21-1.サラサラな粉(21日目)
徹夜で粉挽きは出来た! ただ前途多難のようだが・・・
「ふあぁぁ~・・・」
すごく気持ちよく寝られた気がする。 寝覚めはシャッキリ、心もポカポカ・・・
紅葉ちゃんを抱いて寝る事も求められてるサトシが羨ましく思った。
この幸せな時間を堪能したい気持ちも多大にあったが、今日も日課は欠かさない。
布団から出て、セーラー服の袖に手を通す。
スカートやショーツも、簡単に身に着けられるようになってきた。
鏡で身だしなみを確認してから外に向かう。
昨日遅くまで作業していたサトシはどうしているだろうか・・・まだ作業している可能性すらある。 ママを見てきた私にとって、サトシの行動は異質では無い。 でも、自分がそうなる事は無いとも思えた。 夢中になってのめり込む事を私はまだ見つけられていない。 そんな事を少しだけ羨ましく思う。
そして、サトシの夢中になれる一面を見れた事が、ちょっと嬉しかったりもする。
カチャッ
玄関を開くと、陽は登り始めていた。 すぐに出たつもりだったが、紅葉ちゃんの抱き心地の誘惑に無意識に負けていたようだった。
「えっ!? ちょっと・・・っ」
かまどの方に目を向けると倒れているサトシが目に入ったので、慌てて駆け寄るとガーガーといびきをかきながら寝ているだけのようだった。 傍らには円柱形の岩が置いてあり、青色のシートの上に白い粉が溜まっていた。
「すごい・・・粉に出来たのかしら・・・」
村では、担当のエルフが麦を町に持って行って、粉に変えていた。 私の家が狩りを専門としていたように、粉にする為に町へ行く専門の家系もあり、どうやって粉にしているかなんて気にした事は無かった。
でも、サトシは昨日から何かを真剣にやっていた。 それがこの円柱なのだろう。 紅葉ちゃんが作った物とは聞いていたが、昨日何をしていたのかは分からない。 それでも、その努力が実っただろう事に私も嬉しくなった。
「おめでとう、サトシ。 それを使った美味しい料理楽しみにしてるからね?」
聞こえてはいないだろうが、私がサトシの努力を一番最初に称賛する事ができた。 傍にくっ付いていたい気持ちを抑えつつ、日課をこなす事に意識を向けた。
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(うぁ・・・暑い・・・)
アスファルトの上で寝てしまったようだ。。。腰が痛いのと、陽に照らされて焼けるように暑い。 アスファルトと接した背中が汗ばんで、喉の乾きもかなり出てきていた。
このままだと熱中症になりそうで、眠気よりも水分補給しようと上体を起こした。
きゃっ!? ごつんっ!
「痛ったぁ・・・」
「痛えぇ・・・」
上体を起こしながら目を開き始めたのが間違いだったのだろうか。 だが、目の前に誰か居るなんて思わないだろ・・・
頭をぶつけ合って互いに悶絶した。
「アリアか、ごめんな。 大丈夫?」
「・・・大丈夫よ。 私の方こそごめんなさい。 それと、おはよう」
アリアは鼻を押さえていたが、大丈夫だと言うならこれ以上突っ込まない事にした。
擦っていた鼻は赤くなっていたが、大事には至ってないようだ。
「ふぁ~・・・アリア、おはよう。 まぁ、睡眠不足ではあるけどね」
眠い目を擦りながら、喉が乾いたのでポリタンクの水をコップに並々と注ぎ飲み干した。
乾いていた喉が潤って、それと共に意識もハッキリしてきた。 昨日のジャリジャリな粉を思い出し、晴れやかな空と対比して俺の心は曇っていた。
「昨日遅くまでやってたものね。 でも、出来たんじゃないの?」
白い粉を見つめて、アリアが首を傾げていた。
「ん~・・・粉にはなったんだけど、擦れた石が混ざってるんだ。。。 このままじゃダメなんだ・・・」
「そうだったの・・・でも、諦めないんでしょ?」
アリアは苦笑しながら、そう言ってきた。 良く分かっている・・・悔しくて悲しいけど、ここで諦める事はしない。 休憩してリフレッシュしたらまた再開するつもりだった。
「あぁ、諦めないさ。 でも、良く分かったな。。」
「そう? ママも同じような感じだったからってだけよ?」
「エイシャさんは、魔法の研究か?」
「えぇ、だから対応には慣れてるのよね」
「そうだったのか・・・」
昨日静かに作業させてくれていたのは、気を使わせてたって事らしい。 その結果が石交じりの粉とは情けない。
「ねぇ、お腹空いてるでしょ? これでも、食べてたら?」
気付くと、アリアはかまどで肉を焼いていたようだ。 まだ食べていた訳では無いみたいだけど、わざわざ俺に肉の乗った皿を渡してくれた。
「ありがと。 急にお腹が空いてるのを実感しだしたよ・・・」
思い出したかのようにお腹がギュルギュルと鳴り出し、出された肉をあっという間に食べつくした。
「・・・焼き加減はどうかしら?」
「バッチリだ。 もっと欲しいくらいだよ」
「そう? なら、はいっ・・・・」
アリアが俺の口の前に焼き立ての肉を差し出してきた。
こ、これは・・・俗に言う“あーん”だ!
