28-4.土の中(28日目)
ゆっくり待つしかない。
背中に感じる陽で、再び眠くなりそうな陽気だ。 冬でも日中ここまで暖かければ、これからの生活も楽が出来るだろう。
朝残っていた雪は解け、日当たりの良い場所は濡れていた。 ほとんどの物が濡れ、火を起こすのが外では大変だったのだ。
ここは・・・楽だよな。
空を見上げると、既に見えない壁の全容は分からなくなっている。 全て雪が解け、また見えなくなったのだ。
家の周りだけ濡れていない。 雪が積もる事も、雪解け水が侵入してくる事も防いでくれている。 条件は分からないが、この結界のような壁には本当に感謝している。
まだ・・・か。
未だにランとの会話は進みそうにない。
アンの事を一旦落ち着かせようとしているみたいだ。 俺も声を掛けるべきかと悩む。。
その光景を見ていて思うんだ。
感情的になって会話にならなくなるような人は苦手だ。 いや、嫌いだとも言えるのか。
本当に面倒だ・・・。
それは女性に多いと思う。 男性にもそういった感じの人はいる。
だが、圧倒的に女性に多いのだ・・・それは感情的な思考を持つのが女性だって昔から良く言われているからその通りなのだろう。 男性は論理的思考・・・だったか? だから、相容れない部分があり、互いに理解しえない部分でぶつかったりすると。
結婚ってなんだろうな。 とても、とても・・・面倒だ。
肉欲の為に求めるような思考じゃ、絶対になれないだろう。
結婚の魅力って・・・なんだろうな。
だからこそ、俺は一人で生きているんだろうな・・・。
比較的アリアとは良い関係を持てている気がしていたが、アンの状況を見ていて現実(?)に引き戻された。
命を救った・・・やっぱりそれだけかも知れない。
理解できないからこそ、悩み・・・そして考えても、考えても分からない。
それでいて・・・すぐ忘れるのだから。
面倒だとも感じるが、それと同じように当たり前になりつつある関係がゼロ、いやマイナスかな? そうなってしまう恐怖に俺は耐えれるだろうか・・・
自分の中でどちらにも線引きが出来ていない。
一生、もう独りで良い。
いや、何か良い出会いがあればそれを活かしたい。
相反する想いの中で、悶々としていた。
俺が自分の事をぼーっと考えていると、ようやくアンが落ち着いたようだ。
ランは、やっぱりアンの後ろに隠れたままだった。 まだまだ会話するのは難しそうだ。
「ちょっと、感情的になり過ぎていたわ。 ランに止められるまでずいぶん待たせたわね」
「気にするな、それだけの事があったのだろ? そう判断した経緯を教えてくれ」
「えぇ、そのつもりよ。 ・・・ぅんぅん、分かったわ」
あー・・・、ランが話して、それをアンに伝え・・・アンから俺に・・・という流れになるのが目に見えた。 ランは俺と直接は話したくないようだった。。。。
「えっと・・・あいつ、転んでなんていないのよ。 リンの事、ずっと隠れて見ててそれで鼻血出してただけなのよ。 だからっ!」
思い出し怒りか? アンがまたイライラし出した・・・
でも、何となく言いたい事は察せた。
俺が発端ではあるが、リンちゃんをあられも無い姿にしてた時に、それを遠目で見てたって事ね・・・。 自分も男として仕方ない事の様に感じる。 シュナイダーが性に目覚めている事と共に、中々にムッツリだって事が分かった。
ただ、俺と同じようにハプニングだ。
ラッキースケベだったんだから不可抗力だと思うのは、同じ男だからかな。。 唯一問題があるとすれば、逃げずに謝れば良かったのだろうが。。。
「言いたい事は分かったよ。 確かにシュナイダーにも悪い部分があったな。。 でも、埋める程では・・・」
「そんなの駄目よっ! 気が収まらないわっ」
今度は、ランちゃんも頭を立てに振っている。 結託しているようだった。
「だ、だが簡単にあんな穴は掘れないぞ? これから俺達で掘るか?」
「穴なら問題ないわ! あれを見て」
アンが指差す先は、埋められているシンの方だが・・・?
