第12話:やっと頭で理解できた気がする
『逃走中』というテレビ番組を知っているだろうか?
血も涙もない、獲物を狩るための圧倒的な運動能力だけを持った究極の人間兵器『HUNTER』から、生き残りをかけて逃げる人々の固い絆と、それが起こす奇跡をつづったドキュメンタリーである(※違います)
この状況、まさに逃走中のそれではないか
「まぁ、ホテルは広い。仲間を探そう」
「おぉ。パーティ編制といくか」
「正しミッキー。藤井はダメだ。呼ぶならお前がしっかりセーブさせろよ」
「オッケー!」
藤井はまさに血も涙もない人間兵器になりかねないからな
「行くぞ!」
そして、西と岡辺と僕たちの大鬼ごっこが始まった
「ロビーには、……ゲッ! トメさん」
僕は1人でとりあえずロビーに来てみた
するとそこにはトメさんがいた。教師にこのゲームのことがしれればまためんどくさいことになってしまうのは言うまでもない
「ここには、西たちもいないだろう……」
「冬貴君? なに……やってるの?」
後ろから声をかけた人物。それは春香だった
なぜ1人でロビーに? というかその不信感あふれる目はなに? まぁ、ロビーの床にふせてる男はそりゃあ謎だろうけど
「春香こそ1人でどうしたの?」
「いやっ。その秋馬君を探してたんだけど」
「夏帆は?」
「夏帆は冬貴君を探して部屋から出て行ったよ」
なぜ? なんでわざわざ分かれて僕らを探してたの?
まぁ、分からないけど秋馬ならケータイに……
「ケータイ部屋だ……」
「あはは。出ないと思ったらそういうことか」
「ごめんね」
いいよいいよーと春香は笑ってくれていた
別に緊急を要するような大変な用事でもなかったらしい。でもそれだったらなお更何のようだろう
「夏帆はね、……まぁ私も人のことは言えないけどね」
「??」
「ちゃんと見てあげないとダメだよ」
……なにを?
その答えを聞こうとしたが、春香は早足にスタスタといなくなってしまった
とりあえず一度部屋に戻ろう。ケータイを忘れてるのは不便だし
「あれ? 夏帆」
「! 冬貴……」
僕を見て夏帆がなんだか驚いたようだったけど……
気のせいか
「僕に何か用?」
「……春香に会った?」
「うん」
なんだろう。今の夏帆はなんか変だ
いつものように強気というか……力強さを感じられない
「どうしたの夏「ねぇ! ちょっと屋上に行かない?」
何でまた……まぁ涼しくて良いかもしれないけど
「いいよ」
僕たちは屋上に向かって歩いた
エレベーターまでも、エレベーターに乗っている間も、夏帆が口を開くことはなく、ずっと下を向いてしまっていた
一体全体どうなっているのだろう? さっぱり分からない
「星がよく見えるね」
屋上に出て、空を見上げて、夏帆が口を開いた
いつもの夏帆ならなにか叫んでみたりもしそうだが、今の夏帆からそんな雰囲気は感じられない
なんだろう……僕は今、なにを考えてるのだろう
「そう、だね」
「……私は今、なんだかすごく……心が安らいでるんだ」
「……僕もだよ」
実際そんなことを思っていたのかは分からない
でも自然と僕の口からこぼれたんだ。これは本心なんだろう
「それは、夜だから? それとも静かだからかな? それとも」
「どれも違うよ」
そう言ったとたん、あの首里城見学の日のバスの中で感じた、自分ではどうすることもできない感覚がやってきた
夏帆のほうを見れない
屋上の白いライトに照らされた夏帆の顔は、やっぱりとても綺麗で、愛おしくも思えた
「うん。私も……そうだよ」
「「……」」
沈黙が続いた。僕はこの状況どうするべきかなんて知らない。多分夏帆もそうだろう
『ちゃんと見てあげないとダメだよ』
春香がこんなことを言っていたな……
夏帆は今何を考えているのだろう。実は僕は容易に見当がついているんだろうな
夏帆は……そして僕も……
「あの、夏帆「ここなら隠れられるぞぉー!」
……タイミング悪っ!! 空気読め!
なんか急に冷めたわ!
「あ、あいつは冬貴! そして」
「「夏帆さぁん!!」」
あぁ……めんどくさい
そして僕は何を言おうとしてるんだ?
まぁ、いいや。とりあえず
「ちょっと待てバカたち!」
「逃げんぞ相棒!」
「おぅ!」
……バカは去った
「ねぇ冬貴」
「うん? なに?」
「これからもよろしくね!」
「……ああ。よろしく」
これでいいんじゃないかな
僕と夏帆は変わることはない。ずっとこうしてられれば
でも、本当は気付いている
今気付いたのか、ずっと前から知っていたけど、それを自分で理解していなかったのか
それでも今はこう思える
まだまだ口に出すには僕は弱すぎるけど
僕は椎木夏帆のことが好きだ
ぬあぁ! うまく書けない!
そして評価・感想よろしくおねがいします