22-3.クイナ宅(22日目)
森の中から出て来たのは・・・
目の前に、銀髪色白の男が現れた。
既視感があるが・・・・・・
「あっ! あの時助けてもらった白蛇の人か!」
「思い出したようじゃな。 しかし・・・白蛇の人とは・・・。 ワシは、ビアンカという名だがな」
「ビアンカ様・・・?」
「急に“白蛇の人”から、様か・・・気持ち悪いの」
「・・・ビアンカ?」
「馴れ馴れしいわっ」
叱責を受けてしまった・・・様から一気に飛び過ぎたか・・・
「ビアンカさん・・・?」
「おぬし、余で遊んでおるのか? はぁ・・・まあ、そう呼べ話良いわ。。」
「遊んでいるつもり等・・・滅相も御座いません・・・。 あの時は助けて頂き有り難う御座いましたっ」
90度に背を折るような礼を、ビアンカさんに向けて行った。
「気まぐれで助けたにすぎん。 気にするな」
「それでも・・・感謝しておりますので」
頭を下げたまま、ビアンカさんを見ていない状態で話している。 これは礼儀とは言えないが、威圧感のある彼を前に、様付けを断られた状況から、どういう口調で話せば良いのか混乱している。
「そうか・・・。 感謝は受け取っておこう。 しかし、いつまで頭を下げておるのだ? 堅苦しいのは好かん。 いつも通り話せばよいぞ」
「感謝します」
顔を上げるが、呼び捨てで呼んだ時は叱責されたので、言葉選びは重要そうであった。
丁寧過ぎない様に・・・丁寧に・・・を目指さねば。。
・・・
・・・・・・
やべーよっ!? 超沈黙しちゃってるよ・・・。
ビアンカさんは、こちらを見たまま動いていない。 チョロチョロと長く二股に分かれた舌が、蛇を彷彿とさせる。
あれはヤコブソン器官でも使っているのだろうか? 確か蛇の視力は弱いが、サーモグラフィのような熱感知を行うピット器官や、空気中の匂い等を感じる為に舌を出し入れしていると、聞いた事がある。 ただ、人間風の姿で、それをされるとかなり怖い。。
初めて会った時は、蛇時のサイズ感に驚かされて、感覚がマヒしていたようだ。
「あ、あの・・・今日はこちらに来られたのは何故でしょうか?」
「・・・この村のエルフを監視していた・・・と言ったところかの。 辛気臭いおぬしを見つけたので、出て来たにすぎん」
この人・・・こう見えてツンデレか? 口調はあれだけど、結構優しい感じだ。 そう言えば、前回も結果的に優しい人(?)だったか・・・
「エルフは・・・何か危険な存在なのですか?」
「一人だけだがの」
エルフの一人が危険・・・村長兼、隊長のクイナの事だろうか?
「クイナ・・・はそこまで危険では無いと思いますが・・・?」
「クイナ・・・? あー・・・あやつは問題ないの。 理の外に居る者がおってな」
ビアンカさんは結構饒舌に話をしている。 理の外・・・この部分でハッキリした。 エイシャさんの事を指しているのだろう。 あの人は、掴めない人だが危険性は無いような気がするが・・・。 ただ、この気づきを言葉にして良いのか悩んだ。 ビアンカさんは饒舌に話している事から、俺に気づかせる意味があるのかも知れない。 それは誘導尋問の様に。
見透かされたように掴み処の無い銀色の目は、こちらを見ている。
どうするべきか・・・話を合わせる程度にしておくか?
「そんな凄い人がいるんですね・・・」
「曲者じゃの・・・。 おっと・・・余はもう行くぞ」
「そうですか・・・」
「最後に一つだけ。 おぬしは間違っておらんよ。 そのまま進めばいい。 それだけじゃ」
・・・
ビアンカさんはそう言い残して、背中に生えた羽で空へと飛んで行った。
蛇じゃないのかよっ!?
