予兆
天歴100年 神界 戦闘街デュライン
凄まじい叫び声が神界に響いた。
「ガァァァァッッッッッ!!!!・・・だが・・・我はまだ・・・アァァァッッッ!!・・次こそは・・この世界を・・・蹂躙してやろうっ・・ハハハハハッ!!!フハハハハッッ・・・・!!!!!!」
巨大な影は不敵な笑みを浮かべ、光に吸い込まれていった。
「はぁっ・・はぁっ・・・・」
俺はもう限界に近かった。視界がチカチカと点滅しているように見える。
「・・・クラリル・・終わったの・・・?」
この死闘を繰り広げた戦場で俺ともう一人だけ生き残った、クリーム色の髪をした少女は膝をつき、息を切らしながら聞く。
「いや・・まだだっ・・・」
俺はこの世界中に広がった戦火の鎮圧や、天界にいる人達の安否を確認しに行かなければならない。何より、この戦争を早く終わらせなければ・・・。
「でも・・その前に・・・・」
俺は辺りの惨状に目を向ける。
死体の周りには血の海がいくつも出来ていた。
死んでいるのは全員、王宮に子供がいる親達。奴を封印する為に最後の力を振り絞った結果、絶命してしまった。俺ともう一人の少女は運良く、致命傷がなかった為、魔力を大量に使った後でもこうして生き延びている。もう悲しんでいる暇すらない。この人達の為にも子供達を守らなければならない。
俺は全員の死体を仰向けにして並べた。
そして静かに手を合わせたーーーーー。
ーーきっとお前らは俺を責めないんだろうなーーー
ーーー取り返しのつかない事をしてしまった。俺はこの罪を一生償っていく責任がある。ーーーー
ひたすらに自責の念に苛まれる。
約束を守る事が俺の贖罪、そう決意する。
・・・
しばらくして俺は話を切り出す。
「俺は天界に行って子供達を見てくる、シエラはどうする?」
シエラと呼ばれた少女は答える。
「私は魔界に行く・・・ヴァル君が心配だし・・・助けなきゃ・・!!!」
ヴァル君と言うのは魔界にいる4人の魔王の一人でシエラの想い人である、ヴァルハルト=ディアス。彼は天界と魔界の調和を目指していた為、周りには敵が多かった。そんな中での戦争だ。だからこそ、最悪の状況も十分に考えられる。
「助けてあげられなくてごめん、とにかく、気をつけてくれ」
「うん、クラリルもね」
シエラの言葉を聞いた後、俺は天界に向かった。
この後、あの光景を目にするとも知らずにーーーーー。
ーーーーーーーーーー
ここは天界の王都クレア、4年前に帝都四年戦争により燃え尽きた王都の代わりとして作られた都市だ。
現在の天界の王はレフィリア=セラフィーヌ、天界の歴史史上初の女王だ。髪は薄桃色のショートボブで、スラっとした体つきをしている。そして彼女は王都の中心に建てられた王宮の中を歩いていた。すると、後ろから抱きつく影があった。
レフィリアは動じる事なく呆れた顔で話しかける。
「マリー?いい加減、抱きつくのはやめなさい」
「え〜、だってレフィちゃんの抱き心地最高なんだもん!」
そう文句を言う彼女はマリー=ハープス、守護天使と呼ばれる神界からの命を受けて天界を守る天使だ。
髪は薄桃色のロングヘアーで主張の激しい胸が特徴的。かなり人懐っこくいたずら好きの女の子だが、一応天界にいる守護天使の中では一番強い。
「いいじゃんいいじゃん!!・・・ね?」
「そう言われても・・・」
あまりの押しの激しさにレフィリアは困ってしまう。さらにそこに現れたのは・・・
「レフィちゃん、マリーちゃん、おはよー」
彼女はプリム=ノワール、彼女は獣人で、羊とのハーフだ。髪は金髪のショートで特徴は髪から小さく生えた耳。今は嬉しそうにぴくぴくと動いている。性格はとても恥ずかしがり屋だが、心優しい少女だ。
「おはっ!プリム〜、またレフィちゃんが抱きついちゃだめだって言うんだよぉ〜!!!プリム!!!なぐさめてー!!」
「ええっ!?じゃ、じゃあ、私が代わりになるよ?」
「ほんとー!?ありがとー!!ぎゅーっ!!!!」
マリーは勢いよくプリムに抱きつく。そして、そのまま髪をわしゃわしゃと撫でる。
「髪の毛ボサボサになっちゃうよぉ〜」
困ったプリムを見て、レフィリアは
「もう!!分かったから!!プリムも困ってるでしょ!!」
「え?いいの?」
マリーは嬉しげに見つめる。
そう、レフィリアは結局は友達に甘い所がある。実際、こうしてつけ込まれているのだから。
そしてそこにもう一人、
「レフィリア!マリー!プリム!!おっはー!!」
彼女はルーミナ=ラト。天界一の大魔導士の一家の娘だ。髪は薄茶色で肩までかかる長さ、所々外に跳ねていてまとまりがない。彼女も膨大な魔力を有し、現在、天界一の魔術士なのだが、それに反し、天真爛漫な性格で暴れるとかなり危ない。
「おはようルーミナ、あなたはもう少し落ち着きなさい」
「ルーちゃんおはっ!!!」
「ルーちゃんおはよー」
「では、今日の仕事ですが・・・・・
彼女達の仕事は天界の見回りや、天界での事件の解決、そして、魔界、天界、地上を繋ぐゲートの管理などだ。この4年間は特に大きな事件はなく、比較的平和な日々を過ごしていた。
だが、その平和は今日を境に一変する。そんな事を彼女達は知る由もなかった。
ーーーーーーーーーーー
天界と魔界を繋ぐ門のある都市、ヴァリアにいつものようにやってきたレフィリアとマリーは、ゲートが開いている事に気づく。
レフィリアとマリーは顔が強張る。
「・・・どういうことなの・・・一体・・・」
「・・レフィちゃん、許可は出してないんだよね?」
マリーの言うように、この門を開けるためには天界の最高責任者であるレフィリアの許可が無ければ絶対に開かない。しかし、開いてしまっているという事は
誰かが力づくでこじ開けたと考えられる。
二人は底知れぬ恐怖を感じた。
「嫌な予感がする・・・」
それは、四年間一度も開かなかった門を開けたという事は敵は強大な力を持っているという事に他ならないのだから・・・
その時、爆発音が背後の森から聞こえた。振り返ると森から火の手が上がっていた。
「っ・・・!!行くよっ!!マリー!!」
「うんっ・・・!!!」
二人は手に虚空から「神武装」を取り出し、爆発音がした方へ急いだーーーーー。
神武装ーーーーそれはこの世に生を受けし者が神から授かる最初の天啓が、形として具現化された物であり、
それぞれに一つの特性を持つ魔力を纏っている。
レフィリアの神武装〈破邪を消し去る炎杖〉
背丈より少し低いくらいの杖状の武具の先端に紅玉が輝いており、その中には焔が燃え続けている。
固有魔力は〈皇炎〉、炎を具現化し、光を伴う爆発を可能にし、その炎は聖なる者に癒しを与える事も出来る。
マリーの神武装〈慈悲と慈愛の炎弓〉
弓状の武具。固有魔力は〈爆炎〉、炎を矢の形に放出し、いくつもの数に増殖させ雨のように降らす事ができる。