25-5.弱さ(25日目)
「もう真っ暗!?」
別荘に来てこっそり練習をしていたら、今日は上手く出来てきた感じがして、時間を忘れて練習を続けてしまっていた。
既に約束の時間はとうに過ぎていることが明白。
陽はどこにも出ていないし、月明かりが出てしまっている。
「急がなきゃっ!」
私は慌てて別荘の玄関を開けて外に出ると、蔓の絨毯に足を生やしてサトシ達が待つ家へと走り出す。 冬の上空はすっごく寒い。 朝はまだポカポカしていたけど、冬の夜は寒い。。
風が直接当たらないよう蔓の絨毯に、前方から風よけを生やした。 風が流れなければ、十分耐えられる寒さだ。 サトシやアリアは、朝から服違ったから冬支度をしちゃったみたい。。 私だけ除け者なのかな。。。
「ぅぅんっ! 悪い事ばっかり考えちゃだめっ 今日は怒られるかもだけど・・・一歩前進できたし、もう少しの辛抱だもん♪」
サトシには約束を破った事で、怒られるし心配されるだろう。。 一人で行動するのはダメって言われるかも知れない。 それはのめり込んじゃった自分が悪いんだから。
あと少しだからって言っても・・・あっ! まだ秘密だったから言えないんだった。。
嬉しくてサプライズにならなくなるところだった・・・危ない危ない。
月明かりを背に浴び、私は急いでサトシの元へと向かった。
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「今日の晩御飯はアリアは何食べたい?」
俺の好物を取って来てくれたアリアへ何か返せないかと考えて思い付いたのは晩御飯だけだった。
「そうね・・・私はポトフが食べたいわ」
簡単な料理で有難いが、そんなもので良いのか? いや、何ができるかを知らないアリアにとっては、食べた事のある料理の中から選んでくれたのだろう。 寒くなっているし、スープ系は体が温まるしな。
「それじゃ、これから作るよ」
個人的には辛い物も好きなので、チゲ鍋とかも美味しい季節だ。 ただ、刺激物は好みもあるので、ポカポカしてくる程度に留めてポトフを作る事に決めた。 アリアが食べられることを信じて・・・
狼の肉から白い脂身を選りすぐって、火に掛けた鍋に入れていく。
ジュージューと音を立てながら脂身はキュッと縮み、鍋底に油が広がる。 食用油は貴重だが、野生動物から採取できる脂を使えば、今までより良いモノが作れる気がした。
油の中に醤油漬けニンニクと、唐辛子を1本入れて遠火で熱していく・・・
「良い香りだ・・・」
「・・・私はあまり得意では無いけどね。 でも、これが美味しいんだから不思議よ」
アリアは醤油漬けニンニクを炒め始めたあたりから、ずいぶん遠くへ行っていた。
良い香りだと思うんだがな。。。共感が得られないのは少し寂しくもあった。 気を取り直して、にんにくが焦げないようにゆっくりと揚げていく。 油に辛みが移り過ぎるのを避けて、唐辛子は抜いておいた。 これは後で俺が食べれば良い。
醤油にんにくによる深みある香りが辺りを包む中、俺は角切りのイノシシ肉を投入する。 周りを見渡すと、アリアは見えない壁ギリギリまで離れていた。 安全圏からは出ないようだったが、そこまでするなら家の中に戻っていた方がマシなのでは・・・?
