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29-4.一時帰宅(29日目)

 昼食はエルフの村ご用達の保存食用のカチカチパンとなった。

 クイナと紅葉(もみじ)が結託してぶうたれていたが、これしか無いと諦め食べる事にしたようだ。


 仕方ないので、ペアーチを振舞ったのは失敗だったかも知れない・・・。 クイナが再びえらく喰いついて来てしまった。。。 リュウの抵抗虚しく、族長命令で押し切られてリュウは折れてしまう。


 まだ在庫がある事をクイナにバレてしまったが、自宅に蓄えてある在庫は死守せねば・・・。

 置いてきた子供たちが食べきってしまう可能性もあるが、その時は仕方ない。


 ひと悶着あったが、硬いパンと冬に珍しい果物を食べて、簡単な昼食を終える。


 「さてと。 今後の事を話し合うんで良かったよな・・・?」

 誰も口を開かなかったので、諦めて俺が話を振った。


 「それで問題ない。 私達もこれからどうするか決めかねていたところだ。」


 クイナ達も今日の会議はそこが主題だったようで、そんな時にタイミング良く応援が来たので期待しているようだ。 積極的に関わるつもりが無いスタンスはそのままだが、今回も仕方ないのか・・・? 流されるままに関わってしまっている気がするが、アリアを連れ戻すまでの辛抱だ。

 「・・・なら、まずは俺達の行動から。」


 声を上げる者は居なかったので肯定と捉えればいいか。

 「俺はもう一箇所、アリアを探しに行きたい場所がある。 ここからでも夕方には帰ってこれるだろうし、1度俺達は抜けさせてもらいたい。 その後で、クイナ達の計画に合流する算段で良いかな?」


 「あぁ、それで十分だ。 むしろ、そんなに近いところなら、私達も同行しても良いが? それにエイシャ様にとっても娘の事だしな・・・」


 飛んで行く俺達には着いて来られないだろう。 紅葉(もみじ)の移動手段を使うのも手だが、俺の負担がデカ過ぎるか。。

 リンがこちらに視線を向けてきた。

 飛行魔法をかける?とでも言いたげだったが、その手は下ろさせた。

 リンの頭を撫でながら、俺はクイナの申し出を断ることにした。 居ない可能生が高いって事で振り切りはしたが、あそこは果物の宝庫でありなるべく隠しておくべきとも考えたのだ。


 「先に行って来てからこちらの計画を話すとするかな。 夕飯の肉くらいは探してこなきゃだな。 リュウ、それで良いか?」


 「私に確認は不要だろう。 族長として指示されれば従うんだがな。。」


 「いやー、私を止めるストッパーが居ないと族長もままならないぞ! あっはは♪」


 その間、エイシャさんは否定も肯定も口を開く事はなく、地図を確認していた。


 「それじゃあ、俺らは行ってくるよ」


 クイナ宅を出て、大通りを進む。


 「歩いていくの?」


 目的地とは逆方向の村の門へ向かおうとする俺に紅葉(もみじ)は尋ねてきた。

 抱え上げて、小声で飛べる事を隠すためだと伝える。


 リンの魔法力がどれだけあるのか?

 朝掛けたまま、日中は効果が切れなかったからかなり効果時間が長そうだ。 そんな魔法をこの年で・・・魔法はイメージ。 思いの力だと言っても良いだろう。 こんな便利な魔法を持っているリンの人生はどんなものだったのだろう。 少女の生い立ちが幸せばかりだったとは考え辛い。


 「そっか! なら、村の外までは歩くんだねっ」


 村を出て迷いの森を抜け、湖の所まで到着した。

 「ここまでこれば良いかな?」


 意識を空へと向けるとふわりと体が浮き始める。 まだ・・・効果は残ってるんだな。。

 「リンちゃん、この魔法っていつまで効果あるのかな? 便利で助かるけど無理してない?」


 「・・・ずっと? 大丈夫。」


 永続効果だと!? エイシャさんの情報からも付与魔法は負担が大きかったはず・・・。 それも効果が永続だなんて異常とも思える。 リンは紅葉(もみじ)のような天才か・・・?


