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23-2.萌え(23日目)

エルフの村で宴会? 非日常は幕を閉じ、平穏な日々が再び始まる・・・

 家の外に出ると、木々の隙間がオレンジ色に輝いている。

 時計を見ると16時だった。

 流石に森の中なので、風は感じないが薄暗がりの周囲は肌寒さを感じてしまう。 冬支度・・・急がないとな。。


 先に走っていったクイナは無かった事として、リュウと2人でエルフの村まで向かっている。 男・・・2人きりだ。。 何か話すべきだと思っても何も出てこない・・・また堂々巡りするだけの謝罪話になっても疲れるだけだ。 悩みながら歩いていると・・・


 「・・・サトシ殿は・・アリスやエイシャ様の言う通りの人だったんですね」


 「ん? まぁ・・・第一印象よりはマシだとは思うけど、善人でも無いさ」

 自分のしたいことが、彼らの望みと偶然重なっただけ・・・とは言わなかったが。


 「・・・アリスのため・・ですか?」


 言っちゃ何だが、脳筋のクイナと違って、リュウは頭も切れるようだ。 俺の核心を突いている。 隠す・・・事でもないな。

 「あぁ、その通りだよ。 俺や紅葉(もみじ)にとって・・・んー。。」


 「大丈夫です。 クインはどうか分かりませんが、私は分かっているつもりです」


 「そうか・・・俺や紅葉(もみじ)だけなら、あの場を去っていただろう。 感謝されるのは悪い気はしないが、俺達の動機はアリアの気持ちだけだった。 それに倣っただけに過ぎない。 段々と歓迎されることに不安を感じるかな」


 「率直な言葉・・・ありがとう御座います。 とすると・・・また村を出られるのですよね?」


 「そのつもりだよ」


 「承知しました・・・。 まぁ・・・今夜は気兼ねなくお過ごしください。 クインの方には私から説明しておきます」


 一瞬肩を落とすような仕草を見せたが、素早く切り替えたようだ。

 「宜しく頼むよ」


 村に近づくにつれて騒がしくなってくる。

 陽は沈んでしまったようだが、村の中は大量の松明で明るくなっている。

 寒さを忘れてしまうくらいに騒がしく、そして暖かい。


 リュウに案内されるまま、懐かしの洞窟前に来ると多くのエルフ達が騒いでいた。 すでに宴は始まっているようで、屋外に広げられたテーブルの上には葉っぱの上に並べられた肉や・・・魚っ!? それに色とりどりの野菜が盛られていた。

 これは・・・まだまだこの村から得る情報は多そうだと考えていると、突如、クイナの声が響いた。


 「注目! ・・・今回のホブゴブリン撃退の功労者が1人、サトシ殿のご到着だ!」


 クイナの一声で騒がしかった村人が一斉に静まり返り、その言葉に耳を傾けていた。 クイナが待つ壇上に案内されるまま、俺は階段を上りクイナの隣まで向かう。

 木組みの(やぐら)は即席だろうが、歪みや軋みもなくしっかりとした作りになっている。 2m程度の高さだが、村人が見渡せて距離感が離れすぎない丁度良い感じがした。 アリアが来ていたら、スカート中が丸見えだろうから、来ていなくて正解だろうな・・・。

 壇上に上がりきると、クイナから椅子に案内されて座る事となった。


 俺が座るのを確認し、クイナは今回のホブゴブリン戦の状況、そして俺達の活躍を説明している。

 特に活躍部分は誇張されている気がして、360度視線の視線が歯がゆかった。

 一通りの説明と俺の紹介が終わると、小声で何か一言欲しいと言われたが断った。 畏まって何を言えと・・・こんな空気感からさっさと逃げ出したかったのだ。 クイナは仕方なく折れたようで、宴会開始の宣言を行うと、先程までの各々で騒ぎあっていた状態とは違い、俺にのみ向かった歓声がきた。


 静寂から歓声に変わった瞬間、何か大きな空気感の違いを感じた。

 目には見えない音の壁がぶつかってきている。

 肌にビリビリと感じる衝撃は、低音マシマシのコンサート会場とも間違う・・・いや、これが舞台上で感じている空気なのだろうか? 人前に立つのは苦手だ・・・なるようになる、そう考えてはいるんだがな。。。 裏方が性に合っているようだった。


 「さぁ、堅苦しい話はこれで終いだっ! 皆飲むぞっ!」


 地響きにも似た雄叫びが上がった。

 飲むぞ・・・? 如何にもおっさん集まる飲み会のようなノリだ。 考えていると、木製のコップを手渡され、黒っぽい液体が注がれた。


 「サトシ殿は、飲める口か?」


 「これを・・・?」

 松明の明かりのみで、何を注がえているのかよく分からなかった。

 鼻を近づけて匂いを確認してみることに・・・


 コップに注がれた液体に鼻を近づけると、爽やかだか甘みを感じさせるフルーツらしい香りがした。

 (こ、これは・・・!?)

