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第2話:オカマの大将さん

 「あっはっは。冬貴はよえーな」


 「うるさい。あと笑い方も腹立つ」


 秋馬による顔面へのクリーンヒット。そして夏帆による容赦のない朝練という名の一方的な攻撃、まさに僕はサンドバックのようだった

 それらを総合的に見て、僕は弱いということなんだろう。多分そんな風には考えてはいないだろうが


 「1限目は?」


 「現国」


 「……うわぁ。トメさんか」


 「秋馬はトメさん嫌いだもんな」


 「みんな嫌いだろ」


 「はっあぁーい! 楽しい現代国語のお時間よー」


 扉を丁寧に、力強く開けて入ってきた大男。トメさんこと早乙女大悟郎さおとめだいごろう先生。このクラスの現国を受け持っている

 そしてトメさんは、このクラスというか、学校中の生徒、主に男子を中心として最悪の評価を受けている


 「起立礼着席終了」


 「あっらー。随分なご挨拶ね」


 「(……死ね)」


 今なんて言った!? 死ねって言ったよな!

 とまぁ、こんな風に陰口を叩かれることもしばしば


 「じゃーぁ……秋ちゃん、前に出て」


 「うっ……ハイ」


 美少年、から美青年へと進化したのだが、秋馬ははっきり言ってカッコいいと思う

 そんな秋馬のことを、このおっさんではなくオカマのトメさんは一番のお気に入りとして、よく指名するし、何かと近づこうとしている

 なんというか、気の毒だ


 「じゃあ宿題の文章を書いてちょうだい」


 「ハイ……」


 カリカリと秋馬は黒板に課題として出されていた文章を書いていく

 その間、トメさんは秋馬の周りをうろうろしていた


 「はぁ〜」


 「ヴッ」


 トメさんが秋馬の首筋に息を吹きかけた……直球でキモイ光景だ

 そのキモイブレスを吹きかけられた秋馬は、震えるとか、力が抜けるとかを超えて、ストレートに嫌な声を発した

 そして、衝撃的なことを言った


 「キモイ、うざい、くせぇ、そして死ね!」


 直球だな。ストレートをど真ん中に決めたな

 さすがにこれは堪えるだろ。トメさんマジでへこむんじゃない?


 「んもぅ。可愛くない♪」


 可愛くないのはテメェだ

 多分このクラスの男子全員は少なくとも思ったはず

 できることなら全員でハモって聞かせてやりたいな


 「……テメェ。可愛くねーんだよ!!」


 「照れない照れない♪」


 トメさんは、どこまで+思考なんだ? なぜあの気持ち悪い発言に秋馬が答えたと考えることができるんだ? 可愛くないのはトメさん自身だよ

 そろそろ来るんじゃないかな……秋馬必殺の回転胴廻し蹴り


 「ぶったオォす!」


 出やがった! 回転胴廻し蹴りというかただの浴びせ蹴り


 「タァッ!」


 「テメ! 止めてんじゃねー!」


 「甘いわね秋ちゃん! せぁ!」


 秋馬の必殺技を軽く止めて、簡単に投げ飛ばすトメさん

 なんというかこれがトメさんだ。空手部顧問、早乙女大悟郎だ

 まぁ直撃してしまえば、それはそれで問題になるんだけど……


 「現国終われ!」


 「あらあら。ひどいわー」


 「こ、このやろ……」


 その後も、いつ秋馬が飛び出すか分からない空気のまま、1時限目は終了した

 秋馬は非常に疲れたことだろうが、クラスのほとんどの生徒からすれば、これは見世物でしかない。はっきり言って授業が潰れてありがたい話なのだ




 「あー終わったわね」


 「疲れるなぁ……」


 「それは秋馬だけだがな」


 「うるさいよ冬貴。俺だって好きでやってるんじゃない」


 放課後、僕と秋馬と夏帆の3人で部室へと向かう

 空手部、剣道部、柔道部の3つの部室は道場のすぐ近くにある

 もともと部員数の多くはない空手部は、そんなに広いスペースを使うことはできない。朝練のように道場全体を使えることはほとんどない

 だが、そんな空手部はなぜか毎年つわものぞろい、必ずインターハイまで進む。そのため部費自体はかなり多いため、環境はかなりいいほうだと思う


 「しかし、なんでいつもあんた達は女子の部室に来るの?」


 「あっちは汗くせー上にきたねーんだよ。あんなゴミ屋敷で着替えられるか!」


 秋馬の言うあっちとは、空手部男子の部室だ。たいした人数もいないのに、なぜか以上に汚い。掃除する気も失せるほどだ

 だから僕と秋馬の2人は女子の部室にお邪魔している。そのためかなり早く行って、さっさと着替えないといけないのだが、あの汚い部室よりはマシだ

 なのに夏帆だけは僕たちと同じ時間帯にやってくる


 「お前ちょっと出てろよ」


 「なによー! はずかしーの?」


 「そーじゃねーだろ。男と女が同じ部屋で着替えるのはおかしいだろ?」


 「私は気にしないけど」


 「こっちが気にするんだよ……」


 「しょーがないわねー」


 何とか夏帆を部室から追い出す。まぁ、本来僕たちがお邪魔になってるのだから、あまり大きな顔して言えることじゃないけど……


 「まぁ着替えるか!」


 「そーだね」


 ちゃっちゃと着替えて、ちゃっちゃと部室から出て道場へ

 道場はすぐ近くだから、楽だ

 



 道場に入るとトメさんがいた

 普段は道場に顔を出さないのに、久しぶりだ。来て欲しいと思ったことは一度もないけど


 「あんらぁー! 早いわねー!」


 「(……何でいるんだよ!)」


 「(知らないよ。とにかく秋馬に用があるんじゃないかな?)」


 「(めんどくせー!)」


 トメさんはもうすでに道着を着ている。これはつまり『組み手に参加しますよー』ということだ。それは秋馬とやり合いますということだ


 「あれ!? トメさん組み手やんの? なら相手するし。とっとと、寝てろやぁ!!」


 強引な手に出やがった! 一撃で昇天させる気だ!


 「ゴフゥ!!」


 「甘い!」


 そしてトメさんは、道場で、道着を着て、構えに入るとなぜおっさんに戻るんだ? いっつも思うんだけど容赦ないよなー……

 

 「ごあぁ……糞ヤロー」


 「もう! オーバーね」


 オーバーじゃないよ。まともなリアクションだよ


 「はいじゃあ集合して!」


 「……秋馬。大丈夫か?」


 「……」


 返事がない。ただの屍のようだ

 というか大丈夫だろうか? 腹を押さえてうずくまってるけど


 「(……が)」


 「なんか言った? 秋馬?」


 「……ろす」


 「ん?」


 ろす? ろすって何だ?


 「こ……殺す!」


 「こわぁーい」


 「黙れ!」


 ……それにしても。なんでここまで秋馬とトメさんは仲悪いんだろう?


 


 今日の部活は、秋馬はずっとトメさんと戦っていた

 結果、秋馬は一勝もすることはなく、結局終わってしまった

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