27-3.久々の再会(27日目)
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・・・・・・
サトシー サトシー!
・・・・・・・・・
ゴンッ!
「痛ってー!?」
思い切り頭をぶたれた。
親父にもぶたれたことっっ・・・母親にもぶたれた事あったわ・・・。
痛みはあるが、思考は冴えてきた。
「あー、アリアか。 着いたみたいだな」
周囲は森ではなく、河原へ変貌していた。 恐ろしい早さである。 いつもなら数時間かかるはずなのに、ものの30分・・・?
時計は8時半を指している。 時計が止まっている訳では無いので、夢では無いようだ。
「サトシ、それ気に入ったのっ? ぎゅーっっって凄かった! 私にもして欲しかったな。。。」
「紅葉ちゃん、あれは違うわよ。 多分、怖かっただけだから」
「そうなのー?」
「ほら、サトシ。 待ちに待った露天風呂よ? 早く入りましょうよ」
「あ、あぁ・・・うわ!?」
立ち上がろうとしがみついてた絨毯から手を離すと、足に力が入らずそのまま河原にずり落ちる羽目に・・・。
「またなのー?」
「どう見ても、またねー・・・」
「お前ら・・・笑いたければ笑えばいいさっ! ・・・ぐすんっ」
呆れられながらも、その後は2人して慰めてくれた。 何とかしたいんだけど、こればっかりわなぁ・・・。 完全に足手まといになっている申し訳なさが重圧となってくる。
開き直れたなら、どれだけ楽か。。 はぁー・・・
「あら、サトシさん達! ちょうど良かったわ~♪」
この気の抜けるような声は・・・
「ママっ!? 今までどこにっ・・・! え?」
アリアの怒鳴り声が聞こえたと思ったら、急に尻すぼみに・・・。 しばらく慰められて元気を取り戻しつつあった俺も、顔を上げて声のした方へ目を向ける。 やはりエイシャさんがそこには居たのだが。。
「エイシャさん? 後ろの子たちは・・・?」
エイシャさんの背後には、何人もの子供たちが隠れるように並んでいる。 数名がこちらへ顔を向けて・・・あ、引っ込んだ。 人見知りが多いのだろうか?
「何かあったー?」
俺の服に潜り込んでいた紅葉が顔を出した。
「あっ! キウィ様っ!」
「違うだろっ、今は紅葉様だろ」
「紅葉さまだー!」
「紅葉さま!」
「温かそう・・・」
隠れていた子供たちが、皆顔を出してきた。
「あらあら、紅葉ちゃんは大人気ね〜」
紅葉ちゃんは・・・か。 俺がアリアの方を見ると、視線が重なって苦笑され、小声で話しかけてきた。
「私は家に引き篭もってる事が多かったから、見慣れて無いからよ。 ・・・たぶん。」
おぃーっ!? 最後がすごい弱気な発言だった。 エイシャさんが連れてきた子供たちは皆耳の形からしてエルフだろうが、アリアはそんな子供たちに俺と同じような扱いを受けている。 悲しいなそれは・・・
純真無垢な子供に避けられるのはチクチクと刺さる棘とは違って、ふっとい極太の杭を打ち付けられるような物だ。。 今まさに俺が感じているんだから・・・子供好きなんだけどな。。。
「さ、サトシっ!? どうしようっ!?」
紅葉が子供たちにもみくちゃにされて、助けを求めてきた。
魔法で吹き飛ばせば簡単だが、そんな事をしないのは優しさか。
「紅葉、子供たちのことは頼んだ! みんな、紅葉が遊んでくれるからねー!」
「ほんとっ!?」「やったー!」
「えぇー!? サトシのバカーッ!」
「何しよう?」「尻尾触りたーい!」
「眠い・・・」
紅葉の嘆きは、子供たちの歓声にかき消されていた。 1人何かズレた子が居そうだが深くは考えない事にした。
子供たちに担ぎ上げられて、紅葉は川上へと連れて行かれた。
「アレ、ほかっておいて良かったんでしょうか・・・?」
あーぁー・・・河原を走り回っちゃって・・・どんどん離れていく子供たちを指しながらエイシャさんに話しかけた。
「私が守るよりずっと安全だろうし、問題ないわ〜。 それより2人はこんなところでどうしたのかしら〜?」
「私達は露天風呂に入りに来たんですよ。 それに、ほら。 別荘も建てましたからね」
建てたのは紅葉だが。
「ママこそ、帰ってこないと思ったら、急に5人も子供連れてどうしちゃったのよ?」
「・・・アリアちゃんには黙ってたけど・・・あの子たちとわたしは・・・」
「や、やめてよ!? 何で急に真剣なトーンなのよ・・・聞きたくないわよ。。」
やべー・・・隠し子の話かこれ?
