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4-2.もふもふな日(4日目)

2度目の川原で、今度はきつねが横たわっていた。 捌かず今回は治療する事にした結城・・・

眠気との壮絶なバトルが続いているが果たして・・・!

 「寒空の下、川原で寝ずに火の番は堪えるな···」


 年齢的にも20代の頃のようには無茶が出来なくなったのを日頃から感じていた。 陽が出たら仮眠を取らなきゃな。 忘れてはいけないが40Lの水を一輪車に載せて帰らなくてはいけない。 目を擦りながら、陽が昇ってからの計画を立てていく。


 きつね(?)(ナニカ2号)の体に触れると温かさを感じる。 まだ大丈夫だろう。

 頭を撫でながら、子を想う親とはこのような物なのかな?と考えていた。 撫でているだけだが、胸が温かくなる。 呼吸の度に上下するお腹を見ていると、生きている事実に安堵した。 表情はうかがい知れないが、良くなっているとそう信じるしかなかった。


星が瞬いていた夜空はいつしか白み始めていた。 間もなく陽が水平線を昇り始めるだろう。 森の木々を越えるまではまだ時間が掛かりそうだな。


 焚き火に薪を追加し、朝御飯として肉液だけでは使いきれなかった残りを焼き始める。 肉汁が炭に落ち、白い煙が辺りに舞う。 うまそうな匂いに包まれなから、早い朝御飯をとる。


 肉ばかりを食べていては体調を崩しかねないな···

 他の現地食料を探さないとダメだ。 野菜や果物、穀物もか。

 まだ、どれも見つけられてはいない。 食べれる野草等の本は持っているが、この地で役立つとは言い難い。


 草も木もここはリアルだが、多様性がないのだ。 広葉樹があり針葉樹に蔓植物、真っ直ぐ伸びた細い葉をもつ草や広がった葉や色とりどりの花もある。 しかし、色の違いはあれど形状的な違いは乏しい。 3Dモデルで、テクスチャのみ変更して種類を水増ししたような物である。


 木では試していないが、辺りの草を抜いてもキラキラと天に昇って消えてしまう。 この世界に来て以来、肉の取得にも疑問が残る。 なぜ最初は捌けたのか。 なぜ2度目はダメだったのか。


 大きな違いと言えば、所持していたサバイバルナイフか、現地材料と所持していたビニール紐で作った石槍で止めを刺したかの違いに思い至る。 現実世界から持ち込んだ道具で倒したから肉になり、ゲーム世界のアイテム主体で敵を倒したからドロップアイテムになった。 そう考えるとスッキリする。 帰りに余裕があったら、ナイフやノコギリを使ってみるか。


 かなりの時間考え込んでいたようだ。

 陽が木々を越えており、時計を確認すると10時を回っていた。


 きつね(?)(ナニカ2号)は起きて動き出す素振りは見せない。 熟睡しているのだろう。


 また頭を優しく撫でてやる。 撫でたままに耳が傾き、抵抗なく撫で続けられる。


 「おっと···」


 フカフカな尻尾が揺れたと思ったら、体を丸め始めた。

 寒いのかも知れないな。 薪を追加するか。

 焚き火の炎が大きくなったのを確かめた所で、俺の限界が来たようだ。


 (眠い、眠すぎる)


 「ごめんな、俺もちょっと寝るよ」


 まだ残った生肉を焚き火の近くに置いておき、俺も仮眠を取るためテントの中に入って寝袋へ雑に潜り込んだ。 目を開けているのがもう辛い。 目を閉じればすぐに眠ってしまった。


 既に完全に陽が昇っている。 薄手のテントにも温かな陽がしっかりと当たり、中を暖めていく。

 冷えきった体を温かく、温かくしていった。


 「ん···」


 結構寝てしまったようだが、体が重い。 徹夜での火の番は負担が想像以上にキツかったようだ。 もう少し横になっていよう···


 (なんか、むず痒い)


