26-5.趣味?(26日目)
「んーとぉ・・・」
私の質問に紅葉ちゃんは考え込んでいるようだった。 サトシに内緒で練習するって話したけど、まだ進展は無いのかしら?
「かなり良くなってきたけど・・・ちょっと行き詰まってるかも。。」
流石と言うべきね。
紅葉ちゃんは、変身まで使えるようになったみたい。 魔法の素質・・・圧倒的な差がある。 私も火矢魔法が最近使えるようになった。 数十年足掻いてもう駄目って諦めてたけど、今になって使えるようになった事は嬉しかったし、それに希望にもなった。 でも、当たり前のように使えてしまうのが羨ましくて、サトシに求められる自分の優位性はどんどん減っていく。 口では・・・格好良く言えるのに、心は言葉通りじゃないのね・・・。 モヤモヤする気持ちに蓋をして、私は紅葉ちゃんの悩みに手を貸すことにした。 それが・・・あの日決めた約束だから。
「どんな事で行き詰まってるのかしら?」
「いっぱいアニメは見てるけど、サトシの好みが分からなくて。。 サトシが最初に色々教えてくれたけど、どのキャラも好きだったみたいだし・・・どんな感じにすれば良いのかな。。。って」
「そうね・・・。 そうよねー・・・」
自分で言うのもなんだけど、サトシは私のことかなり気に入ってくれてる気はするのよね。 なら、私を参考にしてみたら?なんて、紅葉ちゃんには言えないわね・・・。
なら・・・
「アニメ以外にも、サトシは小さい人形を飾ってたわよね? それを見たら何かヒントが見つからないかしら」
「フィギュアだったかな・・・その人形。 サトシから棚に登っちゃ駄目って言われてるからそう言えば上の方は見たことなかったかも! アリス、手伝ってほしいな・・・」
「手伝わない訳無いわよ。 私も助けられてるしね」
「ありがとう、アリス!」
紅葉ちゃんは一目散に部屋へと向かってしまった。
(私にも何か参考になれば良いわね・・・)
サトシが使いたい時に火が消えないよう、かまどに新しい薪を追加した後で、私も紅葉ちゃんを追いかけて部屋へと向かった。
トントントントン
玄関を開けて中へと入ると、電気かついていてサトシが見慣れないナイフ(?)を使っていた。 私が入ってきた事に気付かないのか、キャベツを細かく切っているところだった。
声をかけるのは・・・やめといた方がいいかしらね。
静かな足取りで、私はベッドのある部屋へと向かう。
「アリス、遅いよー」
いつもより小さく紅葉ちゃんが声をかけてきた。
「かまどの火を絶やしちゃサトシがガッカリしそうだったからね。 これよね?」
私もサトシの邪魔にならないように、静かに返す。
「私も上が見たいから、乗せてー」
ぴょんっ
「っ! ふぅー、これで良いかしら?」
「ぅん! ありがとう♪」
紅葉ちゃんは私の腕の中にいる。 サトシが、こうしているのはよく見るけど、初めてかも・・・?
