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27-6.ひと休み(27日目)

 少女に再びペアーチを剥く。

 今度はうさぎさんカットだ! 子供といえば、うさぎ形のリンゴが好きだよな?

 俺は好きだったぞ・・・?

 8匹作って皿に並べると、表情の乏しかった少女の目が一瞬輝いたように見えた。 目を擦って見直すと、それは見間違いだったように思えたが。。 

 輝いた・・・そう思うことにしようと心に決める。


 皿を向けると、今度は俺の手から皿を受け取ってくれた。

 やはり甘い食べ物は強かった。


 「さてと・・・俺はちょっと、そこの木を見てくるよ」


 「ん・・・」


 コクリと頷くだけの反応だが、それで十分伝わった。

 俺は立ち上がって、尻に付いた汚れを少女から離れてはたく。

 後ろを向くと、そこにはペアーチの木があったはずだった。


 「・・・黄色いんだよなぁー・・・」

 ペアーチだったはずの木は、赤から黄色の実をぶら下げていた。

 近寄って黄色い実を手に取ると、紛れも無くはっさくだ。

 木を見た時に、アリアが何か言いたげだったけどそういうことか。。


 ペアーチが実っていた木は、冬の訪れとともにはっさくの実った木に変わった。 はっさくの実の片鱗は、秋にはなかったはず。

 何よりペアーチが落ちて、ころっがっていたりもしない。 緑の絨毯の中に赤が混ざっていたらすぐ目に付くはずなのに。。


 新たな疑問が増えてしまった。

 もしかすると、春や夏でも実は変わるかも知れない。


 ただ、今ははっさくを食べたくなった。

 緑の絨毯の中から、黄色い実を探すが・・・落ちていない。 ペアーチのように落ちた物を拾えないのは悲しい。。

 アリアはどうしたんだろうか? 実っている物を採取したのだろうか。

 俺は一帯の木を一つ一つ見て回った。


 木の見た目は変わっていないように思う。

 この木の下でペアーチを拾ったはず・・・、この木もそうだよな・・・。

 前回拾い集めた時は、持ちきれなかっただけでまだまだペアーチは落ちていた。

 家に置いてあるペアーチは腐る気配なんて無い。 今もバックパックに入れているペアーチだって問題ない。 取り出して地面に置いても、変わらずそこに赤い実は残っている。


 季節の変化で突然切り替わったとしか思えない事態だ・・・。

 何が起こっているんだ。。。


 麦の成長も、家の周りだけ違う事は分かっている。

 この場所も他とは違う何か意味ある場所なのか?

