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第24話:憤怒

 今日は大会の初日。個人戦しかやらないので僕は応援だけだけど、妙に緊張している

 4人で会場に向かうということで、僕は集合時間の15分前に集合場所である、高校の校門の前にやってきた


 5分ほど待っていると秋馬がやってきた。あり得ないほど笑顔だ

 

 「ものすごい笑顔だね」


 「当たり前だ」


 でも今回ばかりは秋馬が勝つだろう、と簡単には言えない。正直勝てないかもしれないと思う。僕は武仁という人の喧嘩を見ているからだ

 あれはもう普通じゃなかった


 まぁ、秋馬は僕みたいにそんなことを考えてはいないだろうし、あまり考えない方が秋馬的には良いのだろうとも思う


 そしてもう少しして、夏帆と春香もやってきたので、僕たちは会場に向かった




 今日試合に出るのは4人の中では夏帆と秋馬だけだ

 2人は道着に着替えて軽くウォーミングアップをしていた。その間だ僕は春香と観客席から2人を見ていた


 「やる気だねー」


 「特に秋馬がね」


 夏帆は体を色々動かして感覚を確かめているようだった

 秋馬は正反対に、人の多い中一切動かないで精神を統一しているようだった

 なんだか達人みたいだった


 ふと、青い髪の人がいないか探してみたが見つけることは出来なかった

 その代わりに青に負けず劣らず目立つ黄色い髪の小柄な女の子を見つけることが出来た。どう考えてもレモンちゃんだ。武仁さんの応援だろうか……


 「女子の個人が始まるよ」


 春香に言われて時計を見ると、もう招集が始まる時間だった。夏帆も動き出していた




 なぜか僕は緊張しながら夏帆の番を待っていた

 そして夏帆の番。相手になる生徒と向かい合う。そして審判が「始め」の一言を言う


 「あれ? 冬貴くん?」


 「えっ?」


 僕に声をかけたのはレモンちゃんだった


 「一本!」


 「えぇ!?」


 僕が後ろを見た一瞬で試合が決まっていた

 速い。瞬きの暇もないという感じだ


 「お兄ちゃん……大会なのに来てない……」


 レモンちゃんは今まさに走っていました、という感じでかなり息が上がっていた

 探し回っていたのだろう


 このまま武仁さんが来ないとなると、秋馬は一回戦目は不戦勝となる。おそらくこの大会一番の壁となるのは武仁さんで間違いないだろう

 じゃあ、来てもらわないと


 「ごめん春香。夏帆の次の試合には戻るね」


 「え? はい、いってらっしゃい」


 春香に見送られて会場を飛び出した





 「さて、家は近くだよね?」


 「うん」


 「じゃあ家と会場の間くらいにはいると思う。自分からすっぽかすような人じゃないでしょ?」


 「うん、だって楽しみにしてたし」


 へぇ、楽しみにというのは少し意外だった

 僕は武仁さんという人をほとんど知らないけど、普通にまじめな人なのかもしれないな


 「レモンちゃん!」


 こっちに走ってくる人がいた


 ……げっ! がら悪!

 藤井ほどじゃないけど


 「乙武さん! どうしたの?」


 「武仁さんが……虞連の奴らに襲われてます!」


 「ええ!?」


 なんだかそういうトラブルのような気がした

 前会ったときにもなんだか因縁をつけられていたし。まぁあのときは瞬殺だったけど


 「い、行こうレモンちゃん!」


 「あぁ!? ワカメ野郎も来んのか?」


 「だ、誰がワカメ野郎!?」


 意味分からない。僕のどこにワカメ的な要素があるというのだ


 「テメェだよ。ナヨナヨしてっからワカメだよ」


 ……正直、凹む

 けど凹んでいる場合じゃない。何が出来るのかは分からないけど、とにかく武仁さんのところに行かないと


 「場所は?」


 「……3区の廃工場だ」


 「あそこは……虞連のたまり場じゃないの。なぜそんな場所に」


 「あの人……虞連に脅されてたんだ。一人で来ないとこの会場を潰すって」


 この大会を潰させないために、たった1人で戦っているというのだろうか

 なんという人だろう


 とにかく僕たちは廃工場まで走った





 廃工場は、確かに誰かをおびき出して襲うにはぴったりの場所だった

 人通りも昼間なのに全くなく、工場の中は遠くからでは一切見えない


 そしてその工場の入り口には、ぱっと見では数が分からないほどのバイクが止められていた。そのどれにも「虞連」と書かれたステッカーが貼られている


 「とにかく行くぞ! レモンちゃん! ワカメ!」


 今は言わないけどワカメはやめてもらわないと……


 がらの悪い男が工場の扉開けた


 「武仁さん!」


 武仁さんは工場の中心で倒れていた。全身を何度も殴られて、着ている服は血で真っ赤になり、顔も腫れていた


 「お兄ちゃん!」


 レモンちゃんが駆け寄ろうとした。気持ちは分かるけど今は数が違いすぎる


 僕がレモンちゃんを止めた


 「放して!」


 「今は、耐えるんだ……」


 レモンちゃんは完全にパニックになっていたし、僕もかなりいっぱいいっぱいだった。だががらの悪い男は流暢に携帯電話で誰かと話していた


 最初は真顔だった男の顔が、徐々に笑顔に変わっていった


 「武仁さん!」


 男は携帯をズボンにしまい、上着を脱ぎ捨てた。やる気満々だ


 「会場の方は制圧しました! もういいですよ!」


 「あぁ!?」


 虞連の男達はその言葉を聞いた瞬間、不安と恐怖の色を表情に出した

 そして慌てて武仁さんに殴りかかろうとした。だが既に武仁さんは立ち上がり、臨戦態勢に入っていた


 「覚悟は……出来てんだろうなァ!」


 武仁さんの思いっきり踏み込んで放った拳が、虞連のリーダー格と思える男の顔面に突き刺さった

 鈍い音が工場内に響き、男は地面を滑るようにして飛んでいき、工場の壁に激突した


 「「「ひぃっ!」」」


 たった1人の高校生に背を向けて虞連の男達は一斉に工場から飛び出して、バイクに乗り走り去っていった

 

 「ちっ、俺もやる気だったのによ」


 乙武というがらの悪い男は上着を着直して座り込んだ


 「大会……だな。悪いな乙武、苦労かけた。あとレモン、それと……ワカメくん」


 ここでもワカメですか……

 なんか、もういいですよ

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