27-4.丘(27日目)
「もう~、サトシさんまでそんな風に言うなんて酷いわ~」
「あはは、日頃の行いのせいですかね~?」
俺もアリアに倣ってエイシャさんを煽る事にした。
「でも~、正解だから仕方ないわよね~」
「へ?」「え・・・」
俺とアリアは、揃って口を開けていた。
50%は冗談のつもりだったんだが。。
「村がちょっと慌ただしかったから、子供たちは先に連れ出したのよ~ ちょっと、あの子たちを匿って貰えないかしら~? サトシさん達なら、子供5人くらい何とかなるでしょ~? 私はまた村に戻りたいのよね~」
俺達がぽかーん( ゜д゜)としている間に、エイシャさんは言いたい放題押し付けてきた。
気になる情報が多過ぎて何から確認すれば良いんだ。。。
「サ、サトシ・・・」
アリアが困った顔をしている。 どっちの意味だろうか?
「アリア・・・俺はアリアのしたい事を手伝うぞ」
「あ、ありがと・・・ちょっと考えさせて」
そう言うと、アリアは露天風呂に向かって歩き出し、服を・・・って、スト○ップショー!?
慌てる俺を気にせず、入浴を始めてしまった。
「アリアちゃん、大胆ね~。 こんな明るいうちから、サトシさんの前で~ むふふ~♪」
「ママだって露天風呂に入ってるじゃない。 同じよ、同じ。 それにサトシは、もう私のこと見慣れてるから気にしたりはしないわよ」
「いや、めちゃくちゃ気にするんだが・・・」
「そうなの? 私はサトシが相手なら気にしないわ。 他の人が居たらこんな事はしないわよ」
「俺にも慎みをもってもらえたら良いんだがな・・・」
「サトシはそういう趣味なのかしら?」
「趣味って言うか・・・まぁそうか。 趣味かも知れんな・・・。」
あまり考えた事は無かったが、堂々と裸になられるより何百倍も恥ずかしがったり照れられたり、隠されたりする方が興奮する。 俺の周りにこんな堂々とした異性居なかったもんな・・・気づく事ねーよこんな趣味。。
「それで、サトシは入らないの? 目的の露天風呂なのに」
「あー・・・2人が出てから入るよ」
アリアと2人きりなら俺も入っただろうが、その親込みで家族風呂に・・・例え見た目が幼いからと言って、無いな。 俺は2人が服を着るまで、後ろを向いて時間を潰すのだった。
そう言えば、紅葉たちはどこまで行ったのやら。
子供たちの騒ぐ声も聞こえないので、かなり離れてしまったようだ。
「サトシ、もう良いわよ」
ぼーっと考え事をしていると、後ろから声が掛かった。
「それじゃあ、2人は別荘の中で待っててくれ」
俺は2人が見えなくなるのを待ってから、服を脱いで温かい川の中に体を沈めた。 かけ湯なんてしなくても、流れる川で体を洗えばいい。 パリパリになっていた肌や服を洗い終わると、念願の露天風呂にゆっくりと浸かり始める。
「あ~・・・これこれ・・・ぶくぶくー・・・」
顔までお湯に沈めて髪も洗う。 浸かっていれば、べたついていた油分がお湯に浮いて流れていくだろう。 石をひとつ退けて、川の流れに頭を預け1人きりの静かな入浴を満喫した。
「思ったよりゆっくりし過ぎたか・・・」
体を拭いて時計を確認すると、10時になってしまっていた。 1時間浸かっていたようだ。
小走りで石段を登り別荘に向かうと、アリア達は屋外チェアに座って話をしているようだった。
「すまん、遅くなった。 それより、2人とも中に入らないのか?」
俺はドアノブに手をかけながら、話しかけ・・・
「あれ・・・? 開かないな・・・」
「サトシもダメなのね・・・」
「という事は、2人もか・・・」
「紅葉ちゃんだけしか開けられないのかも知れないわね~」
「なるほどな。 まだ紅葉は帰って来てないみたいだし、探しに行くか?」
「そうね。 ママはどうするの?」
「わたしはここで待ってるわ~」
俺達は紅葉を探しに、川の上流を目指した。
ザッザッザッ・・・
河原を歩く時に小石が擦れる音ばかりが聞こえる。。
子供に連れられて紅葉は川上に向かって行ったが、これで合っているのだろうか?