 興奮気味になってしまう心を抑えつけながら、一口含んで口の中で転がした。

 甘い香りとは裏腹に、甘み以上に酸味と渋みが口に広がり、爽やかなフルーツ感が鼻に抜けていった。

 それを飲み込むのに、時間はかからなかった。


 「・・・旨いな。 強くは無いが、一杯では終わりはしないさ」


 「それはそれは・・・♪」


 クイナに一言伝えると、一口・・・二口と口を付けていった。

 これは紛れもなく、赤ワインだ。

 発酵は浅そうでアルコール度数も高くは無さそうだが、甘さと酸味、渋みに似た苦味が口の中を爽やかに染め上げ、口当たりの良さを感じる。

 ぶどうジュースのような芳醇な甘みは影を隠し、大人の飲み物へと昇華していたのだ。

 思うことは増えたが、今は飲もう!

 「食べ物も取っていいか?」


 「云えば、持って来させるが?」


 「いや、取りに行くよ。 この場は性に合わないんでね・・・」


 「それなら仕方ないか・・・民も貴方と話す機会を心待ちにしているようだしな?」


 壇上から周囲に目を向けると、遠方では自由に飲み食いしているようだが、近場の者達はチラチラとこちらの様子を伺っているのが見てとれた。


 「どこに行っても・・・変わりそうにないな・・・」

 ぐったりと項垂れると、気軽にクイナが絡んできた。


 「ここに居るよりかは、周りの者とも時間を共にして貰った方がこっちとしても有難いな。 皆・・・感謝しているんだぞ? 行って来てくれ」


 「・・・それじゃあな」


 「あぁ。 ひと段落したらまたこっちにも顔を出してくれ」


 「わかった」

 言い終えると、俺は階段を下っていく。

 その途中で、リュウがため息を付きながら入れ違いに階段を上っていく・・・。

 クイナに呼ばれているようだ。 聞き耳を立てながらゆっくり降りていると、どうも飲み明かすぞー!とかもっと飲め―!とか・・・あぁ・・・俺が残っていたら潰れていたかも知れないな。。。

 (リュウ・・・付き合いは短いが、ご愁傷様・・・)


 壇上を見上げると、ジュースの様にガブガブとワインを飲むクイナの横で、リュウがチビチビと・・・あ、口を開かされ無理やりに注がれていた・・・。

 (本当にご愁傷様・・・)

 俺はそっと手を合わせていた。


 「さて・・っと」

 下に降りたので、まずは気になっていた料理の方へ・・・!

 ・・・近づくのは容易では無かった。。


 「サトシ様っ! この度は有り難う御座いました!」


 「ホブゴブリンにお1人で飛び込まれた勇士、素晴らしかったです!」


 「紅葉(もみじ)様との連携は、準備されていたのですかっ!?」


 思い思いにどんどん来るわ来るわ・・・。 一向にテーブルに近づける気配が無い・・・というか。。 俺後ずさってないか・・・?

 目についた一人一人から感謝を受け続けている。 向けられる好意は気持ちが良いものだし、優越感に浸ってしまって避けて通れなかったのだ・・・。


 何とかテーブルに辿り着くと、次はどんどんと色々な食べ物を勧められた。


 「サトシ様! この料理は私が作ったのですが、いかがでしょうかっ!」


 「抜け駆けはズルいぞっ! サトシ様、こちらの串肉は俺が焼いたんだが、一本どうだい?」


 サラダや肉料理の数々・・・チビチビ飲み続けているワインも、一向に減らない。 減る度に逐一注がれているようだ。 いくつかの料理を食べているが、基本的に味付けという概念が無いようで素材その物を楽しむ感じとなっている。 せめて塩が欲しいところであった。