言われるがままにシンに近づいていく。 あいつ、飽きて寝ているようだ。。。 そういう所、俺はお前のこと尊敬するよ・・・
「ここよ」
そこには大きな葉っぱが2枚、地面においてあるだけだが・・・
1枚めくってみると、下にはシュナイダーがすっぽり収まるような穴が空いていた。。。
「既に準備済みだったと・・・」
「ア、アリスさん、痛いってばっ! 自分で歩けるからっ・・・」
いつの間にか、アリアがシュナイダーを捕まえてこちらに引きずって来ていた。 ご愁傷さま・・・
「あら、アンたちだけじゃなくて、サトシも待ってたの?」
腕をがっちり掴まれたシュナイダーの目は死んでいた。
「あ、あぁ・・・案内されてここにシュナイダーも埋めてくれと言われてな。。」
「そう、お手柄ね」
「へへっ、任せてよ!」
ん? アリアとアンが仲良さそうにしている。 それは良いんだが・・・何か引っかかる。
「アン,ラン手伝ってもらえるかしら?」
「「もちろんです!」」
ランまで懐いているようだった。 今度コツでも聞いてみようかな?
目の前でシュナイダーが穴に放り込まれている。
うわぁ・・・上から土をって、いつ起きたのか紅葉まで参加して、一瞬でシュナイダーは顔だけ出して埋められた。 中々に惨い。。
シュナイダー。。。 シンを見習ってみろ? あのすべてを受け入れて今を謳歌している寝顔を・・・。 喚いていても覆らないんだ。。。 本当にご愁傷様。
声には出さず、目を閉じて俺は手を合わせていた。 俺に出来る事は何もない・・・
不意に地面の感触が無くなった。
「な、なんだっ!?」
慌てて目を開けると、体が浮いていた。
多分紅葉の魔法だろう。
「も、紅葉、何で俺浮いてるんだ・・・?」
「・・・私が答えてあげるわ」
アリアが割って入ってくる。 その目は・・・冷たかった。
「サトシは罪を認めたようだけど、それで終わりになると思ってたのかしら? 私も紅葉ちゃんも怒ってるわ。 それにアンたちだって、今回の件でサトシのこと危険視してるわ。 経緯がどうあれ、あんな状態にリンちゃんをさせたのはあなたなんだからね?」
「返す言葉もありません・・・申し訳ありませんでした。。」
「潔いのは好きよ? それじゃ、紅葉ちゃん宜しくね」
「はーい♪ 私も怒ってるんだからねっ! サトシのバカッ!」
残る最後の葉っぱに突き刺さるように俺は一番大きな穴に放り込まれて、シュナイダーの後を追う事に。。。 喚いていたシュナイダーも既に静かになっていた。 悟ったのだろう、唯一の生き残りだった俺も土の中なのだから・・・
こうして男性人員全てが土に埋められる事態となる。。
「それじゃ、リンのこと見に行きましょうか。 目が覚めたらみんなでペアーチ食べましょうね」
「お腹も空いてきたし楽しみです♪」
「やった~♪」
「あれ? 紅葉ちゃんはそこに居るの?」
「うん、私はここで見てるよー」
うん、そこ俺の頭の上だからね? 結構首に負担かかってるんですが・・・退いて貰えます? もちろんそんな事を言える立場にはいなかった・・・。。
シンを見習って俺も無の境地に入るか・・・
シュナイダーは泣き始めてるが、もう助けは来ない。 皆の機嫌が治まるまでは・・・っていつだろうな。。 俺の目からも光が消えただろう。。。
・・・
シンに習いシュナイダーも眠っている。
やり過ぎたのは納得したけど、ここまですることないよなぁ?
