19-2.話し合い(19日目)
遂に牢から出る事に成功!
何やら出て早々…
「紅葉?」
腕の中で丸まっていたが、頭を上げて洞窟の出口に視線を向けていた。
毛を逆立てて威嚇しているのだろう事が、ハッキリと伝わってきた。
「サトシ・・・一旦、静かにしてて」
「・・・アリス?」
「あらあら~」
洞窟を抜けると・・・
ドンッ!
村の民と思われる人々が地面に押さえつけられると共に、紅葉が腕の中から飛び出した。
ポツポツと立っているのは子供だろうか? 情けは・・・あったようだ。
アリスも紅葉と共に地面に伏した人達に近づいていった。 何かその背中は映画のワンシーンのようなカッコ良さがあった。
「エイシャさん、これは・・・」
「ん~・・・あの子達、怒ってるから少しだけ頭が冷えるの待った方がいいかな~・・・」
「ほかっといていいのでしょうか・・・?」
「仕方のない事だから、目を閉じて耳を塞いでいてあげるのが、あの子達への優しさかも~」
「・・・そ、そうですか?」
俺は言われるがまま、後ろを向いて耳を塞ぎ地面に座った。
・・・
・・・・・・
何も聞こえない、何も見えない・・・
地面を伝わり振動や砂埃、爆風まで感じる気がするけど
気がするだけだから、大丈夫だよねっ!
二人を怒らせるのは絶対に避けよう・・・それに、今回は俺の身を案じて怒っているようだしな。
エイシャさんが言うように、俺が二人を安易に止めてしまうのは、その気持ちを否定することになるだろう。 一度吐き出させた後に、今後の対応を決めれば良いか。
俺の中で、エルフから得たい物は決まっている。
パンの材料が欲しい。 狩猟での肉の入手方法について知識が欲しい。
う~ん・・・食材についてのばかりだな・・・。
それに、アリスやエイシャさんには悪いが、俺としてはエルフの村とはある程度、距離を置きたいと思っている。 密に協力する義理が無いと思っているからだ。 滅ぼうが・・・俺には関係ない。
アリスが望むなら・・・別だろうけどな。
ただ、俺の力じゃ既に2人すら守れない。。
今回は川で溺れかけた不可抗力もあったが、俺に万能なチート能力は無い・・・。
装備一式はチートと思うが、全装備を身につけなければ身体強化のオプションは働かない。
ただの人間なんだ・・・魔法だって俺はろくに使えない。 俺達の生存率を上げるには、紅葉が攻防の要だもんな。 絶対に紅葉は渡せなかった。
静かになったか・・・?
肩を叩かれ振り向くと、村人達は悪臭漂う悲惨な状況になっていた。
アリスと紅葉は、溜飲が下がったのか満足げな表情でこちらに近寄ってきた。
「サトシと同じ状況にしておいたよっ♪」
「私は何もしていないけど、スカッとしたわ。 紅葉ちゃん、ありがとね」
「・・・、俺の為に二人ともありがとな。。。」
素直に喜んで良いのか悩ましいが、助かったという事実にホッとしていて、恨む感情は無い。 今後湧いてくるかと問われても、無いだろう。
異物に対して、小さな村が行う行動として間違っていないと思っている。
先頭に居るのが、村の権力者だろうか? 俺を捕らえるよう指示していたのも彼女だったと思い出した。
近づこうとすると、アリスに肩を捕まれた。
「全部取り返したから、着てよ・・・」
「・・・ありがとう」
危ない、裸族に慣れ始めて居たようだ。 羞恥心のある人に戻らなくては・・・
下着や防具を纏い、盾も剣も変わり無かった。
バックパックのペアーチや肉、回収した皮は無くなった様だが全て調達出来るものだし問題はなさそうだった。
改めて権力者と思われる女性に近づいて行った。
汚れて悪臭を放ちつつも、物言わず下を向き続けている。
その視界に、俺の足が入ったのだろう。 肩が跳ねているのが分かった。
俺はまだ、何もしていないんだがなぁ・・・
していないからこそ・・・か。
身に纏っていた鎧から、肉付きの良いエルフなのが分かる。 アリスと同じように、襲われる覚悟を持っているのかもな・・・
その背後には、屈強なエルフの男が同じように下を向いている。
握りしめられた拳は、震えているようだがそれ以上の動きはない。
ふむ・・・
「権力者と思うが、お前の名はなんだ?」
「村長のクイン・ロードナイトと申します・・・」
ちょっと言い方キツかったかな? 振り向くとアリスが口を押さえてやがる。。。
「ふむ・・・クインって呼べば良いか?」
ドカッ!
