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24-4.秋の終わり(24日目)

紅葉(もみじ)の活躍で家に帰ることが出来たが、サトシは意識不明に。。

 目下に目的の家が見えたところで、私は楽しかった歩みを止めて後ろを振り向いた。

 「到着だよー!」


 「はっやーい! 紅葉(もみじ)ちゃん、ありがとう♪」


 アリスの歓喜と感謝が帰ってきたが、求めていたサトシの反応が無かった。


 「あれ? サトシ・・・?」

 アリスの背後に丸くなって倒れたサトシが見えた。


 「っ!? サトシっ、どうしたの!?」

 ぐったりとしていて、顔色も良くない・・・。 息はしているみたいだけど、反応が無いし目も閉じたままで意識が無いみたいだった。


 「ア、アリスっ!? 何があったの!?」


 「ご、ごめんなさい。 私も分からないわ・・・さっきまではしゃいじゃってて・・・」


 「そ、そうだよね・・・楽しかったよね。。」


 「もちろんよ! サトシに何があったのかは置いといて、まずは降りましょう。 寝かせるべきだわ」


 「・・・そうだねっ」

 私は伸ばしていた足をすぐさま縮ませ、玄関付近に降りた。 急いで降りたから体がフワッと浮きそうになったのは面白かった。 サトシも元気だったら一緒に楽しめたはずなのに・・・


 「やっぱり・・・無理してたせいかしら。。」


 アリスは、荷物を全部持たせてしまった事を悔いているみたい。 それが原因だった可能性はあった。 あんなにも汗かいてぐったりしていたし。 でも・・・それは私だって同じだろう。

 「アリスだけじゃないよっ! 私だって、別荘を出発する時にこうすれば良かったんだもん。。。」


 やるせない気持ちが膨らむけど、今は自分を責める場合じゃなかった。

 「早くサトシを運ぼう!」

 家の中まで、蔓で運ぶのは無理だった。 サトシを蔓で絡めて、玄関から入れ込む事は出来そうだけど今はそれが正しいとは思えなかった。

 サトシは、アリスにベッドへ運んでもらうことにする。 最後の最後で、私は役に立てなかった。


 「サトシ・・・大丈夫かな・・・?」

 アリスに引きずられて、サトシはベッドに寝かされている。 顔色は良く無いまま・・・弱弱しい呼吸が私に恐怖を与えてきた。 サトシと離れたくない。。 このままさよならなんて嫌・・・

 段々と視界が揺れて、前が見えなくなっちゃった。。


 「大丈夫・・・そう信じるわ。 私は諦めないわ。 ちゃんと元気になってくれるわよ!」


 「アリスは・・・強いね。。 私怖いよ。。。」

 目からは涙が流れているみたい。 こんなにも不安になったのは初めてかも。。 ホブゴブリンとの時は・・・死闘だった。 取り残されるなんて考えは無くて、死ぬ時は一緒。 生きる時も一緒。 そんな強い想いで戦ってたからこんな気持ちにはならなかった。


 でも今は。

 私は元気・・・。 でも、サトシは・・・。 私はぐったりとしたままのサトシの頬を舐めた。

 何度も何度も舐める・・・くすぐったいってサトシが起きてくれる気がしたから。。

 私の事、また撫ででくれるはずって・・・


 しょっぱいよ。。 サトシの汗は引いているのに。。


 「紅葉(もみじ)ちゃん・・・今日は、このまま休もうか」


 アリスが私の頭を撫でて、そんな事を言ってきた。

 こんな状態のサトシを放って、休むなんて考えられないっ! そう抗議しようと思ったけど、アリスは服を脱いでサトシと一緒のベッドに潜り込んで抱きついていた。

 「アリス・・・?」


 「体冷えてるみたいだし、温めてあげたいの。 それに・・・サトシが起きたら恥ずかしがりそうじゃない?」


 「恥ずかしがるかな・・・?」

 私もサトシとくっついていたい。 迷惑になるかも・・・その思いが中々捨てられなかったけど、強引なアリスに負けたくなかった。 アリスばっかりずるいしっ!


 「大丈夫、大丈夫よ・・・。」


 アリスはそう言いながら、布団の中で何かをまさぐっているみたいだった。 何かあるのかな?

 でも、私はサトシの顔の近くに居たかった。

 しっぽを使って、首元を温めてあげられるように密着した。 呼吸は安定しているみたいだけど、目はまだ覚めていないみたい。。 サトシ・・・早く元気になって。



――――――――――――――――――――――――

 「あー・・・空を進む事になるなんてなぁ」

 今、俺は空を飛んでいる。

 目を閉じようとしても、視界が暗くならない。

 手で顔を覆っても、体を丸めてみても・・・視界はクリアで木々の上空を飛び続けている。

 不思議と風圧を感じないし、俺に飛行能力なんてもちろん無い。


 これは夢なのだろう。


 延々と広がる緑や赤に黄色が鮮やかな地上と、青色の天界の狭間を流れるままに飛び続けている。 飛ぶというよりも、飛ばされている・・・が正しいか? この飛行は俺の意志が全く反映されない。。


