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24-2.刻(24日目)

 「おそよう、顔洗ってきたら?」


 開口一番、リビングに居たアリアからそんな事を言われた。

 洗面台で鏡を見ると、左目から頬にかけてクッキリと白い涙の跡が残っていた。 かなり泣いたようだ。 蛇口を捻ると勢い良く水が出始め、手で掬って顔を洗った。


 「アリア、ごめんな」

 顔を洗って、目も頭も冴えた。 冬支度しなきゃいけなかったのに、紅葉(もみじ)とのいざこざのまま昼過ぎまで眠りこけてしまった。 紅葉(もみじ)と和解できたのかははっきりしないけど、眠っている紅葉もみじの顔は幸せそうだった。 記憶は無いけど・・・また笑いかけて貰えたら良いなと楽観的に考えた。 時間をくれたアリアにはお礼を言うべきだったかも知れないが、最初に出たのは謝罪だった。


 「サトシが紅葉(もみじ)ちゃんを嫌ってる訳じゃないのは分かってたからよ。 でも、何度もは助けないわよ? 助けてもらってたはずが、いつの間にか私が助けてるんだから不思議よね」


 「・・・ごめんなさい」


 「もうー。 冗談よっ サトシが軽率なのはダメだけど、寂しがるのは目に見えてたわ」


 「・・・そんなに分かりやすい?」

 図星だったがアリアに理解されている事が嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。


 「分からないと思ってたの・・・?」


 驚いたアリアの顔が結構ショックだ。 大丈夫を装うのは慣れていると思っていたのにな。。。



 そうこうしている間に時刻は13時半となっていた。



 「冬支度だったよな?」

 だらだらしている場合ではなかった。 早く準備をしなければ。


 「そうね。 一応狼2匹は狩ったから、皮を剥いで・・・それからがまだまだ時間かかるのよね。。」


 アリアが遠い目をしていた。

 革加工の経験は無いが、皮をなめしてからじゃないと使い物にならない。 敷物程度なら使えるだろうが、布のようにすぐ裁縫に入れないのは辛いはずだ。


 「一旦、外に出る?」


 アリアに促されるまま、俺は玄関から外に出て、そのまま石積の階段を下った。

 川辺に寝かしてある狼に手をかけ、アリアは手際良く狼を解体し始めた。


 ザクッザクッ・・・

 「上手いもんだな・・・っう・・・」

 弓と共にナイフも手に入れていたらしく手早く皮を剥ぎ取った後、腹を割って内蔵を取り出している。 アリアの白い肌は、狼の血が付いて真っ赤に染まっていた。


 開かれた腹からは、白っぽい膜に覆われた袋状の物や、ブヨブヨとしたホースのような物・・・肺や胃に腸などなど。。。生きていた事を証明するように、心臓から赤い血が流れている。 血抜きはしてあったのだろう、捌いても流れ出る血の量は少ない。


 それでも、自分が捌いてきたナニカ(イノシシ)とは違う。

 動物を捌くという事は、こういう事なのだと胃液が込み上げてくるのを何とか抑え込んだ。


 内臓をごっそりと抜き取ると、アリアは丸ごと森の中で埋めていた。

 手伝うべきなのだろうが、そんな気分にはなれなかった。


 「サトシもやってみる?」


 赤黒く乾いた血で染まったアリアがとんでもない事を言ってきたので、丁重にお断りする。

 「いや、俺は遠慮するよ。。 しかし、アリアは捌くのも上手いんだな」


 「家は狩猟を生業にしてたんだから、当然よ? 弓よりも先にナイフをパパには教えられたんだから」


 「そうだったのか・・・」

 パパと言えば、アリアのお父さんは、エイシャさんより先に亡くなったんだよな。。アリアの表情に変化は無いが、あまり掘り下げるべきでは無いか。

 「そう言えば、何で森に内臓を埋めたんだ?」


 「魔物が集まりやすいって聞いていたわ。 やった事ないけど、食べに集まるんじゃないかしら?」


 「あれを食うのか・・・」


 「サトシが吐きそうな状態だったから、全部埋めたけど結構おいしい部分も残ってたのよ?」


 俺の知ってるゲーム内のエルフって草食なイメージが強かったんだけどな。。。 アリアは結構肉食なようだ。 狩猟メインの家庭だったってのもあるのか?