 旨い果物が採れる場所・・・そんな安易では無さそうだが。。


 「・・・おじさん。」


 ゆっくりと木々の間を歩いていると不意に後ろから声をかけられた。

 おじさん・・・年齢的にその通りなんだけど、何か来るものがあるな。。。 自分はまだ若いっ!そう思いたいのだろう。

 振り向いて先程の少女に問う。

 「どうしたのかな?」


 「ありがとう・・・」


 「どうしたしまして。 満足したかな?」

 ぶんぶんと頭を上下に振ったので、良しとしよう。

 皿を受け取り、少女の頭を撫でることにした。


 現実世界なら俺は補導されたり、母親に引き剥がされるような行動を取っていた。 少女は特に逃げることも無く、小さな頭を触られせくれた。

 「お皿持ってきてくれてありがとね」


 特に反応は帰ってこなかったが、このまま可愛がり続けては退かれる可能性が浮かんだので早々に手を離すことに。


 「向こうで待ってれば良かったけど、一緒にここを散歩するか?」


 「ん。」


 肯定なのだろうか? 少女は俺の隣に近づいてきた。 まぁ・・・着いてくるなら拒む必要は無いか。 飽きたら離れていくだろう。

 子供の興味は移ろいやすい。


 ・・・

 ・・・・・・


 意外だな。

 少女はあれから15分近く、俺を追いかけながらテトテト歩いている。

 面白みの無いはずのはっさく畑をただただ歩き続けている。 代り映えのしない緑と黄色と茶色い幹。。。 子供じゃなくてもあくびが出るくらいに退屈な風景だった。


 「ん・・・?」


 不意に袖を引っ張られて俺は立ち止まった。

 木に引っかかったのかと一瞬思ったが、横の少女が俺のコートの袖を引っ張っていた。

 「どうかした・・・?」

 優しく・・・を心掛けながら少女に返す。


 「あれ・・・」


 少女は1本の木を指さしていた。

 その木の幹には、何やら白い帯が巻かれている・・・?

 俺は少女と共に、その木に駆け寄っていく。 歩幅が違うので少女の様子を見ながら・・・


 「・・・?」


 少女と目が合うと、少女は首を傾げた。

 「何でも無いよ、早くあの木にいこっか」


 こくりと少女は頷く。

 それを確認して、俺は少女の手を握ってみた。


 びっくりしたように、一度こちらを見てきたが、逃げるような事はされなかった。

 踏み出すと、少女も歩き始めた。

 足を速めると、小さな体で一生懸命走り出していた。

 無理させる事は無いか。。。 すこし速度を落として目的の木に向かう。


 少女の手は、アリアとは違った。

 見た目も肌も子供と大差無いように見えるが、4歳児程度に見える少女とは、違うようだ。

 最初手を握った時、握って良い力加減が怖かった。

 小さく柔らかな手は、強く握ったら壊してしまいそうで・・・。 手の中に納まってしまう手だったから、手を繋ぐ・・・とは言い難い状態だ。

 袖を摘まむという少女の自発的な行動を、俺は手を握る事で殺してしまっている。


 そう言えば。。。と思い出して俺は指で少女と手を繋ぐことにした。

 少女の手には、指一本で十分だった。

 俺の行動の意図を知ってか知らずか、少女の表情が少し和らいだように見えた。 まぁ・・・表情豊かな子では無さそうだが。



 そして、目的の木に到着した。

 白い布には文字が書いてある。 日本語だ・・・そして、中々に達筆な。。


 「なに・・・?」


 隣の少女が疑問を投げかけてきた。 しかし、なに?とは何か・・・

 これ何?に対して、白い布だよって回答を求めている訳ではないよな。

 文字の事を言っていると考えるべきか。


 「これには文字が書いてあるね。 読めるかな?」


 「んーん。」


 頭を左右に振って否定していた。 言葉は通じるけど、文字は読めない? というか漢字が読めないのかも知れないな。

 「これはね、“取るならここのみぞ”って書いてあるよ」


 「とるならここのみぞ?」


 「そうそう、取るのはここだけって意味だね」

 そう、言葉の意味のまま受け取るなら、はっさくを採取して良いのはこの木のみだと言うことだ。 他にも何本もあるのに、この木々の一番西の端1本のみだ。

 その木にも沢山はっさくが実っている。 よくよく見ると、いくつかは採取されたようなヘタが枝に残っていた。


 「サトシも見つけたみたいね」


 「お、アリアか! はっさくってここで取ったのか?」


 「そんな事より、ずいぶんその子と仲良くなったみたいね?」


 「ん? なんだって?」

 いつの間にか俺の指を離していた少女が、俺の背後へと隠れていた。


 「急にどうしたのかな? 大丈夫、アリアは怖くないよ。 俺の仲間だよ」

 少女はガッシリと俺の足に抱きついて離れる気配が無い。


 「アリスー! これはギルティだねっ!」


 アリアの背後から紅葉(もみじ)が飛び出してきて、物騒な事を言ってきた。 

 「ちょっ、待て、誤解だ!」


 「誤解じゃないわよー? みんな一緒に村を出て来たのに、こんなにリンちゃんが懐いてるの見たこと無いって言ってるのよねー?」


 アリアの機嫌がすこぶる悪い。

 というか紅葉(もみじ)も団結してやがる。。


 「ん? リンちゃんって誰だ?」

 分かっていて話を逸らそうと試してみた。 この少女はリンちゃんって言うのか。


 足にしがみつく少女が顔を上げて、自分を指差している。 紛れもなく少女の名前のようだった。


 「今まで聞いてなかったの・・・? 幾ら何でもそれは・・・」


 アリアの話題を逸らす事に成功したようだ。 かなり呆れられているが、必要性が無かったのだから仕方ない・・・よな?

