27-2.高速移動(27日目)
「お、おはよう!」
「うわっと!? おはよう、紅葉 あぁ、びっくりしたー・・・。 いきなり飛び出してきたから、叩き落とす所だったぞ。。」
「え、えへへ。 ごめんなさい」
「ところで、こんな真っ暗な物置に何で入ってたんだ?」
「んと、扉があったのは気付いてたけど、入った事なかったから・・・ダメだった?」
しゅんと肩を落とした紅葉が腕の中から俺に聞いてきた。 俺はすぐにそれに返す。
「ダメじゃないよ。 でも、呼び声に気付いたら応えて欲しかったかな? こたつに居なかったから、焦ったぞ。。」
ん? そう言えば、クローゼットの中にはニーナちゃん座らせていたか? 正直存在を知らずに真っ暗な部屋で初対面したら恐怖レベルだろうが・・・まぁ、特に何も無かったのか?
元々アリアの服を得る為に脱がしてしまっていたが、薄い布を掛けてあるから気付かなかっただけかも知れないな。
あんなの見たら、流石に聞いてくるだろうし。
「それじゃあ、外で朝ご飯にしよっか」
「はーい!」
元気な返事を聞いて、俺達はアリアの待つかまどへと向かった。
「サトシ今日は早かったのね? 紅葉ちゃん、おはよう」
「ああ、まさかの紅葉がもう起きてたんだよ。 いつもこれだと助かるんだけどな」
「おはよっ♪ 今日はポトフだっけ? お肉多めが良いなー・・・」
俺の意見にはスルーのようだった。
「紅葉は肉多めね。 アリアは・・・」
「任せるわ。 期待してるわよ?」
「何をだよっ! もう・・・任せてないじゃないか。。」
くすりと笑いながら、アリアの好きなじゃがいもとキャベツをたっぷり注いだ。
「今までとは違って、キャベツが増えたから、また甘みが増したスープになってるかもな? 感想聞かせてくれると嬉しいよ」
そう言いつつ、2人にお椀とレンゲを渡す。
俺はと言うと・・・おもむろに中華鍋を火にかけて、採取していた脂身を転がし表面に脂を馴染ませた。
豚バラ肉、続いててキャベツ屑をチューブにんにくも加えて炒め、醤油で軽く味を付け・・・一味唐辛子と胡椒に花椒を少々・・・刺激的な香りが辺りを包む。
んー♪ たまには唐辛子や山椒を使いたかったんだよなー。 在庫は少ないけど。。
中華鍋が熱いうちに、サッと水とタワシで汚れを落としていく。 鍋の正面の油膜が水を弾いて汚れを流していく。 やっぱ鉄鍋は使いやすいよなぁ。
「サ、サトシ・・・その料理、すごい匂いね。。」
「新しい料理? 私は・・・ポトフのみで良いよ。。」
2人には酷く不評のようだった。 いつもなら並んで朝食を取っているが、辛そうな表情をするので俺は離れて食べる事に。
旨いんだがなぁ・・・香ばしい醤油とコクのあるにんにんの旨味。 口に入れた瞬間から刺激的な唐辛子と山椒。 寒い冬は特に、脳天に抜けるような辛さが大好きだ。 ただ辛いだけじゃなくて、旨味やコクが必須だけど。
とてつもなく米が欲しくなる炒め物を食べ終え、洗い物を済ませておく。
「キャベツを追加したポトフはどうかな?」
「おいしいよーっ♪」
「お肉が?」
「うんっ♪」
野菜のスープよりも、野菜なんだなぁ・・・。
「アリアはどう?」
「いつも通りじゃがいもが美味しいわね。 キャベツが増えた事で味が大きく変わった気はしないけど、キャベツ自体も甘くておいしいわ。 生で食べる物かと思ってたけど、こんなに甘いのね・・・」
うんうん、アリアの味の評価が俺に似て来たな。
「熱をかけると甘くなるんだよな。 玉ねぎなんて特にだけどさ。 2人の口に合ったみたいで良かったよ」
朝食の後はお湯割りのペアーチを2人に渡して、俺は水割りで飲む。 ペアーチ茶も美味しいんだが、ジュース感覚の方がやっぱ美味しいな。。。
「さてと、今日は紅葉にお願いがあるんだけど、手伝ってくれる?」
「言ってくれれば手伝うよっ」
「ありがとう。 早速だけど別荘に行きたいんだ。 露天風呂に入りたくてさ・・・」
「うんうん、この前の四足で行けばいいの?」
「そうなんだが・・・あれって、1人ずつ乗れるような小さな物もできるか? 俺だけでも極力地面の方を走りたいんだ。。」
「出来るとは思うけど、上の方を進んだ方が敵も居ないし安全だよ?」