せめて二人でだけで話してくれよ・・・。 いたたまれない空気感が次第に広がっていく。
さっきの子供達も、アリアに対して遠慮がちというかおっかなびっくりって感じだった理由も、そのせいか? 異父兄弟・姉妹のアリアお姉ちゃんだとでも聞いてたからあの態度か? いくら引き籠ってたからと言っても、同族なんだからそこまで警戒しなくても良いはずだが・・・。
頭の中では、すでに結論が出てしまった。
アリア・・・愚痴くらいなら今日ずっと聞いてやるからな・・・声にはせず、俺は心の中でそう誓った。
周囲は陽が出てきて暖かいはずなのに、冷たく重く・・・そして肌が切れるんじゃないかと思えるほど張りつめた緊張感が満ちていく。。
胃が痛い。。
ザッ・・・ザッ・・・
エイシャさんが一歩ずつアリアへと近づき、そして抱きしめた。
アリア膝を崩し、頭を胸に抱き寄せられている。
あぁ・・・アリアが鼻をすすりだしたぞ・・・もう、時間の問題か。。
すると、エイシャさんはアリアの耳元で何かを囁いたようだ。 読唇術の無い俺じゃ何を言ったか分からないが・・・。
「もう一度死ね―――ッ!」
ヒュンヒュンッ! ブシュッ ブシュッ!!
「アリアっ!?」
辺りには、エイシャさんの残骸が飛び散った。
燃やしていないだけまだマシなのか・・・? 首から下がまた吹っ飛んでいる。
電車衝突現場のように、河原には肉片がべちゃりと付着している。 救いがあったとするならば、子供たちを紅葉が遠くへ連れて行った事と、血が出ていない事か。。
ゾンビらしく、青白肉片や変色したようにどす黒い内臓と思われるナニカが散らばっている。 そう言えば頭はどこへ? エイシャさん曰く、頭さえ残ってれば何とかなるとか言ってたんだが。。。
流石にマジでやってないよな? 元々一度死んでるとは言え、、、
もう何度目かなので、だいぶ俺も砕け散ったエイシャさんの残骸に慣れていた。
最初は吐きまくっていたのが遠い昔のように思える。
アリアはスッキリした顔で構えていた弓を降ろして、深く息を吐いていた。 あー・・・怒らせちゃ絶対だめだな。。。
周囲を確認すると、露天風呂の中で岩に引っかかって浮かぶ頭を見つけた。 周りが石の壁になっているので流されずに済んだのだろう。。 とてつもなくシュールな状況だ。
これからお風呂の予定だったのだが、入りたい気分が吹き飛んでいた。
(後で掃除するか・・・)
「アリア、落ち着いたか・・・? 何があったんだ?」
「・・・っ」
ぼふっ
倒れ込むようにアリアは俺の胸にもたれかかって、ぎゅっと背中に手を回し抱きしめられた。
「本当に・・・何があったんだ?」
「・・からかわれたの。。」
「えっ?」
ぐっ・・・ 腹パンだめ絶対・・・腹を擦りたいが手が届きそうにないので、アリアの背を撫でることに。。
「さっきの子たちは兄弟姉妹じゃないの・・・また面白そうだからってからかってきたのっ! ママがっ! あー、またイライラしてきたわっ!」
や、やめてアリアさん・・・服噛んでる! 噛んでるからっ!?
「まぁまぁ、腹立つのは分かるけど、落ち着けって。 結局子供たちは何だったんだ?」
背中と頭を撫でながら、落ち着くのを祈るしかなかった。
・・・
「・・・そう言えばそうよね」
「そこは言って無かったんだな・・・」
娘おちょくるのに全振りってのもなんだかなぁ・・・。 プカプカと湯船に浮かぶ頭には既に、肩や腕が生えていた。 飛び散っていた肉片もぶよぶよと周囲の残骸を取り込みながら蠢いている。 ゾンビってこんな風だったか? もっと異質で不気味な存在に見えてくる。。。
「ママー、もう喋れるかしら?」
「ちょっとした冗談のつもりだったのに、ここまでする事ないじゃな~い」
「優しさで頭打たなかったでしょ?」
「それ、優しさって言うのかしら~・・・」
言い合ってはいるが、仲が悪い訳じゃないんだよなー・・・何だかんだでアリアも楽しそうに今は笑っている。 こういうのも家族のだんらんって言うのかね?
「それはそうと、さっきの子たちは結局何だったのかしら? またふざけるようだったら、今度は川下に流すけど?」
「村の若い子たちとピクニックかしら~?」
確かにこの時間は、ポカポカして気持ちい。 ただ、今まで全く帰って来なかったエイシャさんがこんなタイミングで声を掛けてきたのは若干違和感を感じる。 考え過ぎか?
「まさか、また厄介事ですかね? あはは」
俺はエイシャさんへ冗談半分で聞いてみる事にした。
Σ 4月の月当たりPVが1万に到達しそうです!
5万PV目前にやる気は湧いてきましたが仕事ががっ(´・ω・`)
本話から少し話を進めようかと。
久々のエイシャさん再登場! さて今回はどんな厄介事を・・・?




