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28-2.帰宅(28日目)

 紅葉(もみじ)から、優しくと言われてもどういう事だろうか?

 現在進行形でナイフから逃げる蔓は、紅葉(もみじ)なりのギャグなのか? はたまた・・・


 そうこうしている内に、紅葉(もみじ)が駆け寄って来てた。


 「ナイフはダメだよ! 痛いの嫌って言ってるし。 蔓でどうしたいの?」


 「嫌? え? あー、うーんと、この葉っぱで包むから蔓で縛りたいんだよ」

 嫌って言っている・・・? 理解は出来ないが、可能性が見えてきた。

 目の前でうごめいている蔓に意思があると言うことか?


 「なら、そう言えばいいのにー」


 紅葉(もみじ)の言葉に合わせるように、うねっていた蔓が勝手に野菜包に巻き付いていく。 そして、結び終えたところでプチンッと自切するように蔓は、千切れた。


 「あ・・・」

 野菜包はドサリと地面に落ちた。

 自切した蔓は地面から生えてる部分は変わらずくねくねと動き続け、包の方はピクリとも動かない。


 呆然と立ち尽くす俺をよそに、紅葉(もみじ)と蔓(?)は包具合を確認する為に話し合っているように見えた。

 結果は上々とでも言いたげに、紅葉(もみじ)は尻尾を振っている。

 問題があるとすれば、器用に結ばってサムズアップしている蔓(?)の方だろう。

 慣れては来ている・・・というか、もう慣れていたはずだった。

 この世界にはまだ不思議な事があったようだ。。


 紅葉(もみじ)と蔓(?)が全ての包を結び終えるのに遅れて、俺は開けた川原を吹き抜けていく冷風で我に返る。

 「す、すごいな。 新しい魔法か?」

 どう褒めて良いか分からなかった。 蔓(?)を褒めるべきなのか、紅葉(もみじ)を褒めるべきなのか。。


 「すごいよねー! 最近は指示しなくても自由に動いてくれるんだよ! 私も大助かりっ♪」


 なるほど・・・。

 俺は紅葉(もみじ)の頭と、自切したばかりの断面は避けてそっと蔓(?)に触れて撫でた。

 左手にはいつものフカフカした感触が。

 右手にはサバイバル生活で何度かお世話になったゴワゴワした蔓の感触が・・・。 紛れもなくただの蔓だった。 動かなければ・・・


 「くすぐったいよ〜♪」


 紅葉(もみじ)が喜んでいるのと同様に、蔓(?)もくねくね具合が変わったように見えてきた・・・目を閉じ、可愛い妖精のような物を想像しようにも手から伝わる感触が全てを上回っていた。。

 愛でるのは難しそうだ。。


 「さて、焚き火も落ち着いてきたし、そろそろ蒸し焼きを始めようか」


 「はーい♪」


 「・・・」

 蔓が、枝分かれして【OK】の形を作り上げていた・・・


 頭を左右に振り、俺は気を取り直してから作業に取り掛かる。


 焚き火の中でたくさんの石を熱していたが、数個退かして葉っぱ包を乗せていく。 砂を掛けて熱々の石をその上に乗せる・・・その上から更に砂を掛けて包の上下から熱でしっかりと蒸し焼きにするのだ。


 ただ、今回は焼きたい量も多いので、予熱だけじゃ足りないか・・・?

