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25-4.黄色いの(25日目)

 「温かく・・・ならんな。。。?」

 毛布をめくって中を覗くと真っ暗だった。 これはおかしい・・・


 取り付け時に分解はしたが、単純な構造だし断線させてしまうような物でもないが・・・。

 こたつの中に頭を入れたままごそごそやっても埒があかんっ!

 天板と毛布を片付けてテーブルを引っくり返して再度動作確認をしてもやはり同様だった。

 流石に取り付ける前に動くか見ておくべきだったと、絶望が俺を蝕んでいたが・・・


 閃きは突然舞い降りた。


 「あ・・・安全装置か?」

 ハロゲンヒーターって、倒したりした時に火事を防ぐ為に安全装置が付いていたはずだ。

 単純に機器底面が床と接しているかどうかという。。


 結果は正解だった。

 底面から飛び出した棒状のスイッチがあった。 指で押さえるとヒーターは赤みを帯びて熱を生み出し始める。 指を離せばまた直ぐに冷えていった。


 俺は、アルミテープで底面のスイッチを押したままに固定しておいた。

 今度こそ完成だ。 セットし直して改めて電源を入れると今度はちゃんと温かく・・・って、あつっ!? 焦げるっ!?


 すぐさま電源を切って、再び毛布の中に頭を入れた。

 今度の原因は強弱調整のみだ。 考えるまでもない。 設定が強すぎたようだ。

 元々解放状態で使うことを想定した機器を、毛布で密閉していたのだから当然と言えば当然だったのだ。

 これを買った時は、要るか?と思っていたあまり赤熱しない最弱設定もこたつへの改造で日の目を見ることとなった。 確実に使用想定外の使い方だろうが、後は自己責任のみだ。


 「あー・・・完成だ」

 出来上がったこたつの温かさと、遅れてやってきた疲れで動く気力が失われていく。

 久々にこたつに入ったけど、やっぱりこれは良い物だな・・・

 このままだと寝てしまいそうなので、腕時計を確認すると17時を指している。 起きなきゃな・・・それに紅葉(もみじ)やアリアはまだ帰ってきてないのか?


 名残惜しいが、こたつから断腸の思いで抜け出すとコートを羽織って外に出た。


 「はぁー・・・」

 吐く息は白く、日が落ちて空は黒く染まり始めている。 白くモヤる息も冬を感じさせるな。 動いていたから体は温まっているけど、その内にしもやけに注意しないとまずいか。 末端冷え性なので、毎年のように痛痒い思いをしている。 この世界のことだ。 ガスや灯油での暖房には頼れない。 保温を主体にしていかなきゃな・・・


 日が沈み月明かりが出てくる前に、俺はかまどに火を付けた。

 紅葉(もみじ)もアリアも遅いな・・・

 パチパチと燃える炎を眺めながら、自分の無力感が大きくなっていく。


 俺は何をしているんだろうな?


 紅葉(もみじ)とアリアの3人で暮らす毎日は楽しい。

 この世界でまだ1ヶ月しか生活していないのに、何年も過ごしてきたような気がする。

 疲れるし・・・嫌になる事もあるけどさ。


 漫然と過ごせる世界じゃなくて、ここでは協力しなきゃ生きていけない。

 それが・・・繋がりになっているみたいだ。

 俺は料理や工作だけでも、必要とされているみたいだし。


 (ふぅー・・・)

 肌寒い1人の夜もたまには良いかもな。


 自分の事を考えられる。 今は与えられた仕事も無いし、本当に自由だから。

 だからこそ、何をするかを考える時間が大切だし、それが今後の結果につながるはず。

 何をする?と単純に考えるだけでは、先へは進めない。

 何故を掘り下げなきゃいけない。 より効率的に・・・余暇を楽しむ為に。 俺に求められているのは・・・戦闘でも無く、採集や狩猟でも無く、楽しい・・・幸せだと思える場所と時間の創出。 それが俺の立ち位置だと感じた。


 幸せ・・・か。

 俺の幸せって何だろうか。 何に嬉しい、幸せだと感じる?

 多分・・・1人の時間では無いだろう。

 俺の行動で誰かが笑う。 感謝される。 心配される・・・そんな状態に嬉しいと感じる。 もうちょっと頑張ろうと思えてくる。

 1人で空回りして自滅するような性格だと、自分でも分かってる。。

 でも・・・止められない。


 やった事は無いけど、麻薬もこんな感じなのかも知れないな。

 止められない事はいっぱいある。

 数日我慢したとしても、必ずまた繰り返してしまうことが。



 ねぇ・・・今、どうしているのかな。



 忘れようとしても忘れられない思い出が、言葉に出かかる。 口に出してはいけない気がする。 負けてしまう。 飲み込まれてしまう。 見ないように目を逸らしているから、永遠に意識し続けてしまっていた。


 俺は不安だった。

 紅葉(もみじ)はペットとして好き・・・アリアは童顔な少女で、肉体関係を持てる気持ち良さから好き・・・


 自分に自信がない。 自分の気持ちに自信が持てない。

 誰かを重ねてしまっているだけだと、代りの相手だと・・・相手に・・・人生を掛けれていないと。

 遊び相手としか見れていないと。

 ただの俺は野生動物なんだと・・・。


 アリアは俺を何度も助けてくれている。

 そんなアリアに好意を持っているのは事実。

 なら、その好意ってなんだろ?


