22-2.邂逅(22日目)
エルフの村へ向かう一向・・・果たしてパンは渡せるのだろうか?
エルフの村へ行くといっても、途中の森は順路が複雑なので、溺れかけた川原まで向かい、エルフに会えるかどうかが今回の肝である。
少しでも早く川原についてエルフを探す必要があったのだ。
森の中を30分ほど歩くと、2匹の狼に出くわした。 が、紅葉を前に大したことはなかった。
「今のどうだった? 蔓で狼の足を絡めて動けなくしてみたけど、らくしょうだったねっ♪」
「あ、あぁ・・・剣を縦に振っただけで勝てちゃったな」
簡単に紅葉は蔓で絡め取っていたが、イノシシと違って狼の方が警戒心が高く迂闊に動かないし、敵意に対してすぐに回避行動を取ってくる。 雑魚ではあるんだけど、ここまで楽勝では無いはずだった。
蔓は目にも止まらぬ早さで鞭のように狼に迫り、そして絡み付いて身動きを取れなくしていた。 細い蔓のはずだが、強度をあげているのだろう。 装備を身に付けている俺でさえ、引っ張っても簡単には千切れなかった。
あ、一応は千切れたからね? 動揺はしたが保身の為に大切だったので繰り返しておく、俺の力の前には千切れたから!
狼からは銀貨二枚と、毛皮が手に入った。
何枚か持ってたけど、エルフがどこかにやったからな。。 冬支度の為に、毛皮は有効活用出来るはずだ。
家から南下し、川沿いを西へ進んでいると、更に3匹の狼が・・・!
今度は、紅葉が岩を使ってドーム状に狼の群れを包み隠し・・・ぐちゃっと・・・血飛沫が上がった。
取り囲まれた狼に逃げ場は無かった。 そんな状況の中で、上から大岩が落とされた狼にとっては地獄でしかない。。 ご愁傷様と手を合わせる事しか俺には出来なかった。
瓦礫の中からキラキラと狼の物と思われる消失の証が漏れて、銀貨2枚と毛皮1枚、そして牙が1本手に入った。
「紅葉・・・すごかったな今のは・・・」
「無双よね・・・」
「えへへ♪」
褒められて喜んでいる紅葉だが、俺は複雑な気持ちだった。 アイアンメイデンとも言えるような強烈な一撃だ。 アリアも同様だろうか? 険しい顔をしている・・・仲間だから・・・外敵から助かったからという安堵もあるのだが、笑顔の紅葉を怖く感じてしまった。
「紅葉、血飛沫とか出ると服とかに着いて汚れるから、さっきみたいな蔓の拘束で十分だよ?」
監獄+圧死という事態から遠ざけたい気持ちで出た言葉だった。
「うーん、森の中だと植物がいっぱいあるからあれが使いやすよっ でも、ここみたいな川原だとどうすればいいかなぁ・・・」
魔法の効率も考えての使い分けだったようだ。 魔法行使において、魔力残量を維持し続けることが最重要だし、紅葉の選択は100点満点に思えた。
「ちゃんと考えてたんだな。 偉いぞ~」
紅葉を誉めながら・・・次の言葉を考えるしか無かった。
石や土を用いた魔法でもう少し、やんわりと終われる方法・・・か。 思い浮かぶのは、地面から伸びる鋭利な土や岩の槍や弾だ。 他には壁とか・・・
ただ、火なら燃やす事だし、水なら窒息か。。。 そう考えると魔法を攻撃手段とした場合、残酷な事態にしか思い浮かばなかった。
いや、剣で切る事だって同じか・・・俺にまだ自覚がなかっただけなのだろう。。 敵を倒す事に躊躇っていたら、いつか大怪我をするだろう。 それで済まないかも知れないしな。
残酷には見えたが、それも仕方の無いことだと感じた。 個々を倒すだけでなく、魔法なら集団も一撃で屠れるという事実が怖くなったのだろう。 俺自身がそれに慣れる必要がある気がした。 サイコパスになるって訳じゃない。 生きるために必要な事だ。。。
ただ、人間性を失わないようにしよう。 ん? 人間性ってそう言えば何だ? まぁ、いいか・・・残虐と感じた心は持ちつつも、それを全否定するのではなく、仕方の無いこともあると受け入れられるようにはなろうと考えた。
