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26-2.おべんきょう(26日目)

 「サトシ、サトシ! 何やってたの?」


 「ん? 見て分からないかな。 さぁ~何だろうね~?」

 じゃれ合っていた紅葉(もみじ)にクイズ感覚で俺は話しかけてみた。


 「分かんないっ♪」


 素晴らしい笑顔で即答された。

 もう少し悩む時間を持ってくれても良いんじゃないか・・・。

 「そっかぁ。 これはパンの原料の小麦だよ」


 「これがふっくらパンになるの?」


 「なるよー、不思議だよね」


 ぽんぽん、ぺちぺち


 食べ物で遊んじゃ駄目だと注意するべきなのだろうが、何か可愛くて見ているとほんわかしてくる。

 紅葉(もみじ)はすり鉢の中に前足を入れて、肉球で割れた麦に触れている。 あ、くっ付いた麦を口に入れたようだ。

 「ほら、ペッて吐けばいいよ。 そのままだと美味しくないだろ?」


 「ぅん・・・美味しくなぃぃ・・・」


 「何でもすぐに口に入れちゃうからこうなるんだぞ。 反省だよ?」

 俺は紅葉(もみじ)の背中を撫でながら、おやつにと準備していたペアーチを半分こし合う。 ガッカリ顔だったのが、ペアーチで紅葉(もみじ)はすっかり元気になっていた。


  「サトシ、サトシ それじゃあこっちは、なになに?」


  紅葉(もみじ)は地面に描いていた唐箕の構想図をぽんぽんと前足で叩いていた。 今から作ろうとしていたのを今頃になって思い出す。

 「あー、それは小麦の収穫を楽にする道具の一つかな」


 「また何か作るの? 私も手伝える事ある?」


 紅葉(もみじ)の力をうまく使えれさえすれば、唐箕どころか脱穀機や籾擦り機だって作れるだろう。 俺にそれを表現できればの話だが、、、


 「紅葉も一緒に作ってみるか?」

 足元に描いた図だけで紅葉(もみじ)が唐箕を作れるとは思えない。 俺も絵の通りに作るのは時間がかかるだろう。 だが・・・力を合わせて作れば早く良い物が出来上がるという確信があった。


 「うんっ♪」


 紅葉(もみじ)の返事を聞いて、俺達は部屋の中に戻った。


 何故か? それは単純なこと。

 紅葉(もみじ)に作りたい唐箕のイメージをいかに明確に伝えるかが重要なのだ。 唐箕の心臓部と言える機構は、ファン部分にある。 シロッコファンみたいな構造だから、まずはシロッコファンを見せてそれを作らせるのが手っ取り早くて性能が高い。 だって、ファンの羽根形状って流体力学の塊なのだから・・・模倣できるならそれに越したことはない。


 俺はキッチンの換気扇カバーを外して、ファンを露出させた。

 シロッコファンは回転する羽根部分とそれ全体を囲うケーシング部分の2つが主要部品だ。 もちろんベアリングや回転軸も重要なのだが、紅葉(もみじ)にイメージさせるのはファンとケーシングだけで十分だろう。

 回転軸でもあるファン中心から外気を吸い込んでファン外周へ風を吐き出す。 その風の流れを限定するのがケーシングの役割だ。

 駆動源が換気扇はモーターで、唐箕はハンドルを使って手でファンを回すという違いあるくらいか? まぁ、実際唐箕は水車のような原始的で単純な羽根構造をしているが。


 「サトシ、これがさっきの絵のやつ?」


 「んー、ちょっと違うけどかなり参考になるんだよ。 説明するね?」


 「はーい♪」


 「まずは、この真ん中の円盤がくるくる回るんだよ」


 「ぅんぅん、回ると何かできるの?」


 「じゃあ、ちょっとこの円盤の端っこを見てみようか。 ケーシングの開口から中を覗いてみて」


 「ケーシング?」


 俺は懐中電灯を使ってシロッコファンの中を照らしながら、紅葉(もみじ)の足場となった。


 「あっ! 円盤の周りに何か付いてる?」


 頭上から羽根の存在に気付いた紅葉(もみじ)の声が降ってくる。 頭の上に乗った紅葉(もみじ)のせいで頭が重いが、これくらいの事は我慢して解説付きの踏み台に徹する。

 「よく気付いたね。 すごいぞ紅葉(もみじ)。 それは羽根って言って回転する円盤とくっついて回るよ。 ほら、こんな感じに」

 ゆっくりと手でファンを回して構造を伝えていく。 手間はかかるが構造や原理を伝える事がイメージに役立つのだ。 原理を知ってさえいれば紅葉(もみじ)なら多くの事がどうにかなってしまう。


