21-2.肉じゃがパン(21日目)※挿絵あり?
パンづくり~♪
これにて本話は完了!
アリアと二人で、ボーっとくっ付いて座っていると、辺りに香ばしい香りが漂い始めた。
かまどではパチパチと薪が燃え続けている。
熱せられた中華鍋の蓋を取るとフワッと湯気と共に、ふっくらと焼けたパンが現れた。
「アリア、パンが焼けたよ。 まだ熱いから気を付けてね」
食べなくても予想できていた。 捏ねている最中の状況から、これは強力粉では無く薄力粉だと。
粘りのある強力粉では無いが、味は間違いないと思う。 あんなカチカチでは無く、フカフカしたパンであると・・・
「あつつっ! えっ! わぁ~フカフカよっ!? こんなの見た事ないっ! 一番に食べても良いの?」
「もちろん! 美味しいかどうかは分からないけどね?」
不味いとは思えないがな!
隣に座っているアリアは、パンを両手で持ってカプッっと食いついていた。
噛みついた瞬間、目を見開いてこちらを見ていた・・・あ、また食い千切って咀嚼しだした。
お・・・またも食いついて・・・
そこまで大きくは無かったが、ぺろりと1つ食べきってしまった。
「アリア、どうだった? と・・・聞かなくても分かるか・・・ 背中痛いから止めてって・・・」
バンバンと興奮したアリアは俺の背中を叩いてくる。
「サトシ、サトシ!! これすごい! すっごいフワフワで美味しい! こんなパン初めて♪ 何これ!? ねぇねぇ!!!」
「だ、だから落ち着けって・・・」
言っても聞かないので、ギュッと抱きしめて唇でアリアの口を黙らせた。
「えっ、ちょっとっ・・・」
・・・・・・
パンの興奮が治まったのか、静かになったので唇を放したがまだ抱きしめたままでいる。
「ば、ばか・・・」
「アリアが落ち着かないからだろ?」
「だって・・・すっごく美味しかったし、あんなの初めてで・・・ごめんなさい。。。」
パンで興奮し過ぎていた事は自覚したようだったが、上目づかいで反則的に可愛かった。
そろそろ昼だろうが、夜には程遠くこのままでは俺が暴走しそうだったので、抱きしめていた腕を解くと、名残惜しそうに右腕に抱きついたが、暫くしてアリアも放した。
「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ? だからもう気にしないでね」
伸ばした手をアリアの頭に乗せて、優しく撫でた。
また抱きしめたいが、それはせめて夜にするべきだ・・・今じゃない。 72歳のロリババア属性を持ってはいるが、懐疑的になるほどアリアの精神年齢は幼いように見える。 いや、もしかすると全てが計算尽くなのか?
可愛いと暗に受け止めて良いのか揺れていると、アリアが森に入っていた成果を見せてきた。
「うん・・ありがと。 ねぇサトシ、私もじゃがいも減ってたから、こんなに取ってきたわ。 何か組み合わせて美味しい物出来ないかしら?」
「う~ん・・・」
じゃがいもを使ったパン・・・アリアはじゃがいもが好きだからこそなのだろうが、パッと思いつかなかった。 芋餅はじゃがいもと片栗粉を混ぜて作る料理だが、そこへ薄力粉を混ぜればもちもちした食感のパンになりそうな気はする・・・だが、そんな物は作った事が無い。 分量次第ではボソボソで膨らまない物が出来る気配があった。。。
いや? いっそのこと肉じゃがを包んで焼いて、総菜パンにするか? そうすれば持ち運びも出来る可能性が・・・
「アリア、考えてみるから俺に任せろ!」
浮かんだアイデアは、多分行けるだろうと直感が言っている。
それに、持ち運べるなら今後の携帯食料としても丁度良い。 ただ、生産量を増やすとなると・・・窯が欲しくなるか。。 作りたいものは、日に日に増してくる。 優先順位を付けなければパンクしてしまいそうだった。
「サトシー! お昼ご飯?」
紅葉が部屋から出てきたので、空腹に負けたのだろう。 朝ご飯を食べていた様子は無いので、確認してみるとペアーチを3つ食べたようだ。