「アリアー、部屋で待ってくれてていいぞー?」
「気にしなくていいわよー!」
う~ん・・・気にするなってのがこの状況から無理なんだがな。。。
匂いが治まってくればその内戻って来るだろうと、もう深く考えないようにした。
イノシシ肉の全面に焼き目が付いたら、じゃがいも5つとにんじん1本、大根も半分入れる事にした。 キャベツとか美味しいんだけどな・・・仕方ないので白菜を入れる事に。
水といつも通り、じゃがいもは皮つきをしっかり洗って芽を取って投入。
にんじんと大根は一口大で乱切りにする。 おっと、忘れてはいけない重要な玉ねぎも3玉を1/4の櫛切りで入れておく。 白菜は煮込んでいる内に嵩が無くなるだろうと、1/2を大きめに切って鍋に入れた。 じゃがいもと玉ねぎ、それと肉の旨味さえ合わされば大体美味しく出来るのがポトフの良いところだと思っている。 あまり物の野菜を気軽にぶち込めばいいし・・・
「今日のお鍋は山盛りね」
野菜が入ってにんにくの匂いに蓋がされたためか、アリアがかまどに戻ってきた。
「上に乗っているのは白菜だけど、煮込んでいる内に小さくなると思うよ」
鍋に乗せた蓋から、白菜が飛び出ているが今回は水が少なめなので、野菜の濃縮された旨味が出てくるだろう。 焦げないように遠火でゆっくり煮続けていく。 嵩が減ったら、蓋が出来る程度で追い白菜を繰り返して全部入れた。 水も追加で入れて焦げ付きは防ぎつつ・・・まだコンソメは入れない。
「もう鍋は落ち着いた?」
まな板の上の食材が無くなり、全て投入したので火加減の調整をしているとアリアが隣に腰かけてきた。
「ん~ せっかくだし、一度鍋を火から離して冷ますつもりだよ。 大根は特に味を染みさせたいしね」
重い鍋をアリアと協力して、かまどからアスファルトの地面へと降ろす。
ずっとかまどの前に居たので顔が熱く火照っていた。 冬の風の冷たさが心地よい・・・今はかまどの前よりも、周囲を散策したい気分だったが。。
「ねぇ、サトシ。。」
アリアは再びかまどの前に座り、俺を呼ぶ。
あー・・・これは行かなきゃまずそうだな。。 隣に座ってと空いた岩をポンポンと叩いている。
「どうかしたか・・・?」
何となく予想は着いたが、今の俺はあまりそういう気分ではなかった。 気付かないフリをして返した。
「何でも無いわ。 でもここに居て・・・」
隣に座ると、アリアは抱きつくようにもたれ掛かってきた。
かまどの前でコートを着続けるのも熱いので1枚脱ぐと、嬉しそうに抱きついてきた。
右腕をアリアの背中に回すと、そのまま脇腹に抱きつき直してくる。
俺はアリアの背中や頭を撫でていく。
さっきからアリアは俺の脇から胸にかけて顔を擦り付けてくるが、にんにくよりマシなのだろう。 匂いもだが、不安は大きくなっていく・・・求められているという事で正解か・・・?
過去なんて忘れたいのに。 アリアを大切だと考えているのに、それでも不意に過去を思い出してしまう。 それはアリアに対して不敬だと思う。 そんなままじゃアリアに応えられない・・・俺はそう考えている。
アリアは変わらず抱きついたままだ。
右手で触れる髪は土埃で汚れてしまっている。 投げ出されている足にもかさぶたや擦り傷が多い。 手の甲から腕にかけても同じだ。
アリアの手に自分の手を重ねると、いつものような柔らかさは無かった。 握り返してきたアリアの手のひらはカサ付いていて相当無理して来た事がうかがえる。
「無理し過ぎだぞ・・・」
アリアのの頬に触れながら、こっちを向かせる。
「・・・」
黙ったままアリアは俺の肩から首筋まで寄れるように身を寄せてきた。 すぐに唇を重ねられるような距離だ。 これ以上は危険か・・・? 体がアリアを求め始めていた。 まだ理性が勝っているが、その先へ2,3進めば後戻りはできなくなりそうだった。
「サトシ・・・今の私じゃ嫌?」
「違う、そうじゃない」
「カサカサだし、怪我しちゃったし。。。」
「違う。 アリアは魅力的だよ。 怪我も心配したけど、酷くは無いみたいだし良かった。 アリアのせいじゃないんだ」
