序章 始まりの物語
大改訂の為、再投稿です。
初作品なので、お手柔らかにお願いします。
一応、お話的には400話で完結を考えてます。
天歴100年 天界 王都レイル
雨が降っていたーー。
一人の少年は崩れかけた城の前を歩いていた。鉄の焦げたような臭いが鼻を突く。
ただ一人歩く彼の背中から生えた二枚の白翼は血に汚れ、薄暗く染まっている。何かを探すように顔を上げた。
(地獄だな・・・これは・・・)
あちこちに血にまみれた死体、それは、天使、悪魔、人、例外なく転がっている。頭は捥げ、足元に転がり、地面には手か足かも分からない物がゴミのように落ちている。
建物は燃え上がり、焼け落ちた教会が目に入る。すす煙が巻き上げ、むせそうになる。聞こえていた耳を引き裂くような悲鳴や叫び声はもうない。その静寂はより炎の音を目立たせた。
両足が止まる。
そして彼は目にする。今でも忘れられない光景をーー
一人の人間の少女が倒れている。
それだけではない、大きな槍が彼女の腹部を貫いていた。
「あぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!」
それを目にした瞬間、後悔、怨嗟、絶望が、頭の中をめちゃくちゃに埋め尽くした。
「グァッ!!ギィィィ!!!ガァァァッッ!!!」
ふと背後の燃え尽きた瓦礫の中から生き残っていた悪魔が目の前の敵を見つけ、本能のままに襲いかかってきた。
(あ・・・・)
彼は無意識の内に手で空を切った。
その刹那、悪魔は真っ二つに切れ、霧散する・・・。
彼は決して手刀で悪魔の体を切ったわけではない、その証拠に両手には黄金の剣と、黒い剣が握られていた。ドス黒い返り血を浴びて・・・。
「・・・暦・・・・・」
俺は彼女の名前を口にしていた。
ーーーーーーーーー
「・・・・・雨・・・・?」
私はふと目を開けると、いつのまにか雨が降っていた。お腹を見れば槍が刺さっていて、今も血が流れている。雨音も聞こえないし、もう痛みも感じない。
さっきまで誰かが居たような気がしたーーー。
「もう・・・ダメ・・かなぁ・・・・」
もう助からないと感じ、苦笑を漏らす。
私を刺したあの子の顔が頭から離れない。
あんなに悲しそうな顔を見た事がなかった。
きっと何か事情があったんだろうな。
私は優しい子だって知ってるから。
「ごめんなさい・・・」
「・・・?・・・!!!」
声がした方へ私が顔を上げると、そこにいたのはあの子のお姉ちゃんだった。
「私達はずっと監視されてるの・・・そしてあの子は体を操られてる・・・命令に背いたら誰かが殺されるから・・・だから助けられない・・・自分勝手で・・・本当にごめんなさい・・・」
彼女の目には涙が浮かんでいた。
だから、私は精一杯の笑顔で話しかけた。
「別に・・二人は悪くないよ・・・?そんな事分かってる・・・分かってるから・・・ね?」
「・・・・・・。」
しばらくして、不意に私は少し体が軽くなった気がした。
「私にはこれしかできません・・・必ず、罪を償いますから・・・その時までは・・・どうかご無事で・・・」
彼女は監視にバレないように、魔力を私に少し送ってくれた。
ありがとーーー
私がそう呟くと、彼女はすぐに何処かへ行ってしまった。
私はその魔力で生きる事を選んだ。
そして詠唱する。
「・・・生命の繭よーーーーー」
また会える日を夢見てーーーー
ーーーーーーーーー
どれくらい俺は歩き続けていたのだろうか・・・
「ねぇ・・・リルくん・・ねぇ・・・ねぇ!!」
俺は呼ばれている事に気付く。
隣にいた少女は心配そうにこちらを見上げていた。