が、焼き肉用のトングでされるのは何か違った・・・。
口を開けると肉が舌の上に乗せられ、口の中に入っていく。 焼き立ての肉は、やはり旨い。 空きっ腹に肉が満ちていく・・・
「美味しい?」
「あぁ、美味しいよ。 アリア、ありがとう」
「こっちも食べる?」
アリアはペアーチも持って来ていたようだ。 今朝は本当に気が利いている。 頭を使っていたし、これからも使おうとしている。 糖分は重要な要素だった。
「もちろん! そのままで良いよ、久々にかぶりついて食べたいかな」
「そう? 上手く剥けないから助かったわ・・・」
「あはは、今度一緒に剥く練習をしよっか。 そしたらアリアがペアーチ剥いてくれるようになるな」
「き、気が向いたらね・・・?」
そう言うと、アリアは立ち上がって部屋に戻っていった。 紅葉はまだ寝ているのだろう。 俺は俺で、石臼を何とかしなきゃな。
パシンッ
寝不足ではあったが、しっかり朝食をとって気分は上々。 やる気も十分出てきたので、石臼の問題点を考える事にした。
麦の粉の中に石が混じった理由は、ビニルシートに砂が付いていた等という外的要因では無い。 ジャリジャリとした砂は明らかに石臼が削れている証だ。 上臼と下臼の外周部分を見ると、欠けている部分がいくつかあった。 昨夜は気づかなかったが、もしかしてこれか・・・?
上臼を外し凹面を確認すると、中央の軸穴や溝面の欠けは見られない。 末端の外周部分が欠けたのは単純に扱い方が悪かったからか、臼自体の強度不足だからかも・・・。
そうなるとお手上げだった。 確かに、臼の特性を考えれば硬い石が適切だろう。 だが硬い石なんてそうゴロゴロしていないし、手頃な岩を探すのはもっと難しい。
ちょっと頭を冷やすべきかな・・・
気分転換がてら、ウッドデッキでコーヒーでも飲むか。
湯を沸かしインスタントコーヒーの入ったカップを持って、庭に向かった・・・
俺は足を止めていた。
コーヒーを口に含むと、スッと気持ちが和らいでいく。 だが、目の前の光景は変わらず、夢でも見ているのかと受け入れる事が出来なかった。
昨日撒いたばかりの種から芽が出ていた・・・どころでは無く、葉がしっかりと伸びて茂っていた。 何か起こったのかさっぱり分からない。 ただ植えただけのはずなのに。
紅葉が成長促進でもさせたのか・・・? いや、ずっとアニメを見ていたはずだし、成長させたとは考え辛い。 これは、まるで育成系のゲームでもやっているような感覚だ。 超高速で芽が出て花が咲いて実って・・・
記憶から抜け落ちていたが、この世界は不思議世界だ。
現実世界よりも、ゲームの世界と考えた方が合っていると思えるほどの。
だが、エルフ達から聞いた麦の成長はこんなに早くない。 とすると・・・
俺のこの家(見えない壁)の中に畝を作ったからか? この空間は外敵から隔離されているだけでなく、他にも効果があるのかも知れない・・・
既に冷めたコーヒーを飲み干して、すぐに実験に取り掛かった。
家の範囲内と範囲外に新たな畝を追加し、それぞれに種を撒いて水を掛けた。
水を掛ける時、部屋を覗くと紅葉は起きてアニメを見ていた。 朝起きてすぐにアニメを見始めていたようだ。 もちろん畝に魔法をかけた事も無かったようで、家の範囲内が特別な可能性が高くなった。
水を掛け終わり、一息つくと石臼の解決策が閃いた。