・・・
また静かになった湖には、暗い空が映っている。 夕日が沈んで暗くなったが、まだ月明かりで明るくなる程でもない。
暗い湖で1人なのは心細くなってくる。 鼓動は早くなっていくが、落ち着かせる方法は明るくなる他は無さそうだった。 焚火でもしてみるか。 ヘッドライトを取り出して周りの薪を集めて火を点ける事にしたが・・・
ガサガサ・・・
今度はなんだ!? ヘッドライトを音の方に向けるが、何も見えない・・・。
エルフの森の中は特に鬱蒼と茂っている為、警戒して湖を背に森から離れ剣を構えた。
「紅葉か・・・?」
ガサガサ・・・
草の上部は根元に倣うように動いていた。 上が揺れていない事から、背の低い物が迫ってきているようだ、
狼か? イノシシか・・・はたまた・・・
ガサッ
草を掻き分けて、手と顔が現れた。
「・・・何をやってるんですか・・・」
構えていた剣は鞘に戻したが、安堵以上に体が脱力感に支配されていた。
「あらあら、サトシさんじゃない。 こんなところでどうしたの~?」
俺の質問は、地面を這いつくばっているエイシャさんによって質問で返された。 確かに俺がエルフの村を再び訪れるなんて考えてもいなかったが。
“今のあなたには言われたくない”そんな気持ちでいっぱいだった。
だが、この人に何を言ったってのらりくらりと躱されるだろう。 モヤモヤとした心の問題は、自分の中で処理する他無い。
「はぁー・・・。 アリアの弓矢を探しに来たんですよ。 俺は村に入らない方が良さそうだったから、ここで待ってるだけです」
「二人がサトシさんを置いていくなんて意外ね~、どちらか残ると思ったけど~ ただ、アリアちゃん、狩りをする事に決めたのね。 あの子の腕は確かよ~」
「そんなにアリアは凄いんですか?」
「ラピス家の血なのかしらね~、弓に関しては天性の素質があるわ~。 弓に愛されてるって事かしらね?」
アリアの弓の腕前は相当のようだ。 クイナがあれだけ言っていた事とエイシャさんの話を鵜呑みにするならば・・・だが。
そう言えば、エイシャさんを連れて帰る事も考えていたんだった。 想定外だが、会話が出来る今はチャンスだろう。
「そう言えば、エイシャさんが中々帰って来ないから心配しましたよ?」
特段心配はしていないが、社交辞令であった。
「帰ろうとは思ったのよね~、でも色々あって時間掛かったのよ~」
「何があったのですか?」
これに答えてくれるだろうか? ダメ元で聞いてみる他無かった。 そもそも、ビアンカさんの話以前にエイシャさんは何かを隠している感じは合ったのた。 警戒するべき対象では無いだろうが、わざわいをもたらす懸念があるなら対処は必要だ。
「んー、エルフって人口が減ってて今は希少種なのよ~・・・」
「ここにはたくさん暮らしてるように思ったんですが」
村には200を超えるエルフが暮らしている。 限界集落のような高齢者の集まりでも無い。 子供も多い・・・というかエルフの特性上、大人と子供の線引きが分からない。 子孫を増やそうと思えば、長い年月生きられる事を考えれば人口増加は可能ではないか?
「確かに多いわ。 わたしの生まれた村の仲間だしね? だけど、他ではあまり無い光景だと思うわ~」
エイシャさんの生まれた村だと何かあるのか・・・? この村が特別だとハッキリと言っているが。
「それは・・なぜです?」
「・・・町へ行ってみれば、何となく分かると思うわよ。 わたしは娘を・・・ううん、この先はサトシさんがもっと見識を広げたら話すわ」
思い詰めた表情でエイシャさんは言葉を止めた。 いつものぽわぽわした感じが無くなって、酷く悲しげな表情をしている。
「いつか・・・行こうとは思いましたが、今やりたい作業が落ち着いたら行っててみますね」
「えぇ、あなたがどう感じるか楽しみだわ~」
俺の言葉を聞いて、いつものふわふわしたエイシャさんに戻っていた。 ビアンカさんはあんな事を言っていたが、エイシャさんが警戒に値するとは思えなかった。 どちらかと言えば、ビアンカさんの方に不信感を感じる。
話が一段落した所で、俺は薪に火を着けた。
