25-3.冬支度(25日目)
フードを被せたアリアは、ワナワナと震えている。
只事では無さそうだ。 エルフにとって、頭を隠すのはご法度なのか? いやそんな訳・・・
「サトシっ! 耳が温かいわ♪ すっごく温かいわ♪」
「お、おう・・・それは良かった。。」
世紀の大発見でも見つけたように、アリアは目を輝かせている。 フード何て、布を被せるだけの事では? 当たり前のように存在していたから、驚くような発明に到底思えない。 アリアの喜びに俺はたじたじだった。
「私達って耳がサトシより長いじゃない? だから、寒くなると痛いのよ。。 毛皮で耳カバー作るのが冬支度の1つだったんだけど・・・こっちの方が簡単で良いわ♪」
「でも、視界が狭まるから耳当ての方が良いんじゃ?」
そう言えば、幼少期に俺も耳がしもやけになって笑えたと母親に言われた事があったな・・・。 エルフはそんな状態が毎年か。 耳長いし尖ってるし血流悪そうだもんな、エルフらしい苦労があるようだ。
「うーん、でも耳カバーだと聞こえ難くなるのよ。 フードは顔も温かいし、聞こえ難くも無いわ。 あ、サトシおならしないでよね?」
「・・・」
すかしっ屁でゆっくりと放屁したんだが。。
「匂いもだけど、ちゃんと音で聞こえるんだから問題ないでしょ?」
「あ、あぁ・・・」
おちおち生理現象すら出来ないようだ。 紅葉もだか、そんなに嗅覚と聴覚が優れてるなら、俺は大丈夫なのだろうか?
腕を上げてクンクンと脇の匂いを嗅ぐが、これといった悪臭は感じない。 分からん。。 自分の体臭には疎いし仕方ないか。。
「私はサトシの匂い嫌いじゃないわよ。 嫌だったら一緒に寝たりしないから。 安心してよ」
クンクンと嗅ぎまくっていたのでアリアに苦笑されてしまった。
ぐぅ〜〜〜・・・
俺のお腹が大きくながーい音を立てた。
「あ・・・」
「あははっ! 何よその音、ぷっ! 我慢し過ぎなんだからもぉ」
「流石に腹が減ったよ。。 朝御飯にしようか」
時計は10時を指そうとしていた。 あっという間にお昼ご飯の時間だろう。 昨日もほとんど食べて無かったからなぁ。
「何にする?」
「んー、手抜きだけど焼き肉かな。 がっつりした物が食べたいよ」
「私も賛成ね」
「私もー♪」
焼き肉と聞いたからか、紅葉が玄関を開けて外に出てきた。
「紅葉、おそよう」「おはよ、紅葉ちゃん」
「まだ寝てたいけどね~ 今日は寒いね~・・・」
紅葉はかまど前に座っている俺の膝の上に乗ると、また丸まってしまった。
「ぽかぽか~」
「幸せそうだな・・・でもこれじゃ焼肉出来ないぞ?」
「っ!? アリアの所へ行く~」
ぴょんっとアリアの膝の上に乗り直して、紅葉は再び丸くなる。
「サトシ、ごめんなさい。 手伝えそうにないわ・・・」
おい、アリア。。。 満面の笑みで紅葉撫でながら言われても全く罪悪感が見えてこないぞ。。。
「はぁ~・・・しゃーなしか」
「えぇ、仕方ないわね。 ねー紅葉ちゃん♪」
「ぽかぽか~♪」
役に立たない2人を置いて、俺は朝食の準備に取り掛かる。 毎度の焼肉だ。 切り分けてある肉の山から肉塊を持ってくると。まな板の上で切り分けていく。 腹が・・・どうしようも無く空いている。 切りながらも涎が止まらないので飲み込み続けている。 体がカロリーを欲していた。
欲するまま大量の肉を焼き始めると、紅葉もアリアも動き出してきた。
「サトシ、焼けた~?」
「まだだぞ。 先に俺に食べさせては・・・」
「あげな~い♪」
紅葉の無慈悲な一言に俺は膝をついた。
「ほら、お腹鳴り続けてるだろ? 腹ペコでやばそうだろ?(´·д·`)」
「私、昨日頑張ったもーん! サトシが無事だったからホッとしたらお腹空いたもんっ」
「ぐっ・・・俺の敗けかぁ」
争ったって時間の無駄だ。 ここは引いて、俺の肉もさっさと焼こう。
争い事は苦手だ...自分が引いて済む事なら俺はそれを受け入れる。 そんな考え方を逆に怒られた事もあったな・・・
女性にほんと色々言われてきた過去はあっても、それを変えようとも、戦おうともしない。
成長しないってのはこんな部分にも現れているか。
「紅葉ー、塩で良いよな?」
「うんっ! 焼いてくれてありがとう♪」
先に食べさせる為に肉を渡すと、紅葉から気持ち良くお礼が返ってきた。
諦めで肉を焼いていたが、こんな風に言われては・・・腹は減っていても心が満たされていく。
「いいよ、紅葉が喜んでくれるから俺は頑張れるよ」
「そう? もっとわがまま言ってもいいの?」
「んー、俺が元気ならね?」
「はーい♪」
「もちろん、私も良いわよね?」
「も、もちろんだよ・・・」
紅葉だけでなく、アリアもわがまま言いたいと・・・まぁ、気分が良い時なら構わないんだけどな。。 面倒臭いと投げやりになった時に重ならない事を祈るしかないか。 アリアはその辺感じ取ってくれるかな。