 その答えはいつも出ない。

 子供の頃に燃えた恋ってのが今は眩しい。 がむしゃらに好きだと言えた。 それを表せるような行動を示せた。 今は・・・


 情けない・・・。


 年を取るほどに恋から遠ざかり、結婚のケの字も見えなくなる。


 アリアとの関係はこのままで良いのか? なし崩しで一緒に暮らし始めているが、夫婦になった訳ではない。 友達とも違うだろう。 なら・・・何だろうな。 こんな曖昧で良いのか?

 問題が起きなければ、今の距離感が楽で良い・・・それが許されるのだろうか。

 いつか・・・妊娠させるかも知れない。 こんな曖昧なままで、欲求に流されていて良いのだろうか。 子供は好きだし、アリアとの子供なら嬉しい。 だけど・・・こんな半端な気持ちで俺は父親を務められるだろうか?


 自信がない。 とことん悩んでしまう。

 結婚を決断するってすごい事だよ・・・。 会社の先輩方も後輩達も、俺はいつまでたっても子供のままだ。 皆大人に見えるのに俺だけは子供で。


 そんな葛藤もこの世界に慣れてきたからこそ、考えられるようになったか。



 ガサッ ガサ・・・ドッ・・・ガサガサ・・・


 突然見えない壁の外で、物音がした。

 すでに陽は落ちて、月明かりがアスファルトを照らしている。 森は光を遮り、その内を隠していた。 物思いに耽っていた俺も、一瞬で物音の方へと全神経を集中させる。

 (剣は・・・届きそうか)

 木材カットに使っていた剣は、薪山の横に置いていた。 森の方へ視線を向けたままゆっくりと横歩きを始める。

 (紅葉(もみじ)なら、蔓の足で走って来るだろうから違うはず。 アリアだと思ったが、さっきからガサガサ音は続いたまま、中々出てこない。 アリアでは無いのか・・・?)


 「アリアっ!?」

 

 フーっ、フフッー!


 「っ!?」

 俺の声に反応はあったが、言葉としては返って来なかった。 暗い森の中には光が入らず、何かが居るのは確かだが、その姿はまだ見えない。

 剣を拾い上げ、再びかまどの前に戻って構える。 敵が来ても見えない壁が守ってくれるはず・・・。 威嚇にしかならない今の筋力では、剣を構える事で精いっぱいだった。


 背の高い草が揺れ始め、ズルズルと何かを引きずる音が聞こえだした。 冷たい汗が脇から横っ腹を伝わっていく・・・

 ガチガチに固まった足や腕でこれから始まるだろう戦闘で動けるのだろうか?

 いやだ・・・死にたくないっ


 「あぁぁぁーーー!」

 自分を鼓舞する為に叫んだ。

 固まっていた腕と足の緊張が解けていく。 これなら・・・動けるか。


 冷静になれたところで、再び森の中を凝視する。

 月明かりを浴びている草も揺れ始めた。


 「フフフフ~!」




 「・・・」

 森からは、両手で枝を持って引きずってきたアリアが現れた。

 口にまで枝を咥えていた。

 そりゃ・・・喋れんわな。。。


 「おかえり、アリア」

 口に咥えていた枝を持つと、アリアはすぐに口を開いた。


 「さっきも言ったけど、ただいま。 遅くなっちゃってごめんね。 でも、それ見て!」

 アリアは、見えない壁の中に入ったところで手を放し、俺が受け取った枝を指さした。


 かまどの炎で枝はオレンジがかって見える。 オレンジ色の葉っぱに、オレンジ色の丸い球が付いている。 これがどうし・・・ってこれは、どうした!?

 慌てて枝からオレンジ色の球を千切ると、直径12~13cmくらいの実だ。 表面に凹凸は少なく張りのある・・・と言うよりも硬い感じをしている。 感触から、触り慣れている物の気がしたので慌てて懐中電灯を部屋から持って来てじっくりと確認した。


 「これは・・・はっさくか?」


 「あら? サトシはこれも分かるのね・・・なら食べ方も?」


 「あぁ、もちろん!」

 はっさくの皮は分厚くて結構固い。 爪を立てて剥くと爪が割れそうになる。 なのでハサミがあればお尻に切れ込みを入れてそこから剥いたりもするが・・・実のお尻にブスっと親指を刺し込む。 穴が開いたところで、実と皮の間の白く柔らかめな部分に実が少し潰れてしまう事も恐れずに力いっぱい皮をめくる。


 ブシュッ!


 目に入ったら痛そうな細かな汁が皮目から飛び散る。

 この汁には油分が含まれていて、爽やかな香りと肌がツルツルになるので、実家にいた頃は良くお風呂に入れていた。 新鮮な内に温泉の湯船に浮かべるのも良さそうだ。

 おっと・・・今は実の方だったな!