暗闇の中、オレンジ色染まるエイシャさんの顔は、少女の見た目とは不釣り合いな憂いを帯びていた。
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「ねぇ、アリス。 サトシ変だったよね?」
「そうね、何か思い詰めてたようだけど、私達にも話したくないって事よね きっと・・・」
「・・・悔しいよ。。」
「えぇ。」
元気でいて欲しいのに、何も出来なくて悔しい。 紅葉ちゃんもそう思っているのだろう。
クイナ姉は、私達の話に入ってくる素振りはなく、村に向かってただ事務的に進んでいるだけだった。
「紅葉ちゃん、サトシの所に戻る?」
「うーん。。どうしよう? 戻りたいけど、目的の弓矢を手に入れてないのに帰れないよ。。。」
そう、サトシに元気が無いのは私達にとって大問題だ。 だけど、当人がここまで来てしまって、私達を送り出した。 目標を達するようにと・・・
私達に必要なのは、サトシとの約束を果たすこと。。 その後で、いっぱい問いただせばいい。
今は苦しいけど・・・手ぶらで戻るようじゃ、サトシの行動に応える事が出来ない。
必要とされたい・・・私があなたに思っているように。 紅葉ちゃんのように私には必要とされるような場面が今まで体を除いて他に無かった。 私だけを必要として貰える事が。。。 だから、唯一誰からも驚かれ称賛された弓が必要だった。 アピールできる部分はこれしか思い付かなかったから。
あなたに気付いて欲しい・・・共に居ると決めた想いを。
養われるままじゃなくて、対等で居たいの。
「紅葉ちゃん! 急いで弓を貰って来ようね。 のんびり歩いてる場合じゃないんだから!」
「う、うんっ!」
「・・・アリスも悩んでいるようだったがな。 吹っ切れたのか? 急ぎたいなら、着いてこいよ?」
ザッ
クイナ姉が地面を強く蹴りあげて、後方に土が飛んだ。 紅葉ちゃんはすぐに動いて、土を避けて後を追い掛けていた。 私もすぐに走り始めたが、土を顔に浴びたし、どんどん離されていく・・・
さっそくお荷物となっている自分が情けなかった。。
紅葉ちゃんが出した小さな光を追って、何とか村までたどり着いた。
「はぁ・・・はぁ・・・やり切ったわ・・・」
既に満身創痍だった。
「アリス、休んでる暇はないよっ?」
その通りなのだけど、紅葉ちゃんの言葉は無慈悲である。。。
「アリス、水でも飲んでから話すか? 分かっていると思うが、弓を買うつもりなんだろ?」
「はぁ・・・えぇ、話が早くて助かるわ・・・」
肩で息をしながら、クイナ姉の厚意に感謝した。
「ねぇ、クイナどこに行くの?」
「わたしの家です、紅葉様。 この前、皆さまで集まられた場所と同じですのでご安心下さい」
「ふーん、早くいこっ」
紅葉ちゃんは走って一足早く向かってしまった。
クイナ姉は私と並んで歩いていたが、その姿が見えなくなると苦笑していた。
「紅葉様は元気いっぱいで、自由だな。 のびのびと日々を過ごしていると言う事か」
「そうね、基本的にサトシが甘やかしてるってのもありそうだけど、私もその一人だし何も言えないわね」
「そうか・・・あの者は良い管理者としてやっているという事なのか・・・」
「・・・管理者って? サトシはサトシだし、私達の中で誰が上かなんて意識したような生活はしてないわよ? 確かに、サトシの行動に合わせてるけど、嫌なら断る事もできるわ」
「なるほどな・・・半信半疑だったが、エイシャ様の話通りか・・・」
クイナ姉は立ち止まり南の空を一目見て、また前を向いて歩き出した。 南に何かあるのだろうか?
いつもと同じような星が空にあるだけで、気になるようなものは何も見つからなかった。
「・・・何かママから聞いたの?」
「・・・村長としてな。 私からは話せないが、そのうちにアリスも知ることになるだろうさ」
クイナ姉は意味深な言葉を残して黙って歩いている。
中途半端に話を聞かされて、モヤモヤしてもそれを晴らさせてはくれないようだった。 ただ・・・クイナ姉は良い事だと感じていないのは確かだろう。 私はそれを知った時、同じように悲しげな顔をするのかな?