「川原なら単純に、石を飛ばして敵にぶつけたら良いんじゃないかな? もっと魔力消費も抑えられるだろうし。 他にも地面と足を固定してしまっても良いかもね。 蔓で縛るってのと同じように、大きな石に足を固定させてしまえば良いかな。 どうだろう、紅葉?」
「うんうん、参考にしてみるねっ 他にも気付いた事があったら教えてー」
「もちろんだよ。 な、アリア?」
「あ、えっ!? 私もなの?」
「そりゃそうだろ? 仲間だし、気付いた事は皆で共有しなきゃ・・・」
「そ、そうね・・・ごめんなさい。 紅葉ちゃん、私も気付いた事あったら言うね」
「そうだよ? アリスは全然話してくれないんだもん、聞けば答えてくれたけど、しっかりしてよ?」
「紅葉ちゃんっ、その話は・・・」
「あっ・・・」
「ん? 俺が聞いちゃダメな事だったのか? まぁ・・・2人の内緒話なら聞き出しはしないけど、危ない事はしないようにね?」
「はーいっ」
「えぇ、危なくないから大丈夫よ」
二人して俺に隠し事をしているようだった。 まぁ・・・アリアと紅葉の関係性が変わった節目と思われるエルフの村で何かあったのだろう。 険悪なムードになるような物ならもっと踏み込むが、仲良くなった事に対して、俺が聞き出す必要はないだろ。 女(?)同士にしか理解できない部分もあるだろうしな。
それはそうと、川がぶつかるY字の部分まで到達した。 時刻はまだ14時で日差しが暑く感じる。 キリが良いので二人に確認を取った。
「少し休憩するか? 不要ならそのまま進むけど?」
「要らないよっ」
「私も大丈夫よ」
二人からの了解が得られたので、休まず進行することに・・・
「さてと、なら前と同じように飛び越えるか」
「それは・・・嫌よ。 紅葉ちゃん、何とかならない?」
「うーん、石で道を作るかなぁ そしたら今後も簡単に渡れるし・・・いいよねっ?」
アリアの願いに紅葉が応える・・・その確認は・・・俺へか?
紅葉の視線は俺へ向けられているので間違いないだろう。
橋か、確かにあったら便利だろうな。 魔力の温存・・・は無理か。 なるようになれって事で、紅葉の考えを肯定した。
ニョキニョキと紅葉の足元から石畳の橋が伸びていく・・・手摺もない足場だけのアーチ橋が川を跨いだ。
コンコンッ
叩いてみたが全くグラ付きはない、乗って軽くジャンプしても問題は無さそうだ。 まぁ、紅葉が作った橋なら象が乗っても大丈夫だろうさ。
「問題は無さそうだし、進もうか」
「うんっ♪」
川を南下していけば、エルフの村へ続く入り口が見つかるはず。 門がある訳ではないが、少し拓けた場所になっていたし、出入りがあれば他とは違う道や兵士が立っている可能性も高い。 帰ったはずの紅葉が、再び来るとなればすぐに迎え入れてくれるだろう。 簡単に帰してくれるかは不安があるが・・・
「アリア、エルフの村への入り口ってどこだったか分かる・・・?」
「そう言えば言って無かったけど、あの時ってママがモンスタートレインしてきて逃げ回ってたら、助けられたって感じで、周りなんて見ている余裕なかったわ・・・。 サトシは覚えていないの?」
「俺も川に流されて、溺れながらだったし、その後は洞窟だったからなぁ・・・帰りはまた来る気も無かったから気にしてないよな・・・」
「私分かるかもっ!」
「おぉ!? 紅葉は覚えてるのか?」
「ううん、匂い。。。かな?」
「それは凄いな」
「でも、入り口くらいしか分からないかも。 村への道って周囲が同じような匂いばかりで分からなくなりそう・・・」
「十分だよ。 きっと近くに兵士が立っているだろうし、紅葉が村に入りたいって言えば案内してくれそうだしな」
嗅覚を頼りに、エルフの村へ向かって行く・・・1時間歩いたが、まだのようだ。 俺って結構流されたのかな?
