26-3.唐箕(26日目)
朝でも薄暗い森の中を私は進む。
時々立ち止まって、周囲を確認しているが、狙いの足跡はまだ見つからない。
「少しだけ、休憩・・・かしらね」
今までなら毛皮のコートを着ている時期だけど、サトシから貰ったコートは軽くて暖かい。
背負っている荷物も多いけど、動きやすくて助かるわね。
荷物を地面に降ろして、木にもたれ掛かりながら小休憩を取る。
キュッ・・・コポコポ・・・
白い湯気と共にほわ~っと甘い香りが立ち昇っていく。
「ふぅ~・・・温かくて美味しいわね・・・。」
これはサトシが渡してくれた水筒。 出発する前にあれやこれやと準備して使い方を教わった物の一つだった。
ペアーチ茶を入れてくれていたみたいね。 既に渡されてから時間は経っているが、まだまだ熱くてゆっくり飲むこととなった。
「さてと・・・。 のんびりしてる場合じゃないわね」
私が頼まれている事は狩猟。 うちが生業にしていた仕事よ。 サトシ達の為に頑張るのはもちろんだけど、エルフの中でも少なからずプライドがある。 パパから教わった事もたくさんあるし、ママからだって・・・ん~・・・それは今は考えなくて良いかしら。
モンスターはちょくちょく見かけるけど、中々狩猟対象の動物は見つけられていない。 動物は夜行動する場合が多いし、冬場は森の中の餌も少なくなるので必然的にじっと動かないようにしているものが多い。 縄張りくらい見つけられれば良いんだけど・・・。
森の中を進むも、目ぼしい痕跡は見当たらない。
(やっぱり、あそこへ行くしかないかしら・・・)
冬場の動物達は餌を求めて餌の取れる場所へ行っているはず。 森の中に生えていた野菜も、今は枯れていたり地中でひっそりと隠れてしまっている。 今の時期に大量にある餌といったら・・・私は進む方向を定めて走り出した。
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「サトシ、これで良い?」
「おぉー、バッチリだな」
手回しハンドル付きのシロッコファンが見事に出来上がった。
紅葉の魔法で生み出されたそれは、最初地面から生えてきた細い蔓が絡まって円筒形を作り出したと思ったら、蔓だったものがくっ付いて一体に・・・次の瞬間光って木材に変化していた。
ちゃんと滑らかに回るし、風もしっかり出て来るのでここから派生させれば良さそうだ。
「これを元に、周りの部分も作ろうか。 ん~ 腰が痛い」
ファンを地面に置いて、軽い伸びをする。 やっぱり身体強化が無くなったのは厳しいな。。 ファン1つは持てたが、これ以上色々と派生させたら持てなくなるだろう。 まずは自立させるための外観からか。
「紅葉ー、この出来たファンを自立させる為に足付けようか」
「こんな感じでいい?」
ひょこっと短い足が4本ファンから生えてきた。
お盆の時期に既視感があるぞこれ・・・
「ハンドル高さを俺の腹くらいにもってきたいから、この辺まで上げてもらえるかな?」
「はーぃっ♪」
前足を上げて分かったよー!と手を上げる子供のようだ。 すぐさまファンは目的の高さまで上がった。
(牛からキリンになったか・・・)
「ふふっ・・・」
「? サトシ何かあったの?」
小さく笑ってしまった俺の声を聞き逃さなかったようだ。 何でもないよ、バッチリだと応えておく。 紅葉に理解させるのは難しそうな苦笑なのでスルーしておいた。
