21-3.別荘(21日目)※挿絵あり?
肉じゃがパンという携帯食料を持って、露天風呂に向かう一向・・・!
俺達は、家から南下して露天風呂を目指している。
パンを5つ、ペアーチは9個、肉を1パックと寝袋やテント、水も持った。
今夜は露天風呂の近くで泊まる予定だが、上手くいけばテントは使わないかも知れない。 紅葉の体調は不安だが、それで死んでしまう事は無いだろう・・・数日眠ってしまうくらいなら、守れる状況さえ確保していれば大丈夫なはずだ。
「露天風呂久しぶりだね♪」
「だなー・・・ほんとは毎日でも入りたいんだけどね」
「サトシって、綺麗好きだったのね」
「そういう訳では無いんだけど、ベタベタするのは気持ち悪いしね」
「だから、露天風呂の近くに家が欲しいって言ってたんだねっ」
「そうそう、それに洗濯もしやすいしね」
「ふふっ、本当にサトシは生活面ばっかりね」
紅葉に返した俺の言葉に、アリアが苦笑していた。
「重要な事だろ?」
「そうだけどー・・・でも、サトシがそうであってくれるから、私も紅葉ちゃんも生活できてるんだものね。 感謝してるわよ」
「そ、そうか・・・これからも頑張るよ」
何か言い包められた感はあったが、楽しく生き延びる事が最重要事項として頑張っている成果は出ているので良しとした。
陽は出ているはずだが、暗い森の中を歩く為に紅葉はミニ太陽(?)を出してくれている。 森の中とは思えないような明るさで、進みやすいが魔法力は大丈夫だろうか? どちらかというと、温泉に着いてから頑張って欲しい所だが、せっかくの好意を無下にはしたくなかった。
鬱陶しい草や蔓を掻き分けて森を進んでいる為、体は汗や土で汚れてきた。 だが、それを流す事の出来る露天風呂はもう間近だ。 足に入る力も強くなってくるってもんだ。
「サトシ、ちょっと早いわよ・・・はぁはぁ・・・」
「アリア、おっそーいっ♪」
むむ・・・艦○れの島風が頭に浮かんできた。 そういえば、今日見てたのはそれだったな。
アリアを待ちつつ、今度は進行速度を落として進み始めた。
「アリア大丈夫か? ごめんな」
「・・・大丈夫よ、二人よりも遅いのは事実だし・・・」
体力面というよりも、精神面でのダメージの方がデカそうであった。
「アリアにしか出来ない事もあるじゃないか。 まだ野菜取ってきてもらってばかりだけど、肉も期待してるぞ。 俺じゃ動物見つけられないしな。。」
「そ、そうだったわね・・・狩りに行くとなると、弓作らなくちゃいけないわね」
「何か足りない材料とかあるか?」
「弓って自分で作った事ないのよね・・・村に行けば弓も買えるとは思うけど。。。」
「そうか・・・買うといっても村で流通してるお金も無いし困ったな・・・」
「でも・・・もしかしたら。。 明日、家に戻ったらまたパンを焼いて貰えないかしら?」
「ん? 良いけど、どうしてパンを?」
「あのパンをクイナ姉にあげようと思うのよ。 それと弓の交換を持ちかけたらもしかすると・・・って。 それにママの事も流石に遅いから見に行きたいのよね。。 ダメかしら?」
「良いけど、一人じゃ危ないな。 俺が・・・」
「それなら私がアリスについて行くよっ 私がアリスを守るから大丈夫っ!」
俺の言葉を遮るように、紅葉が護衛として着いて行くことを提案してきた。 確かに俺以上に紅葉は戦力になるし、魔法によって便利な事もいっぱいある・・・だが、守りたい2人だけで行かせる訳には。。
「2人だけで大丈夫だろうと思うけど、寂しがりな俺もついて行かせてくれないか。。」
「しょうがないなぁ~」
「そこまで言うなら、仕方ないわね」
2人の表情から笑みが漏れていた。 結局3人で再びエルフの村に向かう事になったが、遠足のような軽い気持ちで話は終わった。 遂に森を抜け、川が見えてきたのだ。
「ふ~・・・抜けたな!」
流れる川から湯気が立ち上っている。 1時間近くかかったが、まだ日没までは時間がある。 汗を早速流したいが、その気持ちは抑えて作業を進める事にした。
「よし・・・良い感じだな。 紅葉、こっちに来てくれないか」
「どうしたのー?」
自作の露天風呂まで歩き、手で温度を確認してその近くに家を建てようと提案した。 この川が増水するかは今の時点では分からないが、極力森寄りの河原に建てる事が良いだろう。
家の材料は、森の中に沢山ある。
