4-1.もふもふな日(4日目)
俺の家強ぇー! から不貞寝して無駄な3日目を過ごしてしまった結城。 さっそく後悔するが後の祭りである。 4日目はちゃんと進むのか!?
「あーー、やっちまったか・・・」
昨日は丸1日寝続けてしまっていた。 今はかなり後悔している。
寝起き早々だが、肌寒かったので布団を回収するついでにちょっと確認する程度の気持ちだった。
昨日は何も成果の無い1日分どころか···
ソファーに座り、テーブルには溶けきった冷凍食品の数々が並べられている。
初日に守ろうと躍起になっていた物だが、3日は保てなかったのだ。
クーラーボックスの中は、まだかなり冷えてはいたがマイナス温度ではない。
昨日であったなら、半解凍くらいですべて美味しく食べれただろう。
ぐちゃぐちゃになった水餃子とタコ焼は、食べられるだろうが見た目が気持ち悪い。
どう見ても吐瀉物だった。
他にはパスタと中華飯も融けているが、見た目上の問題はさして無い。
今日は昨日を反省して、真人間として過ごそう・・・。
一度玄関を出て、火を起こす準備を始める。
アスファルトの上に薪を並べて枯れた葉と草を敷き着火させた。
小枝を枯れ草の上に置いていき追加の薪をピラミッド型に並べ、パチパチと薪が燃えて白い煙が空へ昇っていく。 一度部屋に戻り、使っていなかったスチールラックを持ち出し、焚き火の上に立てる。
「即席って割には豪華なコンロ台ができたな」
川の水を入れた鍋に袋から出した水餃子を入れ、スチールラックの上に置いて沸騰するのを待つ。
ぐちゃぐちゃな部分は袋に入れたまま、輪ゴムで留めて漏れないようにしておく。
これも使い道はありそうだ。
鍋を見るとまだ沸騰はしていない。 揺れる炎と青い空に昇っていく白い煙はこの世界への烽火だ。
そうこうしている内に鍋は沸騰していた。 数分待ってから水餃子をザルに揚げ、常温になっていつ腐ってもおかしくないポン酢を今のうちに使っておこう。 ついでに水を追加し、融けたパスタも袋ごと火にかけている鍋に入れておいた。
皿に盛った水餃子にポン酢をたっぷり掛けて、玄関から室内に戻る。
ガラガラ・・・
リビングの窓を開き外に出るとそこにはウッドデッキがある。 ここでご飯を食べるのが好きだった。 部屋に匂いが残らなくて良いってのもあるが、今まで以上に開放的な景色がそこからは見えている。
おもむろにベンチとテーブルを準備し、外での優雅な食事を始めることにした。
水餃子を食べ終わったら鍋に戻り、パスタも食べた。
「ふーぅ、満足だ」
今はまだ10時だ。 風もほとんど出ていない状態で、雲ひとつ無い青空が広がっている。
今日は家から西へ行って水を汲みに行こう。
焚き火に薪をたっぷりと追加し、外に出る準備をする。
空の20Lポリタンク2つと一輪車、バックパックと石槍を持って行く事とした。
ポリタンクは、今は見るも無残(見ない事にしていた)な水槽用に使っていたものだ。
一輪車は庭作業等で便利だったので庭の倉庫に入れてあった。
敵に襲われると危険な為、石槍はすぐに使えるよう一輪車の持ち手と共に握っておく。
一輪車を押しながら進む森は正直しんどい。 だが20kgにもなるようなタンクを1つ持って進むのと、一輪車で40kg分運ぶのなら後者の方が効率良さそうなのでは?と考えた結果だ。
家から西へ森を突き進む。 木々の間をうねりながら進むので方角と歩数管理は重要かも知れない。 ただ、今回は空を見れば良さそうだ。 風の影響がほとんど無く、垂直に立ち昇る白い煙が家の方角を教えてくれる。 正直木々が邪魔でたまに隙間から見える程度だが、目安があるのは有難い。
1時間近く歩いただろうか、森から抜けて目の前には岩場が見えた。
岩場を越えれば川がある。 一輪車を停めて、2つのタンクを持って岩場を進んで川に辿り着いた。
一昨日に滞在した川と同じはずだ。 あの時はもっと北の方に拠点を構えてたはずだな・・・
北へ目をやると遠くの方に大滝が僅かに見えた。
川辺でポリタンクをまずはしっかりと洗う。 洗剤は持ってきていないが、元々水槽用の水換えで使っていたポリタンクなのだ。 カルキ抜き剤等々の薬液を使用しているのだから精神衛生上何度かゆすいでたっぷり40L分の水を確保した。
さっそく1つずつタンクを持って一輪車へ戻ろうと岩場を登り始めたが、川岸に黄色いっぽい物体が倒れている事に気づいた。
「ここは落盤事故の宝庫か?」
半ば呆れつつも、この川周辺は所々に5m程度の崖が転々とある。 俺は丁度谷を進んでここへ辿り着いたようだ。
また新たな食料かと川岸を南下していくと、イノシシ(?)とは違った50cm程度の生物が横たわっていた。
「きつねのような・・・でももっと可愛らしい・・・」
今のところ自分や森などの自然については、ゲーム世界のような感覚は無い。
現実と遜色のない緻密さで表現されている。 ここが現実世界だと思わずにはいられないクオリティなのだ。
