27-8.満室(27日目)
俺の採ったはっさくは酸っぱくて受け付けなかったアリアが、美味しそうに1つ2つと実を口に入れている。
小さくない実だったが、皆で取り合うように食べきってしまっていた。
誰に言われる事もなく、2個目の剝きだしている・・・
「アリア・・・?」
「サトシ! これヤバいわ・・・!」
そうか、ヤバいか・・・。 表情や態度から美味しいだろう事は分かるが、とてつもなく語彙が少なくなっていた。
「お、美味しいってことだよな・・・?」
一応確認しておく。
「ものすごくよっ!」
「ものすごいよー!!」
アリアに続くように紅葉も興奮していた。
子供たちもガヤガヤと騒ぎ出すが、皆一様にリンちゃんのはっさくに好印象を持っているらしい。
「俺も食べていいか・・・?」
「もちろんよ、皆で分けるわ。 みんなもまだ食べるわよねー?」
「もちろんっ!」
「俺は一番大きいのがいいっ」「ちょっと、シンずるいわよっ! 私だって大きいのがいいわ!」
「アンちゃん、おちついてーー!?」
「僕は小さいので良いので下さい。。」
「サトシ、これむいて。」
騒ぎ出す皆の視線を、アリアの剥いているはっさくに集中させリンちゃんはこっそりと3つ目のはっさくを俺の腰に当ててきた。
「分かった。 あ、アリアありがとな」
「ん? 何が分かったの? はい、サトシの分ね」
「何でもないよ、アリアが皆で分けてってのが分かっただけ。 剥いてくれてありがとね」
「そう、この実も間違いなく美味しいわよ! 少し指舐めちゃった♪」
「それは期待膨らむな!」
ちょろっと舌を出したアリアの仕草がとても可愛くあざとかった。
まぁ! 可愛いものは可愛いからあざとかろうが何だろうが関係ない! 可愛いが正義っ!
俺は後退るようにリンちゃんと共に皆から少し離れてはっさくを食べることに。
大きな実を半分に割って、片方をリンちゃんに渡す。
「・・・いいの?」
「背中にまだあるしね。 一緒に食べた方が美味しさも増すだろうさ」
「なら、もらう。 ありがと・・・」
「おいしいか?」
俺の問にコクリと頷くリンちゃんの姿が目に入る。
美味しいのは間違いなさそうだ・・・
俺も口に入れて目を閉じた。
(こうすると味をより感じられる気がしないか?)
口の中に広がったみずみずしさは、甘さを持っているが後に残らずサラリと舌の上を流れて行った。
ハウスみかんのような強い甘さだけでは無く、はっさくのような強めの酸味や苦味も無い。 そして香り高さはオレンジを彷彿とさせる・・・
食感もはっさくのようなプリプリ・・・パリッと言うような感じでは無く、1つ1つのじょうのうが薄く、柔らかい。 色も黄色では無く、オレンジ色だった。
「・・・これ、デコポンじゃ・・・? そんなバカな。。」
農家としての記憶が蘇る。
家でもデコポンは栽培していた。 甘みの強さから、清見では無さそうだ。
ただ・・・背中に隠していた実を見ても、外観ははっさくだった。
デコポン特有の凸も無いし、自然受粉なせいで他品種と混ざり合ったような感じでも無い。
見た目ははっさく、中身はデコポン。 その名はっ・・・
「でこ、ぽん? これ、みかん・・・」
リンちゃんが、俺の独り言にツッコミを入れたようだ。
そうか、これはみかんか。 そうだな、みんなみかんだよな。。 はっさくも柑橘類だからみかんなんだけど・・・
リンちゃんは、はっさくは苦いからみかんじゃないと強情だった。
ここは大人として、デコポンのような物は“みかん”と言う名前に決まった。
「サトシー! そろそろ帰らないー?」
アリアの意見に賛同し、俺は子供たちを連れてエイシャさんが待つ・・・(待っているよな?)別荘に戻る事にした。
剥いていないみかん1つをバックパックにこっそりと仕舞った。
別荘への道中、話題はみかんに染まっていた。
また取りに行こうとか、俺が取ったのは美味しくないとか・・・。
どうせ、はっさくは人気無いさ。。
「おかえりなさ〜い、お母さん置いて行かれたのかとおもったわぁ〜」
別荘の階段を登ると、気の抜ける声が聞こえてきた。
「探すの大変だったのよ? 日が傾いたって仕方ないじゃない。 それに、ママはずいぶんのんびり過ごしていたのね」
「ここ良いわね〜」
いつものようにアリアとエイシャさんの挨拶が繰り広げられていた。
既に時刻は夕方で、日中の暖かさと吹き上がっていた熱水の熱もとうに過去のものとなっている。
歩いてきた火照りも、立ち止まるとあっという間に冷めて身震いしてしまった。
「そりゃ、紅葉の力作だもんな」