 そして・・・遂に目当ての物にたどり着いた。


 「サトシ様、こちらまで来て頂けるとは感謝いたします! こちらは・・・愚息が昨夜仕留めて来た魚ですが、ご賞味くださると光栄・・・」


 「頂こう!」

 みすぼらしいエルフの男の言葉を聞き終える前に、前のめりになりながら包み焼きと思われる葉っぱを受け取った。

 一部が焦げて穴の空いている葉は既に表面が冷めていて、持った感触からから何重にも葉っぱが巻かれていることが分かった。

 蔓を解き、葉を開いていくと、サイズは小さいながらも蒸し焼きの魚に間違い無かった。

 10cm程度しかない小魚が5匹・・・玉ねぎと共に包まれていた。 醤油か・・・バター等があればな・・・。

 開いた中身も同じように冷めていたが、肉や生野菜ばかりだった食生活の中で遂に巡り会えた魚料理。 立ち昇る湯気も、鼻孔を楽しませるような香ばしさも何一つ無く、物足りないだらけの包み焼きのはずだった。

 だが・・・


 「さ、サトシ様っ!? ・・・本当に・・・光栄の極みです。。。」


 みすぼらしいエルフの男は、まだ箸を付けてさえいない俺に感謝を述べて涙を流している。

 何故だ?と考え、口元に手を当てた仕草をとると、理由が分かった。

 口元が濡れている・・・涎が出ていたようだ。

 それを考慮すると、先程のエルフの男の言葉に合点がいった。

 慌てて口元を拭ったが見られたものは取消せない。。 にこやかに微笑むエルフの男に、俺は苦笑いを返した。


 「・・・さて、頂こう」

 平静を装って、魚へと箸を伸ばす。

 背中の身に触れると、それはハラリと崩れてしまった。 小さいながらも脂ものっているようだし、崩れた身も身質はしっかりしていそうだ。。

 内臓込みで焼いているようで、腹周りに開かれた痕は無い。

 崩れた身をひとつまみ・・・


 「こ、これは・・・鮭かっ!?」

 小さいながらも、蒸し焼きにされた鮭のような味わい・・・よくよく見ると身の色もピンクぽっかった事に食べてから気づいた。


 「サケ・・・? サトシ様、サケとは何でしょうか?」


 この世界でこの魚は別の名前があるのだろうか? 料理を持ってきたエルフの男が首をかしげていた。

 「この魚は・・・何て名前なんだ? すごく美味しいぞ」

 息子の取ってきた魚を褒める事を忘れずに付け加えておいた。 貶すつもりなど毛頭ないのだから。 しかし、男からは返答が無く首をかしげたまま時間が過ぎていった。


 「・・・つかぬ事を伺いますが・・・サトシ様は他の魚も食べた事があるのでしょうか?」


 (何を言っている・・・?)

 今度は俺の方が首をかしげる事となった。 どうにも会話が噛み合わない・・・。

 鮭以外にも、当然この時期ならサンマとかもあるだろう・・・脂ののったサンマも美味い! サンマも無いだろうか? 俺はそんな事を考えていたが、ふと・・・


 まだ、海の存在は定かでないが、鮭は川を登るはず。 ただ、今まで見てきた川に、何の魚が居ないなんてあり得るのだろうか? 川魚だって当然居たっていい筈だ。 だが、透明な川は何一つ生物を感じ無かった。 そもそも、これはどこで取ったのだろうか?

 そもそも魚は相当貴重なのでは?

 そして、俺は答えに行き着いた。

 このエルフに取って、魚とはこの種のみの認識なのだと。

 魚という言葉が伝わっているのは、間違いないだろう。 だが、魚がこれ1種ならば、名前なんて必要ない。 魚という種がこれと言うことなのだから。。。


 「・・・すまない。 あまりの旨さに混乱していたようだ。 魚とは旨いな、肉や野菜とも違った旨さがある・・・」

 熱を加えた玉ねぎの甘さと、小さいながらもしっかりとした鮭の旨味が感じられた。 塩味が薄いが、この村で食べてきた物の中では唯一の塩気が感じられる・・・。 どこかに海があるという事だろうか?。 このエルフからはまだまだ情報が得られそうだった。


 「そう言って頂けて、愚息も本望でしょう。。。ありがとう御座いました・・・。」


 そう言い終えると、男は踵を返して立ち去ろうとしたので引き留めた。

 「待ってくれ! 君には聞きたいことが山ほどある! いや、君の息子と話をさせてもらえないだろうか?」

 振り向いた男は暫く頭を落としていたが、頭を上げて案内を承諾したようだった。

 祭りの賑わいから俺達は離れて、村の出口の方へと向かって行く。。。 こちらはエイシャさんの家しかないと考えていたが、みすぼらしい姿の男の家は村から離れたところにあるという事か?


