第18話:初喧嘩
学校が終わって、帰り道、制服姿の男女が2人肩を並べて歩いている光景
普段から経験しているはずのこの状況。だが経験したことのない緊張感
僕の横には黄色い髪の、武闘派で可愛い女の子がいます
なんだろうね。見れば見るほど不思議な髪の色だよね
地毛なのかなぁ。地毛なんだろうなぁ
「それって地毛?」
気になるので聞いてみた
「うん! お父さんもお母さんもビックリしたって言ってた」
「そりゃそうだろうね……」
「お兄ちゃんも変な髪の色だったんだよ」
「へー」
変な兄弟だなぁ
生まれつき髪が黄色い人なんているんだ
レモンちゃんは僕と同じ学年だから、僕より上にまた派手な髪の人がいるんだな
「でー。カラオケ行く?」
「行くー!」
また……グッドスマイル!
今更断るなんて無理!
とりあえず帰り道にあったカラオケへ
あんなタイミングでうっかりカラオケに誘ってしまった僕だけど、カラオケなんてあまり行ったことがない
本当に、ごく自然にその場のノリで言ってしまったようなものだ
まぁ、カラオケルームへ入室
「さーさー! 座って座って!」
テンション高いですねぇ
カラオケとかやっぱり大好きな子なんだね
「じゃーここで」
とりあえずレモンちゃんと向かい合わせの位置に座ってみる
するとなぜかレモンちゃんは立ち上がり僕の横へ
「ん? こっちの方が良い?」
「冬貴君の横が良い!」
「……」
とんでもないことを面と向かって……
どうしよう。顔が赤いかも。多分カラオケルームの中だし分からないだろうけど
「と、とりあえず歌おうか」
軌道修正。多分妙なことがおきたら藤井に……殺られる……!
「うん。冬貴君先に歌う?」
「いや。レモンちゃんお先に……」
しまったぁー!!
なんか調子よくレモンちゃんって呼んでしまった! これはさすがに引くよね……
「いいのー? じゃあー……」
そんな僕の心配とはうらはらに、レモンちゃんは機械に向き合っている
なんか変に意識しまくってる僕が逆に馬鹿みたいに思えてきた。よく考えれば普通にしてれば、2人でカラオケに行ったくらいで間違いが起きたりはしないだろう
「歌いますっ、っとあぁ!」
「うわっと!」
マイクを持って立ち上がったレモンちゃんがふらついて、僕の方に倒れかかってきた
それを僕は結果的に抱きしめる形で受け止めてしまっていた
「ご、ごめん!」
「い、いえ! 私が倒れてしまって……えへへ」
前言撤回だ……
ここは密室。若い男女が2人きり。なにか起こってもおかしくはないのだぞ冬貴!
僕がしっかりしなくてどうする
「で、では改めて……」
どうやら僕とレモンちゃんでプチハプニングが起きていた間にも、曲は始まり、前奏の途中だったようだ
「〜〜〜♪」
うまい
思わず聞き入ってしまった
僕も歌うけども、その後は僕はほとんどレモンちゃんの歌を聞く感じで、あっという間に3時間は過ぎていった
なんだか、まじめで普通に可愛い女の子だったなぁ……
武闘派だとか、藤井の彼女っぽかったりして、どうも変な風に想像が先に行ってしまっていたけど、なにも心配することはなかった
本当に1人で焦って馬鹿みたいだ
午後7時、そろそろ帰るか
「もう帰る?」
「んー。晩ご飯食べて帰りません?」
「え? 時間大丈夫?」
「大丈夫です」
これはやっぱりあれなのかなぁ
2人で良い感じになって……
「ダメだし!」
この子は藤井の彼女で、僕は夏帆のことが……なんだし
「ダメ……?」
「い、いや。ダメでもないけど」
どうしようかなぁ
僕的には晩ご飯くらい行ってもいいけどなぁ
「お、今1人? 良かったら俺らと遊ぼーよ」
「わ、私?」
「そーそー。ていうか目立つ髪だねー」
ふざけてるのか? すぐ横にいる僕が見えない訳か?