だよなー・・・俺もそう思う。
「・・・高いところ・・・苦手なんだよ。。」
「まさかと思うけど、この前のって高さで気絶していたのかしら・・・?」
「・・・アリア、それ以上言わずに察してくれ・・・」
全て言われてしまっているが、自分の事ながらあれで気絶して心配と迷惑をかけたのはやっぱり申し訳なかった。。 このままスルーして欲しい話だ。
「それじゃあ、サトシは低いとこ走れるようにやってみるね!」
「ありがとな、紅葉」
ムクムクと足元から蔓が生えてきたので、慌てて呼び止める。
「ま、まだだよっ! 準備が出来たら呼ぶから、それまで2人も準備していてくれ」
「すぐ行くのかと思ったよー」
「そうよね、あの話の流れだとすぐ行くのかと思うわよねー?」
「せっかくだし、今日は別荘に泊まりたいなって・・・ね?」
「はーいっ♪」
「分かったけど、そんなにのんびりしてて良いのかしら?」
「まぁうまくいけば、今まで以上に移動が速くなるし、時間があればはっさくの生ってるところも行きたいなと」
「もっとちゃんとした食料を確保したいのだけど?」
「はっさくの追熟も出来るし、ペアーチと漬け込んでも良さそうじゃないか?」
「・・・一理あるわね」
「・・・よだれは拭いとけよ? かわいい顔が台無しだぞ」
「っ!」
ふふっ 真っ赤になったアリアも可愛いな。 最近は遠慮が無くなってきたけど、今の関係はすごく心地良い。
「俺は部屋に戻って準備してくるよ」
「いってらっしゃーい♪ 私は準備するもの無いよね?」
「そうだなー、確かに無いか。 紅葉には魔法で頑張ってもらう事になるから、今は休憩してていいよ。 あ! 寝ちゃだめだからね?」
「がーんっ!」
口で効果音を言っていたが、釘を刺しといてよかったと思うのだった。
「アリアは、服を準備しといてね。 ビニル袋にでも入れておいて」
俺はそう残して、しばし部屋に籠もって外泊準備を始めた。
・・・・・・
「紅葉~、準備できたぞー!」
「準備万端だよっ!」
「お、おぅ・・・これは・・・?」
目の前には紅葉の魔法で作られた蔓の乗り物・・・だが、その大きさはとても小さい。 前回のように寝転がれるようなスペースは無い。 1人が十分座れる程度の四つ足と、そこから伸びる細い蔓で繋がれたさらに小さな四つ足・・・
「私とアリアの乗るところが前で、後ろがサトシ用だよ♪」
紅葉の笑顔が胸に刺さって痛いっ!
多分、小さくないと木々の間を縫って走れないって事だろう。。 でも、3人でもあまり変わらなくね? 縦に並べば良いんだし・・・
「そっか・・・。 じゃあ出発しようか!」
俺は紅葉の輝くような笑顔に完全敗北した。
「これで良いのね?」
アリアが意外そうに尋ねてきた。 出した言葉はもうひっくり返すつもりも無い。
「大丈夫だ」
問題はありそうだが。
全員が蔓の絨毯に乗り込む。
紅葉の号令で、蔓の絨毯は一歩ずつ前へと進み始め、次第にその速度は上がり始める。 20km/h超えてるんじゃないか? 自転車で走っている時を思い出すレベルだ。
「え・・・? あ・・・・」
速度が上がるにつれて、前方のアリアと紅葉の絨毯が上に上がっている気がした。 俺の絨毯は希望通り地面を這いつくばっているのだが・・・
「あー・・・・」
俺は目を閉じ、蔓の絨毯にしがみついた。
もう紅葉達は、木々の高さを超えているかも知れない。 俺が繋がれている蔓1本は、前方の4本足長絨毯の1足に繋がっている。 器用と言えばその通りなんだが、一応俺がしがみついているこの子はただ引っ張られるんじゃなくて、引っ張っられた急加速で俺が飛ばされないように必死に足を動かしているようだ。。。
頭皮や肩に感じる風が凄まじい・・・今何km/h出てるんだよ・・・
ゴーゴーと煩い風切り音で他は何も聞こえやしない。
もういっそのこと手を離してしまえば楽になれるかも・・・? いや、死にたくはない・・・
死にたくないの一心で限界を超えた力で、俺はしがみついていた。
テレワーク初日・・・色々とモヤモヤしました。
酒の在庫が無いけど買いに行きたいけど、自覚症状無いクラスターになりたくないしな。。