お昼ご飯は、いつも通りの焼肉と小まめに過熱を繰り返したポトフ、それとパンで済ませた。 アリアはじゃがいもを2つも頬張り、紅葉は朝食べていないのもあってか、肉優先で食べ、新たなパンには驚いていたが気に入ったようでモグモグと肉と交互に食べていた。 パンの出来栄えは、上々であり薄力粉のみのパンなので粘りは少ないが、軽くスープの付け合わせに食べるならとても相性が良かった。 紅葉を習って、肉をパンに挟んでみると焼き肉バーガーの様になり、肉の旨味を吸ったパンがこれまた美味しい・・・
最後にデザートとして、ペアーチも食べて昼食は終わり、腹安めの時間となった。
「う~ん、2人は午後からどうする?」
「私はアニメの続きを見たいな・・・」
うむ、予想通りの回答で清々しい。
「私はサトシの事を手伝おうと思っていたけど、やれそうな事あるかしら?」
アリアの方はノープランなようだ。
「そうか・・・なら、紅葉もアニメが見れなくなる夕方からは暇になるよね?」
「うん、テレビ映らなくなっちゃうからね・・・夕方から何かやる?」
「あぁ、久々に露天風呂に行こうかなと」
「分かったよ! 私も手伝う事ある?」
「あー・・・やれたらで良いけど、露天風呂は今後使う頻度が増えるだろうから、あの近くに小屋が建てたいんだよね・・・。西の川に作ったような物見櫓やドームである必要は無いけど、俺達で寝泊まり出来るくらいの家が欲しいんだ。。」
「なら、魔法温存しておくから任せてっ!」
やる気十分のようで、ありがたい。 正直家が建てれれば冬は露天風呂の方に寝泊まりしたいくらいだ。。。 ん・・・? 聞き間違いだろうか温存・・・? まぁ詳しく聞くほどでもないかと、紅葉が賛同してくれた事に満足した。
当の紅葉はというと、そそくさと部屋に戻ってアニメの続きを見るようだった。
「また後でなー」
「うん、また後でねっ♪」
紅葉が居なくなり、アリアと二人きりになった事で話を続けることに。
「さてと、さっき言ってたじゃがいもを使ったパンをこれから作ろうと思う。 アリアにはその手伝いを頼みたい」
「何をすればいいのかしら?」
袋に入れた麦を持ち上げて、粉にするつもりなのかやる気満々のアリアだったので、麦挽きを頼むことに。 回しながら麦を適宜入れていくだけなので難しくは無いだろう。 それに紅葉のおかげで回しやすくもなったしな。
出てきた粉がある程度溜まったら、呼んでくれれば石臼を退けてボウルに集める事を伝え、俺は別の作業へ・・・
今後、パンを主食とする為にも、今までの焼き方では日が暮れてしまう。
効率よく、美味しく焼くためには窯が欲しい。
その為の材料として、日干しレンガ作りを考えた。
森の方の土は50cm近く掘ると粘土質の物が出てきていたので、畝作りを行った際の穴ぼこをさらに掘って、まずは粘土質の土を集める事にした。
集めた土は、土埃が家の中に溜まるのも嫌なので、見えない壁の外側に山積みしていくことに・・・
バケツに水を汲んできて、土に水を含ませ捏ねてみると、中々に良さ気な感じに。。
想像以上に粘土っぽい粘り強さが土にはあった。 これなら、陶器とかもできるんじゃないか・・・? おっと・・・思考が脱線して仕事を増やし過ぎるのはダメだ・・・一旦煉瓦に集中しよう。
型枠を作れば均一な形状の煉瓦を複数作れるが、その必要も無いと考えている。 それにこの煉瓦に耐熱性や強度すら無くても良い。 魔法での補助さえかければ石臼の様になんとでもなるはずだ。 問題はその形や機能をイメージさせるだけの十分な材料を集めること。 そうすれば
紅葉が何とかしてくれる・・・はず。
石窯は昔から作りたかった物の一つなので、確か・・・
部屋に戻ると俺が入ってきた事で、紅葉は振り向いたが“大丈夫だよ”の一言で、TV画面に向き直っていた。 本当に熱心に見ているんだな・・・既にこの前見ていたものとは違うアニメを見始めているようだった。
「えーっと、どこかに印刷して仕舞っていたよな・・・」
クローゼットの中から、A4ファイルを取り出し、ページをめくっていく。
既に作った物もあるが、DIYで作りたい物の構想を描いていた資料だ。 寸法等の詳細は製作する時に改めて微調整していくが、“こんなのが欲しい”をイメージした構想図達・・・
「あ、やっぱりあった!」
ピザ窯が欲しいとかで、ネットで情報集めながら描いた構想図が見つかった。