 動きたくない気持ちと、胸の重みや首の辺りのむず痒さで心の中が争っている。 目を閉じたまま手を出そうとするが思うようにはいかない。


 仕方なく目を開けると、胸の上には薄黄色の毛玉が乗っていた。

 どう見てもきつね(?)(ナニカ2号)である。 丸まって毛玉と化しているが、動いた後にまた寝ているようで小さく体が上下しているのが確認できた。


 首のみ曲げて胸の上の毛玉を確認していたので体勢的に辛い。 もう限界だとばかりに後頭部を地面へと戻し、一息ついた。


 あまり寝続けていても今日も帰れなくなるので、毛玉を撫でながら目覚めを促していく。

 かなりのお寝坊さんかも知れない。 一向に動こうとせず、体を持ち上げて退かそうとするとフカフカな尻尾で手をペチペチと叩いてくる。

 全くもって痛くはないし、むしろ気持ちがいい。 何より可愛すぎる。

 俺は可愛さに負けて毛玉が動き出すまで頭を撫で続ける事しか出来なかった。


 何分かかったのだろうか? 毛玉は遂に頭を持ち上げ大きなあくびをしている。 くりっとした真ん丸な目で俺を見た後、頬を舐めてきた。

 かわゆい奴である。

 その後に俺が美味しく食べられるような事は無かったので、一見した限りでは懐いてくれているようだ。


 俺は寝袋からやっとの思いで抜け出すことに成功した。

 その間、きつね(?)(ナニカ2号)もとい毛玉はテントの中で行儀よく座っている。 また寝てしまうんじゃないかと不安になる大きなあくびをしていたが。


 時間を確認すると14時になったばかりだった。

 寝袋を片付けてテントから出ると薄黄色の毛玉も俺について出てきた。 本当に賢い上に良く懐いている。

 邪魔される事なくテントを片付けていると、焚き火の前に置いてあった肉の塊を咥えて持ってきているではないか。。


 俺の足元に肉の塊を置くと、満足そうにこちらを見つめ尻尾をぶんぶんと振っている。

 (おいおい、こいつはヤバイな。 俺を萌え殺す気だろうか?)

 馬鹿なことを考えている俺を知らずか、ずっと尻尾を振っていた。


 そこそこお腹は空いてはいるが、こうも肉ばかり食べていると流石に飽きてきた。


 「持ってきてくれて、ありがとうな。 俺は大丈夫だから、食べて良いんだぞ?」


 しゃがんで頭を撫でながら話しかけてみた。

 俺を見つめる丸い紅色の瞳が輝いたように見えたのは勘違いでは無さそうだ。 振り続けていた尻尾は更に激しさを増し、前足で器用に肉を押さえ付けながらかぶりついている。

 食べ終わるまでは近くで荷物の整理をしておこう。 時折、こちらの動きを確認するように顔を向けてくるが、すぐに肉へかぶりついている姿を見ると本当にお腹が空いていたんだなと感じる。 そんな中でも、直ぐに食いつかずに待っていられたのは本当にすごいと思った。 良い子だな・・・


 まだ食べているが、そろそろ水を運んでおかなきゃな・・・ あまり時間を無駄にしては本当に帰れなくなってしまう。


 ポリタンクの方へ歩み出すと、ピンッと耳を立てて肉を咥えて足元まで走ってきた。

 仕方ないので、またしゃがんで頭を撫でながら、話しかけることにした。


 「お前も連れて行くから大丈夫。 今は肉を食べちゃおうね。 直ぐ近くに居るから食べ終わったらおいで」


 ペットに話しかける飼い主をシュールだと思っていたが、いざ自分がその立場になると已む無し!と今なら力説できるだろう。


 俺は20Lタンクを1つずつ持って岩場を越え、一輪車へ乗せていった。 2つのタンクを載せ終わり、毛玉を呼ぼうとしたがそう言えばまだ名前を付けていない事に気づいた。 岩場から顔を出したところ、丁度肉を食べ終ったようで紅色の瞳が俺を捉えた。


 タタッ


 中々の跳躍で、難なく岩場を越えて俺の元にやってきた。

 名前については後でゆっくり考えよう。 今は一緒に家に帰るんだ。


 俺は行きと同じように一輪車を押しながら東へと向かう。 俺の隣を短い足をちょこちょこと動かしながら着いて来る姿もとても尊い。

 (ほんと溺愛しすぎだな)

 一輪車なんて持ってなければ、間違いなく抱きしめている頃だ。 今も必死に抱きしめたい気持ちを押し止めている俺を褒めてやりたい。


 木々の隙間から空を覗いても烽火は見えない。 流石に丸1日はもたないだろう。 方位磁石と記憶を元に森を進んでいき、何とか家に帰ってくる事が出来た。 今は17時になる所であり、森が闇に染まる前に着けたのは良かった。 アスファルトに作っていた焚き火は予想通り燃え尽きているのが見える。 一輪車を進め、俺は家の敷地に入った。


 トンッ


 敷地に入るのとほぼ同時に薄黄色の毛玉が見えない壁にぶつかった。 驚いて尻餅をついたまま寂しそうにこちらを向いている。

 やはり毛玉は敵として認識されているのだろうか? それとも壁自体を通過するにはもっと別の条件があるのか?