 夢から覚めるまでこのままなのだろうと、諦める他無かった。

 飛んでいるのは怖いけど、風を感じないのが救いだ。 それに加速や減速も感じないので目に見える恐怖のみ。 怖い事は事実でも、何一つ俺には打開策が無い。 せめて視界が遮れればな。。


 飛び続ける事に諦めた後は、他のことを考える余裕が生まれてきた。


 「はぁー・・・分かってはいたけど、これからが心配だな。。」

 盾の破損で、身体能力アップが得られなくなった事だ。

 戦闘面の問題もあるだろう、だがそれ以上に生活面での問題が顕著だ。

 紅葉(もみじ)の魔法に頼る事になった理由も、荷物を運べなかった俺が原因だ。 それに、木々の間を縫って歩くより見晴らしの良い上空を進んだ方が、進行速度も速いし、敵に遭遇するリスクすら低い。 いいことづくめだ。

 もし俺の身体能力が上がったとしても、それらメリットを上回る事は不可能に思えた。 心配の種は、無限に湧いてくるようだ。。


 「やっぱ俺は要らない存在かなぁ・・・」

 戦闘は紅葉(もみじ)やアリアが居れば何とかなるだろう。 移動や建築も紅葉(もみじ)が居れば万事解決。 食料面もアリアの採集や狩猟でなんとかなってしまう。


 俺は・・・小麦作りか? 小麦粉を作る為の臼を持ち上げる事も出来ないような俺だが。。 きっと、紅葉(もみじ)の魔法で手助けが必要だろう。 料理も今の食材で出来るバリエーションも大して思いつかない。


 今後の俺の役割は、料理しかないのかな。。

 せめて戦闘くらい・・・前線として在りたかったな。。


 俺を除いて2人は遠距離要員だ。 正直、紅葉(もみじ)に関しては近距離も遠距離もどちらだって可能だろう。 だが、魔法使いや弓使いというゲーム的な考えでいくなら、遠距離メンバーしか居ないチームだ。 一撃ですべてを終わらせれるなら悩む事は無かっただろうが、ボブゴブリンとの戦闘のように耐久力のある敵には、前衛の存在は欠かせない。 ハメ技的に逃げ打ち戦法だけってのもな。。


 そんな中、ただの村人がパーティーに居てもなんの役にも立てそうにない。。


 希望が・・・無いや。。


 飛ばされるまま、ボーッと青色の空を眺めているとふと、月に目が止まる。 そう言えば、ここには2つ月が出てたんだっけか? 最初の頃に気づいてはいたが、気にすることじゃないと忘れていた。


 落ち込んでいた思考は、好奇心に染まりはじめる。


 薄暗がりの空に浮かぶ白っぽい月は、観察してみるとそれぞれの大きさが違うようだ。

 1つはウサギが餅をつくような柄をもった物、もう1つはただの白い丸だった。 月と・・・玉? 意味が分からないが、天体らしいクレーターや岩肌のゴツゴツ感が皆無なのだろうか。 ガス天体という可能性すらあるが。。


 そんな物が存在していたら、間違いなく発見されているはず・・・

 ここはやはり現実世界では無いようだ。 まぁ、分かり切っていることだが。


 「あっ、流れ星っ!」


 月を眺めていたら、空に一筋の線が入った。 線はすぐさま消えたが、流れ星なんて見るのは久々だった。

 子供の頃は、星に願いを・・・とかやったなぁ・・・。

 夢がいっぱいだった子供の頃が思い浮かぶ。 そう言えば神なんて信じてないけど、困った時だけはどうしようもなく祈りたくなるよな。。 信仰心の欠片もない俺にご利益なんて・・・と思っても、俺は星に願い事をしてしまった。

 (仲間を守れる力が欲しい。 せめて強化されていた身体能力くらいは。。 どうか神様っ!)

 妥協しているようで、かなり欲張りな事を願っている。 それでも、祈るだけで何だか心が軽くなった。


 ・・・

 ・・・・・・か・・・しに・・・どう・・・か?・・・


 「ん? 何か聞こえたような・・・」

 声が聞こえたというより、自分の頭の中に他人の意思が入り込んだかのような不思議な感じがしてきた。 その声は消えるどころか次第にはっきりとした物に・・・




 《・・・これは、どうするべきか・・・》


 《神様、このままだと崩壊しちゃいそうですよ! 手を加えないとっ!》


 《いや・・・まだ大丈夫では無いか? その内に起きるだろう》


 《いやいや、この人弱過ぎですよ!? 高所で泡噴いてそのまま死ぬって可能性高くないですか!?》


 《だが、まだ意識はあるし様子見だろう。。。》


 《生きる気力失い始めてるみたいですし、やる気出させるべきですって!》


 《安易に助けるのも違うんじゃないか・・・?》


 《それならー・・・アドバイスくらいは良いですか? 大切な世界の一つですし・・・》


 《もう一つがあると言っても、どっちも問題はあるし、このまま崩壊するのは避けたいか。。》




 良く分からないが、どうも俺の事を話しているような気がする。

 高所恐怖症の事を、活発な声の女性に馬鹿にされている感がとてつもないが、ごもっともなので言い返せやしない。 というか言い返せるのか?