魔法が合った。 硬くて削れない割れない感じに変化させてもらえば良いと単純な考えだが、この世界では重要な選択だった。
「紅葉ーっ!」
「さ、サトシ、どうしたの!?」
アニメを見ていたようだが、慌てて呼びに行った事で驚いた紅葉がすぐにリビングから出てきた。
「何かあったの? 大丈夫?」
「ごめん、大丈夫なんだけど、早く作りたくて・・・少しだけ手伝ってくれないか?」
アニメを見ていた紅葉には悪いが、石臼の完成の為に手を貸して欲しかった。 俺やアリアには出来ない事だから・・・。 というか、アリアはどこに行ったのだろうか? 部屋には居ないようだが・・・
「いいよっ! 何をすればいいの?」
「昨日作ってくれた石臼なんだけど、硬くて割れない丈夫な物に変化させられないかなって・・・」
「多分出来ると思うっ」
「よーし、任せた♪」
一緒に外へ出て、改良した石臼の形状や理想の形状も伝えつつ、臼の強化を話した。
「・・・と、そんな感じで、欠けたり割れないように丈夫な物に変えたいんだ」
「ちょっと待っててね、やってみるーっ」
紅葉は臼に前足を当てて目を閉じた。 魔法を試してみるようだ。
(頼むぞ、紅葉・・・・)
俺では役に立てないので、完全に紅葉頼りなのが情けないが、これも協力の内と割り切って全面的に頼る事に。
石臼に変化は見られない。 光るとか何かモヤみたいな物に包まれるとか、色が変わるとか。。。
「やってみたよっ! どうかな・・・?」
目を開けた紅葉も不安になったようだ。 見た目は何も変わっていない。 壊れると困るので、装備を解いた状態で叩いてみたがやはり変化は分からなかった。 上臼をひっくり返して見てみると変化は間違いなくありそうだった。
刻まれた溝の目は鋭利であり、溝の掘らなかった部分は細かな凹凸があり、荒いヤスリのようになっている。 エッジの効いた溝は外周に向かうにつれて浅くなっており、その周囲も凹凸が細かくなっていた。 極めつけは外周部分だ。 微細な筋が外周付近にびっしりあって、最外周部分は触ると分かる程度のザラザラ感で目の細かい砥石のようである。 強度面が改善しているかは全く分からないが、望んでいた形状は得られていたので、魔法は成功と見て良さそうだった。
「でき・・・たっぽいねっ! 私は。。。アニメ見てきてもいい?」
「あ、あぁ。 ありがとね、紅葉」
魔法が成功していた事に安堵し、喜んだのは一瞬で直ぐにアニメに意識が戻ったようだった。 アニメに本当にハマったようだな・・・
お礼を言うと、すぐさま部屋に戻って行ってしまった。
少し寂しくもあるが、麦粉を使ってアニメへの興味をこっちへ向けさせたいと言うやる気へ変わっていった。
臼を組み立て、早速麦挽きを再開する。
ゴリゴリと削れる感触が手に伝わってくるが、明らかに回す重さが軽くなっていた。 木の軸を受けていた窪みが滑らかな穴に変わった事が効いているのだろう。
回し続けると白い粉が零れ落ちてくる。 吹けば飛んでしまうほどキメ細かい白い麦の粉が・・・。 白というよりは、若干黄みがかっているか? 全粒粉だが、キメが細かければ独特の黒や茶色の粒々は白っぽさの中に溶けてしまう。 今朝挽いたばかりの石入り粉以上に、この粉は細かく白っぽく見えた。
「これはすごいな・・・あとは・・・」
白い粉を指に付け、舐めてみた。
ぺろっ・・・
こ、これは青酸○リ!