彼女の名前はレフィリア、天界では最も身分の高い熾天使であり、この王都の王女。彼女の親はこの天界の聖王とその王妃だった。だが、既にこの戦いに身を投じ、俺の目の前で命を落とした。
目の前のわずか12歳の少女は何も知らず、ただ恐怖に怯えた表情で聞く。
「ねぇねぇ、暦ちゃん見てない?暦ちゃんが突然飛び出して行っちゃって・・・」
「・・・探しにきたのか・・・?」
「うん・・・・知らない・・?」
彼女は恐らく友達を心配して、他の人を置いてたった一人で探しにきているのだろう。だが、これ以上探されて見つけられてもまずい。彼女はもう死んだのだ。あんな光景を目の当たりにして深い心の傷を刻んでしまう事になる、それだけは避けるべきだと思った。
「戻れっ・・・ここは危ない・・・」
だからこそ、俺は怒気を強めて言う。
「でっ・・でもっ・・・心配だよ・・・」
レフィリアは食い下がらない。
「・・・いいから話を聞いてくれっ!!!!!」
俺はつい、怒鳴るように言ってしまう。レフィリアは
驚き、黙って俯く。
泣きそうな表情が視界に映る。これではただの八つ当たりに等しい。
彼女は何も悪くない、自分が守っていればーーーー
そんな感情に心が支配される。
「俺は本当に最低な奴だな・・・」
自分だけに聞こえるようにぽつりと呟く。
「戻ってくれ・・・」
そう言って、その場から立ち去ろうとしたその時、俯いていたレフィリアは顔を上げ、叫ぶ。
「リルくんには私達がいるよ!!みんなここでずっと待ってるから!!絶対帰って来るって約束して!!」
泣きながら言う彼女を俺は罪悪感で見る事が出来ないまま、血の色に染まった空に飛び立った。
俺の手でこの長い戦争を終わらせるために。
「・・・全部・・・俺のせいだっ・・・!!」
怒りと後悔で拳を強く握る。
ずっと切り札はあった。でも、最初はここまでこの戦争が酷いものになると俺は予想しておらず、天界と神界の和解に持ち込もうとしたのが間違いだった。結果として様々な要因が重なり、四年もの大戦争となった。この戦いによる死者は天界、地上、魔界、少なく見積もっても1000万以上だろうーーーーー
俺はこの戦争を命に代えてでも止める責任がある。
たとえ神の叛逆者と言われようとも。
覚悟を決めた彼の手には運命を捻じ曲げる真っ赤に染まった槍が握られていたーーーー。
ーーーーーーーーーーー
あんなリルくん初めて見た・・・
でも私の事を思って言ってくれてることもわかった
きっと私に見せたくないものがあるんだって
でも、暦ちゃんの事に触れなかった事が気になり、私はまっすぐ王宮に帰ろうとせず、辺りを歩きまわった。
そこで目にしたのは。
「えっ・・・・こ・・よ・・み・・ちゃん・・?」
おなかに槍が刺さっていた。そして目の前に立っている女の子も見つけた。
「あ・・・あっ・・・」
暦ちゃんが目の前で殺されていた。私は恐怖でその場から動けなかった。その時、その女の子は何処かへ飛んでいった。追いかける勇気は私にはなかった。彼女が空の奥に消えるまで見ていた私が振り返ると、
「・・・暦ちゃん・・・?」
暦ちゃんはいなくなっていた。
その日から私はこんな弱い自分が嫌いになった。何も出来ない私。だから、強くなろうと決めた。
ーーーーーーーーーーー
次の日、戦争は終わりを告げる。
後に、この戦争は帝都四年戦争と呼ばれるようになる。終戦のきっかけとなったのは全能神
の死だった。そしてこの日を境に彼は姿を消す。
彼の名前はクラリル=シャルテ、聖戦の使徒だ。
使徒・・・神からの天啓を下界(天界、魔界、地上)に
伝え、神の天啓通りに行動する者。
クラリルの場合は聖戦という戦争を起こすために生まれた存在。