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2-2.森の探索(2、3日目)

森から何とか家に逃げ帰ったが、それでも逃げ切る事は出来なかった。 安住の地までやって来たイノシシ(?)は遂に結城を襲うべく突進してきた!

 イノシシ(?)(ナニカ)は地を蹴り、踏みつけられた落ち葉は舞った。 間違いなく俺に狙いを定めて向かって来ている。

 驚きと恐怖で足は竦み、その場に立っていられず座り込んでしまった。

 そして体は石のように硬直し、指先すら動かせないままで闇雲に時間だけが過ぎていった。 1秒を数十倍に引き延ばしたようなゆっくりとした時間の中で、俺にははっきりと相手の一挙一動が見えていた。


 (以前、車の衝突事故を起こした時と同じだな)


 走馬灯というのか、アニメでよくある達人同士の決闘描写のように時間の流れが遅くなり、多くの事を考える時間が生まれてくる。

 集中力がピークに達したというか、俺の場合では死に直面した時に思考が急加速していく感じだ。 視力や聴力すらも平常時とは違ったものとなり、向かってくる相手の目も足の動きも双眼鏡で覗いているのではないかというくらいにハッキリと見える。 そして音に鋭くなって、ここからでは遠く離れていて聞こえなかったはずの川の流れるサラサラとした音さえも聞こえてくる。

 今、俺は走馬灯を見ている。 この時間は一瞬であり、そして永遠でもある。 考えても考えてもまだ時間が進んでいないかのように・・・


 そんな事を考えているうちに、冷静さを取り戻してきた。

 ただずっと前方のイノシシ(?)(ナニカ)を見据えたまま。


 (ここで終わるのか)


 死の恐怖が訪れていた。

 分かっているはずだったが、危機感が現実の物となった時に落ち着いて行動出来るかは訓練しか無いのだ。 驚きと恐怖で体は石のように硬直し、指先すら動かせないままである。 平和ボケした生活から、急に命の危険に晒されたのだから、すぐに馴れるなんて無理な相談だ。


 石槍は持っていても、なす(すべ)なくここで終わる。

 そう考えてしまった···それが俺の負けのはずだった。


 ドンッ!


 イノシシ(?)(ナニカ)が突然ぶつかって激しい音が鳴った。

 アスファルトの範囲に入ろうとした辺りだろうか? 弾かれているように見えた。


 (な、何が起こった?)


 俺が家に戻る時は何も感じず、何もなかったはずだ。

 あんな衝撃が起こるほどの違和感はさっきまでなかったはず。

 腰砕けで座り込んでしまっていたが、落ち着きを取り戻したことで立ち上がって近付いてみる事にした。


 警戒したまま石槍を構え、少しずつ寄っていくがイノシシ(?)(ナニカ)は見えない壁に阻まれたままである。

 諦めることなく弾かれては踏み込み、弾かれては踏み込んで体当たりを繰り返している。 そろそろ哀れに感じてしまう。

 だが、いつまでこの見えない壁の効果が続くのか? この壁の範囲はどこまであるのか? 考えて出してもキリが無い。 本当にこの場所は訳の分からない事だらけで嫌になる。


 考えても仕方ないのでまずは脅威の排除が最優先だ。 石槍を構えてドンドンと見えない壁にぶつかり続けるイノシシ(?)(ナニカ)に石の切先を向け、イノシシの心臓辺りに狙いをつける。

(って、そもそも石槍が見えない壁を通らない可能性があるし、これで壁が壊れる危険すらあるな・・・)


 まぁ何とかなるかっ! 一思いにイノシシ(?)(ナニカ)に石槍を突きつけた。


 グシュッ! ググッ・・・


 イノシシの心臓を目掛けて突き出した石槍によって見事に胸元へ深い傷を負わせたが、尚も引かない相手に引き抜いた槍で2度目の突きを行ったところでイノシシ(?)(ナニカ)は倒れた。

 見えない壁は見えないままで、そして何の引っ掛かりも無く突く事ができた。 さっきの見えない壁はなんだったのか。 そして血は流れてこなかった。

 まずは1匹・・・


 1匹を仕留め、勝てる見込みがたった事で急に勇気が沸いて来た。

 勇気というより優位に立った事で、より弱いものを虐めるようなそんな姿だった。


 グシュッ、グシュッ ブシュッ・・・


 もう1匹は中々倒れず、見えない壁越しに3度突き刺した所でやっと倒すことが出来た。

 前足を掴みアスファルトの範囲内に引きずり込んだが、やはり見えない壁は見えないままで何の抵抗も無く食料を招き入れる事ができた。


 「これで当分肉には困らないな」


 肉ブロックになった最初のイノシシ(?)(ナニカ)と同等の1匹と、少し大きく全体的に茶色い色の濃い1匹を仕留めることができた。 形状的にはどちらも丸っこく、足は短く暴れなければとても可愛らしい。 暴れなければペットとして飼いたいくらいだ。