何て冗談が思い浮かぶほど、麦粉は滑らかで石のジャリジャリ感すらなく、年甲斐も無く飛び上がって喜んだ。 やはり強度不足の岩だった可能性が高い。
これなら麦が挽ける! 俺は時間を忘れて麦を挽き続けた。
ビニルシートの上にはドンドン粉が溜まっていく。 臼に麦を投入すれば、簡単に粉が出てくるのが楽しくて仕方ない。 昨日の苦労は無駄ではなかった。 作った物を強化すれば、道具の少ない今でも、形に出来さえすれば何か作り出せる希望がこの臼からは生まれた。
石臼としての機能以上に、この結果は成果だろう。
まだまだこの世界は便利に過ごせる・・・!
溜まった粉を、ボウルに集めたが・・・何を作るかちゃんと考えていなかった。
ポトフもあるし、パンも良さそうだ。
ピザ生地だって出来るかも・・・
パスタやうどんだって作れる可能性は出てくる。
ただ、この粉が薄力粉なのか強力粉なのか分からない・・・扱い方は大きく変わるんだよなぁ。
試しにパンを作ってみる事に。
小さめのボウルに粉を取り分け、砂糖・塩・少量の重曹を入れて、ぬるま湯を加え軽く箸で混ぜていく・・・ 粉が水を吸い、いくつかの塊が出来ていく。
ぬるま湯をさらに加え、塊を増やしていく・・・半数以上がボロボロの塊になったところで手で捏ね始めると、1つの塊にまとまった。
「発酵は・・・今の気温と日光で十分以上か」
生地の入ったボウル内に指を弾くようにして水を掛け、ラップを被せてしばらく放置する事となった。
アリアはどこへ・・・あ、どこか行っていたのか。
丁度、森からアリアが出てくるのが見えた。 手には何か持っているようだ。
「おーい、アリア! どこか行ってたのか?」
「あ、ただいま。 ちょっとじゃがいも探しに行ってただけよ?」
「見当たらなかったからちょっと心配したぞ・・・」
「・・・あっ! ごめんなさい、忘れてたわ。。」
アリアは袋を地面に降ろすと、隣に座ってきた。
ポフッと肩にアリアが持たれかかってくるが何も言ってはこない。 だが、それで良かった。
静かに時間が流れていく。 吹く風は涼しいが、陽はポカポカと温かい。
一緒の日向ぼっこは、心も温かくなってくる。
「サトシは何をしていたの?」
アリアが口を開き、抱きついてきた。 俺もアリアの背中に右手を回した。
「麦の粉が出来たから、ちょっと実験的な料理をしてみてるよ」
「どんなものを作ってるの?」
「パンだよ、村で食べてたやつと同じような」
「えー・・・ あぅっ!」
露骨にガッカリしたアリアのおでこをコツンと小突いた。
「村で食べたままじゃ無い工夫は盛り込んであるぞっ」
「そうなの? なら期待するわっ」
より強く抱きしめられたと思ったら、パッと離れてボウルを覗きに行ってしまった。
「ちょっとしょんぼり・・・だな」
「サトシのえっち♪」
下心は見え見えですね・・・(´・ω・` )
気持ちを切り替えて、俺も発酵中のパン生地を見に向かった。
「結構膨らんだな・・・次の作業に進むか」
「あら? ふかふか・・・♪」
「おいおい、あんまり押して潰すなよ?」
アリスが物珍しそうに生地をツンツンと指で押してフカフカの感触を楽しんでいた。
アリアも参加して、パン作りを再開となった。
中華鍋にアルミホイルを2枚重ねて千切った生地を丸めて並べていく。
鍋に蓋をして、火にかけて焼けるのをアリアと待つことに・・・