「サトシのおかげだよー♪」
俺はアニメ見せてただけ・・・紅葉が良いなら、俺も協力者を受け入れることにした。 俺だってこの別荘を気に入っている。 露天風呂は俺の手造りなのは紛れも無いし。
「寒いしそろそろ中に入ろうか」
紅葉を肩に乗せて、玄関にノブを回すとガチャリと扉が開いた。 やはり紅葉が居ないと入れない対策が打たれてるようだった。
アリアは露天風呂ではしゃぐ子供たちを呼びに、俺と紅葉はエイシャさんを連れて部屋へと入った。
「エイシャさん、そこ座って下さい。 水飲みますか? あ、要らなかったでしたね・・・」
「お構いなく〜♪ あら、ふかふかね〜」
エイシャさんは、勧めたソファに腰かけて感触を確かめていた。
俺の部屋と同じような物だが、そう言えば入れてなかったか。
紅葉もソファに飛び乗って丸まっていた。 こちらは寝る気まんまんかも知れない。
コトッ
テーブルに自分の分だけ水を入れたコップを置いて、俺もソファに座った。
「それで・・・結局あの子供たちは何なんですか?」
「ん? アリアちゃんのきょうだいよ〜?」
「はぁー・・・、アリアに聞きましたよ? 違うって。」
「え〜!? アリアちゃん私の楽しみ奪うなんて〜・・・」
やはりこの人と話していると疲れるな。。
有用な知識も得られるけど、それ以上に厄介事が多い気がする。。。 真実を聞く前から頭が痛くなり始めていた。
「え〜っと、エルフの村が危なくなりそうだったから、身寄りの無い子供達を連れてきたのよ。 サトシさんのところなら安心できるって思ったのよ〜・・・」
「えっ?」
・・・
俺の思考は一時的に固まっていた。
厄介事ではあるけど、すごく聞き分けの良い子供たちを俺に預けに来たって? 少女や少女や、少女や、少年たちを? 俺の元に? 俺が預からなきゃ身寄りが無いって?
何か重要な事を色々とすっ飛ばしている気がするが、可愛い子供たちを預かるのは俺から頼みたいくらいの事だった。
「もちろん任せて下さい!」
「それは助かるわ〜♪ それにしても、ここは良いわねぇ〜・・・あの子たちが羨ましくなりそうね〜」
エイシャさんはソファを気に入ったようだ。 木や干し草を使った生活から、布や綿を多用した生活環境だもんな・・・そのくせここは水すら出る。
明かりと水が使えるので、ここの生活レベルはかなり現実に近づいていると自負している。
「エイシャさんも泊まってけば良いですよ? 部屋数は足りなそうですが、そこで良ければ空いていますよ」
俺はアリアの母親にソファで寝泊まりする事を勧める。 現実なら勘当もんだろうが、心底惜しそうにソファを撫でている姿は悪い意味ではとらえてはいないだろう。
「う〜ん・・・せっかくだけど遠慮するわ〜。 まだやることあるのよね〜・・・」
気怠そうなため息を1つ付くと、エイシャさんは立ち上がった。
「短い時間だったけど、お邪魔したわ〜。 アリアちゃんにも声かけておくわね〜」
「ゆっくりは・・・してられないんですね?」
「そうね〜・・・でも、心配ないわ〜」
そう言い残すとエイシャさんは、家を出て石畳の階段を降りて行った。
しばらく紅葉を撫でていると、ガヤガヤと声が聞こえ出した。
「ぅー・・・、うるさい。。 せっかくのんびりした時間だったのに。。」
紅葉は文句を言いながら頭を上げて、2階へと行ってしまった。 眠りを妨げられるのは嫌だよな。。
アリアと子供たちがリビングへ入ってくると共に、俺達の寝室の扉が閉まる音が聞こえた。
「ただいま。 あら・・・紅葉ちやん怒ってた?」
「アリア、おかえり。 まぁ、眠そうにしてたからな。 出来るだけ静かにしようか」
見慣れない物に近づいたり、恐る恐る触れたり・・・わーわー、キャーキャー騒ぐ子供たちが目の前にはあった。
「アリア・・・お疲れ様だったんだな・・・」
「やっぱり分かる?」
「この状況を見て、やっと・・・かな?」
整った顔立ちが幾分疲れて見えたのは気のせいではなかったようだ。
俺達は、走り回る子供たちを捕まえて、ソファに座らせて行った。。 座らせたら終わりじゃなく、また走り回るシンとアンちゃんには手を焼いた。。。
自ら状況把握してリンちゃんとシュナイダー、それに続いてランちゃんもうずうずしつつもソファに座ったが、残りの2人は好奇心が理性を超えているようだった。
部屋の説明をすると言い聞かせる事で、やっと全員ソファに留まらせることが出来た。
隣に目をやると、アリアが更に疲れ切っているように見える。 一体お風呂で何があったのだろうか?