キウイ様もこんな感じだったのかしら・・・
ふかふかで温かい毛が手に伝わってくる。 狩猟で得た毛皮のようなゴワゴワした感触とは全く違う。 そして生きている温かさも・・・
「アリス、こっちこっちー!」
この部屋には4つも棚があって、それぞれに色々な人・・ふぃ、フィギュアが飾られてる。 私の腕の中で、紅葉ちゃんがひときわ大きくて木製の棚を指していた。
「あっちの棚が見たいの?」
「ぅん、あの棚にお気に入りを入れてるって言ってたよ!」
「そうだったのね・・・」
私の前に、サトシは紅葉ちゃんと出会っている。 だから、私の知らない事も紅葉ちゃんは知ってたみたい。 何気ない言葉だったけど、私はサトシのことまだまだ知らない事ばかりだったのね。。。
私はサトシとの生活面しか見ていなかった事に気付いた。 私はアニメも見てないし、フィギュアだってじっくり見たこともなかった。 それらについてサトシと話をすることも。
「わぁ! 初めて上の棚見れたよっ どんなのがあるかなー・・・」
私も紅葉ちゃんも、棚の中を凝視して静かになる。
初めて中を確認したが、色とりどりの女の子が並んでいた。
緑色の髪の子、黄色い髪の子、白い髪の子、黒に茶色に青・ピンク、色が濃かったり薄かったりと髪の毛の色だけでもいくつあるのかしら・・・
パッと気付くのは、皆可愛いってこと・・・私を好きで居てくれるのは、私だからって事じゃなく、フィギュアの中の1つとしてなのかしら? そんな風に弱音が出てきてしまった。
だってよく見ると黄色や白っぽい髪の子が・・・多いわよね? 次点で緑色の髪かしら。 それにほとんどのフィギュアの胸が小さい。 ママを超えるような大きさの子も居るには居るけど、数体。 サトシは大きくない方が好きなのかしら? 確かに私自身のも・・・
視線を下げると、目に入ったのは自分の胸では無く紅葉ちゃんの存在だった。 主目的を忘れていたみたい・・・今はまず紅葉ちゃんの事よね。 自分の事は後で考えれば良いわ。
「些細な事で良いと思うわ。 紅葉ちゃんはこのフィギュアを見て、何か気付いた事あるかしら?」
「みんな私よりちっちゃいでしょー、それに私みたいな耳や尻尾が付いているのもあるし、アリスみたいに耳が長いのも・・・他には、クイナみたいなのは無さそう? みんなアリス寄りな気がするっ!」
うんうん、確かに獣耳や尻尾に私達エルフみたいなのもある。 だが・・・
「紅葉ちゃん、最後のはどういう意味かしら?」
クイナ姉が特別大きいから薄着の時なんて、男連中から視線を集めてた。 この棚を見る限り、サトシの趣味は私の望む方向みたいだけど・・・憧れはあったの。 好きな人に求められたい・・・もしかして胸が足りないとかって悩んだりするわ。。 分かってはいるのよ、でも自分で考える以上に周りから言われると悲しくなった。
「みんなアリスみたいに痩せてるよね! クイナみたいに太ってないもん」
「そ、そう? そっか・・・そうね!」
「アリス、どうかしたの?」
首を傾げる紅葉ちゃんに何でもないよと伝え、私の中で今の言葉繰り返し響いていた。
紅葉ちゃんにとって女としての胸の存在は、脂肪の塊という認識しか無いみたい。 確かに、動物に胸が大きいとかあまり感じた事は無いわね・・・私が変に気にし過ぎていたのかも。。
その考え方を借りればクイナ姉は太ってるだけで、私は痩せてるってプラス的な考え方が生まれてきた。 直接サトシに聞いた訳じゃないけど・・・私の胸でも嬉しそうに触ってたものね。
「紅葉ちゃん、ありがと。 私自信がついたかも」
「え? 今ので?」
再び紅葉ちゃんは首を傾げていたが私はスルーして、フィギュアの確認に戻る。
「髪の毛の色って、サトシは黄色が好きなのかしら?」
「確かに多いよねー・・・って、アリスも同じような色。。」
「紅葉ちゃんだって毛色は黄色いし同じでしょ?」
「確かにっ! でも、耳や尻尾付いているのも少ないけど、サトシは好きじゃないのかな。。。」
「どうかしら。 好きじゃなかったら、そもそもこんなきれいに飾らないんじゃない?」
「なら、耳と尻尾は残した方が私らしいかな。 サトシも良く耳や尻尾触ってくるし、やっぱり嫌いじゃ無さそうっ♪」
「それは、好きって方よ。 絶対に・・・」
「おーい、晩御飯出来たぞー!」
サトシが玄関を開けて、フィギュアの観察は一旦幕を閉じた。
「紅葉ちゃん、いこっか」
「うんっ♪」
お腹ペコペコなので、いっぱい食べる予定で外へと向かった。
明日、日曜も少し仕事へ・・・
あー・・・ゴロゴロしたい(´д`;)
まぁ朝のんびりしちゃうと昼間で寝て、1日を無駄にした気分になるので、朝会社にちょっとだけ行くってのは、休日を長く楽しむ為には悪くはないんだがなぁ(社畜思考)