魔法の事を考えれば、無から生み出す訳ではないから負担は減るだろう。
「紅葉、森の木を材料にこの辺りに小屋を建てれないかな? エルフの村で見たような家があれば十分だよ」
「はーい、任せて。 サトシが驚くような物を作るよー!」
「え? そこまで頑張らなくていいぞ・・・?」
俺の言葉を無視すかのように、紅葉は森の木々を変化させていった・・・
森の木々は根元から消えるように、生えていた場所が忽然と拓けた。 それと共に高床式の家だろうか、何の変哲も無かった河原から何本もの柱が生えてくる。
続いて、床と思われる丸太が柱の上に整然と並んでいくが、それらがどのように接続されているかは謎だ。 釘を打たれてる訳でも、蔓で結んでいる訳でも、溝を彫って嵌め込んでいる訳でも無い。
「おっ・・・まさか一枚板に変わるとは・・・」
床材の丸太が並んだと思ったら、それぞれの丸太は落ち物ゲームの様に連なって繋がり、丸太だった物は、分厚い一枚板に変わった。
「す・・・すごいわね・・・」
アリアも口を開けてその光景を眺めていた。 俺も同じ状態だろう・・・
床板は10m×10m程度ありそうだ。 ハッキリいって広すぎる・・・これは小屋どころでは無く、立派な別荘のような・・・。
そう言えば、紅葉はいくつものアニメを見ていたはず、最初に見始めたやつだって、別荘で過ごすシーンは何度かあった。 見事なログハウスが出てくるんだよな。。 部屋がいくつもあって、一階は大きなリビングダイニングで、二階が客間な割り振りで・・・
紅葉はまさにそんなものを作り上げようとしている。
目を閉じたままで表情は柔らかく楽しんでいるようで、疲れや苦痛は無いように見える・・・だが、心配だった。
「・・・紅葉、無理はするなよ?」
「・・・大丈夫、問題ないよっ。 でも、今は集中させてっ!」
邪魔しちゃったか。。
魔法といっても、イメージする必要があるのだから、俺達の目の前で起きている状況を紅葉は一つ一つイメージしているのだろう。 話していては、歪みが生じるだろうし失敗の懸念もある。 今は信じて静観する他無いと感じた。
そうこうしている内に、見事な別荘が川原に完成した。
「体は大丈夫か、紅葉?」
「全く問題ないよっ ほらっ♪」
目の前で宙返りをして、俺の肩に飛び乗ってきた。 これだけ動けるのであれば、問題はないって証なのだろうが。。
「今日は、魔法疲れ無いみたいだし成長したって事なのかな?」
紅葉が石臼作りで魔法疲れした事はハッキリと異質に感じた。 こんなにも大きな事が出来たのは単純に成長とか効率・・・はたまたイメージ力の違いかと勘繰った。
「んー、多分最近は魔法の練習をいっぱいしてたからかも? 今日は、お休みしたからねっ」
「練習か・・・どんなことしてるの? 無茶はしないでくれよ?」
「えーっと・・・」
紅葉がアリアの方へチラッと視線を流したが、すぐに向き直って返してきた。
「まだ・・・秘密っ!」
「そうきたか・・・、まぁアリアも関与してるみたいだけど、無茶しなければそれで良いよ。 怪我とかしないようにね?」
「はーいっ」
「何でそう言うことにはすぐ気づくのかしら・・・」
「アリア、何か言ったかー?」
「何でもないわよっ!」
落ち着いたところで、紅葉が作り上げた別荘の確認が始まった。 ハッキリいってやっぱり俺は要らない子かも。。。
別荘に入る為には2m程ある石畳の階段を上る。 高床式だったはずのログハウスは、辺りの石をかき集めたのか立派な石垣となっていてさながら城のようだ。
見事なまでの石垣は緻密に組み合わされていて、簡単に崩れないだろう事が一目で分かる。 というか、建造中の状況を見ていたからだが、表の石垣は飾りみたいなもんで、中身は大岩なのだ。 最初こそ高床式だったが、この隙間に石が集まってくっついて・・・すべてが1つに纏まった後に外周のデコレーションをしたって訳だ。 ログハウスと石垣ってのはミスマッチな感じもするが、機能や強度面からは最善と言えるだろう。
階段を上りきると想像以上に見晴らしが良く、立派なテラスには端から落ちないように木製の柵が周囲を囲っている。 テラスにはパラソルやチェアまで備わっており、傍らには花壇まである・・・俺はその完成度に嫉妬した。 DIYは趣味だが、ある程度のプライドもあった・・・それを容易に砕くほどの完成度がテラスで既に見せつけられていたのだ。 だが・・・