「何で、私にはどもるのよっ!」
「気のせいだよ。 アリアにもいつも感謝してる。 もっと甘えてくれれは良いし、ワガママにも付き合うよ」
「約束よ?」
「あぁ、分かった」
紅葉はモグモグと塩で味を付けただけの焼き肉を頬張り続けている。 焼いたそばから減っていくので、中々俺とアリアの分は回ってこなかった。
「ふぅ~ お腹いっぱ~いっ♪ ちょっと別荘の方行ってきてもいい?」
「危なくないか?」
俺は自分達の肉を焼き始めながら、単独行動を望んだ紅葉を心配した。
「昨日の方法で行くから直ぐに着くし、帰ってこれるよ!」
俺が意識失ったアレか。。 良く分からない内にベッドで寝てた件だろう。 止めるのは・・・最弱の俺には無理か。
「夕方には帰ってくることが約束できるなら良いよ」
「うんっ、約束!」
アリアの膝から紅葉は降りて、森へと入って行くと巨体な蔓が伸びて走っていってしまった。。。 紛れもなく四本足で走って行ったのだ。。。
「朝から慌ただしいな・・・」
「朝というより、もうお昼になっちゃうけどね」
時刻は11時を回っていた。 やっと俺とアリアの食事が始められるのであった。 紅葉が持ってきた肉塊はすべて食べきっていたので、俺達は狼肉を食べてみることにした。
「結構いけるな、これ」
犬系統の肉を食べるのは狂犬病大丈夫かとか、倫理的にグレーじゃ?とか色々思い浮かんだが、躊躇なく食べ始めたアリアにつられ、俺も食べてみた感想は普通だった。 ちょっと肉質が硬いとか脂のノリが悪いってのはあるけど、美味しく食べれる。 狼肉だと言われなければ、店に出てきても全く気づかないだろう。 ただの赤身肉である。
「私達はよく食べてたし、食べられるのは当然よ。 じゃなきゃ手間がかかる解体なんてしないわよ」
「ごめんごめん、狼なんて初めて食べたからさ」
「でも、これからの食事を考えるとお肉も野菜も残りが心許ないわよね。。。」
「だなぁ。 それと冬支度の方はもう良かったのか?」
「私の分は大丈夫よ。 これ私が貰って良かったのよね?」
「もちろん。 なら・・・紅葉の分だけか」
アリアの同意も得られたので、足りない冬支度は紅葉の分だけとなった。
何を作るかと問う前に、アリアは狩猟と採集してくると言ってすぐに森へ行ってしまう。
「あー・・・ひとりか」
紅葉にも何か作るか渡さないと後々まずいよな。。 怒られる未来しか見えてこない。 でも、たくさん空気を含んだ毛に覆われているのにこれ以上何が必要だろうか。 焼き肉の後片付けをしながら考えることにした。
まず、屋内で使う物は求められていないだろう。 屋外で温かく過ごせる物が必要なはずだ。 ただし、断熱をする上で必要な事は空気の層をどう作り上げるかだ。 羽毛や毛皮を人が利用するのは、それが軽くて断熱性が高い事を知っているからだ。 自前の毛を持っている紅葉に必要な物は論理的に考えたら無い筈だ。 そもそも野生動物は屋外で生活しているのだから。 もちろん穴を掘ったり枯れ草を集めたりはするかも知れない。 でも、それは寝床の意味合いだろう。 答えは見つからなかった。
なら・・・感情的に考えてみるか?
アリアや俺が冬支度をするのに、紅葉だけ何も無いのは悲しい。 そんな気持ちにはなるだろう。 そして、既にアリアや俺の見た目は冬服に変わってしまっていた。 見た目が違うのだ。
俺達は、温かさを求めて服を変えた。 結果として、見た目に変化が生まれた。
紅葉が必要とするものは、見た目が変わる事ではないだろうか? 温かくなればより良いが、俺達と共に見た目を変える事が重要だと判断に至った。
正しいか俺には分からないが、アリアも紅葉もここには居ない。
(やるだけやってみよう)
案としては2つ。
スカーフかマントみたいな感じで首を支点に布を付けるか、手足を通すような服を作るかだ。
正直後者は俺が動物だったら、服は邪魔と感じるだろ・・・いや? 紅葉とは言葉を介し意志の疎通が完璧に出来ている。 知恵の林檎を食べた物語のようにもしかすると羞恥心があるかも知れない。 ただの動物の括りでは考えてはいけない筈だ。
さてどうしよう。。
正直服は作るのが難しそうなので早々に案から外すつもりだったが、もしかしてしまう可能性が高いぞ? 代替案が必要だな。。
スカーフ作成しつつ、それだけで終わらないサプライズ的な何かを。。
紅葉が好きな事と言ったら、ゆっくり寝ることだろう。 温かい布団が好きだし、電気毛布も気に入っている。
(ん? ベッドだけじゃなく・・・あ、こたつ気に入りそうだな)
発熱方法は・・・確かウォークインクローゼットにあまり使わず片付けたハロゲンヒーターがあったな。
あれを使ってこたつを作るか。 冬といえばこたつ・・・かさばるから買わなかったが、今はアパートの4部屋が自由に使える。 新たにこたつ部屋を作っても良いのでは?
