27-7.リンちゃんとはっさく(27日目)
仲良くなった紅葉とアリアを含んだ6人グループと、何故か懐いている俺とリンちゃんの不思議な区分けができてしまっていた。
陽のあたる場所温かい場所に座り、皆が俺の手元に注目している。
アリア達が子供たちにペアーチの事を説明しているようだ。
バックパックから6つ取り出して、櫛切りにしていく。 紙皿くらいあれば良かったんだが勿論そんなものはない。
切ったそばから皆に配るのが手っ取り早くなる。
「俺はサトシ、紅葉やアリアの仲間だよ。 キミの名前は?」
行儀良く座っていた少女に声を掛けてみた。
「わたし? アンです。 宜しくお願いします」
「アンちゃんだね、宜しくね。 はい、ペアーチをどうぞ。 甘くて美味しいよ」
早速ペアーチを渡すが、アンちゃんは食べようとはしなかった。 疑問に思ったのは僅かな時間・・・
周りがガヤガヤし始めたのを察して、次々に配り始める。
「それじゃあ、次は君の名前を教えてくれないかな?」
アンちゃんの後ろに隠れるように座っていた少女に声を掛けてみた。
「っ! あ、あの・・・」
「この子はランです。 まだ慣れてないみたいなので・・・」
アンちゃんが助け舟を出してくれたようだ。 引っ込み思案なランちゃんね。 リン、アン、ランときたか。。。 残る少年達の名前を予想し始めながら、ふた切れ目のペアーチをアンちゃんへ渡す。
「ランちゃんへ渡してあげてね」
言う必要は無かったかな。 アンちゃんはすぐにランちゃんへと渡していた。
「次は君たちの名前を教えてくれないかな?」
「やっと、俺達の番だっ! 俺は、シンだよ! 早くペアーチくれよ!」
「シンちゃん、もっと丁寧にしなきゃ・・・」
「大丈夫だよ、俺も気楽にしてくれた方が助かるよ。 宜しくな、シン」
「おう! ペアーチありがとな、サトシ!」
かなりフランクというか、、まぁ、威厳なんて無いし気にする事じゃないか。
「あぁ! 甘くて美味いぞ!」
「あの、僕はシュナイダーです。 宜しくお願いします、サトシさん」
「あ、あぁ・・・ 宜しくな、シュナイダー。 そんな畏まらなくていいぞ? はい、ペアーチどうぞ」
「ありがとう御座います」
・・・
いや、リン、アン、ラン、シンときて、シュナイダーときたか。。
個性的では無いのに、この中では名前が一番印象深かった。
当然紅葉とアリアにもペアーチを渡し、1人だけ渡さないのも何なので、リンちゃんにも・・・
ふむ、俺を含めて丁度8人なので俺も食べられるようだ。
「それじゃ、いただきます!」
・・・ペアーチ1つで終わる事は無く、2つ3つと向き続けることに。。
「サトシははっさく食べたいのよね? 袋から出して向いてあげるわ」
「アリア、マジ天使・・・!」
「おだててもこれ以上しないわよ。 まだまだペアーチ剥かなきゃだろうしね?」
「だ、だよな。。」
目の前では、先行して食べていたはずのリンちゃんまて参加して、紅葉と5人の子供たちが食べ終えるとすぐに手を出してくる。
ナイフが危ないので立って剥いているが、さっきから悲惨な事になっている・・・
「みんな、サトシさんのズボンが汚れちゃってるよ! ご、ごめんなさい・・・」
「大丈夫・・・大丈夫だよ、シュナイダー。 それじゃあ、紅葉も含めて1列に並んでー、先頭の人から順に上げるけど、争ったらその人は無したからねー?」
ダッシュしたシンが見事に静止した。
皆聞き分けが良くて助かる。 エルフの教育ってどうなっているんだろうか? そう言えば、子供たちがお茶運びとかしてたな・・・子供も働く事が当たり前って生活環境がそうさせているのだろうか?
考えるのは後にして、俺はペアーチを剥くだけの機械に徹した・・・
「うめー! こんな美味しい物初めてだ」
「ラン、甘くて美味しいね♪」
「アンちゃん、垂れてるよっ!? でも、ほんとに美味しい〜♪」
「もぐもぐ・・・」
「紅葉さま方は、いつもこんなに美味しい物をたべているのですか?」
「サトシの作るご飯も美味しいんだよー♪」
何故か胸を張る紅葉も微笑ましい。
皆が夢中になって食べているので、汚れたズボンや果汁でベタベタする手も気にはならない。 その笑顔が俺の幸せに・・・
「サトシ、やっと剥けたわよ」
「待ってましたー!」
俺の幸せは、はっさくが上回った。
「はぃ、あーん」
「・・・。 あ、あぁ。 あーん・・・」
あまりにも予想外でなんの事か理解が遅れる。 気付いて口を開けると、丁寧に剥かれた実を口の中へころっと入れてくれる。
「どうかしら?」
「アリアが剥いてくれたからかな? いつもより美味しいな」
「そう? 私も食べてみよっと♪」
アリアの機嫌が良くなったようだ。 アリアにもはっさくを美味しいと感じてもらいたいもんだな。。
「・・・や、やっぱり・・・駄目ね。。」
「にが〜い。。 美味しくないよぉ。。」
駄目だったか。。。
涙目のアリアの元に紅葉も駆け寄り、一欠片もらっていたが、こちらは吐き捨てやがった・・・
「おっ? さっきの甘いのとは違う果物か? 俺も食べてみたいっ!」
「私も、私も! アリスおばさん、少し分けて下さい!」
「ア、アンっ!? お姉さんだよ!」
「酸っぱくて苦いのは要らない・・・」
「僕も遠慮しておきます」
アリアは、アンの一言をスルーしてはっさくを渡していた。 いや、シンよりもかなり大きくないか? 欠片じゃないよなあれ。。。
顔には出ていないが、怒っているっぽかった。
後でそれとなく慰めておこう・・・人間の俺と比べたらアリアは子供だ。
見た目だって、肌の質感だって・・・ただ、エルフ同士から見たら・・・仕方ないんだよな。。。
シンはキツく目を閉じながらも、はっさくを飲み込んでいた。 やはり子供の口には合わなかったようだ。
アンも紅葉と同様に吐き捨てていた。。 それをランに押し付けないだけまだマシか。。 そっと崖からはっさくの残りを投げ捨てたのを俺は見逃さなかった。
残した物も、俺には好物なんだからくれればいいのに。。
勿論、少女の食べかけを望んでいた訳では断じてない。
断じてない!