単純な一層式では無く、燃焼室と調理室を分けたドーム石窯の絵である。 メインとなるドームをどうやって作るのかとか、開閉式としたい扉をどう固定するかなど詳細は何も決まってない希望・願望のみで正に絵に描いた餅だった。
すぐに窯を作る訳では無いが、材料や資料を準備しておけば数日の内に形に出来るかもしれない・・・
ファイルを持って外に出ると、アリアから声がかかった。
「サトシー、挽き終わったわ」
窯の事はまた後で考えるとして、今はにくじゃがパンに取り掛かった。
アリアの挽いた小麦粉をビニルシートから、ボウルに移し替える。
「アリアも作れるようになったら良いし、一緒にやろうか」
「できるかしら・・・」
「最初は見てるだけでも良いよ、やれる事から順にやってみようよ」
「えぇ、分かったわ」
水を入れた鍋をかまどの火にかけ、ぬるま湯を作っている間に、ボウルの中へ目分量で砂糖や塩、重曹を入れておく。
「粉の中に何を入れたの?」
「これは砂糖っていって、甘くする為の材料だよ。 これは入手方法が今は無いから貴重だね。 次はいつも使ってる塩。 これも入手方法ないね。。 最後は重曹。 これはパンをフカフカに膨らます材料だよ。 本当は酵母で発酵させてやると良いんだけど、手持ちが無くてね・・・」
細かい事を言えば、麦自体にも酵母菌は着いているだろうから、発酵はする可能性も・・・
あー・・・、この世界に酵母菌っているのか? 味噌などの発酵食品の希少性が上がったかもしれない。。
「へ~・・・この重曹を入れるのが重要なのね。 でも、そんなに少しで良いの? いっぱい入れたらもっとフカフカになる?」
「やめた方が良いかな。。。重曹はあくまで発酵の代用みたいなものだから、いっぱい入れると苦くなっちゃうんだよ。 さっき食べたパンは美味しかったし、あれを目指そう」
ぬるま湯をボウルに少しずつ注ぎながら、生地を捏ねていく。 発酵させる意味があるかは微妙なところだが、生地を寝かせるというのはよくある事なので、さっきの成功に習って30分ほど放置となった。
アリアと共に岩の上に座ってひと休憩・・・
まだまだ陽は高く、ずっと外で作業していたので二人して喉を鳴らしながら水を飲んだ。
「ぷはぁ~・・・水が旨いな」
「そう? いつもと同じだと思うけど・・・」
「あ、そういう意味じゃなくて、喉乾いてたから体に水が染み渡っていくなー・・・ みたいな感じね?」
水分補給的に一気飲みは逆効果とは聞くが、一気飲みは爽快だ。 反論は認めない。
「なるほどね。 それで、聞きそびれてたんだけど露天風呂って何かしら?」
「お・・・おぅ・・・」
そう言えば何も説明していなかったな。 紅葉は一緒に入っているので分かっているだろうが、アリアが来てからは一度も行っていなかった。 というか、余裕が無かった・・・
「家から南へ進むと、温かい川があるんだけど、そこで水浴びしようって事だよ」
「あ、そこ私も知ってるかも! この前、水浴びしてたからセーラー服置いてく羽目になったのよね・・・」
「そうだったんだ、あそこ気持ちいいよね」
「えぇ、水浴びは冷たい事ばかりだったから、温かいのも良いわね」
「なら、露天風呂も気に入ってくれそうだな」
「楽しみにしてるわね。 でも、まずはパンがすごく気になるわ♪」
アリアはボウルの中を覗きに行ったので、俺もついて行くと生地は膨らんでいた。
「パン作り再開しようか」
「えぇ!」
ボウルの生地から余分なガス抜きをして6つに分けた後、それぞれを薄く延ばしていく。
「アリアもやってみる? コツは、真ん中を厚めにして外周部分は薄く延ばすんだよ」
「やってみるわね。 でも、どうして?」
「この後、肉じゃがをこの生地で包むんだけど、包んだ所が厚くなっちゃうからだよ」
「肉じゃがを包むの!? じゃがいも入れて良い?」
「あはは、そのつもりだよ。 紅葉には肉多めのやつを作るかな。 でも、すぐは食べないからね。 焼き立てを食べたい気持ちもあるけど、露天風呂に入って、今日はそっちで泊まるつもりだから、晩御飯や朝ご飯として考えてるからね?」
「えぇぇぇー・・・・」
「残ってる肉じゃがを食べても良いから、パンは我慢ね?」
「わかったわ・・・」