そのまま30分ほど歩いたところで、紅葉が慌てた。
「サトシ! 狼と血の匂いが近いよっ 警戒して!」
紅葉は毛を逆立てて、森を睨んでいる。 森から狼が出てくるのだろうか? 俺も剣を構え、アリアを後ろに下げて森を警戒した。
ガサガサ・・・
森の奥の方から草を掻き分ける音が聞こえてきた。 ゆっくり歩いて来ている・・・余程自信のある狼なのだろうか。。 ボス的存在のような・・・
ガサガサ・・・ガサ・・・
・・・
・・・・・・
「クイナ姉・・・?」
「あぁ、アリスかどうしたこんな所まで来て? 紅葉様もお久しぶりです」
「久しぶりって程の時間経ってないよっ」
目の前には血の滴ったクイナが現れた。
皮鎧は赤黒く染まっており、腕や顔も髪にも血がこびり付いている。 というか、左肩で担がれている狼は、ボトボトと血を流していた。
狼の首は、皮一枚で繋がった状態で、白い骨が見えクイナが動くたびにブラブラと揺れて辺りに血を撒いている。 明らかに絶命しているはずだが・・・一向に狼は霧散しない。。 どういう事だ?
「クイナ姉、狼仕留めるなんて随分腕を上げたのね」
アリアがかなり上から目線でクイナの状況を褒めているようだった。 というか、マジマジと見るとやっぱり吐き気がする・・・何事も無いようにクイナとアリアが話しているのが凄いと思えた。
「まだまだアリスには及ばないさ、これだってかなり追いかけちまったからな・・・」
「そうなの? それでも、弓と違って剣で仕留めるなんて流石だわ」
「そう言ってもらえるなら、頑張った甲斐があったってもんだな。 って、それはそうと今日はどうしたんだ?」
チラッとクイナと目が合ったが、特に俺に話す事は無いようだ。 居ない者と扱われている気がするが、排除されないだけマシと捉えよう。
続いて、クイナの言葉にアリアがこっちを見てきた。 いつもなら俺が指揮をとって、話す事が多からか黙ったままの俺を確認したのかも知れない。 口を開く気は無いので、アリアに対して軽く頭を下げておいた。
「・・・村に弓を探しに来たのよ。 私達じゃ弓を作れないから・・・」
「そういう事か・・・」
再び俺の方をクイナは見ていた。 ちょいちょい気にしているようだが、やはりこっちには話しかけてこない。 あー・・・もどかしいっ!
「ねぇねぇ! アリスってクイナよりすごいの?」
紅葉からナイスアシストが入ったのでサムズアップしておいたが、りかいできなかったのだろう首を傾げていた。
「紅葉様、アリスはこう見えても村でも随一の狩人です。 このような狼など容易く狩ってしまうでしょう」
「クイナ姉、“こう見えても”ってどういう事よ!」
「日頃からエイシャ様に着いて部屋に籠ってばかりだったからな・・・その割には狩りに出ると成果を上げてくるんだから、もっと率先すれば良かったのだがな。。」
過去を懐かしむクイナに、アリアは文句垂れているが険悪さはない。 やはりアリアにとって村は悪い物ではなく、大切な繋がりのように思えた。
俺に、アリアが50年以上も過ごした仲間よりも価値があったのだろうか?
恋愛感情による影響か、単純に吊り橋効果で得られているだけの仲が続いてるだけかも知れない。
俺には自信がない。 だから人との繋がりに怯え、うわべだけの付き合いで線を引いてしまう。 逆に、安心すると相手に依存してしまう。 そんな事を何度も繰り返した。 この度に後悔し、一人を・・・2次元を愛した。
俺は今、アリアに依存しかけている。 失うのが怖い・・・僅かな心の揺れが大きな波になって溺れる。 自分で自分の首を絞めていると分かっているのに、俺はこれを変えられないでいる。
俺は自分を自制できるだろうか?
依存せずに要られるだろうか?