「次はこのキリ・・・じゃなくて、このファンから出た風が籾を分別出来るように風道とシュートを作ろうか」
「キリ?」
「そこは気にしなくていいのっ、間違えただけだから」
「そうなの? サトシも間違えたりするんだねっ♪ 私だけかと思ってたよー」
「俺も間違いまくりだぞ?」
人生間違いばかりで、正解なんて何一つ得られなかったんじゃないかと不安になるどころか、むしろ失敗と間違いだけだったと自信を持てるレベルだ・・・。 今だってそうだ。 何が正解かだなんて、分からずここまできている。
ただ、それで良いと思っている。 答えが出るのはずっとずっと先で死ぬ時だろう、人生の流れの中で全体を見てどうだったか?だ。 そんな流れの中で一瞬正解と思えたって、後で変わってくる可能性だってある。 だから幸せも絶望も・・・今答えは得られない。 不慮の事故で一瞬で命が尽きるのだけは避けたい。 病気だったとしても、命尽きる時・・・人生の事を考える時間だけは欲しい。
そう言えば、交通事故で死ぬかと思った時、走馬灯は見れた。 認識さえしながら死ねるなら十分か。 無自覚の内に一瞬で命を刈られなきゃ、早々大丈夫かもな。
「アリスもいっぱい間違えてるのかな?」
「どうだろうな? でも、きっと皆失敗も間違いも繰り返してると思うよ。 紅葉だけじゃないからな。 間違いなく俺は紅葉と同じだよ」
ぽんぽんとあやすように紅葉の頭を撫でる。 小さな体だけど、考えてることは何も俺達と変わりはしない。 人の子や現実の狐のように成長していってしまうのだろうか? 出来るなら・・・紅葉にはこのままでいて欲しいと思う。 可愛い姿のままで・・・いや、成長を見届けるのも親としての務めか? まぁ、どうにでもなれ!
「サトシと一緒? やったー♪」
一時手を休めて、俺達は休憩を取る。
紅葉はペアーチ、俺ははっさくを食べた。 紅葉にもさっさくは不評だった・・・俺だけか? 今回も爽やかな酸味と苦味は賛同が得られなかった。
「よーし! 続きやるぞ」
「おー♪」
日がかなり傾いてきた。
アリアはまだ・・・みたいだな。 火の消えているかまどと庭のどこにも姿は見えなかった。
もうじき日が沈むだろうが、アリアも夜目は効くから心配し過ぎか。。
俺は自分の作業に意識を切り替える。 唐箕は今日完成出来なくても目処はつけたいなと、重くなっていた腰を上げて作業を再開した。
細くて長い足のシロッコファンの吹き出し口から風道を伸ばして、その下には2つシュートを付けた。 シュートの下には冷蔵庫の中に入れていた半透明のプラスチックBOXを活用して、物入れとした。 中が見えれば籾が溢れる前に気付けるだろう。
こりゃ、実家で使っていた唐箕よりも豪華になりそうだな。
残るは、選別する前の籾投入口か・・・
周囲を見渡すと空も森も赤く染まっていた。
日がもう沈んでしまう。 夕飯の準備もそろそろ始める時間だ。
ぐるる〜・・・
食べていたとはいえ、ほとんどおやつのフルーツばかりだったので遂に腹が鳴った。
「お腹空いたねっ!」
「だなぁ、今日はここまでにしておくか」
「えっ!? 作っちゃわないの?」
紅葉が驚いている事に俺は驚いていた。
何かし始めるとサトシはやり続けるから、ご飯ってだけで作業を中断しようとしたことに紅葉は驚いたらしい。
俺はその言葉でちょっとは自制しなきゃ?と過ぎったが、お言葉に甘えて作業を継続することにした。 だって、紅葉がミニ太陽出してくれたし、アリアもまだ帰ってきてないしな? 仕方ないよな?