夜時間があったら聞いてみることにしよう・・・
「さーて、お前ら、静かにしないと追い出されかねないからな・・・ この家は紅葉が造った物だから、今寝てる紅葉を怒らせないようにな? 分かったら小さな声で返事をしてね」
「分かった・・・」
「分かったわ・・・」
「分かりました・・・」
「ごめんなさい・・・」
「・・・」
シュナイダーは謝罪をって、お前は一番静かだったはず。。
リンちゃんは頭を縦に振ったのみで、こちらは反応すら薄い。
興味津々な3名が我慢できなくなる前に、部屋説明と行くか・・・
保育園や小学校低学年の引率のようにゾロゾロと部屋の案内を始めることに・・・
・・・
「ふー、これで全部かな。 みんな分かったかな?」
つつがなく案内は終わった。
静かにと言った事をシンすらもしっかり守っていた。 口に手を当てて、騒ぎたいのを我慢しているのが分かりやすい。
聞き分けが良過ぎてほんと、怖いくらいに可愛く見えてくる。
俺は何気なくシンの頭を撫でていた。
「な、何だよ!? 急にどうしたんだ?」
振払おうとはしなかったのもまた可愛い。
「何となくだ。 よく、騒ぎたいのを我慢できたなってさ」
「こんなの当たり前だって・・・」
恥ずかしがって俯くシンは新鮮だった。
横に目をやるとランちゃんが物欲しげにこちらを見ていたので、シンの次に撫でることに・・・
アンちゃんとシュナイダーに目を向けたが、2人は乗り気じゃないようだ。
リンちゃんは・・・というと、ソファに座ってくつろいでいた。
この子は本当にマイペースで度胸が座っているようだ。
「そろそろ寝ようか」
腕時計を確認すると20時になっていた。 子供たちもあくびが増えてきたのでそろそろ寝かしつけるべきだろう。
子供たちの手を引いて、2階へと向かう。
子供たちの体を思えば、2人で同じベッドを使っても広々としているだろう。
男の子の部屋、女の子の部屋の2つのグループに分ける事にする。
が、リンちゃんは俺の後ろに着いてきて女子部屋に留まろうとはしなかった。
アンちゃんやランちゃんがベッドに入ってキャッキャしている中には入り辛いのかも知れない。 女の子同士なら・・・とは思ったが、この子は別の方が良いのかな。。
ベッドの中の2人におやすみを伝えて、俺もアリアと共に自室へと向かう。
「サトシ、この子も連れて行くの?」
「女子部屋は嫌みたいだし、連れていくしかないさ」
ズボンを掴んで離そうとしないリンちゃんの頭に手を置きながら苦笑いを返した。
「ふーん・・・でも、まんざらでもないでしょ?」
「ま、まぁな? こんなに慕われると、父性出ちゃうよ」
「紅葉ちゃん、怒らないかしら・・・」
「そこは、リンちゃんのベッドを紅葉に作ってもらうよ。 今日は紅葉とのスキンシップ少なかったから、甘えてくるだろうし応えないと拗ねかねないな。。」
「私もがんばったのよ・・・?」
「分かってるよ、いつも助かってるさ。 ありがとな」
「言葉以外でも表して欲しいのよねー。。。」
小さくアリアはため息を付きつつ、リンちゃんに目を落としていた。 流石に子供の前で理性が働いたようだ。 埋め合わせが必要だと肝に銘じておくことに。。
そうして、自室に入ると紅葉が飛びついてきた。
「甘えて良いんだよねっ!」
「・・・聞こえてたのか!」
「もっちろんだよ、いつも聞き逃さないようにしてるもんっ♪」
紅葉が首元に絡んでくすぐったいが、可愛さ以上に“いつも聞き逃さないように”の言葉に驚いた。
紅葉の聴力なら確かにできるのだろう・・・紅葉の悪口など言った覚えは無いけど、以後も慎重に言葉は選ぶ事にしなければ。。
「紅葉ちゃん、リンちゃん用のベッド作れるかしら? 着いて来ちゃったのよね」
「楽勝だよっ♪」
気前良く紅葉は、子供用の二段ベッドを作り上げた。 どこでこんなものを見たのだろうか?
流石のリンちゃんも驚いたようで、目を丸くしていた。
やっとズボンを離してくれたので、出来たてほやほやのベッドで寝るように伝えて、俺達は大きなベッドに潜り込んだ。
リンちゃんは、確かめるようにベッドに登り、2階のベッドに入り込んでいた。 ワガママ言わなくて助かった事に俺は安堵していた。
胸に紅葉を抱きしめ、俺が寝落ちするまで頭を撫でてやった。
アリアは背中に抱きつくようにくっついている。
背中に感じる感触や温かさに興奮するなと言うのは無理だったが、固くなり始めた下半身をどうこうすることも無く、昼間の疲れで俺の意識はまどろんでいく・・・
アリアへの埋め合わせもするからな・・・
言葉にできたかは分からないが、そんな事を考えながら眠りに落ちた。
6月末には出張から帰れるはずです。
2ヶ月近く自宅に帰れて無いので色々心配・・・(´・ω・`)