 「分かったよ! でも、羽根が回るとどうなるの?」


 「パッと伝えるのが難しいから、1つずつ細かく見ていこうか。 それじゃあ、羽根ってどんな形かな?」


 「んーっと、薄い板が円盤の端に沿っていっぱい付いてるっ!」


 「うんぅん、そうだね。 どんな向きでその薄い板は付いてるかな?」

 子供が居たら、こんな風に教える事もあるのかな・・・一対一での説明だから、相手の気付きや発想を引き出しながら補足を加えるのが俺の役目だと思っている。 理解させるというのはただ教える事じゃないと思うから。 自発的に考えさせる事が何よりも重要だと・・・


 「何か板は・・・こんな風に曲がってる?」


 紅葉(もみじ)は話しながら前足を動かして、曲がっている板の形を伝えてきた。

 「そうだね。 しっかり観察できてるね。 羽根は1枚ずつこんな風に弓なりに曲がって放射状に並んで付いているんだよ」


 「放射状って?」


 「円盤の回転中心から伸びていく線を放射線って言うんだけど、それに沿っている状態を放射状って言うんだよ」

 流石に口だけだと表現し難くなってきたので、紙とペンで図示していく。  紅葉(もみじ)への説明は中々に楽しい。 それは分からなければ積極的に質問をくれるからだろう。 投げれば打って返してくるそんな流れでスムーズに解説は進んでいく。


 「さっき確認した羽根の形状や付いている向きを前提に、紅葉(もみじ)が気になってた羽根が回るとどうなるかについて話すね」


 「うんっ♪」


 「それじゃあ、羽根を回すと・・・円筒状の羽根の中にあった空気がそれぞれの羽根で削られて、円筒の外に追い出されるイメージは理解できるかな?」


 「ぅー・・・」


 「大丈夫だよ、考え方を少し変えるだけで分かるからね。 えーっと・・・、空気は目に見えないからイメージし難いだけだよ、例えば空気を水とか身近にあって目に見える物に置き換えて考えてみて。」


 「んー・・・水で考えると・・・羽根が回ったら水が削られて、外に出されて・・・」


 「そうそう、いい感じだよ」

 気体を水という身近な流体に置き換えて考えるだけでかなり分かりやすくなるはずだ。 その機転が最初に出来るかで大きく理解度は変わっていく。


 「あれ? サトシ、サトシ。 羽根が回ったら円筒の内側にあった水が全部外に出ちゃった?」


 「うん、合ってるよ。 それで正解。 でも、空気は水って考えだったよね? 空気はこの地上のどこにでも充満してるよね。 なら、円筒の中に水が減ったらどうなると思う?」


 「他のとこから水が入ってくる・・・あっ! だから、円筒の羽根の表面は穴が空いてるんだ!」


 「うん、完璧だね!」

 クシャクシャと紅葉(もみじ)の頭を撫でてやる。 吸い込む力についてとかも教えてやろうかと思ったが、ここまでで唐箕は十分だろう。 それに興味を持ったらその時に教えればいい。 紅葉(もみじ)自身で気づく可能性だってあるしな。

 「それじゃあ、外に出で製作を始めようか。 後は、紅葉(もみじ)が悩むところは無いと思うよ」


 「私、頑張るねっ♪」


 「あぁ、上手く出来たらご褒美考えなきゃだな。 要らないかな?」


 「えー、欲しいなっ! すっごくやる気が出るよ?」


 「あはは、何か欲しい物があればいつでも言えば良いぞ。 出来る範囲で俺も頑張るからな」


 「うんっ サトシ大好き~♪」


 「もう。。 くすぐったいって。。 ほら、やる事やらなきゃだめだぞ」


 「はいっ!」


 俺達が、外に出ると時刻は15時半を回っていた。

 アリアはまだ狩りからは帰って来ていないが、日没まではまだまだ時間がある。


 紅葉(もみじ)の理解力次第ではあるが頭の回転が速くて説明に時間はかからなかったのがありがたかった。 製作時間も紅葉(もみじ)次第であるところが大きい。 自分で作るんじゃなくて、紅葉(もみじ)頼みってのが少し面白みには欠けるけど・・・

 時間だけ浪費して自分のお手製よりも、紅葉(もみじ)と協力した方が良い物が出来るんだからそれが正解なんだと自分に言い聞かせ、唐箕の製作に取り掛かるのだった。

本日は休暇!

モーニングコーヒーを飲みながら、ゆったりした朝を・・・

あー・・・やらなきゃいけない事が目白押し。


短いけどキリが良いのでここで切ろうかな?

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