「しかし、アリスはどうやって弓を買うつもりなんだ? お金持ってないだろ?」
「ふふっ、サトシが村から貰った麦で作ったパンがすごいのよ? それと交換とまではいかなくても足掛かりにしたいのよ。 それだけの価値を感じたわ」
「・・・パン? あんなもの非常食だろう・・・というか、アリスはあれ嫌いじゃなかったか?」
「覚えてくれててくれたんだ? 嬉しいわ。 その私すら虜になったわ。 正直、クイナ姉に譲らずに私だけで食べたかったのに、サトシに止められたのよね・・・」
「そんなにか。 あはは、楽しみだな」
クイナ姉は、サトシのパンを甘く見ている。 明らかに釣り合わないと軽く流されているのが分かった。 でも・・・食べてから同じ事が言えるかしらね・・・? 私もニヤリと悪い笑みを浮かべてしまっただかも。
「そう言えば、アリスの口調が変に固くて疲れるんだが、どうしたんだ?」
「・・・そりゃ、クイナ姉より私が大人だからよ? ふふっ、クイナ姉ってまだしてないようだしね」
クイナ姉の首筋には、揺れる髪の毛の間から輝く宝石が見えている。 薄汚れた私の物とは違う。 純潔を保ったままなのだろう。 リュウから夫婦になったとは聞いていたけど、何もしていないようだったのだ。
「アリスだって似たようなものだろ?」
「・・・全く違うわよ。 私は何度もサトシとしてるからね? ゴブリンにやられた事は屈辱だけど、それを忘れさせてくれるくらい優しくしてくれるわ」
時々獣になる時もあるけど、サトシの名誉の為に伏せておいた。
それに・・・嫌じゃないしね。
「おいおい・・・アリアがそこまで進んでいるとは。。。 そ、それでどうなんだ・・・?」
「はぁ・・・リュウと真面目に話しなさいよね?」
クイナ姉も興味はあったようで、根掘り葉掘り問い詰められた。 リュウが押し倒してしまえば、クイナ姉とはすぐに出来そうなのに、腕っぷしがクイナ姉の方が強いから、クイナ姉が完全に受け入れるまでリュウの苦難は続きそうだった。
(気長に頑張りなさいね、リュウ・・・これは大変そうよ)
クイナの家に着くと、紅葉ちゃんが“遅いよー”と急かしてきたが、走った疲労は長引いていたのでクイナ姉と歩いて休む時間がありがたかった。 もう少し体力つけるようにするから今日は許して紅葉ちゃん・・・
「ごめんね、帰ったらもう少し体力つけるね。。」
「むー、狩りに行く時は着いていこうかなっ? アリスにちゃんと体力ついたか確認しなきゃっ!」
中々にスパルタなのか、本格的に体力不足を何とかしないとシゴキが来そうだった。
「ねぇ紅葉ちゃん、パン温めるの手伝ってもらえる?」
「いいよー」
サトシから渡された袋からパンを取り出すと、テーブルの上のパンが別荘の時と同じように浮いて回った。
「アリス・・・な、何が起きてるんだ・・・?」
「クイナ姉でも驚くのね・・・」
「どういう意味かは分からないが、バカにされてる事だけは分かったぞ・・・紅葉様の魔法なのか?」
「えぇ、どういう事になってるのかさっぱり分からないけど、これでパンが温かくなって焼きたてのようになるわ。 そしたら食べてみると良いわ」
「そこまで自信があるのか・・・パンはパンだろう」
パンが静かにテーブル降りてくると共に、紅葉ちゃんが“出来たよっ”と一声あげた。
「熱いから気を付けてね」
「おぉ、わかっ・・・おっ・・・?」
クイナ姉は、“分かった”と言おうとしたのかな。 だけど、触れたパンの柔らかさに驚いたみたい。 だよね、だよね! まず柔らかい事に驚くのが最初よね。
触れて驚き、取り落としたパンに再び手を伸ばして、クイナ姉は口を口に含んだ。 さて・・・どうなるかしら。
私も紅葉ちゃんも静かに成り行きを見守った。
「リュ、リュウッ! 居るかっ?」
・・・
「どうしたクイナ? 狩りは終わったのか・・・? おぃおぃ・・・血抜きしたら川で冷やしてくれとあれほど言ったのに、また掃除が大変じゃないか。 それに肉マズくなって売れな・・・ん?」
「リュウ、お邪魔してるわ」
床に無造作に置かれた狼の血は止まっているが、乾き始めた血が床にこびり付いていた。 戦闘以外はお粗末なクイナ姉をサポートしているのはリュウみたいだ。
「紅葉様とアリス・・・いらっしゃいませ。 何も出さず申し訳ありません、少々お待ちください」
私と紅葉ちゃん、クイナ姉に水の入ったコップが配られた。 懐かしい木製のコップ。 サトシの家では、透明な物や、もっと重い物を使っていたが、使い慣れたこれは手に馴染むわ。 懐かしく感じるコップを手に、水を口に含むと乾いていた喉が潤っていった。
「リュウ! 水なんかよりもこれだよ、これ!」
「クイナ・・・水くらいは自分で出してくれないか。。 ん? それはなんだ? 村に売ってる物じゃなさそうだが・・・」
来週は検定試験本番なので、帰宅後も勉強タイムになると思うので更新遅れそうです。
追記してたら駄文でも遂に30万文字・・・続きましたねぇ
大体改行含まず、6000文字を1話目安にしてますが長いかな?
小まめに区切って投稿頻度あげるか考え中だったり。。




