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29-3.村の問題(29日目)

 エルフの村の入り口には、木製の大きな門がある。

 ここは無事だったようだ。 先日のホブゴブリンが襲来した時のような被害は出ていないという事か・・・? 俺達に気づいた門番がこちらへ掛けてきた。


 「お久しぶりです、紅葉(もみじ)様と、サトシ様。 それと・・・リン・・・か?」


 門番は、リンの事も知っているようだ。 流石は小さな村だ。 村の子供は、みなの子って感じか?

 軽く挨拶を交わし、俺は村が大丈夫かと問う。


 「? 敵に襲われるような事はありませんよ。 ただ、少々人手不足でして・・・」


 歯切れの悪い回答だった。

 何か後ろめたい事が?

 以前から、子供が茶運びしていた時点で人でが足りてないとは感じていた。 だが、今は要の防衛すら疎かになっている。 これはいくら何でも異常では。。 ホブゴブリンの影響だけとは考えにくい。


 俺たちは、歓迎されながら村の中へと通される。

 族長への連絡係が居ない・・・と悔やんでいたが、時間を見てこっちから自宅に顔を出しておくよと伝えると安堵していた。 どうにも俺達が村を訪れた際は、最速で報告を流すよう指示が出ているようだ。 ただ、2人体制で門を守っていたが、相方が交代制の休憩へ行ったばかりのようで、門を離れられないようだった。


 村の中を進むと、確かにエルフの人数が疎らだ。

 あれは確か・・・

 「リンドさん・・・でしたっけ? こんな道の真ん中でどうかしたんですか・・・?」


 「へっ? あっ! ズズッー。。 紅葉(もみじ)様とサトシ様でしたか。 エルフの村へよく御戻りに・・・。 お元気でしたか?」


 その言葉は、俺達よりもリンドに相応しかった。

 泣き腫らしただろう赤い目の下には深いクマが出来ており、酷くやつれて居た。

 そして、前回はフサフサしていたはずの後頭部が薄くなっていた。

 この世界のエルフも禿げるようだ・・・。 もう他人とは思えなかった。

 「俺たちは大丈夫だが、そっちこそ大丈夫か・・・?」


 「私は・・・大丈夫ですよ! ほら、ほらっ!」


 カラ元気にしか見えないリンドの運動を止めさせて、俺たちはクイナの家に向かう事にした。 確実にリンドには何かあったはずだ。 クイナかリュウのどちらかに会える事を祈って・・・


 村の大通りを進んでも、そこですら人はまばらだ。

 気付いた者たちには挨拶をするが、特段変化は見られない。

 何も起こってないのか? リンドが特別おかしかっただけ?

 そう思えるようなのどかな村だった。


 大通りを進み、クイナ宅に到着する。

 トントントン!