 「あちっ!」

 上面の砂を手で退けようと不用意に触れたらかなり熱く、火傷をしてしまった。 以後気をつけることに。。


 「あれ? 退けちゃうの?」


 せっかく掛けた砂を退けてしまったので紅葉(もみじ)が不思議そうに訪ねて来た。

 「熱が足りないかもってね? この上でまた焚き火をするんだよ」

 さっきの火傷体験も鑑みて、1時間くらいで十分だろうと考えながら指を舐めた。 濡れた部分が冷たい風でみるみる冷えていく。

 あー・・・火傷は冷やすに限るなー。。

 湯気を立てている川は悲しいかな役に立たないのだ。



 「ご飯出来たかー?」

 「ただいまー」

 「気持ち良かったです♪」

 「お先にありがとう御座いました」

 「朝風呂中々・・・」


 「ちょ、ちょっとリン! 髪の毛ちゃんと拭きなさいっ!」


 あー・・・アリアが半裸で走ってきたぞ。。

 「アリアー、俺が拭いとくから服整えておいでー」


 「っ!? ありがと」


 アリアはすぐさまUターンしていった。

 「ご飯はまだもう少し掛かるから、みんなこっちへおいで。 リンちゃんは髪拭くからここね」

 ポンポンと自分の太もも叩いて、リンちゃんを座らせる。


 「このままで良いのに・・・」


 「濡れたままだと体調崩しちゃうぞ」

 リンちゃんの頭にタオルを被せて拭いていると、紅葉(もみじ)から声が掛かった。


 「わたしが乾かすよー!」


 間髪入れずに、温かい暴風が俺達を包み込んだ。

 タオルが宙を舞い、ふっくらとリンちゃんの髪の毛が乾いた。 というかボサボサになっている。


 「しっかり乾かしたよー!」


 「紅葉(もみじ)、ありがとな。 よし、もう良いかな」

 膝上に乗せたリンちゃんの髪の毛を撫でてボサボサの状態を整えておいた。


 「ん。」


 リンちゃんは、すぐに下りて焚き火に当たり始めた。


 「ご飯まだかなー?」


 今度はリンちゃんから紅葉(もみじ)が太ももの上に乗ってきた。

 「もうすぐだよ」

 さっきの頑張りを褒めるように頭を撫でておく。


 「サトシ、ただいま。。 さっきはありがとね」


 「おかえり、アリア。 また大変そうだったね・・・今度は俺が入れてくるよ」


 「助かるわ。 でも無理・・・しないでね?」


 「あ、あぁ・・・」

 そんなにヤバいのだろうか?



 「そろそろ良い感じじゃないかなっ♪」


 「お! 匂いでも分かるのか?」


 「うんっ! お肉も良さそうだよ♪」

 土中オーブンは中々時間配分が難しいが、紅葉(もみじ)の嗅覚を頼れば・・・ん?