 寂しげな状態で放置する事はできず、一輪車を置いて石槍を持って敷地外へ出て地面に座り込んだ。


 ドサッ

 (うーん・・・、今までの壁の条件を整理するか)


 <壁の中に入ったもの>

   ・俺の持ち物 (元々持っていたものや作った石槍も含めて)

   ・イノシシ(?)(ナニカ)の亡骸

   ・森で拾った薪や落ち葉など


 そう言えば、生きた物が見えない壁を通った事は今まで無かったな。 この前の戦闘でも、壁は最後まで敵を阻んでくれていた。 しかし、亡くなった後は入れる事が出来た。 物に変わった瞬間とでも言うのだろうか? それが条件なら壁は少々厄介だ。 または俺が直接触れている事が条件である可能性もある。 2つの条件があると仮定した。


 俺は立ち上がり、毛玉に向かって手を差し伸べ声をかけた。


 「俺と一緒に入ってみよう。 腕の中においで」


 目をキラキラとさせながら、胸の中に飛び込んできた。

 頭を胸に擦りつけながら、腕の中に毛玉が納まる。 振られている尻尾で腕がくすぐったいが我慢我慢・・・


 慎重に壁が存在するであろう境界に入っていく・・・


 「入れた・・・な」


 緊張して手に汗をかいてしまったが、壁と俺に毛玉が潰されるような事も無く敷地内に入る事が出来た。 まずは一安心である。

 一旦毛玉をアスファルトに降ろし、名残惜しそうにこちらを見つめてくる瞳に負けそうになるが何とか耐えて作業を進めることにした。


 ポリタンクを玄関まで運び入れ、俺も家に入った。

 洗面器にポリタンクから水を注ぎ、濡らしたタオルで顔と体を丹念に擦った。 正直川で体を洗おうとも思っていたが、如何せん冷たすぎた。


 洗面器の水は濁っていき、この数日間だいぶ汚れていた事がよくわかる。 自分としても体臭が気になり始めていたので貴重な水とはいえ止むを得ない用途だった。


 少しさっぱりした気持ちになり周囲を見渡すと、毛玉が居ない事に気がついた。

 (あれ? そう言えば家の中には入ってこなかったのか)


 玄関を開けっ放しにしているが、毛玉が入ってくる様子は無い。 玄関に戻り外を覗いてみると、毛玉は座って待っていたようだった。 おいでと一言掛けると玄関の中に入ってきたので、俺の使用で汚れたタオルではあるが、足を拭いて室内へ招いた。


 毛玉は部屋の中を歩き回っている。 行儀は本当に良い。 暴れるような事は無く、走り回ってはいるが引っ掻いたり物を倒したりなどしていない。 棚やソファーに飛び乗る事もあったが、飛び乗る前にジャンプして状態を確認する念の入れようだ。 賢いなぁ・・・


 小腹が空いたしご飯にしよう。 そして名付けをしたら今日は寝るかな。

 外に出て火を起こした。 もちろん毛玉も着いて来ている。

 フライパンをスチールラックの上に置き、タコ焼きだった物を広げてお好み焼き風に焼いていく。 痛んでいる危険性もあるがまぁ何とかなるだろう。 毛玉用には2つ目のジップロックから肉の塊を1/5程度切り分けている。 スチールラックの上には置かず、ステンレストレーの上に置いているが特に手を付けていない。 食べて良いよと声を掛けるが頭を横に振っている。 焼いた方が良いか?と確認すると、頭を縦に振リ出す。 言葉を理解しているとしか思えない・・・。


 (今までも考えてはいたが、毛玉は賢すぎる。 というか日本語が伝わっているようだ)


 意思の疎通ができると言うのは便利である。 毛玉ご希望にそって肉はレアで焼いておく。

 俺のほうもお好み焼きモドキが出来たので食事タイムとする。

 