「痛っ!? アリス、何するんだよ。。。」
じゃれ合う強さじゃなく、かなりマジもんで叩かれた。
「わ、私だってまだ名前で呼んでもらって無いのに何でクイナ姉なのよっ!? 胸なのっ!? サトシも胸で比べるのっ!?」
あたふたしてると掴み掛かっていたアリスが、エイシャさんに引きずられて行った。 その際に重要なことを耳打ちされた。
「わたし達エルフの女性って、将来を誓った相手か肉親のみが名呼びするのが通例なのよ~・・・だから、一応クイナちゃんって呼んであげて~」
遠くでアリスが暴れているようだ。 さっきよりもお怒りのようで、厄介な状態になってしまった。 というか、将来を誓った相手・・・か。 アリアって呼んでみたらどんな反応をするだろう? 拒絶されることは無いと思うが、嫌がられたら立ち直れなさそうだ。。 まぁ、遊び半分で呼ぶのは止めとくか。 やって良い範疇を超えているだろうから。
「・・・それじゃあ、クイナさんと呼ぶ事にするよ。 後、畏まらなくて良いから。 もう過ぎた事は仕方ないし、無事に解放された。 それに、俺が何かするより、紅葉にされた事の方があなた達には効くだろうしな」
「そうか・・・すまない。。」
「ダメっ! サトシ、この人達許して欲しくないっ!」
「紅葉・・・」
アリスの怒りは、別の事に移っていたが紅葉は、まだご機嫌ナナメだったようだ。 俺の肩に飛び乗ってきて、頬を押して抗議している。
「紅葉様のお気持ちを尊重するのが、我々一同の思いです」
・・・
紅葉考えているかは分からないが、クイナ達としては・・・
「あなた達への処置については、夜もう一度集まって話さないか? こちらとしても仲間と意見を話し合いたいものでな」
「分かりました」
クイナの了解を得て、もう一つ確認を入れた。
「俺の仲間のみで話し合える場所は無いか?」
「アリス達に部屋を当てているから、そこを自由に使ってくれ」
「アリス、案内してくれないか?」
顔を見るなり目を逸らされたが、歩き始めたアリスに俺達は着いていった。
「サトシ、どうして話し合いをするの?」
真っ先に紅葉が疑問を投げてきた。
「んー、クイナ達は間違いなく、紅葉との遺恨をこの場で解消させたいようだった。 でも、俺としてはあまり関わり合いになりたくなかったから、あの場はなあなあで済ませて、離れようと思ってたんだよ」
「そ、そうだったんだ。。。」
「よっと・・・でも、遅かれ早かれエルフの村との関係はみんなの意見を聞きたかったから、大丈夫だよ」
しょんぼりとした紅葉を抱き上げて、頭を撫でながら話しかけた。
「アリス、さっきの事はごめん。 名前にそんな意味が合ったなんて知らなかったんだよ・・・他意はないから、機嫌を治してくれないか。。。?」
「むぅー・・・」
アリスは唸るばかりだった・・・村についてはアリスと紅葉の気持ちを尊重したいが、話し合いになるだろうか・・・幸先不安である。
「エイシャさんは、クイナ達の行動について何か感じましたか?」
「ん? サトシさんが考えるように、クイナちゃん達は紅葉ちゃんとの関係を改善したいのは間違いないわねー」
「それは、何故です? あの人達が求めているのはキウィ様何じゃないですか?」
「んー・・・そっくりだから、かしらね~?」
何かはぐらかされた気しかしないが、これ以上は話さないわよ~と言うかのように、アリスの方へ行ってしまった。
暇を持て余すように周囲を眺めていると、歴史を感じさせる家々が立ち並んでいる。
平屋のようで壁や屋根も板を貼って作られているようだ。 中には、茅葺き屋根のようなものまである。 おっと、竪穴式住居か? テント風の形状をした家まであった。
各家の違いはあれど、出入り口には横に立て掛けられた戸と思われるものがどこにもあった。 ヒンジは難しいかも知れないが、引き戸出すらないのか? 俺の住んでいた世界と比べると、ここは未開の土地で発見された先住民の集落のようだった。
村民は洞窟前に集まっていたのもあるだろうが、村には家という存在以外の生活感が希薄に見えた。 何だろうか?