 「し、仕方ないだろ? 二人きりだったからキミって呼べば十分だったんだし・・・」


 「なんか、なんかだわ。。」

 「なんか、なんかだねぇー。。」


 アリアと紅葉は何か言いたげに、なんかなんかと繰り返していたが俺は無視して、少女に声を掛けた。

 「遅くなったけど、リンちゃん宜しくね」


 コクリと頷いた少女(リン)は、再び指を指した。

 その先にはアリアが。

 俺もそうだが、アリアも同じじゃね?とは口が裂けて今は言えなかった。

 「あっちは、アリスってエルフの女の子だよって分かるか・・・俺と紅葉(もみじ)の仲間だよ。 怖くないから大丈夫だよ」


 「女の子?」


 少女(リン)のニュアンスから、すべてを察した。 確かにアリアは子供じゃないのかもな。 俺は見た目じゃ分からねーけど。。

 「・・・女性かな」


 「・・・ふーん」


 って、本題はそこじゃなかった!

 「そうだ、アリアっ! はっさくはここで取ったのか?」


 「はっさく本当に好きなのね? そうよ。 まだまだ実ってはいるけど、ここしか取っちゃ駄目って書いてあるんだから、自重しなさいよ?」


 「・・・。 もちろんだよ?」


 「なによ、その間は・・・」


 ため息を付くアリアのご想像通り、かなり我慢をしている。。 こんなおおっぴらな記述が無ければ取りまくっていた。 ペアーチは腐る気配が無いし、乾いて水分が抜ける事も今の所ない。 何ヶ月も経つと変わってくるかも知れないが、はっはくは元々日保ちするし取り貯めしたかった。

 「分かってるって、流石に好きでもここまで書いてあったら警戒するし諦めるよ」 かなり惜しいが。。


 「何かきこえたするけど〜?」


 「大丈夫だって! 紅葉(もみじ)まで・・・信じてくれよ。。」


 「あはは♪ それで、はっさくって何?」


 「紅葉(もみじ)も食べてみるか!? 酸味はあるけど、美味いぞ!」

 そう言えば、紅葉(もみじ)ははっさくを食べてる時に居なかったか。


 「紅葉(もみじ)ちゃん、酸っぱいし苦いわよ? かなり好き嫌いがでる物よ。。 私は苦手よ」


 「そ、そうなんだ。。 私は甘い方がいいなぁ」


 「そうよね!」


 アリアの仲間が増えたようだ。

 「まだ、この木になってるしみんなで食べてみないか? 気にいるかも知れないし。 ペアーチもあるから、温泉に戻る前にここで休憩しないか?」


 「さんせー! いっぱい動いたから喉乾いたよー♪」


 皆で、休憩してからエイシャさんが待ってるだろう温泉へ戻ることにした。 かなりバラバラになっていたし、時間をかけた方が中途半端にグロい物も見なくて済むだろう。。

 せめて子供たちには・・・

月末から出張していますが、めちゃくちゃ忙しくて

日々仕事と睡眠の繰り返しです。。 週休1日あるだけマシかぁ・・・と言ってもトラブル電話来るので休みなのかどうか怪しい。。


緊急事態宣言も延長になったし、出張中止や延長もろもろどうなることやら・・・週明けまた慌ただしくなりそうです。


4時に目が覚めて、23時には眠る日々から脱したい!

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