 「いただきます」


 俺が食べ始めるのに合わせて、毛玉も肉にかぶりつく・・・なんて事にはならなかった。

 ステンレストレーの肉を俺の方に押しやってくる。 何をしたいのだろうと思い、食べて良いんだよ?と声をかけても頭を横に振っている。 思い至った事があった。


 「俺にも肉をくれるのかな?」


 伝わった事が嬉しそうに頭を縦に振って、尻尾を振っている。 正解だったようだ。

 とても分かり易い反応である。


 俺はナイフで肉を薄切りにしていく。 4枚程度切り取った後、俺のお好み焼きモドキの上に乗せていく。

 「分けてくれてありがとね」


 お礼を言って、頭を撫でてやると手に絡むように顔を擦り付けて来た。

 俺は正直犬や猫のような動物は飼った事が無い。 金魚くらいしか経験が無いのだ。

 何をしてやれば喜んでくれるかは分からないが、この子とは動物として接するよりも人として接するぐらいの方が良いのかもしれない。 それくらいに賢く、それでいて人懐っこい。

 それからは特別な事は無く食事は終った。


 家に戻ると俺はベッドの上で仰向けになった。 枕元には毛玉も丸まっている。

 目を細めているので眠たいのかも知れない。

 今日の目標を達成する為、一言声を掛ける。


 「お前を今後名前で呼びたいんだが、今は名前はあるか?」


 丸まっていたのを解いて、頭を横に振っている。 耳は垂れていたのがピンと立ち、尻尾を揺らしているところを見ると嫌ではなさそうだ。


 「どんな名前にするかなぁ… 丸いし【毛玉】のままで良いか?」


 どっ


 柔らかく痛くは無いのだが、頭突きをされてしまった。 明らかに目が笑ってない。 揺れていた尻尾も止まり怒っているようだった。 ごめんごめんと謝り、新たな名前を考える。


 (赤い目をしている。 紅というのも良いが、何かピンとこない。 赤と黄色・・・ 紅葉(こうよう)か。)


 「紅葉(もみじ)なんてどうだ?」


 今度は頭突きされる事は無く、尻尾を振っている。


 「紅葉(もみじ)


 一言呼んで見ると耳がピンッと反応している。 尻尾は振り続けているので差が分からないが・・・

 頭を撫でてやると、腕に絡みつくように体を擦り付けて来た。

 可愛いなぁ、ほんと可愛い。


 一度起き上がり、紅葉(もみじ)を抱えたが暴れる事は無く、抱かれる事を望んでいたように甘えてくる。 そのままベッドにまた横になり、胸の上に置いて紅葉を撫で続けた。

 俺の腰まで布団を掛けたところ、紅葉(もみじ)も布団を気にしているのか、布団のほうを見ている。 試しに布団を胸まで掛けて紅葉(もみじ)を覆ってみる。

 胸の上でもぞもぞしていたが、俺の方に顔の方に頭を向けて伏せるような体勢で落ち着いたようだ。


 疲れた体と寝不足な上、布団と紅葉(もみじ)の温かさで俺は直ぐに寝入った。

 1人での生活から、1人と1匹の生活が始まる。

 

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 ●生活基盤


   ・水事情   ⇒ 残り22本のスポーツドリンク

            川の水が入ったペットボトル1本、空1本【New】

            ポリタンク38Lの水(-2L)【New】

            家の西側にある川で給水可能


   ・食料事情  ⇒ 冷蔵庫の中や缶詰、乾麺等

            ジップロック2つ分の肉(1つは-1/5)【New】

            肉が現地調達できる可能性・・・低下


   ・火の利用  ⇒ 薪を用いれば可能


   ・電気の利用 ⇒ 不可


 ●取得物

   ・イノシシ(?)ナニカの骨×1

   ・銅貨×2

   ・ぐちゃぐちゃな水餃子×1【New】


 ●家のスペック


   ・敷地内   ⇒ 敵の入れない安息地

            俺が触れている事で通過可能【New】


 ●仲間

   ・紅葉(もみじ) ⇒ 薄黄色で紅色の目をした狐【New】

27時くらいまでは起きてたのですが、寝落ちしました・・・。

起きたら10時とは・・・しっかり7時間睡眠orz

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