 村を出ると湖が広がっている。 湖面に浮かぶ月明かりは昨日と変わらず美しい。

 だが、周囲の木々や地面には昨夜の残場が色濃く残っており、幻想的なはずの月明かりも今は不気味なまでの不安を帯びていた。

 男は足を止めず、湖へと向かって行く・・・


 湖の一角で足を止めた男の前から、誰かの・・・嗚咽が聞こえてきた。


 「シエネさん・・・」


 男は漏れるように“シエネさん”と声を掛けた相手は、一時の間こちへ背を向けていたが嗚咽が止むと共に振り向いた。


 「リンドさん・・・ライアが・・・ライアが・・・うぅっ。。。」

 シエネと呼ばれた少女は、みすぼらしい男に縋りつくように再び泣き出してしまった。 というか、みすぼらしい・・・おっと、リンドって名前っぽいな。。


 それよりも・・・二つ、目についた事がある。


 湖の畔には、いくつも大小の石板が地面から生えている。 ここは・・・昨夜の戦闘で命を落としたエルフが埋められたと聞いていた。 シエネが泣き崩れていた石板も・・・多分・・・ライアと呼ばれた者が、リンド(みすぼらしいエルフ)の息子という事か・・・。 シエネとライアの関係は気になるが・・・


 問題と言うか、重要な事はシエネの容姿だった。

 一言で・・・“萌える!”に尽きる。

 涙目ではあったが、エイシャさん以下の庇護欲をくすぐるような容姿をしていた。 月明かりなのと、リンドを見た数秒しか顔を見る事は叶わなかったが、その一瞬で十分伝わる可愛さだった。 いや、可愛いという言葉では表現し辛い。 あれは・・・やはり“萌”なのだ。


 月明かりに照らされたその髪は、紅葉(もみじ)の黄色とも違う。 アリアの銀にも近い輝きを持ったプラチナブロンドとも違う。 だが、引けを取らないすばらしい金髪だった。

 発展途上どころか、幼さの塊ともいえるその体型と、丸みを帯びた顔・・・軽くウェーブがかったセミロングの髪は、幼さの中にも上質な品の良ささえ感じる。 頭にはちょこんと赤いリボンを付けているようで、そう言えば・・・こんなお洒落な子は村に居ただろうか・・・?


 俺は本来の目的を忘れ、リンドに泣きつくシエネを見守り続けた。 そう、俺は紳士だから。


 見守るとはそのままの意味だ。 視姦とは違うので、間違えないで欲しい。 個人的な考え方だが、“真の萌”に性的な感情を向けるのは間違いだと考えている。

 見守り・・・愛でる・・・その世界観に自分が居なかったとしても、傍観者としてでも光景を見られるなら、俺は心が温かく、そして満たされる。 そんな崇高(?)な存在を、自分の中では“真に萌える存在”と定義している。

 自分が、少女ばかりが出てくる日常系が好きだったり、腐女子な実妹にも全く抵抗感が無いのも傍観者としての立場を俺自身が好きなのもあるのだろう。


 ただ、エロゲも大好きな俺がそれを言っても説得力が無いか・・・。

 二次元に萌えている範疇であれば問題ない・・・そう自負しているが、世間は冷たいものな・・・。 20年以上前に比べれば、二次元オタクへの異質感は緩和してきているとは思うが、それでも社会に出ると否応無く壁を感じてきた。

 自分の好きな物を・・・好きと言えない世界はもうウンザリだ。

 俺の楽園は・・・ここにあったのだ。


 おっと・・・意識が変な方向に行ってしまってたか。。

 えーっと・・・何だったっけ? シエネが可愛い?

 って、忘れてた!! 魚だよ、魚っ! というか、聞きづれーよ・・・こんなの。。


 泣き崩れる穢れを感じさせない少女と、それを何の声もかけず胸を貸した薄汚れた男、その後ろには美しい湖を背に、茫然とサトシが立ち尽くしていた。

夜遅くに駄目と分かっているのに、久々に食べたくなって、うま屋で特盛ラーメンとチャーハン食べてしまった(汁飲みきって自重無し)

あそこの、にらからし大好きなんですよねぇ。 大体自分一人でにらからしの容器満杯を使い切って足りないくらいに・・・(赤いラーメン&赤いチャーハン)

麺や米に唐辛子が大量に絡まりますが、辛さはさほど無くとも食べてる最中に汗が吹き出して来る感じですかね? なんかやみつきになります。

翌日半日はトイレから出られない辛さはあるのに、何故か辞められない。。。


やはり、今回も門が唐辛子でやられましたが、もう落ち着きました。

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