……とりあえずこいつらからレモンちゃんを離そう
「行こう」
「えぇ!? お前この子の彼氏君だった?」
そうは見えないと? 別にそうじゃないから全然構わないけど
「マジ弱そう、こんなんでいいの?」
それは心外だな
「じゃ! 一緒に「離せよ」
レモンちゃんを引っ張ろうとする男の腕を力ずくで引きはがして言ってやった
空手部舐めるなよ
たった1人で、まぁそれはそれでいいとして、よほど勝算があるようだね……
でも、レモンちゃんは守る
「おおぉー!」
男の顔めがけて渾身の一発、を放つけど軽くかわされた
そして、男の一撃。前のめりになった僕の顔面に力の塊が突き刺さった
僕は初めて知った
秋馬も夏帆も全力で殴ったりはしていない。本当に相手を倒すための拳を僕は初めて受けた
「ぐっ……いたぁー……」
「粋がってんじゃねぇよ彼氏! 弱いくせに格好つけんな!」
「彼氏じゃないし……」
「あぁ? じゃあお前なにやってんの?」
「悪い?」
地面に尻餅をついていた僕の前で余裕の態度で突っ立ていた男の鳩尾を狙って、膝をねじ込んでやった
多分初めて僕は全力で人の体に自分の力をぶつけたんだと思う
「ぐぅっ! いって!」
「空手部、なめんなよ」
とは言ったものの、どうやら男はかなり喧嘩慣れしていたようで、ここから僕の拳が男をとらえることはなく、ただ必殺の一撃をもらわないように、僕は受けに回るだけだった
「空手部が、何だよ!」
「うっ!」
今度は僕の鳩尾に男の膝がえぐり込まれた
痛い。尋常じゃない痛さだ……立ってられない
「もう終わりか彼氏。……じゃあこんな弱い奴はほっといておれと……」
「?」
そこまで言って男は固まった
どうもレモンちゃんのほうを見て固まっているようだ。ぱっと見では何か恐ろしいものを見て震えているようにも見える
どうしたというのだろう……
「ひっ!」
男が身構えた。というか頭を守るようにうずくまった
数秒後、僕の後ろから男めがけて、野球で使うバットが飛んでいった
「ひっひぃやぁー!!」
バットは直撃しなかったが、男は叫びながら逃げていった
武闘派女子……まさかレモンちゃんが今のを……?
ちょっと時間がたち、ようやく僕の鳩尾の痛みが治まってきた
情けない。守るつもりで戦ったのに、逆に守られてしまうとは
「さっきのバットって……君が投げた?」
「え? 違いますよー。お兄ちゃんです」
「お兄ちゃん? え、どこ?」
「冬貴君が寝てる間に帰っちゃいました」
名前を聞く暇もなかったな……
僕、というよりはレモンちゃんを守るために投げたバットだったんだと思うけど。いきなりそんなもの投げるなんて、優しいんだろうけど恐ろしい兄だな
まぁ、うちの学校にも1人恐いのはいるけど
「じゃー。晩ご飯行きましょうー!」
「あ、うん。いいよ。どこにする?」
「んー。どこでもいい」
「じゃあー……」
こういう時は、やっぱり男の僕がおごるべきなんだろうか
そりゃまぁ、ちょっとくらい格好つけても良いと思うけど、今さっきレモンちゃんの前で、不良にぼろ負けしてるしなぁ
でもとりあえずおごることとして、どこに行くべきだろう……
ファミレスとかでいいよね……
「ファミレスでいい?」
「いいよ。でもこの辺にある?」
「え?」
そういえば周辺に何があるのか僕は知らないしなぁ
ぱっと見あるのは、『居酒屋・〜』というのやら『コミック・インターネット〜』とか、ファミレスってちょっと探さないとないかなぁ……
どうしようかなぁ
「じゃあ。私の行き付けでいい?」
全然構わないです
「それでいいよ。で、どの辺?」
「この近くだよ」
レモンちゃんに引っ張られて僕は歩き出した
なんだか周りにある店がどんどん変わっていく。どんどん進むにつれて、なんだか怪しげな店が増えている気がするのだ
ラブホテルとかばっかりじゃない?
……たまってるヤンキーも多い。なんだか全員凶悪な顔してるし
「だ、大丈夫?」
「なにが?」
「いや、なんでもない」
どうやらこの光景はレモンちゃんにとってみれば普通みたいです
兄がどうやらヤンキーっぽいので、そのつながりがあるんでしょう
……足が止まった。看板には『ダーツ・バー』と輝いていた
なんだか奥に進みすぎて、人通りもかなり少なくなってきている場所だ。明かりという明かりも、この看板と街頭1つしかない
怪しさ満点のバーだ。というか未成年も入れるの?
「お邪魔しまーす」
レモンちゃんはまるで友達の家に入っていくような感じで、バーの中に入っていった
一体、ここはどういう場所で何があるのだろう……