 「クイナー、サトシだけど今良いか?」

 もうちょっとマシな言い方は・・・あったかも知れないが、窮屈な喋り方よりもクイナは気楽な方を好むだろうと。


 「あら! サトシさん、いらっしゃ〜い。」


 クイナ邸からはエイシャさんが顔を出した。 丁度こっちにも会いたかったので好都合だ。


 「子供たちは元気? 今日は突然どうしたのかしら〜。 あらっ! リンちゃん一緒に来ちゃったの? 怖いおじさんに襲われたりしなかった〜?」


 もうね。。 疑いの余地なく近所のおばちゃんだった。

 見た目も声も可愛いんだがなぁ。 何でだろう? この人に対する萌えは不思議と湧いてこなかった。 ロリBBAだっていける口なのにな。


 「・・・んっ」


 おぃおぃ、リンちゃん何俺を指差してるの? 怖いおじさん俺? 襲われたり・・・あ、俺か? やっぱり俺なのか!? 俺はあたふたして変な動きをしていた。


 「あら、サトシさんが守ってくれるから安心って? いや〜ん、可愛いわね〜♪」


 「ん。」


 頷くリンちゃんの反応を見て、エイシャさんぎクネクネと悶ている。

 俺はまた簀巻き監獄かと、冷や汗をかいたが捕まらなくてよかった・・・


 「それで・・・今日は本当にどうしたの〜?」


 リンを撫でながら俺に再び確認してきた。 既にエイシャさんは扉から外に出ていた。 玄関である引き戸は閉じた状態で。 何か隠してるのか?と勘ぐってしまう。

 なら・・・腹を割って話すにはこちらからか。。

 「アリアがここに来ていないかと探しに来たんですよ・・・」


 「アリアちゃんが!? どうしてまた・・・」


 エイシャさんは考え込み始めていたので、今度はこちらからか質問を投げてみた。

 「そう言えば、村の人達今日はどこかへ行ってるんですか? さっき会ったリンドさんの様子がかなり変でしたが。」


 「・・・関係は・・・あるかも知れないわね〜。。。 丁度良かったわ、中に入って話しましょう。」


 エイシャさんの目付きが真面目なものに変わる。 どうやら何かあったのは確定か・・・。

 引き戸を開けて俺達はクイナ邸へと入るのだった。


 「おぉー、サトシ殿と紅葉(もみじ)様ではないか! これは助かるな・・・」


 言い終えると、クイナは円卓に視線を戻す。

 そこには村の見取り図のような物が置かれていて、いくつかの場所に✕印が打ってあった。


 「お久しぶりです。 紅葉(もみじ)様とサトシ様は同じ席が宜しかったですか?  でしたら、こちらへ」


 リュウの計らいで俺の太ももに紅葉(もみじ)は座る。

 リンも隣の席を譲られていた。

 全員の着座を確認したリュウが口を開き、挨拶も手短に会議は始まる。


 クイナとリュウ、エイシャさんの中に俺たちは3人が増えた形だ。 族長とその補佐、生き字引のみで相談し合う事態とは何か?

 村に記された赤い3つの✕と、黒い2つの✕は何だろうか。 アリアとの関係があることを望み、今は話を聞くことにした。


 「サトシ様方も増えた事で、今回の状況を改めて説明しましょう」


 ・・・


 まず、5日前からシエネが子供を置いて行方不明になっているとのこと。 リンドの状態はその影響だろうと。

 そして、昨日新たに2人居なくなったとのこと。 関係の無い事かも知れないが、2人は親友関係だったとのこと。


 村人が少なく見えるのは3人を探す為、広範囲に森を探索しているからだそうだ。 結果は芳しくないようだが。。


 不可解な点は2つの。

 1つ目は、自宅に金目の物は全て残っており、備蓄していた食料すら残っているようだ。 着の身着のまま、その場から消えてしまったと。


 2つ目は、失踪直前の目撃証言で、森へちょっと行ってくる程度の会話をした程度ではあるが、操られているとかぐったりしているような感じはなく、いつも以上に元気というか興奮していたように感じたとの証言が、それぞれで共通していたらしい。


 子供すら置いていくシエネさんは、何を考えて居なくなったのだろうか?

 親友と一緒にどこへ・・・。


 そして黒い✕印だが、そっちは1年前の失踪事件らしい。

 その時は、ライアとその親友仲だったセイが何も告げず帰ってこなくなったようだ。

 リンドは弟であるライアと妻のシエネまでも類似した失踪で失う経験をしているようだ。 それは・・・辛いだろう事が容易に想像できた。。。 いや、よく頑張ってるな・・・。


 「以上が、現在分かっている内容です。 捜索は続けていますが、昨年同様手掛かりは今のところ無いようです・・・」


 元々少ないエルフの民だ。 確かに失踪は問題だろう。 だが・・・この話とアリスに関係性は無いと感じる。

 「リュウ、ありがとう。 経緯がよく分かったよ。 ただ、それと俺達が探しているアリアの事とは繋がらないよな・・・?」


 「それは、私から説明するわね〜。 関係ないかも知れないけど、関係ある可能性が高いのよね。。。」


 「エイシャ様、宜しくお願いします。」


 話に割って入ってきたエイシャさんが、心配した声色で俺の疑問に答えてくれた。 リュウ立ち上がり、全員に水を配り始める。 話はまだまだこれからって事か。

 珍しく真面目に話すようなので、こちらも静かに聞く事にする。


【エイシャ会話】

 それじゃ、まずは私の事から・・・ね。

 サトシさん達も気付いてるかも知れないわね。 私はエルフの皆が好きよ。 ううん、自分の種族を大切にしたい、守り続けたいの。

 私が生前の頃からのエルフの人工は減っていたわ。 元々出生率が高くない種族だってのが影響してるだろうけど。。。


 そんな中、前族長は村をもっと開放して他種族やその文化を取り入れる事に躍起になっていたわ。 そのおかげで、今以上に生活が豊かになっていたのは事実ね・・・。

 でも、私はそんな行動に反対していたの。

 反対する派閥を作って、そしてそのリーダーになっていたわ。。


 なぜそんな事をしたか?って、疑問に思うわよね。

 最初に反対意見を伝えても誰も賛同しなかったのは事実よ。


 でもね? 10年、20年、30年・・・月日が経つとどうかしら? 次第に賛同者が増えてきたのよ。 私たちは人種と比べたら5倍くらい生きるわ・・・。

 他種族と交流を持って、私たちは変わった。

 他種族と夫婦になり、子を成した者もたくさん居たわ。。

 その後、どうなると思う?

 相手は自分より先に老いて死んでしまうのよ・・・

 その子も、孫も、曾孫も・・・。 中には子とまた夫婦になるような者も居たけど、長続きはしないわ。。 短命な子ばかりになって・・・。

 エルフの村から外に出ることで、多くの事を学べるのも事実。

 交流を絶ちたい訳ではないのよ・・・でも、心に深い傷を負って立ち直れなくなるような者が増えてきてしまった。

 自分の娘や息子がそんな風になってしまったら、親はどう子を癒せば良いのかしら?