 まぁそんな事はおいといて、食糧自給率がうなぎ上りだ。 川で汲んで来た水を一気に飲み干し、ウキウキ気分で腰のナイフを取り出して捌こうとした所、キラキラとした光が横たわったイノシシ(?)(ナニカ)から上空に向かって流れていく。


 「ん? 前回と違う・・・」


 だんだんと薄く透けていくイノシシ(?)(ナニカ)に気づき、慌ててナイフで切りつけたが空を切るばかりで手応えが全くなかった。 キラキラした光も次第に薄くなり、その頃にはほとんどイノシシ(?)(ナニカ)は見えなくなっていた。

 全てが消えた後には、白い大腿骨のようなしっかりとした骨が1本と銅色で少しひしゃげた円盤型のコインのような物が2つ落ちていた。


 (どう見ても・・・ドロップアイテムって感じだよな・・・)


 とても冷ややかな目で足元に落ちている3つのアイテムを見つめてしまった。

 昨日は肉の塊だったのに、なぜ今日は消えてしまった。。

 肉祭りはまだまだ在庫があるので出来るのだが、必須な食料ではなく大腿骨のような骨と銅貨っぽいものとは・・・ 気落ちしてしまったのだ。


 感情が抜け落ちた目のまま、ゆっくりとした動きで3つのアイテムを拾い上げ一度部屋に戻る事にした。


 スポーツドリンクを飲み干し、ベッドに仰向けになった。

 (今日も1日、訳が分からなかったが疲れたわ・・・)


 夕日が木々に隠れ始める時間でまだ寝るには早かったが瞼が重くなって早々に目を閉じ眠りについた。

 朝に肉しか食べていなかったが、緊張と疲れから途中で腹が減って起きる事も無く深く・・・深く眠っていた。



 「・・・! あ――、寝ちゃってたか」

 

 気づいた時には、既に朝日が木々の間から顔を覗かせていた。

 しっかり寝たせいもあってか、寝起きは頭がスッキリしていた。 考え事をするには丁度いいか。

 昨日の出来事を考えてみよう。 毎度の事実の洗い出しと考察をしていく・・・


 ・イノシシ(?)(ナニカ)は襲ってくる

 ・イノシシ(?)(ナニカ)は家の周囲にある見えない壁によってアスファルト内に入れなかった。

 ・イノシシ(?)(ナニカ)は光となって消滅し、骨と銅貨を落とした。


 大きく気になるのは3点か。 見えない壁についてと光となって消滅したこと、そして骨と銅貨が現れたこと。


 見えない壁は、パッと見た限りでだが家の敷地範囲と同一のように感じた。 草木の中を走り、アスファルトの外側の落ち葉や地面も踏みつけて足跡を残していた。 ただアスファルトに入れなかっただけで。 入りたくないという類でなく、明確に進入を拒む壁がそこにはあったようだ。 ドンドンとぶつかる音はするのに超絶技巧のパントマイムを見ているような気分になっていたのをはっきりと覚えている。


 こちらには好都合だが、俺の攻撃は何も抵抗無く壁を通り越してイノシシ(?)(ナニカ)に届いてた。

 

 <見えない壁の可能性>

  ・敵から隔絶された安全地帯   (だったら良いな)

  ・内外共に視認できている    (外から内は匂いかも知れないが)

  ・内から外への干渉ができた   (俺の家、チート級に強くね?)


 と、こんなところだろうか。

 正直3つ目の状況は無敵のシールドを持ち、チクチクするだけで無傷で敵を倒せるとかヤバ過ぎじゃん!(俺自身の強さじゃなく、まさかの家が一番強いという笑えない冗談だが)


 次は2つともまとめて考えるべきだろう。

 光となって消えたのも、骨や銅貨がどこからともなく出てきたのもRPG等のゲーム設定ならば当たり前のように起こる事だ。 なんら不思議はない。 初回の肉の塊だったことの方が現実的ではあるがゲームとしては異質とも思える。 正直、肉の塊と皮だけだったのにどこから骨や銅貨が出てきたんだよと製作者を小一時間問い詰めたいところだが。


 「あ、昨日の皮持ってくるの忘れて川原に干したまんまだった・・・」


 不意に皮なんて思い浮かべたから、すっかり忘れていた事を今頃思い出した。 まぁ今度行った時にあるかどうかを確認すればいっか。 一旦忘れていた皮の事は再度、思考の邪魔なので退けておく。