 話を聞いている限りじゃ、肝臓(レバー)はもちろん、心臓(ハツ)腎臓(マメ)に胃や腸も食べるようだった・・・。 内臓系は苦手な俺には、結構衝撃的な出来事だった。


 「そういえば、剥いだ皮ってなめす必要があるんだよな?」


 「そうそう、このままだと腐っちゃうしバリバリに硬くなるのよね。 サトシって色々知ってるわよね、やった事あるの?」


 やった事は無い。。 だが、近年はサバイバル動画を見ているだけで、何となく知識だけは増えていく。 経験は無いから、所詮こんな風だったっけ・・・程度の浅い知識だが。

 「いや、聞いた事があるだけだよ。」


 アリアが剥いだ皮を広げているが、ふと思い出した事があった。


 「あっ・・・、家の方に革が何枚かあったような・・・」

 皮と革ってあまり意識していなかったが、今まで(モンスター)を狩ってドロップした物は、牙や銅貨や革だった。

 河原に広げられた皮には、所々に脂肪や肉が付いていてその柔らかさは剥いだばかりの瑞々しさからなる物だ。

 対して(モンスター)からドロップした革は柔らかくても、瑞々しい肉や脂肪は付いていなかった。 生々しいままなら俺はきっと捨てていただろうし。 ドロップ品は既になめされた革だから無造作にバックに詰めて持ち帰っていたのだ。


 「ちょ、ちょっと・・・早く言ってよもう。。。 せっかく狼の皮剥いだのに・・・」


 アリアから文句を言われてしまった。 既に二枚目の皮を広げ、内臓を埋めに行こうとしていたのだから、文句も言いたくなるのは仕方ないか・・・。

 「ごめんな、たった今思い出したんだよ。 でも、何枚あったかハッキリしないから、足りない時の為に損は無いよ」


 「そうだけど~・・・ まぁ仕方ないわね」


 そう言うとアリアは内臓を森に埋めてから、土や血で汚れた手を、温かい川の中で洗い流す。

 赤や茶色に染まった肌が、白い磁器の様に輝きを取り戻していく。 美しい肌に・・・

 さっきまでの血に汚れた姿は、見間違いだと思えてくる。 そう思いたかった。


 「それで、これから家に戻った方が良いかしら?」


 時計は14時半を回っている。 日没まではまだあるが、俺の移動速度を考えると余裕があった方が良いだろう。 なんせ・・・ただの引きこもりオタの体力に戻ってしまったのだから。。

 「ああ、早めに動いた方が良いかな。 紅葉(もみじ)を起こしてこなきゃだな」


 「そうね・・・サトシが起こしてきてね? 私は、これバラさなきゃいけないし」


 アリアは丸裸になった赤黒い狼2匹を指した。 肉を取る作業も俺には難しいだろうから、アリアに任せるべきだろう。

 「ああ、行ってくるよ」

 少し重くなった口を開いて、紅葉(もみじ)が眠る別荘2階へと歩き出した。



 (どう・・・思われているんだろうな)

 頭の中は、何だかんだ有耶無耶になっていた紅葉(もみじ)との関係で一色になった。


 そのまま起きてきちゃったが、まだ寝てるのかな。

 寝顔は幸せそうだったけど、夢の中だけだろうか。

 俺とまた話してくれるだろうか。

 また笑ってくれるだろうか。

 俺の呼びかけで起きてくれるだろうか。

 噛みつかれたり、引っかかれたりしないだろうか。

 甘噛み程度で済ましてもらえるだろうか・・・


 悩みは尽きない・・・

 

 (アリア・・・俺はどうしたら良いんだ・・・)

 ここには居ない俺を助けてくれたアリアの事も浮かんできた。 甘え・・・それ以外の何物でも無いだろう。 助けて欲しい、怖い、そんな心の弱さが溢れてきてしまう。 助けてくれたことに依存してしまう。 だから俺は人を避けたかった・・・失う恐怖から逃げたくて。 失わないように努力していれば、こうはならなかったかも知れない・・・でも、でも・・・そんな否定ばかりが頭を過る。


 (嫌だ・・・)