「私は。。。好きよ。 こうしていたいし、サトシの匂いも好き。 サトシは嫌・・・?」
「嫌じゃないよ・・・俺だって嬉しい。 だけど、自分に自信が持てないんだ・・・」
アリアを傷つける事になったとしても・・・本心を話すべきだ。 一緒に居たいのに不安が消えないと。
「昔の彼女を不意に思い出す事があるんだ。 楽しかった思い出というよりも、昔同じことを言われたな・・・って感じでさ。 そうなると、アリアが居なくなってしまう不安が消えなくなる。 それに。。。一緒に居る事は楽しいけど、このままで居て良いのかも不安になるんだ。 俺はアリアに昔の彼女を重ねているんじゃないかって。 俺の世界では、結婚ってのがあってそれは男と女が一組になって、一生を過ごす契約みたいなもものがある。 子供を作って育てるのは、この契約をするのが多いんだ。。 俺は・・・アリアとの子供は欲しい。 でも、過去のしがらみに捕らわれたままの自分じゃ、アリアの気持ちに応えられる自信が無い。 俺はアリアを過去に重ねているんじゃないかって怖くなる。 こんな中途半端な俺のままで、今までのように欲求のままアリアにしていたら、いつか子供が出来た時に俺が父親で居られるか不安なんだ。。 俺は・・・子供のままだから。。。」
言葉が定まらないまま、ぽつりぽつりとアリアに俺の考えを話す。 アリアは俺の言葉が途切れるまで静かに話を聞いてくれていた。
「はぁ~・・・何か深刻な話かと思ったら・・・考え過ぎよ? ほら、鍋も冷めたみたいだし、再加熱よね」
「・・・? あ、あぁ・・」
アリアと冷ましていたポトフ鍋を再びかまどへ置いて再加熱し始める。 俺は、どうしたら良いか分からなくて茫然と立ち尽くしていた。
ぽんぽんっ
「ここよ」
かまどの前で座るアリアが隣を叩いていた。 座れという事か。
隣に座ってアリアを見ると、かまどの火を眺めているようだ。 俺も同じように熾火を崩しながら薪を追加した。
「さっきも言ったけど、難しく考え過ぎよ。 もっと体に正直で良いんじゃないかしら?」
「そうなのか・・・?」
自分の不安はそんな簡単に消えはしなかったが。
「結婚は・・・私達の世界にもあるわよ。 でも、サトシが考えるような世界ならきっと離婚の無い世界になるでしょうね。 その分、子供が生まれなくなって途切れちゃうだろうけど?」
「それはそうかもだけど・・・」
「もっと気楽に考えるべきじゃないかしら? 全く考えなくて良いって訳じゃないけど、サトシは考え過ぎだから」
「だけど・・・」
「だけどじゃないわ! 昔の人はサトシの前に今は居ないでしょ? そんな風に考えちゃうって事はそれだけサトシにとってその人が大きな存在ってことよ。 まだ私はそこに達していないってだけ」
「中々・・・簡単には考えられないな。。」
「・・・それと、何で結婚は1人じゃないといけないのかしら?」
「えっ?」
そう言えば、日本は一夫一婦制だが、世界に目を向ければそれ以外もある事は知っていた。 アリアもそのことを言っているのだろうか。
「1組だけって人も居たけど、それはお互いの考え方で良いんじゃないかしら? 当人の関係に他人が口出しする理由は無いと思うのだけど」
言われてみれば、何で一夫一妻制が採用されてたんだっけか・・・昔調べた記憶があるな。
確か・・・
性感染症蔓延の問題だったか? 不特定多数とする事が急激に性感染症リスクを上げてしまうと。 コンドームが無い時代なら尚更か。
なら現代ではそこまで問題にならないんじゃ? 俺は読みながらそう感じていた。
そしたら、コンドームでも防げないやつがあると書いてあって、どうしようもないじゃん!と憤ったものだ。
そして、いざ自分が性交を経験すると、意識は変わった。
盛り上がってしまうと、冷静では居られなくなる。 いかにする前から準備しておくかが重要だと。 それに付けずにやれるならその方がいいとも・・・。
如何にどちらか一方でも自制できるかどうかだ。。
最後に書いてあった事は一つ。 性感染症予防に最も重要なのは、性交をしないって事だ。
他には何がった?