つくづく自分に甘かった。
「最後は籾の投入口だな」
「何か気を付けることってある? 絵を見た限りだと、シュートと同じように見えるけど。」
「そうだなー・・・籾を少しずつ落すために、落とし口の穴の大きさが調整できるようにしておくと良いかな。 んー、ここの板がスライドできればいいよ」
「うんうん、・・・・・・。 こんなかんじ?」
地面の絵を見ながら紅葉はさっと投入口を作ってしまった。
「どれどれ・・・」
外観も、問題の落とし口の穴もバッチリだった。 完全密閉から、手が入る程度の隙間まで調整できた。
「紅葉・・・」
「ど、どう・・・?」
「・・・完璧だっ!」
「! やったー♪ 私役に立てた?」
「役に立てた?じゃないよ。 紅葉が居なきゃ作れなかったよ、これは。 ありがとうな。」
「えっへん♪ 私役に立てた~♪ 私はサトシに必要?」
「おいおい、どうしたんだ? 紅葉が居ないと俺困っちゃうぞ。 どこにも行かないでくれよ・・・?」
「あはは♪ 行かないよっ! 大丈夫だから♪ そっか~、そっか~♪」
紅葉の尻尾が激しく揺れているので嬉しそうなのが良く分かる。
何か自分が役に立ってないなんて考えてしまう事があったのか? もしそうなら俺が紅葉を傷つけたに他ならないだろう。 先日の喧嘩を思い出すが、紅葉が役に立たないと考えてしまった要因は思いつく事は無かった。
「それじゃあ、早速使ってみよっか!」
俺も出来立ての唐箕を使いたくて仕方なかった。
早速回してみると、中々重さを感じる手応え・・・おぅおぅ、紅葉が唐箕の排気口に尻尾を垂らしながら風の出方を分かりやすくしてくれている。
「かなり強い風が出ているっぽいな・・・すごく分かりやすくて助かったよ」
紅葉のフカフカな尻尾の毛が、風の勢いに負けて薄っぺらなせんべいのようになっていたのだ。 普通の唐箕よりもゆっくり回さないと全部飛んで行ってしまうのが容易に想像できた。
「小麦入れてみるの?」
「そうだね、入れてみようか。 まずは、投入口を閉じておいてっと・・・」
大した量では無いが、すり鉢の中には籾殻や殻から出た種子、砕けた胚乳などが混ざり合っている。 どの程度選別できるかは、俺の回し加減に左右される。
ゆっくりと一定速度を心掛けつつ、唐箕のハンドルを回し始めた。
「紅葉、投入口の板をずらして、少しずつ籾を落してくれ」
ぐぃっ
口で咥えて器用に板を引っ張っる事で、投入口の溝が開いてパラパラと唐箕の中に落ちていく。 ザーッと流れていく籾の音が消え、排気口部分からモヤモヤと出ていた埃も消えたので俺はハンドルを回すのを止めた。
「できた? できた?」
紅葉もワクワクが止まらないようだ。 唐箕の排気口から出た物は地面に散乱しているが穂や籾殻の屑が大半のようだ。 ここまで確認したことで、プラBOXを取り出さずとも失敗していない事は分かる。 だが成功のレベルまでは分からない・・・膨らむ期待を押し込めて最も重い物が落ちるBOXを取り出した。
中には、大きく割れた胚乳や籾殻の外れた種子、大きな籾が入っていた。 殻や穂屑は見当たらない・・・なら、二番目のBOXは・・・。
二番目のBOXの中にも割れた小さな胚乳や、籾が入っていた。 こちらも穂屑や殻は無さそうだった。
「ねぇねぇ! どうかな?」
「ふふっ♪ 紅葉! 大成功だぞー!!! 俺達で作った唐箕は完璧だっ!」
作ったのはほぼ紅葉だが、紅葉一人では出来なかったし、共同作業で作り上げた感は、石臼よりも大きかった。 成功した喜びを分かち合おうと、地面に居た紅葉を抱き上げてグルグル回った。
「やったぞ! 凄い完成度だ! 他にも何か応用が利きそうだし、これは期待大だな~♪」
「そんなに凄い? サトシが嬉しそうで私も嬉しいよ♪」
「すごいぞ~ アリアもきっと驚くぞ!」
「えへへ~♪」
俺が気持ち悪くなって、その場で膝をつくまでグルグルと回り続けていた。
喜び合ったのも束の間、紅葉に大丈夫?と心配される何とも締まらない俺だったのである・・・
平日に休みを取ったなら・・・昼は食べ放題です(`・ω・´)ゞ
外食産業空いてるし、安くてお腹いっぱい食べれるのはありがたい。。
遂に通算4万PV 7000ユニーク超えていました。
閲覧ありがとうございます。
これからもマイペースに無理せず書いていきますので宜しくお願いします。
挿絵を描くだけの時間と気力は・・・期待しないで下さい。。