 自分が嫌いだった。



 重い足でも、別荘の室内にはあっという間に着いてしまった。

 後は扉を開きさえすれば、紅葉(もみじ)が寝ているベッドに届く。


 ガチャッ


 意を決して扉を開けた。

 「・・・紅葉(もみじ)起きてるか?」


 部屋の中には、誰も座っていない椅子と机、膨らみの無いベッドしか見当たらなかった。

 (まさかな・・・)

 一応布団をめくってみたり、屈んでベッドの下や1枚しかない窓のカーテン裏にも紅葉(もみじ)は居なかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 んー・・・ふわぁぁ~

 前足をいっぱいに伸ばして、私は目が覚めた。


 隣にサトシは居ないみたい。

 ちょっとガッカリだけど今朝は二度寝しちゃったし、サトシはアリスと外に行っちゃったのかな。。

 サトシいっぱい泣いてたなぁ~・・・ アリスと意気投合した時に話してたけど、サトシって頼りになるのか可愛いのか不思議なひと。

 ムカッとしたけど、結局私の事が大切なんだからな~♪ いつも甘えてくれるなら、私ももっと嬉しいんだけど・・・な。


 アリスが羨ましく見える。

 約束はしたし、アリスはそれを裏切るような感じはしない。 でも、でも・・・。


 私は、何度もサトシとアリスが抱き合っている時は離れるようにしてきた。

 自分には出来ないから・・・そう諦めて、アリスに任せてきた。 それが正しいと思ったから。。。

 離れる度に、胸が痛かった。 苦しくて悲しくて。 でも、叶えることが出来なくて。

 そんなストレスで、つい言い過ぎちゃった気がする。。

 サトシが原因だけど、泣かせちゃった事はチクチクと痛い。

 あんまり話してくれなかった本音?をサトシは吐露してくれた。 大切に思ってくれてたのが確認出来て嬉しかったけど、その後に罪悪感がぶわっって広がっちゃった・・・。

 (ごめんね、サトシ・・・)


 布団から這い出て部屋を出ると、陽はかなり昇っている。

 今日もいっぱい寝たなーと、再び大きなあくびをした。


 大きな窓からは、川原でサトシとアリスが何かしている。 いや、アリスがしているだけみたいだ。 サトシは何か屈んでるし元気無さそう?

 サトシの状態は気になるけど、今頃二人の中に入っていくのは何だか違う気がした。

 今までの私だったら、こんな風に考えなかった気がするのになぁー。。

 心境の変化は喜ばしい物では無く、惨めな気持ちになるばかりだった。


 サトシの隣にはアリスが・・・あの中に私は居ない。

 私とサトシ達の間には、ちょっとした距離と窓しか無い筈なのに。。

 すごく遠く感じるの。。。

 あの中に入っていきたい。 でも不安。

 サトシの弱さが映っちゃったかも?


 そう考えると、何だか嬉しく感じるんだから私は変になったのかな。。

 うーー。。。

 頭を使うのは苦手かも。


 重い足を上げて一歩踏み出そうとしたら、サトシがこちらへ向かってくるみたい。 川原からこっちに来るのか見えなくなった。 すぐに階段から頭が見えたので間違いなかった。


 「ど、どうしようっ!?」

 ただ『おはよう』を言えば良いだけなのに、何故か体はサトシを避けるように、窓際から飛び退いてしまった。


 部屋に戻って布団の中で寝たふりをする!? いつもみたいにサトシに起こしてもらえるだろうし・・・

 そうこうしている内に、家の扉が開けられて足音が近づいてきた。


 気付くと私は隠し部屋に逃げ込んでしまっていた。

 作っている時に遊び心で天井裏に入る為のハシゴや扉が隠してあった。 階段や扉は魔法を使わないと出て来ないので、私だけの天井裏。

 サトシやアリスに教えていないのは、一人で練習する時の場所として使いたかったから。 サトシの家の中は色々あって参考になるけど、隠れてこっそり・・・とはいかないもんね。 私の作った家なら何だって自由に出来る。 サトシが望むならこのまま移動だってできると思う。 本当に自由に何でも出来た。 だからこそ、上手くできない事が悔しかった。


 静かに隠れていると、サトシは部屋に入って行った。

 私を探してくれているようだ。 見えないけど・・・そんな気がする。

 とっさに隠れちゃったけど・・・出て行くべきだよね・・・?


