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1-2.森の探索(1日目)

家の周囲を探索し終え、遂に森の中に足を踏み入れることに!

そこでは何が待っているのかっ

頬に感じる風は爽やかで、日陰はとても気持ちが良い。 芝生で寝転がったり、芝生スキーをしたりと遊んだ子供の頃を思い出す。


 「あぁ、あの頃は自由で小さな事が色々と楽しかったな・・・」


 仕事に行く(もとい行けなく)必要が無くなったが、今は本当に自由だ。

 時間に追われる事も無くただ自分の為だけに、ただ赴くままに。 鬱屈した生活でもない。 他人から見たら悲観するべき時かも知れないが、俺にはそうは感じられなかった。 このワクワクはなんだろう?


 「まるで子供心を取り戻したかのようだな」


 これからやるべき事は山積みなのに物思いに耽って中々に腰が重い。 こんな風にゆっくりと考える時間が取れたのは久しぶりだ。 何となく時間に追われ重圧に押しつぶされそうになりながらも耐える必要は今は無い。


 先の大地震で俺は一度死んでいるのかも知れない。 死の恐怖はあったが、こうして五体満足で生きている。 肩の荷が降りた,憑き物が取れた,または生まれ変わった、そう言えるような精神的に大きな変化が起きている。 これは今、とても良い兆候だと感じている。 33年間生きてきてそりゃトラウマ物の記憶なんていくつもあるさ。 それらから急に開放された気持ちなんだから。

 

 ぱしっ

 「よし、いくか」


 気合を入れて太ももを叩いて立ち上がり、爽やかな風で揺れる木の葉を付けた木々に目を向けた。 出発は早いに越したことは無い。(俺の腹の虫も11時からグーグー鳴るようなせっかちさんだ)


慎重に進もう、ここは避暑地でも観光地のキャンプ場でも無いと考えるべきだ。 もしもの為にと、バックパックに入れておいたサバイバルナイフを取り出し、直ぐ使用できるようにベルトに取り付けておく。


 (使わずに済ませたいな)

 

 血はあまり好きではない。 もちろん吸血鬼とかの意味でなく、ただ赤い血液を見るのが怖く苦手という意味だ。


 ザクッ・・・ザクッ・・・・・・ペキッ

 「うひゃっ!?」


 鬱蒼と生い茂る草木の中を慎重に少しずつ進んでいく。 時々踏みつけて折れる木の枝に逐一ビクつくのが情けないところではあるが。。。


 足元は枯れ枝や落ち葉で敷き詰められてフカフカとしている。 とても肥沃な土壌なのだろう草も青々と茂り、ツル植物が絡まり合い行く手を阻んでいる所がいくつもある。 ただ、中々獣道のようなところすら見つける事は出来ていない。 更に歩みを進めると草木が茂っていないエリアが見えてきたので足を速めていく。


 ガサガサ・・・ ザクッザクッザッザッ・・・


 ・・・ぺと。

 「太いな・・・」


 草木が茂っていないエリアの中央には一本の大木があった。

 大木に近づき手の平を幹に当てて頭上を見上げた。 樹高は一体何mあるのだろうか? 幹を見る限り両手を広げても3倍近い直径がありそうだ。 この森の木々は全体的に大きく感じるがこれは特別に大きい。 この木のせいか周囲には草木がまばらでこの大木の異様さをより鮮明にしている。 まるで杉の樹皮のようだが針葉樹だろうか? 杉,ヒノキ,イネ科と3点揃った花粉症持ちの自分としてはいささか恐怖を覚える木ではあるが、この雄大さを前にしたら神々しさすら覚える。


 「今は何時だったかな」


 腕時計を確認したところ12時半になっていた。1時間ほど森に踏み入っているようだ。 今のところめぼしいものは無い。

 蛇や野生動物など、少なくとも昆虫程度には出くわすだろうと思っていたが意外なことに見当たらなかった。 まぁ出会ってもドキュメンタリーで見ていたベア・○リルスのように食したりは出来無そうだが。 しかし、食料が見当たらないのは少々困っている。 何よりも今回の最重要目的である【水】の入手目処も立ってはいない。


 生き残るためには先へ進まなければならない。 分かってはいるが、足を止めて木陰で立ち止まってしまってからは足が重くて一歩が出ない。

 バックパックから2本目のスポーツドリンクを取り出し、口に含んでからゆっくりと喉を潤した。 貴重な水分であり、少しずつ飲まなければ危険だ。

 重い足取りを言い訳に、木陰で幹に背を預け目を閉じて周囲の音に耳を傾けた。


 (水音は・・・ っ!)