「これは・・・脱帽だ。。 俺じゃこんなにすごいのを作れないよ。 紅葉頑張ったな、ありがとう」
あまりの凄さに、嫉妬は通り過ぎていた。 素晴らしい別荘を建てた紅葉には称賛以外無いのだ。
テラスの石畳を進み、メインとなる家に到着した。 予想通りというか二階建てのログハウスだ。 どうやったのか窓にはガラスが嵌められている。 石から材料を抽出したのだろうか? いや、流石にアニメからはそこまでの知識は得られないはず。。 イメージの強さが魔法・・・それを改めて実感をしていた。
玄関を開けると、家と同じような下駄箱があり土足では上がらない構造のようだった。 アニメでは中々表現されていない部分は、家の状況を見て作り上げていたのだろう。
靴を脱ぎ、短い廊下を進むと扉が2つある。 どちらも開き戸のようだが・・・奥の扉を開けてみると洗面台があり、大きな鏡が一面に貼られている。 この辺りも家の状況をコピーしているようだ。
洗面台の背後には、もう一つ扉があったので開けてみると、リビングダイニングが広がっていた。 先ほどの廊下の扉もリビングダイニングに同じように繋がっているようだ。
「予想はしてたがこれは・・・」
「どう? アニメでやってたから、それをイメージしたんだけど・・・」
「凄すぎるぞ! これじゃ、家に戻る必要すら無くなりそうだよ」
「それはダメっ! アニメ見れないんだもんっ」
この成果がアニメのおかげとあっては、こっちに移住するってのは諦めざるを得なかった。
リビングには、ローテーブルやL字タイプのソファー、フカフカの絨毯が敷かれている。
棚に花瓶が置かれていたりもするが、生活感の無い味気なさは感じた。 生活感はこれから追加していけば良い。 こんなにも立派な基礎があるのだから。
キッチンも家のを模したものがある。
扉横に冷蔵庫、食器棚には電子レンジ、ガス台まであるがどれも機能はしなかった。
キッチン周りも家を模しているようだが、何気なく水道の蛇口を開くと・・・
ジャーーーッ
勢い良く水が流れてきたではないか・・・! 何故か水が出るという奇跡的な事態!?
「も、紅葉・・・水が出るんだが・・・!?」
「あれ、間違ってた? 確かアニメではそこから水が出るみたいだったけど。。」
「いや、合ってるし凄いぞ! そうじゃなくて・・・あー、魔法なのか」
蛇口から水が出る・・・当たり前の事だが、この世界には飲料水を流すポンプだって配管だって無いから機能しなかった。 でも、この蛇口からは水が出る。 それは、作った紅葉が蛇口からは水が出るものとイメージしたからに違いない。 水を出す度に紅葉に負担をかける可能性もあるが、何が起こっているのか見当がつかない。 ありがたい事は事実なのだが・・・やはりエイシャさんの意見を聞きたかった。
連れ戻す決意が固まり始めていた。
一階には、もう一つ部屋があるようだ。
階段下の倉庫と思われる扉を開くと・・・
ガチャッ
「こ、これは・・・!?」
目の前には、見事な洋式便器とウォシュレット便座が鎮座している。
家にあった物と同じようだが、これも電子レンジと同じで座ってみたが特に動作はしなかった。 もちろん、水が溜まっているべき部分にもそれは無い。
これもただの置物か・・・
「サトシ、どうかしたの?」
「あ、あぁ・・・紅葉か。 トイレも作ってたんだな・・・でも、動きはしないみたいだね・・・」
「うん・・・ごめんね? キッチンも形は似せてみたけど、何ができるのか良く分からなくて。 でも、後で教えてくれれば使えるようになると思うよ! 魔法使って作ってる時にもできそうな感じがしたし、ほらっ♪」
パチっ
「・・・っ!?」
トイレの小部屋照明が点いた。
確かに家で日中発電している時に、電気を使う事は教えていたが・・・ アニメの中でも照明を点けるシーンがあったのかも知れない。
俺にはこんな魔法は使えないから、これの難易度は見当がつかない。 ただ、どう考えても別荘を建てた事も、水道や照明も簡単ではないはず・・・この子は、何者なのだろうか・・・? チートな存在とは思うが・・・。 俺の周りには魔法が使えない者ばかりで、紅葉の凄さ加減が俺には理解できそうになかった。
「これで、夜でも明るく生活できるよねっ♪」
・・・っ!