一夫多妻制の時代は、女性の扱いが低かったと。 男女平等改革の一つが、一夫一婦制だった気がする。 性感染症の問題と男女平等の考え方から多夫多妻制ではなく、一夫一婦制を取らざる得なかったのかな。。
今や女性が働き、男性が家事を行うパターンも増えてきている。 なら、魅力的な女性が何人もの男性と婚姻関係を持っていても良いんじゃないか? まぁ子孫繁栄を考えると、男性は出すだけだから、子孫繁栄は簡単だ。 それに引き換え、女性の負担は計り知れない。 多夫一婦制では子孫繁栄は難しくなってしまうのは考えるまでも無いか。
この話をアリアにするべきかは悩む。
やはり俺は甘えたいだけか・・・自分が望む言葉通りのアリアの一言に俺も賛同するのだった。
「・・・言われてみると何でだったろうか。 確かにお互いの気持ち次第かもな」
俺の心は弱かった。 ごめん。。アリア
「そうよね♪ なら・・・嫌じゃなかったら受け入れて欲しいわ。。」
アリアがグイッと右腕を引っ張って、唇が触れそうになる。 このまま・・・
冬の夜は暗さだけじゃなく全てを冷やして、寂しい時間のはずだった。
そんな中で、かまどの熾火はオレンジ色に瞬き、ポトフの入った鍋を温めている。
それ以上に、密着し合ったサトシ達の火照りはピークを迎えつつあった。
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●生活基盤
・水 :スポーツドリンク:17本
空のペットボトル: 7本
ポリタンクの水 : 9L
浴槽の水 :250L
西,南の川で給水可能
紅葉もみじが魔法で生産可能
・食料:イノシシ肉:1.5日分
狼の肉 :3日分
ジップロック詰め肉:1つ
ペアーチの実:220個
じゃがいも:13個
ニンジン :7本
玉ねぎ :4個
大根 :1.5本
白菜 :1.5株
小麦 :8L
はっさく :12個
西の川でイノシシ亡骸から採取可能
森内のモンスターでなく獣からは採取可能な模様
・火 :焚火
紅葉もみじが魔法で着火可能
・電気:ソーラー発電(出力100V)
●家
・見えない壁で守られた場所:智司が触れている事で壁通過可能 ※一度通過後は出入り自由に
・敷地内:スチールラックを元にしたかまど
・部屋
・101室:俺と紅葉もみじの部屋
・201室:空室
・102室:空室
・202室:アリアの部屋
●取得物
・イノシシの大骨:1本
・イノシシの牙 :3本
・狼の牙 :3本
・狼の毛革 :1枚
・銀貨 :8枚
・銅貨 :12枚
・イノシシの卵 :中身:紅葉もみじが吸収
殻 :紛失
・小麦の種もみ
・狼の毛皮 :2枚
●マップ(自宅視点)
・北の大木
・北西の大滝
・西の川(石ドーム、物見櫓あり)
・北北東のペアーチの丘
・北東の熱い湖(間欠泉)
・南の川(露天風呂、別荘)
●主要人物
・結城智司:異世界転移(?)した主人公(33歳)
所持品:皮防具、剣
(盾破損中の為、身体能力向上なし)7
サバイバルナイフ
腕時計(ソーラー式)
メタルマッチ(ファイヤースターターともいう)
バックパック、方位磁石
魔法 :人物召喚?、毛穴操作
・紅葉もみじ:薄黄色の毛、紅目で喋る狐(?歳)
魔法 :火、水、土、植物属性適正判明
・アリア=ラピス:プラチナブロンドヘア、青目の貧乳エルフ(72歳)※見た目は14歳!
所持品:ジャージ(赤)
セーラー服(白半袖・白長袖)、プリーツスカート(水色)
Tシャツ(黒半袖・黒長袖)
ワイシャツ(白)
スクール水着(紺)
下着(水色縞)
魔法 :無し
・エイシャ=ラピス:赤髪、赤目の美乳エルフなアリスの母(540歳)※見た目は12歳!
魔法 :無し(※ゾンビ化)
※現状不在・・・
●調味料、嗜好品
・砂糖、塩、酢、醤油、味噌、みりん、酒、ニンニク、唐辛子、コショウ、山椒
・コンソメブロック:8個
・パセリ、青じそ(大葉)
・紅茶、インスタントコーヒー
・ペアーチ茶
●家具、家電等
・TV、オーディオ一式(100V)
・電気毛布(100V)
・充電器(エネ〇ープ用)
・懐中電灯(充電池式)
・ヘッドライト(USB充電式)
・ベッドサイド照明(充電池式)
・ランタン(充電池式)
・キャンプ用バッテリー(入力100V、出力100V,USB)
・USBモバイルバッテリー(入出力USB)
・こたつ(入力100V)
いやぁ・・・はっさく旨いですよねぇ。
ええ、分かってますよ。 苦みや渋みが強いやつなのでかなーり共感は得られないと。