 もう一人は落ち着いた男性のようだ。 そちらは、何かを躊躇っているようだが、俺にやる気をってどういう事だ? それに俺はやっぱり生きているのか? 話の流れから、このままだと死ぬとか言われているし・・・


 (あのー、神様ですか?)

 頭の中に入ってくる声に話しかけてみようと、伝えたい言葉を思い浮かべる。

 (聞こえませんかー?)


 《・・・っ!?》


 《か、神様! 何か声が聞こえませんでしたか!?》


 《静かにっ  ゴンッ!》


 (あのー・・・聞こえてますよね?)


 《・・・》


 (俺って生きてるんですか?)


 《・・・》


 (俺は死んでるんですか?)


 《・・・・・・》


 あれだけ頭に入り込んできた声はピタリと止んでしまった。 警戒されて、通信遮断みたいな状況も無いとは言えない。 でも、何かしら干渉しようとしていたのは確かだ。 アドバイス・・・に期待して次の言葉を選ぶ。

 (俺に戦えるだけの力を下さい。 盾が直るだけでも十分です。 お願いします。)


 《・・・》


 またダンマリか。 本当に遮断されてしまったかも知れない。

 話しかけなければ良かったか・・・そう諦めかけたとき・・・


 《日々・・・川を調べろ》


 唯一その言葉を残して、以後俺の問には一切の回答が得られなかった。


 毎日川を調べるってどういう事だ?

 川なんて知ってる限りでもかなりの長さがある。 闇雲に探せということか・・・?


 川のことを考えていると、飛ばされ続けていた緑と青の視界が白い輝きに変わりだす。

 眩しいが目を閉じることもできず、そのまま光に俺は取り込まれていった。




 「・・・ここは・・・?」

 視界はさっきの輝きが嘘のように暗く、温かく柔らかい。

 左頬から首にかけてふさふさの毛で包まれている。

 右腕には瑞々しく吸い付くような肌の感触がある。


 紅葉(もみじ)とアリアだろう。

 いつの間にかベッドに寝かされているようだった。

 (ありがとな・・・)


 微睡みから覚めていくにつれて、下半身がもぞもぞしだした。

 ・・・俺の太股にアリアは足を絡めている・・・?


 さながら俺はアリアの抱き枕だ。 妙にアリアの柔らかさがダイレクトに伝わってくる。。

 足を解こうにもガッチリとホールドされているので、抜け出せ・・・


 ちょっと待て。

 何か愚息がスゲー気持ちいい・・・


 気付いてしまってからは、抑え込むことのできない衝動が膨らんできた。


 (だめだ、だめだぞ・・・俺。 落ち着け、落ち着くんだ。。)

 冷静になろうと思っても、体は刺激に正直である。


 研ぎ澄まされた感覚が、愚息を握るアリアの手を!

 俺の太股に、絡みついたアリアの太股を!

 太股の横に当たっているプニプニとしたアリアの下腹部を!

 右腕を包むささやかな双丘を!

 肩から首にかけて感じる生暖かい吐息を!


 全身が性感帯になってしまったようだ。 顔は火照り汗が滲んで、思考も単純になっていく・・・

 人から野生動物へと・・・


 「アリア・・・起きてるか?」


 すぅー・・・すぅ・・・


 (ちょっ、待てよっ こんな仕打ち・・・)

 定期的な呼吸音が聞こえてくるだけだった。 その度に肌に感じる吐息が理性を破壊してくる。

 「アリア・・・起きてくれ。。」

 空いている左手で、アリアの手を握り愚息から離すのでは無く、無意識にゆっくりと上下にしごいてしまった。 


 それでも呼吸音に変化は無かった。

 触れたい、したい。。 その思考がぐるぐると濁流のように回り始める。


 だが・・・してはいけない。

 意識が不意に戻って、握ってしまった手を離す。


 アリアなら・・・行為を許してくれるかも知れない。 それに握っている上に俺もアリアも裸なんだから、同意してるって事だろう? むしろ、しなかったら悲しむ事すらあり得るのでは・・・?


 思考は、自分が望む地固めという名の言い訳をいくつも作り上げてしまった。


 「はぁー・・・それで良い訳無いだろう。。」

 誰も指摘しないので、セルフツッコミだった。 まだ・・・理性は残っていたようだ。


 一度出してしまえば落ち着けるだろう。

 しかし・・・朝起きたら手がカピカピになっている事を思い浮かべると、例え好きな相手でも好感は持てないだろう。


 相手の立場を考えると、頭が冷えてきた。

 愚息は潤っていたが、これ以上の粗相は危険だ。

 (アリア・・・怨むぞ。。 ぐすん。)


 愚息からアリアの手を解いて不貞寝する他なかった。

 何か大切な事があったような気がしたが・・・欲求を前に全てが霞んでしまっていた。


 深夜、小さな月が浮かぶ空は雲に覆われていく。

 秋の終わりと、冬の訪れを告げるために。

食中毒からは復帰しましたが、まだまだ食欲は完全に戻って来ては。。。

食事量が減ってある意味健康になれるかも?(ぁ

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