28-6.療養と想い(28日目)
サトシ達を魔法で掘り起こしてから、衣服ごと体を洗って乾かす。
みんな土汚れだけじゃなくて、漏らしたり色々と汚れていたみたい。
サトシの事は特に慎重に・・・頭を強く打ったみたいで、血が滲んでいる。 傷口を限定的に洗って乾かす事で血を止めることができた。 深いケガじゃなくて良かったと思う。
周りが土だった事が幸いしていた。
私は3人を連れて、寝室へと戻る。 何よりもまずはサトシを安全で、清潔なところへ。 ベッドに寝かせると少し寝顔が和らいだように見えた。
息もしてる。
鼓動も安定してる。
「大丈夫だよね・・・」
サトシのことと共に、アリスのことも気がかりだった。 森へ入ったみたいだけど・・・アリスがあんなことを言った気持ちは分からなくない。 私でも同じ事をしていたと思う。 でも、せめて・・・サトシが起きるまで精一杯頑張ってから・・・一言、せめてちゃんと言って欲しかった。。
私はサトシのことを優先した。 アリスを見捨てて・・・
引き止めたかったけど・・・アリスも考え直す時間が必要だと思ったの。
1人で考える時間が。
「早く、帰ってきてね・・・3人一緒がいいよ。。」
そして、シンとシュナイダーを2階のアリスの部屋へと届けた。
ここにはベッドは無いけど、未加工の皮があるし寝転がる場所には困らない。
ベッドを作れもしたけど・・・そこまでする仲じゃないと私は思った。
「アリスさん!? あっ! 紅葉さまっ! どうでしたの!?」
ランだったっけ? 駆け寄って来たと思ったら、玄関で跪いてしまった。
「アンちゃん、走ったら危ないよー」
そうそう、アンだった。 遅れてやってきたこっちがランだね。
通路を塞ぐ2人を退けて、眠ったままの2人を皮の上に並べた。
「サトシは怪我しちゃってるけど、この子たちもみんな無事だよ。 私はサトシの所に行ってるから、何かあったら呼んでね」
業務的な事だけ話して、子供は子供に任せることにした。
アンたちもそれを了承していたが・・・
「リン・・・? どうかしたの?」
布団で横になっていたリンが、私の後をついてきた。 できれば、シンとシュナ・・・の介抱をお願いしたいんだけど。。
「わたしも・・・行きたい」
サトシに入れてもいいか聞けていない。 私としても入れたくない。
2人きりで居たいのだから。
「ダメだよっ! サトシの許可もらって無いもん。 勝手に入れられない。 だから、ここで辛抱して。」
「・・・分かった。」
言い合いも覚悟したがすんなりと折れてくれたので一安心♪
私は浮かれる気持ちで部屋へと戻るのだった。
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シンとシュナイダーの介抱を私たちはしてる。 怒って罰は与えたけど、何か腑に落ちない。 こいつ等はサトシさんみたい怪我したわけじゃ無いのよね。。 紅葉さまに頼まれたし献身的に介抱するけど、これは貸しだからね?
「アリスさん・・・出て行っちゃったのかな?」
ランが不安そうに呟いた。
わたしもそこが気掛かりだった。 戦闘は無かったみたいだけど、1人で森へ行っちゃったみたいなのよね。
エイシャさまからも、娘は強いわよって言われてたけど戦う姿を見てないから分からない。
そう言えば、村で英雄話が盛り上がった時にサトシさんたちが活躍したって大人達の話を思い出した。
「大丈夫よ! 絶対。 だって、村の英雄の1人でしょ? クイナ族長言ってたじゃない。 村に居て欲しかったって、そこら中で愚痴をこぼしてたじゃない」
勝利に浮かれて大人達は数日間飲み明かして、私達は水を配ったり掃除したりで大変だった。 まぁ、日課ではあったけどお酒臭くてあの時は族長のこと何度ひっぱたこうかと思ったものか。。。
「そ、そうだよねっ! 帰ってきてくれるよね!?」
私はそれに頷く事しかできなかった。
帰ってきて欲しいのは、私も同じ。 紅葉さまも居るし、色々トラブルはあってもサトシさん自体は悪い人では無いと思ってるけど、やっぱり同族のアリスさんの存在は大きかった。
エルフとして何が出来るか、何をすればいいか、アリスさんがそれを教えてくれた。 これからも、そうであって欲しい。
アリスさんが今朝話してくれたけど、私たちを抑圧すれば良いのに、そんな事はせずサトシさんは好き放題させてくれるだろうって・・・本当にその通りなのよね。。 どちらかと言うと、村に居た頃の方が大変だったとさえ思える。
