第23話:冷たい温もり
高校総体。つまり空手の一番大きな大会が刻一刻と迫っている
3年生の先輩達にとっては高校生活最後の公式戦。そして1年の後輩にとっては初めての公式戦。そして僕の初出場の公式戦だ
団体戦に出場するメンバーは、僕と秋馬。そして後は3年生の男子の先輩の須藤先輩に五十嵐さんに南先輩。僕は先鋒。つまり一番最初に試合に出る。僕が勝つと勝たないのでは大きく試合全体に影響があると言われ今から僕は緊張している
「やばいよ、緊張してきたよ」
「あ? なんで?」
秋馬は全く緊張していないようだった
今日は練習時間は短いけど、時間のある限り後半は秋馬と組み手を続けることになった。正直つらい。秋馬は強すぎるから
「もう一本来い!」
「……しゃーっ!」
秋馬の上段蹴りを体制を下げてかわ……せなかった。一発目が僕の顔の直撃した
「いったぁ!」
「おい……冬貴大丈夫か?」
ここまで僕はほとんど秋馬の攻撃を避けることができていない
秋馬も本気でやっているわけではないけど、それでも僕が追いつける速さはとうに超えてしまっている
「でも秋馬強いよね……本気出したら凄いんだろうな」
「でもお前相手に手加減したことねぇよ」
じゃあ今までの「手ぇ抜くから」は全部嘘だったわけか……
どうりで秋馬とやったあとは体中が痛むわけだ
「大会明日だね」
「そーだな。まぁ、俺等が優勝するだけだけどな」
「秋馬個人も出るんでしょ?」
「あぁ。そういやトーナメント表出来てるらしいから見にいかね?」
「そうなの? 見に行こう」
トーナメント表はトメさんが持っている
僕と秋馬は職員室まで行って、トメさんを呼び出してトーナメント表を手に入れた
個人戦、男子の部。第4試合が秋馬だった
相手の名前は……葉山武仁? 聞いたことあるなぁ
学校は浅井工業高等学校……超ヤンキー校じゃん。というか武仁って
「レモンちゃんのお兄さん?」
「なんだ。知り合い?」
「うん。確か……」
むちゃくちゃに強かったよなぁ
あれは間違いなく藤井以上だった
「あり得ないくらい強い」
「へー」
秋馬は僕の言ったことをさほど気にしているわけでもなさそうだった
どちらかというと強い奴が相手の方が楽しみとか言い出しそうな雰囲気だ
なんだかさっきより戦意のました秋馬と武道場に戻った
「冬貴。私が稽古つけてあげよっか?」
道場に戻るなり夏帆が僕に言った
「いや……今日はいいや」
「はっ!」
断ったはずなのに夏帆の蹴りが顔に直撃した
凄い速さだったのに、ほとんど痛くない。軽い平手打ちくらいの衝撃しかなかった
「何するのさ」
「冬貴もいつまでも女の子に負けていちゃカッコつかないわよ」
……夏帆のどこが女の子? とは言わない。夏帆は女の子だ。でも戦闘力では男より上、まさに男勝りだ
だがこれも……言えないな
僕も負けじと回し蹴り、だが夏帆は簡単にかわす。割と本気なのになぁ
「たぁ!」
そして僕の眉間に突き。だけど速さの割に痛くない、痛くないけど……
「それっ! それっ! それー!」
「ちょっ! まっ! 待って!」
何発も何発も打ち込んでくる。そのたび頭が揺れて気持ち悪い。息もしづらい
的確に眉間を突いてくる
反撃しないと……当たってほしい。けど当たるなよ……
体制を変えて右回りに後ろを向く、そしてそこからそのまま一回転して右足で後ろ廻し蹴りをする
「うわぁっ!」
「夏帆大丈夫?」
直撃はしなかったみたいだ
ダメなんだけど、やっぱり当たらなくて良かった
「冬貴、たまに上手いよね」
「え?」
「今の蹴りも凄くキレてた。普通ならかわせなかったよ」
「そ、そう?」
「うん。絶対上手いよ」
素直に嬉しい。夏帆に褒められたのは凄く久しぶりかもしれない
「ありがとう」
「んん? んー……ほらもう一本!」
不意打ちだった……
突然の跳び蹴りに反応できなかった僕は前に飛び出してしまった。そして思いっきり顔面にもらってしまった
薄れていく意識の中。夏帆がなにか叫んでいた
――頭が、痛い
「ふあぁぁぁー……」
猛烈に眠かった。そして頭が痛い。ここは保健室だ
ここの天井を見上げるのももう何度目か……ほとんど部活中に意識を失ってるわけだけど
「冬貴、大丈夫?」
「あ、夏帆……もしかしてずっと居てくれた?」
保健室には僕と夏帆しか居なかった。本日出張と書いてある看板があるので、どうやら先生は居なかったらしい
そして頭が重たい。これでもかというほどの氷が乗せられていた。そりゃ頭も痛くなるよ、冷たすぎる
「夏帆、氷多すぎだよ。どかすね」
「ちょ! ダメ!」
何がダメか分からない。とりあえず頭も動かせないので僕は氷を頭の上から持ち上げた
だが、それがダメだったみたいだ。袋一杯に氷を詰め込んだおかげで、袋の口は結べず、傾ければ氷がこぼれる状態でなんとかバランスを保っていたのだ
もちろん氷とそれが溶けた恐ろしく冷たい水が僕の頭から降りかかった
「ひぃやぁー!! 冷たァ!」
「ご、ごめん!」
「タオルタオル!」
とりあえず起き上がった。しかし、これがまた失敗だった
僕は道着のまま、つまり一枚しか来ていないため、道着の下はそのまま素肌なのだ。もちろん道着の中にも大量の氷が流れ込む
「うひゃぁ! ちょっ! 冷たすぎ!」
もうダメだ。とりあえず道着を脱ぎ捨てた
水を吸って重たくなった道着が床に落ちてびちゃ、と音を立てた
「な、何か。何か温まるもの!」
「う、うーん……えい!」
突然夏帆が僕に抱きついてきた
――え? 何してるの?
「ちょ! 夏帆!?」
「いや温まるかなぁと……」
そりゃなんだか体中熱いけども……
今僕らむちゃくちゃ恥ずかしいことしてないですか?
なんで平気でそんなことできるかなぁ……と思えば夏帆も真っ赤になっていた。それはもう一目で分かるくらいに真っ赤だ。無理しなくて良いのに
「冬貴……心臓。速くなってるね」
「う、そりゃ……」
ガラガラ、と保健室のドアが開いた
「おーい。ミーティン……グーだよ? スマン」
ピシャ、とドアが閉められた