26-1.収穫(26日目)
「くしゅんっ! ふわぁぁ~・・・」
目覚めて一番、くしゃみと身震いとあくびが出た。
(あー・・・寒いっ)
電気節約ってのもあるが、熱くなり過ぎるのを防ぐ為に電気毛布はタイマーで切れるようにしている。 朝になれば当然切れているので寒くなってくるのだ。
目も開けたくないので、手探りで電気毛布の電源を入れて再び布団をしっかりと被った。 あぁ~温かい・・・冬の二度寝は気持ちが良い。
ウトウトしていると、ガチャリと玄関が開かれた音が聞こえた。
アリアはちゃんと起きていたのだろう。 日課を欠かさずってのはやはり凄い事だと思った。 俺は・・・願いを叶えるのに努力してないって事だよなぁ。 布団の中でぬくぬくと二度寝を決め込んでいる自分はやはり甘いのだと実感した。
でも出たくないのだ。
(こりゃ先は長そうだな・・・)
起きてはいるが、目も開けたくないし布団も出たくない。 動きたくも無いのでベッドに寝転がり続けていると足音が近づいてきて目の前で止まったようだ。 流石に俺の耳でも聞こえる。
ぬくぬくの布団が僅かにめくられて、冷たい空気が入ってくる。
(あー・・・やめてくれぇ)
心で叫んでも当然願いは叶わなかった。
ひんやりとした肌が俺の熱を奪っていく・・・。
冷たいので突き飛ばしたい気持ちもあったのだが、朝で元気な下半身の熱は逆に上がっているので困ったものだった。。
(また俺は欲求の赴くままに・・・)
いや、駄目だ。
俺は目を開けて、抱きつくアリアに離れるように促す事にした。
もう少しだけ待って欲しいと。
金色の小さな頭が俺の胸に乗っていた。 密着している事からくる温かさを感じる。
頭を撫でると、いつもとは違った感触が手に伝わってきた。
「・・・?」
サラサラとした感触はいつも通りなのだが、髪の毛以外に二つのふさふさした山が・・・
俺は抱きついているアリアを腕で支えながら上半身を起こす事にした。
「アリア・・・ どうしたんだ?」
感触と目に映った物に合点いった。 頭には二つの耳が生えている。 ふさふさでもこもこな・・・。
金色に輝く毛色の耳とほぼ同色の髪の毛、耳の中は真っ白な細かい毛が空気を溜め込んでいる。 耳に触れれば、ひょこひょこと逃げるように耳が動く。 作り物では無いようだ。
機械式の猫耳ってのが以前、ネットで話題になった気がするが、機械音も無く滑らかに動き続けるその耳は紛れもなく本物だった。
アリアなのか・・・?
この時初めて、アリアではないかもと考えが過った。
アリアよりも抱きついているこの子は軽い。 というか全体的に小さいように感じる。 こんな子居たか・・・?
「だーめっ。 まだ寝るのっ」
抱きついたままの子は、そう言葉を発すると俺を布団の中に押し倒してきた。 不意打ちだったので、枕はあったが頭を揺らされて眩暈を起こしてしまった。。。
・・・
・・・・・・
「サトシ、もう朝よ!」
「んぁ・・・ アリア? おはよう」
寝てしまっていたようだ。 アリアに起こされて朝の挨拶を交わしたが、俺に抱きついていた子はどこにも居ない。
手に触れていたはずのもふもふは夢だったのか?
「改めておはよう、アリア。 ・・・頭に耳は生えてないよな?」
「サトシ何寝ぼけているの? 私にはここに耳があるわよ」
アリアは髪をかき上げて、長く伸びたエルフ耳を見せてきた。 うん、普通だよな。
「夢でも見ていたみたいだ」
「しっかりしてよね?」
「あぁ、すまない」
「で、今日はどうするのかしら?」
「はっさくを見に行きたいが・・・」
「昨日言ってたわね。 でも・・・一度家の周りをぐるっと見て回ってから考えても遅くないと思うわ」
「ん? 意味深だな。 何かあったのか?」
「見てのお楽しみ。 私はかまどに居るわね」
アリアはそれだけ言うと部屋を出ていってしまった。
カーテンを開けると部屋にはこたつが鎮座している。 膨らんだ毛布の中身は紅葉だろう。 まだすやすやと眠っているようだ。
「紅葉、行ってくるね」
声だけかけて、俺は一人で鍋を持って外へ出る。
アリアはかまどに火を付けていた。 摩擦熱や火打ち石でも無く、火の矢を薪に打ち込んだ所だった。
確かに火はついたが・・・あれ大丈夫だよな? 薪が勢い良く燃え尽きていた。 ただの火では無いようだが、薪は炭になって赤く燃え続けているようだった。
熾火がすぐに作れるなら、むしろ最良じゃないか? 今後かまどの火付け当番はアリアにお願いしよう。
「鍋の温めお願いできるか?」
「えぇ、かまどに火も付いたしやっておくわね」
「俺は回り見て来るな」
「行ってらっしゃい。 必要だったら呼んでくれれば手伝うから」
アリアに見送られて俺は家の周りを見て回る事に・・・