でも・・・こうも話してくれた。
何もしなくても咎められることは無いけど、だからこそ力に成りたいと思うし、支えたいと感じてると。 やれる事を自分で見つけないと、サトシは命令なんてしてくれないから雑用ばっかりになって、多分後々で自己嫌悪になると思うわって笑っていたっけ。。。
命を救われた事が発端だったとしても、それが無くても・・・やり直せるならもっと違う出会い方で一緒になりたかったとも。
エイシャさまの1人娘が、他種族と暮らすことを村の暮らしよりも優先していたのが何となく分かる気がした。
そういうの・・・少し憧れるわね。
私も・・・年頃の女性だし? 恋とか・・・いいわよね。。
ランも同じだろう。 私たちの先輩としてアリスさんはすごく頼りになるのだ。
「はぁー。。」
目の前でバカな寝顔を晒している2人には全く興味の欠片も湧いてこない。 運命的な出会い・・・女の憧れよねぇ。。。
「どうかしたの?」
私はランに大丈夫よ、と伝えて今晩はもう寝ることにした。
バカ2人なら、そのうち起きるでしょと。
それにしても・・・お腹空いたわね。。
飲まず食わずで半日を過ごしているのだ。
朝しっかり食べたとはいえ、お腹はすく。。
きゅぅーきゅぅーと鳴き続けるお腹を押さえつけて、何とか眠りにつくのだった・・・
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「ねぇ! ねぇ、ったら!」
またあの声だ。。
夢の中で起きるってのも変な話だが、呼ばれ続けて起きざるを得ないようだ。。。
大きな欠伸をして、周囲を見渡すがここはどこでも無い一面真っ白な世界。 今日はどうすっかな・・・涼し気な高原が良いな。
白い世界が開放的な空間へと切り替わる。
何もなかった床には芝が生え、快晴の青空と流れる白い雲。 遠くには山々が見えている。 そんな高原で1人寝転んでいる。
この世界は思い通りに情景が切り替えれるので、気分次第で如何ようにでもなる。
色々と考えは広がるんだがな・・・
どうもこの空間で自由にできる時は、いつもアイツが居る。。
エロ方面も試してみたいんだが、それを実践できる機会が永遠に巡り会えない気がする。 アイツを消し去る事もできないし、アイツが黙っていたら今度は俺が眠ってしまい結局試せない終いだ。
反応しないとこのままで続くんだよな。
「・・・で、今回はどうしたんだよ。。?」
「やっと起きたのね。 それはそうと体の方は大丈夫なのかしら?」
分かる訳ねーだろとしか言えない。
土の中にいる状態の記憶しか俺には無いんだか。 夢の中でどう自分の体の安否に気付けるんだよ・・・。
俺は空に向かって左手を構え、手が銃口に変わった事を確認してから光弾を放った。 当然元にも戻せる。
こんな状況だからこそ夢以外の何物でもなく、そして自分の安否なんて分からない。
唯一の救いと言えば、頭を打つ前からこの状況を体験しているので、今回の事で天国や地獄にいる訳では無いと思われる。
「分かんねーな。 ただ、生きてるのは確かだろ?」
「まぁ、そう・・・ね。 そうそう、あなたってアリスさんの事好きよね?」
「そうだが、突然どうした?」
仲間として好きって訳じゃなく、結婚・・・も考えられるくらいには。 ただ、自分の中で中々のその一歩が踏み出せないでいる。
今はっきり言えることは、同棲を続けたい女性だということかな。
「ちょっと色々とあったのよ? あなたがすぐに倒れるから・・・」
「アリアに何かあったのか!? おぃっ、もったいぶらず教えろ!」
アリアは強い・・・戦闘面だって精神的な部分だって。 ゴブリンとのことだって乗り越えて共に暮らしてきたと思っている。 思い出させないようにと、気は使っているつもりだが。
イノシシに襲われて怪我をしたとも考えづらい。
アリアなら弓でサクッと倒せるはずだ。 弱いのは俺くらいだ。
「心・・・弱ってたわ」
なんだと・・・?
ゴブリンの子を産まされる経験をして尚、それに匹敵するくらいの辛いことがあったのか!? そんなバカな・・・
「アリアは、無事なのか!? おぃ、黙るなよっ おぃっ!」
強制的に俺は眠りに落ちる。
早く起きなければ・・・だが、いくら考えても目が覚める気配は・・・zzZZ
だいぶ短いですが、本話はこれで区切ります。