「アリア・・・紅葉の居場所分かりそうか?」
アリアの耳が頼りだった。
「河原って、歩く度に煩いわよね。」
はぁー・・・とため息をつくアリアが聞き取りやすいように俺は立ち止まった。 それに習いアリアも止まる。
これで聞こえるだろうか?
「サトシ? どうして止まったの?」
「え? アリアが小石煩いって言ってたから、止まれば聞こえるかな?って・・・」
「あっ、ごめんない。 分からないわ・・・。
何となく呟いただけだったの。 期待させちゃってごめんなさい」
「き、気にすんなって! もっと近づいたら聞こえるかも知れないしな? 俺よりアリアは耳が良いから期待してるぞ!」
「えぇ、がんばるわっ!」
次第に周りには大きな岩が増えてきた。 足場に注意しながら、時にアリアの手を取って引っ張り上げ・・・
「サトシ、大丈夫?」
「はぁ、はぁー、大丈夫だ! まだまだ行けるぞ! はぁ」
「丁度この岩平らだし、少し休まない?」
「はぁ、そうするかー!」
ドスッと岩に下ろした尻は、さながら吸引されているかのようだった。
結構無理したかな・・・ふぅー・・・
呼吸が落ち着いてきたところで、アリアが笑っていることに気付いた。
「ん? 何か楽しい事あったか?」
「えぇ、とっても♪」
「な、なんだよ・・・?」
「秘密よ♪ ふふっ」
まぁアリアが楽しそうなら良いか。 俺は潔く諦めてしばらく休憩を取った。
のんびりと頬を流れる冷風を感じていたら、慌てたようにアリアが話しかけてきた。
「サトシっ! 紅葉ちゃんや子供たちの声が聞こえたわ!」
「何だって! どこからだ?」
「川上の方・・・でも、何かしら。。 上の方から聞こえてくるような・・・」
「まずは声のする方へ行ってみよう」
俺達は、川上へと更に進むことにした。
川上には・・・崖を登りさえすればペアーチの丘がある。 上から声がするとはそういう事だろう。
ペアーチの丘か・・・
大量にペアーチを採取して以来、行っていなかった。 今でもペアーチは取れるかも知れない。 子供たちの為に、紅葉はペアーチを食べに行った可能性が出て来た。
秋の終わりには、色の濃い完熟ペアーチを見つけることが出来た。 もしかすると今はもっと熟れた物すらあるかも・・・
ペアーチの丘への興味が膨らみ、歩みは早くなっていく。
森の木々が減り、目の前には白い靄が広がり始めた。
これは・・・湯気か。
間欠泉の湖にまでたどり着いたようだ。 ここは肌に纏わりつく様な湿度も気温も高い世界。
今朝入浴したばかりの肌を、にじみ出る汗が汚していく。。。
進むにつれて、どんどん視界は白い靄に覆われ、そして・・・
「まって、サトシ! このままじゃはぐれちゃう!」
「アリア? すまない・・・手を繋ごうか。 足元が滑りやすいからゆっくり進むよ。 慌ててごめん」
「紅葉ちゃん達のこと心配なんでしょ? そんな事くらい分かってるわよ。 でも、無事に巡り合わなきゃよね。 ほら、行きましょ」
アリアは、汗で滑る俺の手をギュッと握りしめ、歩き出した。
俺はそれを追い越し、前を歩く。
アリアは良い方に勘違いしていた。 俺はただ、自分の興味のままペアーチの丘を目指していた。 紅葉達の事を忘れてしまったかのように・・・。
罪悪感を覚えながらも、俺の心はやはり踊っていた。 ワクワクする事が起こる気配に。
大きな岩と岩の間を縫うように慎重に上へ上へと登っていく。。
間欠泉の湖を越え、ペアーチの丘へとつながる岩場の崖を。 登るにつれて白い靄は次第に薄くなっていく。
オーバーヒートしかかった体が冷気を求める。
立ち込める湯気で呼吸するのも苦しい世界から一刻も早く・・・
俺は崖を登り切った。
突如、轟音と共に間欠泉から熱水が噴き出し、緑の球が天高く打ちあがった。
おっしゃー! 自分の在宅勤務要請外れたヽ(=´▽`=)ノ
また、在宅勤務な可能性もあるけど、一先ず陽の下に出られる・・・。
主体性でない引きこもりはキツイ。。
というか、出張は予定通りになりそうだな。