あまり良い経験の無い悩みが少しずつ始まっていた。
トントンッ
肩を叩かれて、とぼとぼと無意識に歩いていた事に気づくとアリアが隣に来ていた。
「・・・村に入るわよ」
「・・・っ! ありがとな」
いつの間にか、森へとクイナと紅葉が入ってこちらを待っていた。
「すまない、今行く」
俺の言葉を聞くと、クイナは向き直って先頭を進み始めた。 俺達は、クイナ、紅葉、俺とアリアという順で森を進んでいく。
「ずっと、ボーッとしてたみたいだけど、何かあったの?」
心配してくれたアリアが、俺に寄り添って小声で話しかけてきた。
「ちょっと考え事をしていただけだよ。 大丈夫、問題はないから」
「そう・・・?」
アリアの心配は、まだ続いているのだろう。 疑いの目を向けてくるが、それ以上は聞き出そうとはしてこなかった。 心配してくれる事、気づかってくれる事、その全てに甘えたくなる。 俺の心は弱い・・・着飾って強く見せているだけのハリボテだ。 空っぽの心に、アリアが満ちていく。 それが嬉しくもあり、不安でもあり・・・。 またボーッとしてきそうなので、歩きながら深く息を吸って吐く。 意識を切り替えて前を見る事にしたのだ。
淀んだ意識の中、目の前に湖が広がった。
夕日に染まるオレンジ色の鏡に俺は吸い込まれるように、湖畔に近付いていった。
「サトシ、本当に大丈夫なの?」
「どうかしたの、サトシっ?」
アリアと紅葉に心配されながら、俺は笑って見せた。
「ちょっと疲れたのかな。。 夕陽が綺麗だし俺はちょっとここで待っていようかな?」
「それなら私もここに残るよっ!」
「私もそうするわ」
「はぁー・・・っ」
紅葉もアリアも残ると言う。 だが、少し一人になりたかったので断ることに。
「森に入るにあたって、俺が居ない方が円滑に進むと思うんだ。 アリアは弓矢を手に入れる為にここに来たんだろ? 紅葉はアリアの事を守ってくれ。 俺なら一人でも何とかなるしな」
剣を抜いて見せると、刀身を反射した光がキラキラと湖面を輝かせた。
「確かにそうだけど・・・」
「紅葉様、アリス・・・横やりで申し訳ないが、こちらとしては、サトシ殿の申し出に全面的に感謝する。 叱責を承知で言うが、村の者達はサトシ殿に怯えている。 直接手を出された訳では無いが、だからこそ恐怖している事も考慮頂きたい」
なるほどな・・・穏便に済ませて終わらせようというのも、逆に相手を恐怖させる事ともなるのか。 “鞭を与えるべき所で、飴を渡した”とまで言え無いだろうが、今後何かを要求される可能性があると不安にかられるようだ。 それに紅葉の魔法は圧倒的だ。 俺の一声で、やろうと思えば一瞬で葬れるのだろうから。
「紅葉、アリア・・・行って来てくれ。 俺はここでのんびり待っているよ」
「うー・・・すぐに帰って来るねっ」
「紅葉ちゃん・・・分かったわよ。 戻ったらそんな顔してないでよね・・・サトシ?」
「あぁ」
アリアに言われたように顔に出ていたようだ。 何でこんなにもバレちゃうかな・・・。 戻ってくるまでに気持ちを変えなきゃな。 忘れないよう、アリアにパンを渡しておいた。
「行ってくるわね。 急いで戻って来るから覚悟しなさいよ?」
「え? ちょっと待ってくれ、何を覚悟しろと・・・」
「紅葉ちゃん、行くわよ」
「うんっ」
何も言わず、アリア達は行ってしまった。 戻って来てからが怖くなってきたぞ。。
逃げてもこうなるんだよな・・・。 結局巡り巡ってまた自分の首を絞めていたようだ。
(はぁ・・・何やってるんだ俺は。 こんな風になるのを変えるって思ってたのにな)
オレンジ色に輝く湖に小石を投げると、水面の何度も跳ねて対岸まで飛んで行った。 鎧の効果だろう。 筋力アップの効果がしっかり出ていた。 ボーっとしている場合ではないのだろうが、やる気が出なかった。
ガサガサ・・・
「・・・っ!?」
アリア達が去って暫くした後、森の中から物音が聞こえてきた。
「アリア達かっ?」
声を荒げて森に向かって叫んだ。
「・・・ハズレだのぉ」
「あ、あなたは・・・っ!?」
おぉ・・・遂に50話!?
キリが良いですが、何か特別な事も無くダラダラ続いていく予定です。
時々挿絵(絵なのか?)を貼る時がありますが、滅多にないので期待しないでね・・・?
文も絵も、すべてが気まぐれなので・・・