紅葉の声で、ハッと我に返ってた。 今は何者でもいい、一緒に生活する仲間、それだけで十分だ。
視線を下げると、“褒めて褒めて~♪”と言いたげな紅葉が尻尾を振っている。 気になる事は多大に増えたが、そんなものを全て置き去りにして俺は紅葉を抱き上げていっぱい撫でて褒めた。
「えへへ~♪ これからも頑張るからねっ」
「よろしくな」
「私も何かできれば良いんだけど・・・ほんと役立たずね・・・」
「アリスの活躍はこれからでしょっ! 弓矢を手に入れてからだよっ」
「そうだぞ、アリア。 俺達が出来る事は、それぞれ違うんだよ。 だから、俺や紅葉に出来ない事を、アリアに任せてる。 パンだって、野菜だってアリアのおかげなんだしな」
「うんうんっ♪」
「まぁ・・・こんなすごいの見せられたら、俺も委縮しちまったし、落ち込むのは仕方ないさ・・・」
「やっぱりそうよね・・・」
俺とアリアの気持ちは同じだったようだ。 紅葉は首を傾げているが、持たない者にしか理解できない気持ちだろう。
「しかし、トイレや冷蔵庫に電子レンジか・・・使えるようになったら便利だな。 明日はエルフの森に行く予定だけど、後日こっちの事も紅葉に頼まなきゃな」
「任せてっ♪」
リビングの中央には、二階へ繋がる階段があった。
階段も無垢の木では無かった。 というか他の部分もだが、綺麗に着色されている・・・パッと見だけでも、こだわりを感じる出来栄えだ。
木製の階段を進むと、家の周囲を回れる廊下が伸びている。 ここにも所々に照明があって明るい。
廊下を進むと、部屋が一つ、二つ・・・そして川を展望できる見晴らしのいい廊下、その途中にはリビングを覗ける吹き抜けがある。 廊下の奥にも扉があり、全部で3つの部屋があるようだ。
「開けても良いか?」
「もちろんだよっ」
最奥の部屋の扉を開けると、ベッドと机のみのシンプルな部屋だった。
ただ、ベッドはキングサイズでとても大きい・・・そして部屋にも照明があり、吹き抜けを見られる窓にはカーテンも付いていた。 生活する上で必要十分な物は揃っている。 というか、本当に立派だった。
「ここは、サトシと私とアリスの三人で過ごせる部屋のつもりなんだよっ」
「お? ベッドは確かに大きいもんな。 でも、他に2つも部屋があるのにここだけしか使わないの?」
「アリスは、あっちの部屋に行く?」
「紅葉ちゃんひどいっ。。 もちろんこっちの部屋で寝るわよ!」
「だって?」
「分かったよ・・・」
3部屋あるのに、1部屋しか使わない事が決まった。
一応他の部屋も確認すると、ベッドのみの部屋だが、寝るだけと考えれば十分に広かった。
一通り見終わった俺達はダイニングテーブルに座って、一息つく事に。
「露天風呂でゆっくりってつもりだったけど、家の凄さに随分のんびりしちゃったな・・・」
「そうね・・・でも、これから入るんでしょ?」
「もちろん! ただ、外真っ暗だから・・・紅葉、明かり出せる?」
「出せるよっ♪」
「それじゃあ、行こうか」
連日投稿してるパティーン・・・その内に燃え尽きますr・・・