だが・・・ イノシシ(?)もそうだったが、出会った動物たちはデフォルメが効いていてとても可愛らしいのだ。 襲って来ないなら飼いたい。 このきつねもとても可愛いし、もふもふしていたい。
そんな事を考えていると、きつね(?)が僅かに動いた。
まだ息があったようだ。 慌てて飛びのき、注視しながらも石槍を構える。
相手はイノシシ(?)よりも強い可能性がある。 警戒しなければ・・・。 きつねと言えば、火に関係した魔法のような物を使ってくる可能性すらある。。(異世界ならばきっと)
イノシシは物理で猪突猛進でも、きつねならば魔法・・・そんな考えが頭を過ぎった。
きつね(?)に立ち上がる力は無いようだった。
開かれた眼は虚ろで弱々しい。 とても無事とは言い難い状態である。
「・・・クゥーン・・・・・・」
弱々しい鳴き声を漏らし、その目は俺を見ているようだった。
広げた両手より少し大きい程度のサイズ感で、現実的ではない体と頭の比率をしていた。 全体的に淡い黄色の毛色で、頭からは大きな耳が生えている。 耳の中はふわふわの毛が生えていて、色も真っ白でとても綺麗だった。 頭の大きさに対し体は小さく前足も後ろ足もとても短いが、その足先には黒い肉球がしっかりと見えた。 その目は鋭く無く、真ん丸といった感じだろう。 今はまぶたが重いのか薄目を開けたような状態だが、赤い色合いをした目は泣いているようにも見えた。 一番目を引くのはやはり尻尾だろうか。 頭と体で50cm程度だが、尻尾も同じくらいの大きさで、とてもふかふかで空気を含んだ柔らかさを見た目から感じた。
(正直可愛すぎる。 というか俺にこれは狩れない・・・)
襲われる可能性も捨てきれない。
だが、襲われて食われても良いと思えるほどに目の前で横たわるきつね(?)に心奪われてしまっていた。
(こいつの餌となれるのなら、そんな人生でも良いかもな)
出来るだけゆっくりと近づき、そして想いが伝わる事を祈りながら呟いた。
「大丈夫だ、俺が助けてやる。 今はゆっくりと体を休めろ」
助けきれる自信は無いが、それでも俺はこいつを助けたいと思った。
バックパックから包帯と割り箸を取り出し、折れている様だった後ろ足に添え木をした。
アバラ骨や内臓がやられていたらどうしようもない。 しかし、イノシシ(?)と同じようならこいつにも骨や内臓と言う概念が無いかも知れない。 やれる事をやらずにここを立ち去ったら、100%後悔するだろう。 やりたいと思った自分の心に身をゆだねる。
(次は何が出来るか?)
もう一度きつね(?)をしっかりと見ていくと、痩せているように感じられた。
餌を求めていたのか水を求めていたのかは分からないが、何かを探して崩落に巻き込まれたのだと直感がそう言っていた。
(何があるか?)
バックパックを漁り、家に置き忘れたジップロックに入った肉の塊が目に留まった。
これ・・・にしてみるか。
ナイフで肉の塊を細かくミンチにしていく。
肉ミンチにした肉を更に丸い石で潰し、何度も錬るように磨り潰していく。
錬り込んだ肉を空にしたペットボトルに詰めていき、川の水を少し入れて液状の餌を作ってみた。
何が正解かなんて分からない。
あるもので思いついた最善を尽くすのみ!
きつね(?)に近づき、そっと顔に触れた。
先ほどまで目を閉じていたが、重いまぶたを少し開いて俺を見つめてくる。
「大丈夫だよ。 君が食べられるかは俺には分からないけど、それでも食べやすくはしてみた。 食べれそうだったら口を開けてくれないかな?」
きつね(?)はそれを聞いて目を閉じたようだった。
偶然なのだろうが、ゆっくりと閉じられていた口が開いていく。 俺は慌ててペットボトルをその口に近づけ、中の液状になった肉を飲ませていった。
辺りは少し薄暗くなっていた。 時計を見るとすでに16時を回っていた。
今から帰るのは道に迷うかもな。 家の敷地以外はどこも危険なのだろうから、こいつと一緒にいても同じだろう。
バックパックからテントを取り出し、手早く設営を終えると日が沈む前に焚き火を始めた。
夜は冷える。 こいつが凍えるかもしれない。 だから近くで焚き火をしている。
俺も自分用に肉を焼きつつ、時折開く口に肉液を少しずつ飲ませている。
今日がお互いに最後の晩餐となる懸念を持ちつつも、ゆらゆらと揺れる炎を眺めながらきつね(?)の容態を気にかけ続けた。
森は闇に染まり、月(?)と星の薄明かりが辺りを照らしている。
木々の影は黒くとても不気味だが、目の前で揺れる炎ときつね(?)を見つめ、徹夜する事を決め込んだ。
今は23時を回ったあたりだ。 寒さに耐えながら火を絶やさぬよう、薪をくべていく。
誘惑に負けてきつね(?)の尻尾を撫でてしまったが、嫌がられる素振りも起きてしまう事も無く、撫で続ける事が出来た。 この幸せを噛み締めつつ、闇に染まっていく川辺で日が昇るのを待ち続けた。
毎度のおやすみなさい。