昨日も見たが、玄関周りは特に問題は無さそうだ。
軒先にぶら下げて乾かしていた、ペアーチの皮は見事にパリパリで回収しておいた。 これは特に問題は無さそうだな。
次は裏庭か・・・
裏庭には、畝を作って麦を育てていた。 見えない壁の範囲内と範囲外だ。
俺は緊張しながら、アパートの横を通り過ぎて庭を確認した。
「こ、これは凄いな・・・」
薄々予感はしていたが、見事に麦は穂を出していたが・・・どう見ても完全に実って収穫時期だった。 確か植えてから6日目だよな・・・? 1日で発芽して、2日目には麦踏みして・・・3~5日目までは確認していなかった。
後から実験的に植えた麦も実っている事から、植えてから収穫までは5日以下と思われる。
ただし、見えない壁の内側だけのようだ。
壁の外側に植えたはずの麦を探そうと、地面に積もった雪を退けていると畝の部分に数本の芽を見つけることが出来た。 生えない訳では無いようだが、見えない壁の中だけ成長速度が早く、壁の外は現実的な成長速度と思われる。
不思議だが・・・前向きに考えよう。 これはメリットでしかない。 今の時期でも種を撒いて生えるかは分からないが、もしゲーム感覚で植えて数日で収穫できるようなら小麦は簡単に増やしていけそうだ。 主食を肉から小麦に変えるべきかも知れないな。 既に肉の備蓄は心許ないのだから。
さて・・・多分この事をアリアは言っていたのだろうが、他も見て回るか。
裏庭を後にして、アパートをぐるりと回った。
パワコンから延ばした充電用ケーブルは損傷も無さそうだ。
石臼も・・・問題は無いが、持ち上げようとしても臼どころか上臼ですら持ち上がらなかった。。。
そうして元のかまどへと俺は戻ってきた。
「おかえりなさい。 今日の予定は決まったかしら?」
「あぁ、小麦の収穫をしておこうと思う。 でも、アリアには別でお願いしたい事があるよ」
「あら、意外ね。 収穫を手伝おうと思ってたのだけど」
「アリアには、俺じゃできない事を頼みたいからね」
「そう? ならはっさくを取りに行けばいいのかしら」
「ううん、そっちは俺や紅葉も一緒に行ける時で良いよ。 アリアには、採集や狩猟をお願いしたい。 肉の在庫が減ってるし、今後は小麦を主食にするべきかなと」
「なるほどね。 それじゃ朝ごはん食べてから行くわね」
「ありがとな。 助かるよ」
「気にしないでいいわ。 その方が適してるって事でしょ?」
温めたポトフをお椀に注いでアリアにはペアーチを、俺は昨日に続いてはっさくを食べた。
温かい食事と共にデザートもあって、満足感のある食事が出来た。
そう言えば、はっさくの種って・・・食べる時に捨てた種は一応集めておく。 麦の様に農作物は見えない壁の中で栽培すればすぐに収穫できる可能性を期待してだ。
「それじゃ、行ってくるけど毛皮は要らないのよね?」
「皮なめしの事を考えると使いにくいしな」
俺は、バックパックとビニル袋をアリアに渡した。 もちろんファスナーの開け方や背負い方等は説明済みだ。
冬2日目、朝9時から行動を始めるのであった。
今日も空は快晴で雲1つない青空。 初日に雪が積ったが今日の天気はどうなるだろう。
さてと、麦の収穫をするのは良いがどうするかなぁー・・・
ここにはコンバインや脱穀機のような設備は無い。 それどころか千歯扱きや唐箕のような手動道具すら無い。 手でやる方法と簡単な道具作りから始める必要がありそうだ。 手持ちに何か使えるものがあれば良いんだが。。
初めに刈り取りだが、まずここで悩ましい。
穂だけをハサミで切って刈取る方法と、麦の株ごと刈取る方法のどちらを取るかだ。 千歯扱きや脱穀機を使うなら、株ごと刈り取るのが適している。 脱穀した後の株は、他の株をまとめて縛る為の紐代わりにも、断熱効果のある敷き藁にもなる。 凍傷から野菜や苗木を守るのに重宝するのだ。
そして乾燥した藁は、良い火口にもなる。
畝の中に残った株と根も、トラクターで土と混ぜ合わせれば肥料にも・・・って、ここにはトラクターも耕運機も無かった。
あー・・・全部手作業になるのか。。。
今はまだ、断熱素材や火口に困ってはいない。
なら、手っ取り早い畑への還元方法として焼畑に思い至る。
次に穂から籾を取る脱穀作業を考えた。
千歯扱き代わりになるような強靭な櫛は無いし、縮小版としては小さ過ぎるフォークも代用にはならない。
なら・・・己が手を使うしかなかろう。
麦の穂は、稲よりも固く鋭い。 穂や脱穀したばかりの籾には棘ではないが籾から伸びるヒゲがあり、軍手だと網目の隙間からぶすぶす刺さるし、地味に痛い。 工事用の作業手袋で厚手のゴム手袋で擦り合わせて脱穀することに決めた。