 三人とも浮上し、木々の天辺を超える。

 高所恐怖症の俺ではあったが、自分の意思で思いのまま安定して飛べるってのは恐怖感が随分薄れてきた。 空を自由に歩け、走れるような状況だと言えば分かりやすいか? 空に足が着くような感覚だ。


 しばらく誰も来ていない事を確認し、森の中にぽっかりと空いた湖と別れ、ここからでも見える吹き上がった蒸気を目指して飛び立った。


 「すっご~い♪ ここ温かくて気持ちい~♪」


 「火傷に気を付けろよー。 あんまり近づき過ぎないようになっ!」

 紅葉(もみじ)が楽しそうに吹き上がる蒸気の周りを飛び回っている。

 乾燥して寒い季節だったとしても、昇る蒸気熱が周囲を温めている。

 リンの魔法は便利だが、如何せん上空を飛ぶと寒すぎる・・・その対策は紅葉(もみじ)が風魔法で防壁を張ってくれているから助かるが、多分紅葉(もみじ)は今防壁を解除しているんだろうな・・・。 温泉も良いが・・・サウナや蒸し風呂ってのも良いな・・・と丘に降り立ちながらそう思った。


 「昨日のままだなここは・・・」

 吹き出る蒸気の轟音と、紅葉(もみじ)の笑い声が響いている。 家を出た手前、紅葉(もみじ)の声が聞こえれば萎縮するか、その場を立ち去ろうとするか、こちらに来るかって3択だろうが・・・

 耳を澄ませていても、俺たち以外の足音は聞えなかった。


 「ん・・・」


 「リンちゃん、どうかしたの?」

 恒例になってしまったズボンを引っ張る仕草で腰下に目を向けた。

 みかんの木を指差している。 それも、白い布の巻かれている木だ。


 「みかん採りたいのかな?」


 「んっ。」


 頭を上下させたので、正解か。 まだまだ実はなっているようだけど採りきっても良いのだろうか? 許可は出てるっぽいけど、誰が何の為に?


 夕食後のおやつにって事で6個のみかんを採ることにしたが、1つ採ったところで2個目に手を掛けようとすると再びズボンを引っ張られる。

 「なになに? リンちゃんが採りたいの? わ、分かったから、ズボン離してねっ!?」

 ベルトはしていたので脱げることは無かったが、腰に食い込んで痛かった。。 完全にぶら下がるような状態だったのだ。


 仕方なく肩車をして、合計6個のみかんを採集した。

 「紅葉(もみじ)ー! ここには居ないみたいだし、村に帰るぞー!」


 「サトシっ! ここに家作ろっ! ここ気持ちー♪」


 ベタベタに濡れた紅葉(もみじ)が湯気を上げながらやって来た。

 「あー、もうベタベタじゃないか。。 湯冷めしちゃうから早く乾かすんだよ?」

 毛が水を吸ってふた周り程小さくなった紅葉(もみじ)にそう告げて、俺はバックパックへみかんを詰めるのだった。


 来た道・・・いや、空か?をそのまま戻らず、一旦自宅へ連絡を入れておく事にした。

 エルフの村に行くってなったら、子供たちも来たがるかもしれない。 それにやはり心配だったのだ。


 「みんなどうしてるかなぁー・・・」


 「心配し過ぎ・・・」

 「だよねーっ」


 珍しく紅葉(もみじ)とリンの意見が一致していた。 まぁ、そう言われても致し方無いだろう。 大丈夫だと言う2人の意見を押し切って向かっているのだから・・・。



 「紅葉(もみじ)様は、サトシと付き合い長い?」


 不意に背後を飛ぶリンからそんな声が聞こえた。

 俺を前にして話すことか!? そ、そりゃ子供過ぎるってのはあるけど、一応ドキッとはするんだからなっ!?

 何より、頭の中にはうさぎド○ップが浮かんだ。 何かドラマもやってたはずだが、俺は原作の漫画の方しか知らない。 2次元の萌に勝るものは現実世界には無いのだから。

 そ、そりゃね? リンが成長すれば・・・って、俺は何を考えてるんだ。。 アリアがいる身で・・・あー。。。そのアリアが、居ないからこうして探してるんだが。。

 俺の心はかなり渦巻いて、ぐるぐるし続けるのだった。



 「ん? 家の方に白い煙・・・?」

 リン達の会話に聞き耳を立てていたせいで、大切な事を見落としていたようだ。

 風の無い空へ一直線に白い筋が伸びていく。


 アリアが帰ってきた・・・?