 耳を澄ましていると、木の葉が風で擦れるサラサラとした音が聞こえ、だんだんとそれが鮮明になってくる。 集中して周囲の音を聞き分けていると微かだがゴーっといった滝の流れる水音が聞こえた気がした。 喜びで立ち上がり大木から離れ、耳の後ろに手を当て少しずつ回りながら周囲の音を再び聞き分けていった。


 「西か」


 バックパックにぶら下げた方位磁石を確認し、西に滝があるかも知れないと判断した。 今までは家からただ北に向かっていたので、この大木を目印に西へと進む事とした。 家から大木までは北へ1時間ほど踏み入った。 現在時刻はもたもたしていた事もあり、13時になってしまっている。 帰宅を考慮すると西へ1時間以上進むのは危険と考えるべきか。 この場所が地球と同じような日没かは分からないが日が沈んだ森の中を歩き続けるのは危険過ぎる。 14時をリミットとして帰宅する事を念頭に進むこととした。


方位磁石とソーラー腕時計を持っていて良かったとつくづく思う。 どこかの樹海のように方位磁石が狂うとかが無い事を祈るばかりだが。 そして電波受信する事はやはり出来なくなっているが、時間の指標になり、且つソーラー電池式によって電池切れの心配が無い腕時計は本当に重宝している。


 大木を基点に西へ進み30分程度たった頃、目の前には大滝が現れた。


 頭上20mはあるだろうか。 崖から水がゴーゴーと流れ落ち、滝つぼに落ちる前に岩に当たった水が細かな雫となり辺りに舞い散っている。 雫は白い靄のようになりながらキラキラと輝いて滝つぼに虹が掛かっている。 周囲は苔生しており、岩肌のグレーと深い緑や明るい緑、そして木漏れ日から線状に差し込む光の帯とそれに掛かる虹。


 「雄大で、そして美しい」


 轟音の中、バックパックの中身がサバイバル道具でなく三脚とカメラだったら間違いなく写真を撮っていただろう。 そんな自然の美しさと強さを見せ付けるこの滝に目を奪われてしまっていた。


 5分ほど思考が停止していただろうか。

 滝つぼから離れた川縁へ向かった。


 「く――っ! 冷たい! そしてうまい!!」


 川の中に手を入れ凍えるような冷たさに一瞬手を抜いてしまったが、改めて手で水をすくって口に含むと柔らかく飲みやすい。 何より冷たくて火照った体にはこの上なく美味だ。

 日本の水のように軟水だろうか、飲みなれた水に近いと感じた。 まずは空になったスポーツドリンクの入っていたペットボトル1本分に川の水を汲み入れておいた。


 水の確保は出来たな。 川周辺は岩や砂利地であり、木々が茂っておらずひらけている。 時刻は後20分で帰宅ルートへ入るべき時間となるが、その川沿いで何か茶色い物が落ちているのが見えた。


 迷っているだけの時間は無い。 俺は足早にその茶色い物に向かって歩みを進め、岩場で足を滑らせないように注意しながら寄っていった。


 「これは・・・動物か?」


 驚愕である。 子供のイノシシのような可愛らしい見た目の生き物が横たわっていた。

 ただし、体はずんぐりと丸っこい瓜のようでそこから短い足が4本生えており、頭と胴の境が分からないのである。 さながらデフォルメされたゲーム序盤に出てくるようなマスコットモンスターその物だった。

 近くの崖が崩落しており、滑落してイノシシ(?)はここに落ちたのだろうと推察した。


 一旦離れて手ごろな棒を2本拾い、バックパックから取り出したビニール紐でサバイバルナイフを棒へ括り付け簡易槍を作って改めてイノシシ(?)に近づいていく。


 ザリ・・・


 岩の上をすり足に近いような動きで慎重に近づき、棒で倒れたイノシシ(?)をつついて転がし、イノシシの心臓がある両前足と首の付け根辺りを露出させた。


 ドッ、ドッ、ドッ、ドッドッドッドッドッドッ


 自分の心臓の鼓動がどんどん早くなっているのを嫌というほどに感じる。 騒音おばさんも真っ青なくらいに俺の鼓動は鳴り響いていて、他全ての音が掻き消えるくらいに緊張してしまっている。 血は苦手だ、ただしそんな事を言っている場合ではない。 それに千載一遇のチャンスだ、遅かれ早かれ覚悟を決めなければならない時が来る。

それは今なのだ、今やらなければ次はもっと危険な状態だってあり得る。 やれる時にやらず、逃げていては大地震前の生活に結局逆戻りしてしまう。 今は自由なのだ、誰の目も無く誰に束縛される事も無い。 今の状況を生まれ変わったと言うのなら、鬱屈した生活をするのではなく、俺は新たな殻を破って胸を張って生きていきたいと考えた。


 だから今やるんだ。

 (いただきます)