ただ、少年の食べ残しと少女の食べ残しなら、後者を選ぶだろうがなっ!
「んっ・・・」
リンちゃんが立ち上がり、俺の服を引っ張ってきた。
「どうしたの? まだゆっくりしてて良いよ。 ペアーチまだ欲しいの?」
バックパックの中に9個もあったが7人で食べきってしまったいたので、諦めさせるしか無かった。
「ううん、あれ。」
ペアーチでは無いようだ。
さっきのはっさくの木を指差している。 リンも食べてみたくなったのか? 怖いもの見たさってのもあるよな・・・酸っぱくて苦いのは嫌とか言ってたのに、可愛いとこあるな。
ズボンの土を払って、俺ははっさくの木に向かうことに・・・
アリアと紅葉は、興味無さげに“行ってらっしゃい”との事だった。
「それで、はっさくの木がどうしたの? リンちゃんも、食べたくなった?」
「・・・うん、ペアーチはもういい。」
飽きちゃったのかな? 甘さが強過ぎると口の中さっぱりさせたくなるよな。 はっさくは丁度良いよな。 リンちゃん中々分かる口だな♪
そんなことを考えながら俺は手の届かない、リンちゃんを持ち上げた。
子供って自分で取りたがるよな・・・
案の定あっちへこっちへと誘導されながら、リンちゃんは3個はっさくを収穫した。
「いっぱいに獲ったね。 こんなに食べるの?」
「皆も食べるだろうから・・・」
「あはは、はっさくは俺が食べるくらいじゃないかな? 皆、要らないって言うと思うけどなぁ」
リンちゃんの優しさを感じて、降ろしてから頭を撫でたが喜ぶような素振りは無かった。 むしろ、また上に上げてくれと・・・
肩車をして、アリア達の元へと戻る事にした。 はしゃぐような事は無いが、重心が振れるので周囲を見渡しているだろう事は分かった。
子供らしい所作が垣間見えたようで少しペースを上げたら、頭を叩かれてしまったが。。
「ただいま」
「おかえり〜」「おかえりなさい。」
紅葉とアリアがすぐに返事を返してくれたが、子供たちからの反応は今ひとつ。
もっと仲良くする為にはどうしたら良いだろうか。
ん? ペチペチと軽く頬を叩かれながら、小さな声が聞こえた。
「降ろして・・・」
リンちゃんを降ろすと、アリアの元へ・・・
「むいて下さい・・・」
「えっ、私? あ、えっと、良いわよ。」
チラリとアリアと視線が重なったが、さっき剥いたことでアリアがはっさく担当と思ったのだろう。
アリアも驚きはしていたが、納得したようではっさくを受け取ると、再び硬い皮に切れ目を入れて剥き始めた。
さっきの流れではあるけど、リンちゃんがアリアを頼った事は良い交流だと前向きに捉えようとする自分と、少しだけ嫉妬してしまった心に俺は気づいた。
頼られたい・・・この子は俺が居なきゃ。。
そう願ってしまう事が、自分が子供好きの理由なのかも知れない。
自分の存在価値を、俺は自分では確立できないのだろう。。
物悲しさを噛み締めながら、俺は草むらに腰を降ろしてアリアが剥き終わるのを待つことにした。
もう剥かないとか言ってた割には雑な剥き方はせず、丁寧にアリアははっさくを剥いている。
俺の腹にもたれかかるようにリンちゃんが座った時は、アリアの視線で肝を冷やしたが、さっと退けて事なきを・・・得たはずだ。。。。
・・・
「はい、剥けたわよ? でも、酸っぱいし苦いけどいいの・・・?」
輝く黄色の実をアリアは一つリンちゃんへ手渡すが、かなり心配していた。
一応食べ物だよ? しかも、俺の好物なんだが・・・? 釈然としなかったが、すべて飲み込むことにした。
「ありがと・・・」
リンちゃんは・・・その実を俺に・・・
食べさせること無く、自分の口の中に入れてもぐもぐと咀嚼し始めた。
頬を膨らませるほど口いっぱいに頬張ったはっさくの実は、口の中で爽やかに弾けているだろう。
酸味の中に感じる優しい甘さ、その奥に隠れている苦味・・・
子供が喜んで食べるようなものではないが・・・?
リンちゃんの表情は、幸せそうだった。
そんな姿を見てか、シンが・・・アンが・・・そしてランもシュナイダーも近寄って不思議そうに眺めだした。
美味しそうにパク付くリンちゃんの姿は、さっき吐いたアンにさえもあれは勘違いだったと思わせるほどの魔力を秘めていたようだ。
リンちゃんからその実を分けてもらい、アンもシンも口に含み・・・
笑みをこぼしていた。
ランやシュナイダーもそれを見て続く。。。
そして紅葉も、剥いた本人のアリアさえも酸っぱくて苦味のある実を再び口に入れていた。
何が起こっている・・・?
出張中の為、6月中くらいまでは更新難しそうです。。
ね、眠い。。