そんな事を考えていると、アリスが足を止めた。
「ここよ、中に入れば椅子とテーブルがあるからそこで話しが出来るわ」
到着した家は、他と比べると立派だった。
入り口には引き戸があり、屋根も板1枚を敷いただけの簡素なものでなく、段々に重ねて貼ってある。 何て言ったかなこの技法・・・現代でもあるものだ。 建築知識や技術が無いわけでは無さそうだ。
戸をくぐると、円卓と丸太から削り出された椅子が目に入った。
だが、アリスは椅子の前で立ち止まり、振り返ったまま何も言ってこない。 こちらをジッと見ているだけで、少し怖かった。
「アリス・・・?」
「はぁー・・・サトシが座らないと始まらないわよ」
めっちゃデカイため息をつかれたぞ・・・俺の精神力がごっそりに削られた。
「どこでもいいか・・・」
上座がどうとか面倒なことを考える必要はない。 ただ手近にあった椅子に腰を掛けた。 良い椅子だ、丸太をくり貫いたと思われる繋ぎ目のない造り。 滑らかな曲線は、尻や背中を負担無く包み込んでいるようだ。 固いはずなのに柔らかい、そう思わせるだけの匠を感じていた。
「それで、話ってさっき話してたことよね?」
アリス言葉を皮切りに、話し合いが始まった。
というか円卓なのにアリスは俺のすぐ隣に座っている。 紅葉は俺の膝の上。
エイシャさんだけが、円卓の意図を汲んで向かいに座っているという何とも話しにくい配置だった。
「あぁ、そうだよ。 話の流れから俺の考えから話そうかな?」
誰からも否定は無かったので、包み隠さず話すことに・・・
「さっきも言ったけど、クイナ達の面倒事に巻き込まれたくはない。
だが、向こうから引き出したい物が2つある。 1つは牢に居た時に与えられた食事で、材料に興味がある。 その材料の入手方法を知りたい。 栽培が必要なら種とかでも得たい。 二つ目はもうすぐ来るだろう冬に備えて肉が不足してきたから、肉の狩猟について情報が欲しい。 これらを得た後は、家に帰ってのんびりしたい。 何か思うところある?」
「私はサトシが良いなら、何でも良いよっ」
予想通り紅葉の合意は簡単だった。
「私は言いたい事ばかりだわ・・・」
「どの事?」
「牢での食事ってどんな食べ物だった?」
「んー、丸くて茶色くてカチカチの・・・」
「・・・パサパサなやつよね?」
俺の話にアリスにはすぐ予想が付いたのか、言葉を被せてきた。
「そうそう、それ。 あの材料には穀物が使われていると思った。俺達の食事のバリエーションをかなり増やせそうな気がしたんだよ」
「そう・・・パンね。 あまり私は好きじゃないかな。 あれって戦闘時とか食事の準備が困難な時に、非常食として食べるような物だし、良い思い出がないから・・・。 ただ、あの麦は私達が冬に栽培していた物だから、自生はないわ。 貴重では無いから種を貰う事は難しくないと思うわ」
「それはありがたい。 美味しいものが作れると思うから、期待してくれ」
「そう? 楽しみにするわね。 それと、狩猟なら私に任せてよ・・・」
どういう事かと思っていたら、聞き専だったエイシャさんが答えた。
「わたし達のラピス家って、魔法が使えない家系だから、弓や狩猟を生業としていたのよね~」
まぁ、“私は違ったけどね~”と希代の魔法士は付け加えていたが。
「そうか、ならクイナ達に頼むのは穀物の種だけで良さそうだな。 ちょっと確認したいんだけど、森の中でイノシシや狼狩っても光になって消えるばかりで肉が得られないんだけど、どうやって得るんだ?」
「モンスターと狩猟対象の動物は違うのよ。 モンスターはこちらに向かってくるから、遭遇しやすいけど狩猟対象は足音とかで逃げてしまうから遭遇したことが無かったたげだと思うわ。 今まで、そんな事も知らなかったの・・・?」
「全く知らなかった・・・アリスにとって当たり前が、俺には違う事もあるから、気づいたら今後も教えてくれないか?」
「ええ、それは良いわよ」
アリスの言いたい事はこれで終わりだろうか?