最後は籾摺りか。
瓶の中で棒突きするとか、すり鉢を使うとか他にも色々あった気がするな。
ガラスボトルやすり鉢はあるので何とかなりそうだ。
俺は部屋に戻って、ハサミを持ってきた。
チョキチョキ、チョキンッ
一つ二つと麦の穂を切り取って、バケツに集めていく。 ひとつの株に5本程度穂が付いている・・・結構手が疲れるな。 まずは1畝分だけで良いか。 お試しだしな・・・
今度は手袋を付けて、穂を両掌で挟んで擦り合わせた。
バケツの中には、ぽろぽろと籾や穂の屑が溜まっていく・・・全部の穂を手で擦った後にはバケツの底に穂屑と籾が混ざり合って溜まっていた。
次は大雑把に穂屑と籾の選別・・・バケツを手で持って小刻みに揺らしていくと、軽い穂屑は上に、重い籾は下へと別れていく。 これで上手くやれば、中身の詰まっていない籾も選別は出来るはずだが、如何せん見た目での区別は難しい。 目に見える穂屑を摘んでバケツから地道に出していった。
「うわぁ〜・・・コレつれぇわ。。」
エルフ達から貰った種籾の倍くらいしか無いのに、かなりの時間がかかっている。 まだこれから籾殻の除去をしなきゃいけないが。。
眼前に広がる実った麦の穂が、たったひと畝採集しただけの現実に絶望感を醸していた。
「アリアに、言った建前もあるしせめてこれだけはな。。」
ゴリゴリ・・・コリゴリ・・・
持ち出したすり鉢に軽く一握りの籾を入れて棒で擦っていく。 粉にする訳ではないので軽く擦っていくだけだが、これが結構難しい。
どうせ麦は粉挽きするんだろ?と言われたらそれまでだが、籾殻を外す作業の中で、中身を割ってしまうのは極力避けたい。 いつか見つけたい稲との出会いまでにコツを掴んでおく必要があるからだ。
割れた米ばかりだとご飯を炊いた時、美味しそうじゃないだろ? やっぱひと粒ひと粒が立った米を食べたい。
麦の安定供給に手応えを感じつつ、頭の中は取らぬ狸の皮算用であった。
ふぅーっ、ふっー!
すり鉢の中に時折息を吹きかけて、籾殻をすり鉢から飛ばしている。
「あー・・・目眩がする。 酸欠だ。。。」
ぐわんぐわんする頭を押さえつつ、良い方法は無いかと考える・・・吹きかける強さが結構重要だったりする。
頭痛から逃れる為に、手を休め考え事を始めた。 断じて現実逃避では無い・・・はずだ。
息で飛ばすのは現実的じゃないよなぁ・・・それに風量も足りない。 唐箕を使った事のある人なら分かるだろうが、手で風車を回して重い物はすぐ下に、少し重い物は真ん中に、軽い物は風に飛ばされて遠くに・・・
実家での経験では、唐箕を使って3つくらいに選別ができたりする。 ただ、今思えば昔の道具には扱う者の練度がかなり重要だった。 手で回す風車なんだから、早く回せば強い風で全て飛ばしてしまう。 何となくこれくらいの速度・・・という感覚論が当時の道具はとても多かった。 まぁ、その奥深さが単純な機構の中に万能さを持っていることの面白さだと感じていた。
「唐箕・・・作れるかな?」
今はすり鉢で籾殻を外しているが、籾の中に100%実が詰まっている訳ではなかった。 籾の中身が成長せず空だったり、未熟で小さかったり・・・
籾殻を外す前に、籾の状態である程度の選別が出来れば収穫の作業効率はグッと上がるはずだ。
唐箕は、木製のシロッコファンみたいなもんだったな・・・
幼少時に手伝いや遊びで使っていた事を思い出す。 構造を思い出しさえすれば、十分に作れる可能性があるのだ。 巨大な木材も周囲にはたくさんあるし、それらを粘土のように剣を使えば楽にカット出来る。
ファンも丸太をくり抜いていけば、時間が掛かるだけで形には出来るだろう。 風の流れを作る為のケーシング部分だって、何とかなりそうだった。
思考は既に籾から籾殻を外す作業では無く、唐箕製作へと意識が変わりつつある。 すり鉢内を棒で擦っていたはずだが、手に持った棒切れは細くなって、土の地面にはいつの間にか唐箕を作る為の部品図が描かれていた。
「あっ!」
気づいた時には、だいたいの構想図が出来上がっていて、陽も傾き始めていた。
「それなーにっ?」
(ん? この声は・・・)
頭上から声が聞こえたと思ったら、紅葉が背中に飛びついてきた。
「っ!? うわっ、ビックリした〜・・・紅葉か。。。」
首筋にもふもふが擦りつけられてくすぐったいな。
「ビックリしたじゃないか。。 今日は一段とおそようだね、紅葉」
時刻は15時を回ったばかり。
冬の日没は早いが、まだまだ明るい時間。
寒空の下で1人と1匹が温め合うようにじゃれ合っていた。
早く休日が欲しいところ。。 最近は週休1日が続いてますが、残業もあるしどうにも体がだるい・・・ね、眠い・・・(´・ω・`)