 皮が1か所でも剥けたら、後はこっちの物だ。 白い内側の皮に爪を立てれば5mmを超えるような厚みの皮も少しずつ剥がしていける。


 「あー・・・もう皮剥いちゃって。。。」


 「あれ? こうやって剥くんじゃなかったか?」


 「剥き方はそれで良いけど・・・まだ早いわよ。。」


 「そうか? かなり食べ頃な感じがするが・・・」

 懐中電灯で照らしたはっさくは、レモン色を通り越し若干山吹色が入り始めていた。 黄色いはっさくも好きだが、これくらいの色が最も美味しいと思うのだが。。。


 「まだきっと苦いわよ?」


 「そうなのか?」

 アリアの言葉は気にせず丸っと皮を剥ききり、実の周りに付いた白い筋を取っていく。 温州みかんなら無視できるが、はっさくの硬い筋や実の袋部分は取らないと食べ辛い。

 (取らずにそのまま食べるツワモノが居たなら、農家の長男として拍手を送ろう。 何を言ってるんだ俺は・・・)


 ぱくっ

 袋を剥いて、レモン色のシャキシャキとした実を俺は口に放り込んだ。


 「やっぱりうまいなっ!」

 アリアが何かを言っている気がするが、俺の耳にはもう聞こえていなかった。


 はっさくの実は、袋の中身も硬めだが一粒一粒の果肉が大きくて張りがある。 プチプチと言うのだろうか?一粒一粒の主張を感じる独特な柑橘類だ。 はっさくは実を潰さなければ、サクサクといった言葉さえ当てはまるような実質をしている。

 そしてグレープフルーツにも似た独特の渋みや苦みを持っていて、後味が爽やかな事が特徴だ。 まぁグレープフルーツの実は、はっさくほどしっかりとした実質はしていないが。


 個人的にみかんの品種の中でもはっさくは、酸味・苦み・そして甘味の調和が取れていて、後味が爽やかな事もあって、いくらでも食べれてしまう(個人的主観)


 この情熱からも分かるだろうが、俺は・・・果物の中で最も柑橘類が好きだ!

 子供の頃から温州みかんやネーブルオレンジよりも、はっさくやグレープフルーツを好んで食べていた。 レモンももちろん好きだし。


 実家が農家なのもあって、温州みかんやデコポンをはじめ、はっさく・甘夏・いよかん・きよみ・はるみ・レモン・ゆず・きんかん・・・苗木を作っていたのもあるが、かなりの種類の柑橘類が実家に植えてあったな。。 色々食べてはいたが、はっさくが一番飽きの来ない味だと思っている。 次点できよみかな。 あれはネーブルオレンジに酸味を加えたような中々の味わいである。

 そう言えば、秋の終わりから冬にかけて頻繁に温州みかんジュースを作っていた。

 10個の温州みかんを絞ってやっと500cc弱作れる生絞りジュースだ。 キャロットジュースのような濃いオレンジ色で、市販の100%ジュースなんて目じゃない旨さがある。 風呂上がりに飲むみかんジュースが好きだったな。。 数百個レベルで温州みかんが実っているから出来る食べ方だろう。 あれは農家の特権だったと今でも思う。 一人暮らしを始めてからも、冬場は良くみかんを貰いに行ってたな・・・


 「はっさく愛・・・違うわね、柑橘愛が凄いね・・・」


 「え?」

 不意にアリアの呆れ声が耳に入った。


 「心の声が口から洩れてたわよ・・・私には苦いからまだ追熟を待つつもりだったけど、サトシがそんなにも美味しそうに食べるんだから。 重かったけど、採ってきて良かったわ」


 はっさくから意識がやっとアリアに向いたが、その手や足には擦り傷が出来ていた事に気づいた。

 「アリアッ!? その怪我は・・・」


 「だ、大丈夫よこれくらい。 ちょっと棘がね?」


 そう、はっさくにはドデカイ棘が枝から生えている。 不用意に手を入れれば、簡単にミミズ腫れになってしまう。 アリアは苦労してこの実を取って来てくれたようだ。

 「ごめんな。。 それと、はっさくありがとう。 俺の大好物なんだ。 すっごく嬉しいよ」


 「まだまだいっぱい実ってたわよ。 高いところに実ってたから、矢で枝ごと落とさないと取れなかったけど、紅葉(もみじ)ちゃんなら何とかできそうね」


 「場所を明日教えてくれないか?」


 「ふふっ、ほんとうに好きなのね。 ちょっと妬けそうよ。 そう言えば紅葉(もみじ)ちゃんは?」


 「まだ帰って来てないんだよ・・・陽が沈む前にはって約束だったんだがな。。」


 「紅葉(もみじ)ちゃんの事だし、問題ないとは思うけどね。 もう少し待ちましょうよ」


 「・・・そうだな」

 俺は食べかけのはっさくを平らげる事にした。 一切れアリアに食べさせたが、少しかじって涙目になっていた。 苦くて美味しくないらしい。 ペアーチみたいに甘い物が好きなようだった。

あー体がだるい。

明日金曜は所定休日だけど、休日出勤(`・ω・´)ゞ

そして土曜日も出勤・・・


ゴロゴロしたい。。

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