俺も少し寝るかな。。 紅葉に一言伝えて俺も下を向いて目を閉じた。
土の中って意外と温かいんだな・・・これなら眠れそうだ。。
・・・
・・・・・・
最悪っ!
ありえないっ! ホントありえないっ!
もぅー最悪っ! 無理やり触られたし揉まれた。。。 された事なかったのに、こんな所であんな奴に。。。ブツブツ・・・
最近頻繁に聞こえてくる声が、またも響いてきた。
かなり取り乱している模様。 話の流れがさっきの状況に似てるな・・・俺はそう思い夢の中で呟いていた。
「仕方なかったんだよ、リンが起きないんだから・・・もっと早く起きれば良かったんだし、せめて俺のお腹で寝なければ。。。 俺は無罪だろーが? こんなの冤罪じゃねーか。」
ずっと言わなかったが、夢の中に理性なんてある訳無く思っていたことがポロリとこぼれ落ちた。
あまり出さなかった苛立ちを漏らしていた。
「そ、それは分かるけどっ! でも、だからこそ痛み分けが必要よっ! あのままだと私だけ損じゃないっ! 初めてだったのに・・・」
「俺だって得した訳じゃないぞ? 俺の大好きな成長途中を楽しむことすらリン相手じゃ出来ねーよ。 本物の幼女を触って興奮するような変態じゃ俺はないぞ!」
「私だってなりたくてこの体じゃないっ! 見た目こんなでも、私はっ!」
「何言ってるんだ? さっきから、まるで本人のように・・・グチグチと」
夢の中の話し相手は、妙にリンに陶酔しているようだ。 夢の中に変なの出てきたな・・・。
その後はピタリと反応が途切れた。
やっと静かに眠れるな・・・。 最近は変な夢見るなぁ。。
性欲でも溜まってるのか? 遂に俺の性欲は幼女にまで向かい出したのか・・・? 自分の中で踏み出してはいけない線を超えてしまったのではないかと不安を感じながら・・・
・・・
・・・・・・
「ねぇ、サトシー。 少しは反省した?」
「んあ?」
ツンツンと紅葉が前足で頬を突いて、俺は目覚めた。 プニプニした肉球を感じながらの心が洗われるような目覚めだった。 あー・・・変な夢は見たけど、気分の良い目覚めだ。 ん? どんな夢だったか・・・まぁ、モヤモヤしそうだから思い出すのはやめておこう。 どうせ妄想なんだから。
「したよ。 リンを起こす時は気をつけるよ」
「アンとランもだからね?」
まぁ、それはそうか。 ただ・・・
「アリアは良いのか?」
「アリスはいいよ。 でも他はダメっ ゼッタイ!」
理由が分からなかったが、以後気をつけるようにしよう。
守ることを紅葉に伝えた。
そして、土に埋められていた現実を思い出してガックリと地面に頬を付けるのだった。
「わたし、アリスの所にちょっと行ってくるね」
「あぁ、いってらっしゃい」
俺は結局出れないようだ。 もうしばらくこのままで過ごすしかなかった。
紅葉が居なくなり、会話は無くなった。
ボーッと夕陽で赤く染まる森を見ていると、遠くに動く影が見えた。
「い、いま何か動いたよなっ!?」
・・・
誰の声も返ってこなかった。
シンもシュナイダーも寝ている。。 というか、シンいつまで寝てるんだよっ!?
「おぃ、起きろおまえらっ!」
声を出すことしか出来ず、何度も何度も叫んだ。 あわよくば、紅葉やアリアが先に気付く事も考えながら・・・
だが、目も覚まさないし、誰も来なかった。。
陽が落ちて辺りが一気に暗くなってきた。。
家の方には首が回らず、どうなっているのか見えない・・・
見えるものは、深い黒に染まる森とグレーの空。。
先程見えた影は何だったのか?
その後は何も見えない。 怪しい物音も聞こえない・・・
もう、二人を起こすことも、アリア達を呼ぶのも諦めて、さっきのは気のせいだったと・・・そう思いかけていた。




