
もういい、一体どういう意味なんだろう。この男の言うことだし、そこまで真面目なことでもないだろうけど、もういいねぇ……
つまりは、以前は何かしら接点があり利益があったって事かな?
「秋馬、どうする? 昼から見に行かない?」
こうでもしないと本当に強者を求めてさすらいそうだ
「……よし、それも一興だな」
「決まりだ、ここに! 秋馬ゴーストバスターズ結成ごふゥ!」
どうやら秋馬がリーダーらしい、が秋馬の鉄の拳で岡辺が吹き飛んだ
「素晴らしいネーミングだ」
「じゃあ……なぜ殴った?」
「お前にはむかついたからだ」
理不尽だ……大丈夫だろうか