 ここはゲームの中のような世界・・・そう考えるとしっくり来る部分は多いとは思う。 だが、現代のVRゲームではここまでリアリティは無い。 そういうのには興味があったから、色々と調べもしていたがここまでの状態が作れるならもっと大々的なニュースになっているはずだ。 ここは・・・本当に何なんだろうか。


 堂々巡りに入りかけてしまったので一旦考えるのを止めて、まとめると・・・


 <消滅とドロップ>

 ・ここはゲームのような世界である可能性が出てきた。


 「ふぅ――、ゲームの世界か・・・」


 遠い目をしながら呟いて【ゲームの世界】という言葉に想いを馳せた。


 俺は昔から2次元の世界に入りたいと何度も思っていた。

 老いる事の無い可愛らしい女の子達…、男なんて出てこない女の子同士のキャッキャウフフな日常。 ロリBBAという合法的な幼い見た目の女の子達。 毛穴なんて存在しない透き通った白い肌に、輝くような色とサラサラの美しい髪や、現実ではありえないふっくらとしたボリュームの髪。


 あんな風になりたいとコスプレや整形をする人達もいるが、あくまで(ふう)だ。


 彼女らではない。 あんな完成された可愛さは2次元にしかない。

 ただし、MMD等の3次元モデルを用いたキャラクターは大好きだ。

 まぁあれを3次元と言っても仮想現実でしかない。

 33年間生きてきた世界の中に、俺の求める女性はアニメや漫画、そして小説や3Dデータでしか存在しなかった。


 更に言えば、俺はデフォルメが入っている場合の方が基本的に好きだ。 綺麗よりも可愛いを選ぶ事が多い。 可愛ければ食指が伸びる。

 そして、ちっぱいが大好きだ。 現実世界では触り心地とかでそこそこあった方が良いが、2次元ではほぼちっぱいキャラ推しの人生を歩んでいる。 俺を知る多くの人が俺の一押しキャラを難なく当てていく。 滲み出るロリコン臭が周りにバレていた証拠であろう。 昔は恥ずかしくしていたが歳を取るにつれて好きなものは好きなんだからしょうがない!と開き直りの精神の方が強くなっていた。


 そんな俺だ。 そんな俺なのに・・・

 今は複雑な気持ちベッドで仰向けになりながら手のひらを見ている。


 「何でこんなにも鮮明(リアル)なんだよ・・・」


 俺の手のひらは、現実と遜色ない。 今が現実でないとはまだ言い切れないが、8割方ゲームのような世界、俗に言う異世界と思われる。 2割現実だと思っている理由は、このリアルさだ。 背中に感じるベッドの感触も、手に生えた毛も指紋も全てある。 もちろん枕の汗臭さもだ。

 

 さっきも言った通り、俺はデフォルメされた物が大好きなんだ・・・

 大好きなんだよ・・・


 「なのに念願の異世界生活が何でこんなにリアルなんだよ――!」


 ここに来て一番の叫びを上げた。

 この事がもっとも悲しい事実だと俺にははっきり分かっていたから。


 ここに来て初めて絶望し、不貞寝する事に決め込んで再び目を閉じた。

 せめて夢の中だけでも、可愛い少女達とキャッキャウフフしたかったのだ。


 外は今日も晴天。 風も穏やかで絶好の探索日和である。

 目覚めた時はまだ木々の間にあった朝日が既に頂上に差し掛かっていたが、一向に起き出す事もなく不貞寝し続けた。

 

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今後、自分の整理のためにも最下段に状況まとめしときます。


 ●大地震

   ・本当に地震か? ⇒ 緊急地震速報も出たし、地震の可能性が高い。

   ・家族は無事か? ⇒ それどころじゃない、今は自分の事だけ考える。


 ●玄関の外は森

   ・なぜ森に囲まれた? ⇒ 分からん!

   ・ここはどこ?    ⇒ ゲームのような異世界かも?【New】


 ●生活基盤

   ・水事情   ⇒ 残り22本のスポーツドリンク【New】

            空のペットボトル2本【New】

            家の西側にある川で給水可能


   ・食料事情  ⇒ 冷蔵庫の中や缶詰、乾麺等

            ジップロック3つ分の肉

            肉が現地調達できる可能性・・・低下【New】


   ・火の利用  ⇒ 薪を用いれば可能


   ・電気の利用 ⇒ 不可


 ●取得物

   ・イノシシ(?)(ナニカ)の骨×1【New】

   ・銅貨×2【New】


 ●家のスペック

   ・敷地内   ⇒ 敵の入れない安息地【New】


 ●帰還方法

   ・不明    ⇒ 果報は寝て待て

  

コンスタントに投稿しているので文字数が毎度少な目です。。

話数ばかりが増えて話は進んでいきませんがゆっくりと気長に待って頂けると助かります。


それでは、本日もおやすみなさい。

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