 代わりになるような者を見つけさせても、どこか心の奥に思い出が残ってるのよね。。 取っ替え引っ替えで、人種より長い寿命を謳歌した者ももちろんいたわ。 ただ、大多数は違ったのよ。。。


 そんな現実が見えてきた頃から、私の賛同者は増えていったわ。 族長と肩を並べるくらいに強い発言権を持つように・・・

 というか、元々私の方が強かったから、力でねじ伏せちゃえば良かったのかなって、死んでから気付いたけどね〜。。


 ・・・ちょ、ちょっと! ここ、笑うところよ〜!?


 「ゾンビジョーク笑えませんよ・・・」


 もう〜、皆んなそんなお葬式みたいな雰囲気でっ・・・!


 「さっさと、続きを聞かせて下さいね?」


 わ、わかったわよ。。 もぅ〜・・・

 え〜っと、どこまで話したっけ? あっ、そうだった・・・そんな折、今回みたいな失踪事件が時々起き始めていたのよね。

 私は失踪者の捜索を行い続けたけど、結局分からなかったわ。。

 そもそも、私たちは交流を避けるメンバーばかりだったから、外界の情報は又聞きばかりで、情報制限されていたかも知れないのよね。。


 そんな時だったわ・・・村にゴブリンの大群が攻めて来たのわ。

 村を守りながら戦ったけど、防戦一方で負けが濃厚だったわ。

 だから村人を逃がすことにしたんだけど・・・


 私は・・・優先順位を付けたわ。


 私自身が死ぬ事は怖くなかったけど、村が・・・エルフ自体が全滅する事は防ぎたかったのよ。

 だから・・・外界との交流を減らそうとした私の賛同者を優先的に逃したわ。


 ごめんなさい。 クイナ、リュウ。

 私はあなた達が憧れるような英雄じゃなかったのよ。 あなた達の親が偶然、私の賛同者だっただけ。 だから、責められる事はあっても、私は崇められるような存在じゃないのよ。


 「エイシャ様っ! そんな事問題にならないっ。 あの日、ゴブリン共を一時的にでも抑えれたのはあなたが居たからだ。 責めるなんてありえない。」

 「私もクイナと同意見です、エイシャ様。」

 「俺もエルフでは無いけど、エイシャさんの行動は仕方無いと思うよ。 紅葉(もみじ)はどう?」

 「私も・・・エイシャ頑張ったと思うよ?」


 紅葉(もみじ)ちゃん・・・・。 クイナもリュウも、サトシさんもありがとう。。

 ずっと・・・黙ってた事だったけど、話してしまえばすっきりするわね・・・。


 ごめんなさいね。 話戻すわ〜。


 アリアちゃんはね、そんな私の娘よ?

 幼少期から外界の怖さと、他種族と子を成す上での問題もしっかりと英才教育を施したわ。


 だから・・・そんなアリアちゃんが、サトシさんと一緒に居るのを私自身驚いたのよ。。

 あの子も変わったのかなって・・・。

 あっ、話が逸れちゃったわね。。


 アリアちゃんも、私の英才教育と父親から受け継いだ森歩きの特技も相まって、捜索を手伝ってもらっていたのよ。。


 だから・・・もし、今回の失踪現場をアリアちゃんが偶然にでも見てしまっていたら、何とかしようと動いているんじゃないかって思うのよ。

 これが、今回の失踪にアリアちゃんも関わっているんじゃないかって考えた理由よ。


 紅葉(もみじ)ちゃん、アリアちゃんの匂いはどこまで辿れたの?


 「ここだと思ってたから、その先までは確認してなかったけど、川辺までは来ていたみたいだよっ。 森の中には無かったから、こっちでは無さそうだけど。。」


 なるほどね〜・・・なら、やっはり。。

【エイシャ会話終わり】


 エイシャさんの昔話を聞き終える頃には、皆のコップの水は無くなっていた。

 何やらブツブツとまだ考え込んでいるようだが、何年も見つけられなかった失踪を奇跡的にアリアが見つける事があり得るのだろうか?

 確かに、背景からしてアリアは見つけたなら追いかける可能性は高い・・・。


 まだ、ペアーチ(現:みかん)の森も見ておきたいところだが、昼飯時を既に逃している事に腹の虫が気付いてしまった。


 ぎゅるるー・・・

 バサッ


 「っ!? サトシーっ、耳のすぐ横で鳴らすからびっくりしたよーっ!!」


 慌てて飛び退いた紅葉(もみじ)に謝りながら、これからの事を話す前に、昼食を挟まないかと提案し、周りから笑われながら承諾された。。

連休は終わりました。。。

連日書き続けましたが、今週からはミッチリ仕事の予定ですので、週1更新もできるかどうか。


先日、【働いたら負け】Tシャツを買いましたが、ガッツリ働いてきます・・・λ...

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