 って、紅葉(もみじ)が起きてきたなら、土中オーブンなんてやらなくても良かったんじゃ・・・


 今頃になって、紅葉(もみじ)の魔法で本格的なオーブンだって作れた事を思い出してしまった。

 いや、たまには・・・たまにはこういうのも必要だよな。。。

 爪の間にも土や砂が詰まった汚れた手をそっと見つめた。

 頼ってばかりじゃ駄目だもんな。。

 そう言い聞かせる事にした。


 「サトシも、手くらい洗ってきたら? それからでも遅くないでしょ?」


 「あ、あぁ。 なら、ちょっと言ってくるよ」

 俺が自分の手を見ていたからだろうか? アリアが気を利かせてくれたようだ。


 「サトシー、掘り起こしちゃっても良い? 全員に配っておくけどー!」


 「なら、頼むー!」

 紅葉(もみじ)は最後まで手伝ってくれるようだ。 ただの空腹かも知れないが。



 川原で手を洗っていると、煤けた匂いが体に染み付いている事に気が付いた。 お風呂も・・・いや、皆を待たせちゃマズいか。

 慌てて皆の所へ戻ることに。



ーーーーーーーーーーーーーー


 「おねぇちゃん、これだけ居れば十分じゃない?」


 「そうねー、それじゃあ戻りましょうか」


 「うんっ!」


 「みなさーん、それでは並んで進みましょう。 街まで案内しますね」


 ・・・・


 とある森の中を人々が進んでいく。

 先頭は、小柄な少女。

 その後ろには、フードを被った人々が続く。

 最後尾には、これまた小柄な・・・少女?が付いていく。


 その先にある街を目指して。


ーーーーーーーーーーーーーー



 「ただいまっ、待たせちゃってごめんな!」


 「おっそーい! おなかペコペコだよっ!」

 紅葉(もみじ)がプンスカ怒っているようだが・・・いや、怒っていないか。 飛びついてきてじゃれて来るのだから。

 「ごめん、ごめん。 それじゃあ、すぐに朝食にしようか」


 誰かが再び焚き火を始めていたようで、皆が円形に並んで座っている。 それぞれが座りやすいように丸い石が放射状に2つずつ・・・

 椅子とローテーブルということか。

 全員に1つずつ葉っぱ包みが置かれている。


 「それじゃあ、食べよっか! まずは蔓を解いて・・・」

 皆に手本を見せるように、蔓に手を掛けた。


 シュルシュル〜


 「・・・」


 「す、すごいわね・・・サトシ、新しい魔法に目覚めたのかしら?」


 「い、いや、俺じゃない。 紅葉(もみじ)! これって・・・」


 「蔓さん元気みたいだよー」


 トカゲの尻尾切りかと思っていたが、葉っぱは焦げ付いていたのに蔓だけ生々しいのはそういう事か。。。 焼いた石の熱にも耐えきったようだ。 ちょっと怖いんだが、今はその全てを飲み込むことにした。

 「さぁ、葉っぱを開くと・・・」


 モワッと白い湯気と共に、香ばしく焼けた玉ねぎの香りが鼻孔をくすぐった。 味付けは塩のみ。 シンプルだが、玉ねぎと少量でも肉が入っているので旨味は出ているだろう。 それにホクホクのじゃがいもも中々の食べごたえのはずだ。


 俺とアリアは、枝で作った箸で食べ始める。

 じゃがいもはしっかりと火が通っていて、簡単に割る事が出来た。 ホクホクのじゃがいもと玉ねぎの組み合わせはハズレる訳がない。 出来るならば、コショウが欲しいところかな・・・。


 ふと、そこでハッと気付いた。

 「そう言えば、皆の箸が無かったね・・・」

 慌てて枝を折ってきて、即席の箸を削り出す。 正味俺は一膳作っただけで、後は紅葉(もみじ)が魔法で生み出した。

正直魔法で生み出した箸の方が出来が良くて交換したい気持ちをグッと抑え込んだ。


 「紅葉(もみじ)ちゃん、私の箸も頼めるかしら?」


 うぉぉいっっ!? 俺のプライドは一瞬で砕かれる事になった。

 「も、紅葉(もみじ)。 全員分の箸を作ってくれないか・・・?」


 「良いけど、サトシどうかしたの?」


 俺の手にも、持ちやすく先の細い箸が現れた。

 「大丈夫だよ、何でもないよ」

 俺は心の中で泣いた。



 「すげー! 葉っぱでこんな風になるのか!」ごくっ

 「中々イケるわね・・・」

 「アンちゃん、美味しいね」

 「モグモグ・・・」

 「モグモグ・・・モグモグ・・・」

 「ふーっ、ふーっ」


 微笑ましい光景だった。

 シュナイダーが行儀よく食べている。 口に物を入れながらしゃべっているシンとの格の違いか?

 リンちゃんは・・・黙々と食べているだけだなあれは・・・。 まぁ口に合ったようで何よりだった。

 「紅葉(もみじ)、こっちおいで。 一緒に食べようか」


 「うんっ! 熱くて中々食べられないよ・・・」



 俺の分から肉を摘まんで、冷ましてから紅葉(もみじ)の口へと運ぶ。 あ~んをしている訳だが、俺の父性が芽生えていた。



 遅い朝食を終え、皆がアリアとわいわい騒いでいる。

 今朝食を終えたばかりなのに、もう次のご飯の話をしているようだ。 アリアも紅葉(もみじ)も得意げに、子供たちに他の料理の話をしている。 出来れば貴重な調味料を使う料理は黙っていて欲しいところなのだが・・・。


 「ちょっと、露天風呂入ってくるよ。 そしたら、まずは家に戻ろうか」


 「分かったわ。 その間にこっちは出発の準備しておくわね」


 「サトシ、帰りはどうする?」


 「皆の意見に合わせるよ」

 俺は悟っていた。

 今だけは。。。大好きな露天風呂で全てをお湯に流してしまいたかった。


 湯船に浸かり、体を芯まで温めてから俺はいつもの状態に陥った。



 冬空だがまだ陽は高く、日中の陽気は続いている。

 アスファルトに寝かされたサトシは今だ目を覚まさない。

 森の中を抜け、街に到着する面々など露知らず・・・

出張から戻ってきても、こちらでも忙しく。。。

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