「・・・後、、、」
一呼吸置いてから、再びアリスは口を開いた。
「サトシの考えに賛成しているんだけど、クイナ姉達との関係性をどうするか、何で悩んでいるの? あの場でハッキリと言えばそれで良かったと思うわ。 この状態自体、サトシの望まない物にしか見えないのだけど」
エイシャさんも、うんうんと首を縦に振っていた。
「うーん、エルフの村はアリスの育った場所だし、顔見知りも居るんだろ? 俺の言い分で全てを決めるのは変だと思った。 アリスと話して決めたかったから、話し合いを・・・と思ったんだよ」
「ねぇ・・・クイナ姉って胸が大きいわよね・・・?」
「そ、それがどうかしたのか・・・?」
「ふーん・・・、大きい胸って嫌い?」
「嫌いじゃないけど、どちらかと言うとエイシャさんより、アリスの方が俺は好みだぞ?」
「ほんと?」
「本当だよ」
完全に俺が胸に釣られて、クイナに命令できるチャンスを失うのが惜しくて、アリスを建前にしたとでも疑念を持たれたようだった。 だから、ずっと不機嫌だったのか・・・
アリスが良いんだと推せば、怒りも鎮まるだろうか?
ロリコンな俺は、肉感がありセクシーなクイナよりも、スレンダーなアリスの方が好みなのは嘘偽り無い。 それに、小さい事にコンプレックスを持ってるようだし、アリスの態度は結構ツボだ。 今度、そういう攻め方をしても面白そうだなと、その内訪れるだろう夜に思いを馳せた。
俺の発言以後、アリスの表情から予想するに嫌がってはいない。 嬉しそうだが、何かまだ押しが足りない。。
そう言えば、俺が今回アリスと話し合って決めるべきだと考えていた事に、アリスもエイシャさんすらも気にせず、そのままクイナに伝えれば良かったと考えていた。
気にせずぶつかっていけば良いのか? アリスの事を・・・と思ったけど、遠慮しない方が良いのか?
なら・・・
「俺は、アリアの胸も見た目も性格も好きだよ」
「・・・っ!」
・・・・・・
アリスは固まっていた。
「・・・サトシさん、間違ってはいなかったわ~・・・でも、ここじゃなくて二人だけの時に言ってあげるべきだったでしょうね~」
エイシャさんの指摘は的確だった。。
一度限りの大切な思い出を無にしてしまった瞬間だった。
「アリア・・・、アリス・・・?」
「っ!? ・・・ばかっ!」
アリアは家を飛び出し、走り去った。 顔を真っ赤にしていたのが、怒りではないと願うばかりだ。
「私ちょっと行ってくるっ!」
紅葉も、アリスを追いかけて飛び出していく。 ずっと静かだった紅葉が突然どうしたのだろうか?
「エイシャさん、自分もアリアを追いかけてきますね」
窓から射し込む陽はまだ高い、昼を過ぎてお腹は空いているが我慢は出来る。 ここでアリアを追いかけなかったら、フラグクラッシャーの称号を得られそうだった。 紅葉が行ってしまったので簡単には探し出せないだろうが。。。
「は~い、アリアちゃんの事よろしくね~」
妄想が来ないなぁ~そんな時は書けませんね。。。