スカーフについては、くたびれていた茶色いフリース生地の服を裁断して、赤い糸で端をステッチ縫いしていく。 子供用の涎掛けの形状になったがまぁ・・・問題ないだろう。 後は、紅葉が帰ってきたら首周りに合わせてスナップボタンを付ければ完成だ。
次は、こたつの製作に取り掛かかる。
時刻は15時を回っていたが、無心にチクチクと裁縫していたサトシは気付いていなかった。 紅葉もアリアも外出中で、誰も止める者は居なかったのだ。
こたつと言えば、基礎のテーブルと発熱体と断熱性をもった布を被せること、後は絨毯が敷いてあればより良くなるかな。
絨毯素材は、毛皮が使える。 使いやすい四角に裁断・・・結構切りにくいなこれ。。 毛がハサミに絡まるし、革にも独特の弾力があって中々指が痛くなる。 それでも作ることの楽しさが凌駕する。
(これは、後でぐったりするやつだな・・・)
何度となく繰り返してきた経験が蘇った。
四角く切った4枚の毛皮をタイル状に置いたが簡単にズレてしまうので、それぞれに千枚通しで下穴を開けて、糸で縫ってみた。
まだズレるが・・・4枚分で、俺達3人程度なら入れるだけの絨毯ではあった。 テーブルを置けば、問題なさそうか。
テーブル製作には、木材が必須だ。 薪用に木材はいっぱいあるし、丸太のまま放置しているものもある。 天板も問題なく作れるだろう。
「剣・・・こんなに重かったんだな。。」
柄を持つと到底片手では振れない。 両手で持ち上がるが何度も振りたくは無い。
日が傾いていることに今頃気づくが、作業工程も半分くらいだ。 明日の作業にせずやれるだけやり切る意気込みで、丸太を剣で板状に、テーブルの足や補強材としての棒も切り出した。
次は組み立てだ。
業務用で買っている木工用のコーススレッドの在庫と、蓄電池と電動工具を持ち出して組み立てていく。 以前だったら、ノコギリで切ってヤスリがけして・・・かなり時間のかかる準備が必要だった。 でも・・・剣での断面はとても滑らかで切断面の毛羽立ちもない。 角部のR加工は難しいが何度か面取りさえすれば簡単にツルツル表面の木材加工ができてしまう。 いつも薪にするには勿体ない程の木材だったのだ。 まぁ、そのせいで火が付きにくくもあるだろうが。
まずは絨毯に合ったサイズの天板を狙って、足の枠を組み立ていく。
□を作って・・・四隅には、/の梁を入れて・・・
中央を貧弱じゃ駄目だなと田のように十字に部材追加して・・・
中央には、ハロゲンヒーターを固定する。 バラしてしまえば発熱部と外装のみの簡素な作りなので、ネジ止め用の穴を開けて固定すればほぼ完成だ。 後は足・・・
グラつくのは嫌なので、太めの木材を準備していたので四隅にに1本ずつ多めのネジで固定する。 ひっくり返して立ててみると、グラついた。 そして水準器を当てると水平も出ていなかった。
まずは足の固定優先かな。
太めの足でも駄目だったので、補強は三角材を追加した。 足それぞれの足を繋ぐ補強材を入れれば良いが、そんな事をしたらこたつに入る時にすんなり足を入れられなくなる。 そんなこたつは嫌だった。 妥協できる範囲で補強しつつ、グラつきを無くしていった。
「よしっ!」
完成したテーブル部分をウッドデッキ側から窓を開けて部屋に運び入れてから、毛皮の絨毯に乗せた。
「あー、腰が痛てぇー。 でも、あと少しだ。。」
押入れから毛布を引っ張り出して掛けると、テーブルはすっぽりと覆われた。
最後に天板を置いて毛布を押さえれば・・・こたつの完成だっ!
早速蓄電池に繋いで...
「スイッチON!」
ハロゲンヒーターの良いところは直ぐに暖かくなるところだ。
ヒーターが赤熱して、お手製こたつの中は直ぐに温まる・・・はずだった。
新幹線に乗りながら打っていたら、乗り物酔い&花粉症の薬が切れてきたっぽいっ!
やばいよ、やばいよ! 鼻から滝がっ!