焼き立てを一個くらい食べさせてやりたいが・・・。 延ばしていた生地を再度丸めて、二つに分け、小さな物を2つ作ておいた。
「それじゃあ、包もうか。 あんまり欲張って入れ過ぎないようにね?」
大きなじゃがいもはナイフで切って、生地の上に乗せて肉や玉ねぎも載せていく。 生地で包んで中身が漏れないようにしっかりと隙間が無いように生地同士をくっつけておく。
アリアは、じゃがいもと味の染みた玉ねぎを詰めて悪戦苦闘している。 やはり欲張ったようだが何とか包めたようでやり切った笑顔を向けてきた。
中華鍋にアルミ箔を敷いて、大きな生地2つ、小さな生地2つ並べてパンを焼いていく。
「のんびり待つぞ~」
・・・
アリアはジッと中華鍋の中を眺めている。 自分の作ったパンが上手くできるか心配なのだろう。 並べる時に確認した限り、破れ等無かったので問題なく焼けると思っているが。
「ね、ねぇ・・・どれくらいで焼けるのかしら?」
「う~ん、あんまり気にしてなかったからさっきの焼き時間確認してなかったな・・・」
アリアと一緒にガラス蓋の中を覗き続けた。
白い生地が膨らんでくると、アリアがまたもバシバシと背中を叩いてきた・・・
もう諦めるしかないと、叩かれ続ける他なかった。
「・・・表面に色がついてきたわよ!? 出来たかしら」
「どうかな・・・?」
蓋を取ると、フワッと蒸気と共に小麦の焼けた香ばしさが広がった。
きつね色になった表面はしっかり焼けているだろうと思われる。
「一個食べてみようか」
「えっ、ほんと!?」
「その為に、小さいの作ったんだよ」
「でも、全部で7個しか無いわ。。」
「俺、朝はペアーチで良いから、小さいの2つは味見としてアリアと紅葉の分だよ。 そろそろアニメも見れなくなるだろうか、紅葉を呼んで来てくれないか?」
「えぇ・・・ありがとう。 すぐ呼んでくるわね」
パタパタと走っていくアリアの後姿を眺めつつ、出来上がった肉じゃがパンを網の上に乗せておく。 次の3つを改めて焼き始めるのだった。
しばらくすると、部屋から二人が出てくる。
焼き時間は20分程度かかるようなので、まだまだ時間はありそうだった。
「サトシ、もう晩御飯なの?」
紅葉が首を傾げてきたところを見ると、アリアは何も伝えていないようだった。
「お昼に食べたパンに肉じゃがを詰めた物が出来たから試食しようってだけだよ」
「わ~い♪ 丁度アニメ見れなくなっちゃったし、お腹も空いてたから嬉しいよっ」
「今も焼いているけど、それが終わったら出発するから、食べたら準備してね」
「はーい」
紅葉とアリアの了解が得られたところで、二人に小さなパンを渡した。
一応それぞれに合わせて肉多めのと、じゃがいもと玉ねぎ多めのに分けているので間違えない様に渡している。
「はい、どうぞ。 美味しく出来てるといいな。 感想聞かせてね?」
「うん、いただきますっ」
「頂くわね。 ありがとう」
二人が食べ始めるのを確認した後、中華鍋の中をガラス蓋から覗く作業に戻った。
美味し~♪という声が聞こえてきたので、作った甲斐があったと思う。
石臼で苦労はしたが、パンに詰めるだけでも色々と料理の幅は広がりそうだ。 問題は重曹が有限だし、砂糖や塩も・・・
迷っていたが、その内にエルフから聞いた人の住む町へ行くことを考えるべきだろう・・・
新たに香ばしく焼きあがった肉じゃがパンを、網の上に出して冷ましておく。
持っていく時は、小さい袋に詰めておけば良いかな。
「サトシ、パン美味しかったわ。 これ・・・少しだけだけど」
アリアから1/4程の肉じゃがパンが口に入れられた。
甘辛い玉ねぎがパンにバッチリ合ってた。 薄いパン生地で、閉じ込められていたであろう肉じゃがの旨味がパンに染みていて、じゃがいもも予想以上に合っていた。 ただ肉と玉ねぎが主体の方が良さそうではあるが・・・
「分けてくれてありがとな、あんなに楽しみにしてたのに」
「私達だけ食べるのは違うって思っただけよ」
まだまだ森は明るいが、これから2時間程度で暗くなるだろう・・・
「パンは焼けたから、露天風呂行くぞ! 準備良いか―?」
「いいよー!」
「問題ないわ」
石窯って憧れますよねぇ