 私の足は、物音を立てない様に静かに屋根裏部屋から降りて、玄関へと向かう。

 気付くと、サトシに会わないように外へ出てきてしまった。

 「お、おかしいな・・・」


 逢いたかったはずなのに、なぜか逃げちゃった。。

 仕方が無いので、アリスの元へと向かう事にする。 足取りが軽かったのは不思議だなぁ。



 「アリスっ! おはよー」

 私は、美味しそうな生肉を捌いているアリスへ元気に挨拶をした。


 「おはよう、紅葉(もみじ)ちゃん あれ、サトシは一緒じゃなかったの?」


 「ぅ、うん・・・ちょっと逃げちゃった。。。」


 「あら、気まずくなったの? サトシが悪いんだから紅葉(もみじ)ちゃんが気にする事ないわよ?」


 「う~ん・・・なんかなんかだよー・・・」

 自分の事が良く分からなくなってくる。 モヤモヤしっぱなし。


 「そっかー・・・でも、サトシ寂しがってるんじゃないかしら?」


 「だよねぇー・・・」

 後ろを振り返るとサトシは見えない。 家の中を探し回ってると思う。


 「私がこれ捌き終わったら、サトシの家に戻る予定だから、もう少ししたらサトシを呼んで来て欲しいかな」


 「わかったよぉ。 そのお肉食べてもいい?」


 「いいわよ。 生で食べるの?」


 「うんっ! たまには生も良いかな?って」

 サトシとお肉を食べる時は、いつも焼いてくれてた。 調理してもらえてすごく美味しかったけど、生も美味しそうだった。

 アリスから数切れ貰ってかぶりつくと、歯ごたえがすごい! そんなお肉も私の歯にかかれば噛み切る事は難しくない。 血の味も生々しいけど、それが味になっているみたい。 でもサトシの料理のが美味しいかな。 晩御飯はサトシにお願いしてみようと考えた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 「紅葉(もみじ)ー・・・俺が悪かった事は謝るから、出てきてくれよ。。。」

 布団の中も、ベッドの下も、カーテンの裏にも居なかった。

 机には、某青狸が出てくるような引出しも無い上、隠れるようなスペースはこの部屋には無かった。


 入れ違いにでもなったか・・・?


 布団の中に手を入れると温かさはさほど感じない。 起き出してから時間が経っているのだろう。 いつも寝坊助な紅葉(もみじ)が起きていること自体が、今までとは違う現実を如実に物語っていた。


 部屋の中には居ないだろうと、俺は部屋を出た。

 まだこの家には個室が2つと、リビングや洗面台にトイレもある。 真っ直ぐ部屋に戻ったので、周囲を細かくは見ていなかった。 入れ違った可能性は高い。


 「紅葉(もみじ)ー どこにいるー? 返事をしてくれー・・・返事をー・・・返事をして下さい。。。」


 最後の方はもう涙目だった。

 家の中には居ないようだ。 俺の探し方が悪いのか完全に避けられているのか。。

 紅葉(もみじ)がどこかに行ってしまった可能性すらある。。

 見限られた・・・その考えに侵されるのに時間はかからなかった。


 俺は虚無感でその場で膝を付き、座り込む。

 アリアに頼まれていたが、起こしに行くというお願いはとうに意識の彼方へ。

 何をしているのかよく分からなくなってきた。 手足の感覚が失われていく・・・

 崩れるように頭も下がって床で丸くなった。

 顔を手で覆うと視界は闇に包まれる。 嫌だ・・・




 その時、誰一人として気付く事が出来ない静寂が突然訪れた。

 予測する事は誰にも出来ない。

 停止している事を知る術もない。

 サトシもアリスや、紅葉(もみじ)にだって・・・

 この世界の全てが、刻を止めていたのだった。

お久しぶりです。

今年は暖冬ですねぇ~・・・しかし、話はやっと冬に入ろうとしているところ。。


いやー、今週も忙しくて日曜も月曜も仕事だー

祝日って何それ美味しいの?

アッヒャッヒャッヒャ ∖( ゜∀゜)人(゜∀゜ )メ(゜∀゜)メ(゜∀゜)ノ ッヒャッヒャッヒャ


さて、コロナウィルスの猛威が身近になってきましたね。。

ガクブルです。

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