 飛べない事を考えると、安易に探し回るよりも烽火(のろし)を上げた方が可能性は高いだろう。 現に、俺達はそれに気づいたのだから。


 「急ぐぞ!」

 短く2人に伝え、スピードを上げる。


 事故が起きている訳じゃないと思いたい。

 黒い煙じゃないから家が燃えている訳では無いはず・・・。

 不安を振り払いながら、敷地に降り立った。



 「あら、サトシさんおかえりなさい?」


 アンが、かまどで何か焼いているようだった。

 「あ、あぁ。 またすぐ発つけどね? 家の方に煙が上がってたから、心配でな・・・」


 「・・・本当に心配性ね。。 火くらい使えるわよ。 ほらっ」


 アンに言われるままかまどを覗くと、白っぽい塊が焼かれていた。

 「これは・・・?」


 「村直伝のパンよっ♪」


 アンが無い胸を張っていた。

 うん、可愛い! やっぱ俺はこっち属性か・・・まじまじとアンを眺めていた。


 「そ、そんなに食べたいのかしら・・・」


 「アンちゃーん、パンの焼き加減どうー? っ!?」


 家の裏からランが現れたが、すぐさまアンの元へ駆け寄って定位置に着いた。。。


 「ただいま、ランちゃん。 みんなでパン作ってるのかな? すごいねー」

 紛れもない本心だった。 おままごとじゃ無く、ちゃんと料理をしていたのだ。 この料理は・・・味をみなくても分かる。 尊い・・・尊い味がするはずだ。


 「アンたちもパン作れるのー? サトシと一緒だねっ!」


 「っ!? ・・・」

 「サトシさんも、パンやっぱり作るのね・・・ほら、ランっ!」


 つんのめりながら、背中を押されたランが前に出てくる。

 「・・・あの、外に置いてあるの・・・何ですか。。。?」


 ランが指さしたのは、唐箕だった。

 そう言えば、パンに使った小麦粉はそもそもどうやって・・・?

 作るのに手間が掛かるから、使う分しか小麦は挽いていなかった。

 だが、かまどには小さな小粒パンがいくつも焼かれている。

 「あれは・・・小麦の選別機だよ。 唐箕って言うんだけど、使ってみる?」


 「私が使ってみるわっ! 私にやらせてっ!」


 アンが身を乗り出して手を上げながらピョンピョンしていた。

 子供の頃、気になった物に我先にって、俺もあんな時があったな・・・感慨深い。



 焼き上がったパンをかまどから退かしてから、俺たちは唐箕の元へ向かう。

 ハンドルを回して風が起こる事、小麦の実入り具合で飛ばされる位置が変わって選別ができる事を伝える。

 2人は興味津々に話を聞いて、アンがハンドルをぐるぐると早く回していたので、実験的に入れた籾は全て遠くへ飛んでいってしまった。


 「ねぇ、サトシさん!? 選別できなかったわよ!?」


 慌てて飛び散った籾を一粒ずつ拾いにランとアンが向かう。


 多分唐箕を初めて使う全ての子供が通る道だろう。

 回したら風が出る。 早く回したから強い風が出る。

 力任せにどんどん回しちゃうよなー・・・俺もやったなぁー。。。

 「アンちゃんが、早く回し過ぎたからかな? ほら、これくらいの速度で回さないとね」


 見本の速度で回して見せる。

 説明ばかりより、自分で体験するのが一番納得しやすい。

 膝小僧を汚しながら籾を拾ってきた2人には少し申し訳なかったが。。


 「ランっ! いくわよ」


 アンがさっきの反省を活かしてハンドルを回すと、きちんと選別された小麦が落ちてきた。 2人はもう唐箕を使いこなせるだろう。

 「アンちゃん、バッチリだね! これなら唐箕を任せられるよ」


 「私なんだから、とーぜんよっ!」


 ん?

 胸を張るアンとは別に、ランは選別された小麦を拾い上げて何か確認しているようだ。何か気になる事でもあったのか?

ぐふっ。。

尿路結石になりましたorz

男性でも出産並とも言われる痛みを体験中。。。

夏場は熱中症だけじゃなく、水分補給はしっかりするべきですね・・・

いつになったらこの痛みとお別れできるだろうか(遠い目

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