 ドスッ ドシュッ・・・




 ナイフに赤い血は余り付かなかった。 イノシシとは心臓の位置が違う可能性や外観はきれいだが既に絶命して時間がたっている可能性もある。 

 一旦、川岸に大き目の石を並べて荒い囲いつくり、水の中にイノシシ(?)を寝かせて少しでも血を洗い流しつつ、身を冷やす事とした。


 時間は既に14時半

 帰宅する計画を放棄し、野営する事に意識を切り替える事とした。


 まだ日は高い、今準備をすれば十分間に合うだろう。 まずは川沿いから森に戻り、薪や枯れ木,乾いた落ち葉と枯れ草を出来るだけたくさん集めてきた。 川沿いから少し離れた手頃な砂利地にバックパックからテントを取り出し設営した。


 さて、次は心が避けてしまっていたが・・・ イノシシ(?)の解体作業だ。


 「・・・ふぅ――・・・・・・」


 大きく一呼吸付いて、川の中で冷えたイノシシ(?)に目を向ける。

 川から引きずり出して、腹からナイフを縦に入れた。

 

「ん?」


 ザクッ、ザクッ・・・ ググッ ザクッザクッザクッ

 内臓は・・・薄膜に包まれたやつが・・・。 何度もナイフで切り進んでいた。


 「はぁっ!?」


 素っ頓狂な声を上げてしまった。

 内臓を取り出し皮をそいで、部位毎に解体して精肉する作業工程のはずだった。 しかし、腹の中は内臓など無く、いくら切り進んでも全て肉の塊だったのだ。


 イ・・・イノシシを捌いていて精肉していらた、イノシシ型の生肉を捌いていた。

 な・・・何を言っているのか分からないと思うが、俺も何を捌いているのか分からなかった。

 頭がどうにかなりそうだった・・・

 アレが生きていたかとか、動物だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ

 もっと異質なものの片鱗を味わったぜ・・・


 イノシシ(?)(ナニカ)は現在、真っ二つになっている。

 断面は赤く、所々に白い脂が入っており一見は美味しそうである。

 ただ、内臓はおろか骨すら見当たらない。


 少々腰が引けたが、腹は減っているのだ。

 イノシシ(?)(ナニカ)から皮をそぎ肉ブロックに切り分けて、ジップロックに入るだけ入れて川の中で冷蔵保存する事にした。


 「入りきらなかった分は、もちろん焼肉祭りだな♪」


 喜びのあまり小躍りしながらバックパックからファイヤースターターを取り出し、枯れ草に着火して落ち葉,小枝,薪へと燃え移らせた。


 「焚き火ってどうして落ち着くんだろうなぁ」


 肌寒くなる秋の夕暮れでも、揺れる炎は心も体も暖かくしてくれた。 冷えてきた手を温めた所で、川の水で軽く洗った石(洗った厨も大歓喜)の上で イノシシ(?)(ナニカ)のブロック肉を薄切りにし、先端をナイフで鋭くした小枝に薄切り肉を刺して火にかざした。

 熾火になるまで我慢できなかったので、火の勢いが強いままだが煤が付こうが気にせず焼いていく。


 肉の表面から赤い汁が出始め火が通ってくる。 溶け出した脂は、熱された石や炭に垂れてジュウジュウと音を立てだした。。


 「もういいかな?」


 火が通った事を確認し、恐る恐る口に含む・・・ 柔らかい! しかし肉らしい弾力と歯応えもある。 そして脂が甘い・・・

 正直驚くほど旨かった。 肉そのものを焼いただけだが、すきっ腹にこの充足感はたまらない。 惜しむらくは、調味料か。

 あ、そういえば熱中症対策で入れてた塩があったかも。 バックパックの中を漁ると瓶詰めの塩が入っていた。 その時、ただの塩だが崇めざるを得ないほど輝いて見えた。


 その後の1人焼肉祭りは本当に祭りであった。 焼いても焼いても肉があり、腹いっぱいに肉を食べる事が出来た。

 塩様様である。


 肉はまだまだあるが、冷蔵保存する事も食塩水等に漬け込んで干し肉にする手立ても現状無い為、塊のまま秋の夜長を石の上で過ごしてもらう事とし、石を積み上げて肉ブロック様を最上段に奉っておいた。


 テントに戻り、焚き火に薪をくべて火を強くしていく。


 正直、ここのイノシシ(?)(ナニカ)等を相手に火が効果あるのかは謎だが、野営として火を保ち続ける方策を取る事とした。

 テントに入り、軽量で断熱性は低い寝袋だが、体を収めたら今日一日の疲れからか直ぐに寝付いてしまった。



 夜は深まり、川沿いを離れればその先は暗い森が延々と続いている。

 川沿いは拓けており、夜空に輝く月(?)と星によっておぼろげに照らされ、川の流れは月(?)と星をその煌く水面に映していた。


 ガサッ・・・


 森の中、今は全ての物音が水音で隠されていてテント内に聞こえる事は無かった。


 


こまめには更新していくつもりですが、中々時間が取れないのでごめんなさい。

さぁて明日も仕事なので寝ときます。

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[気になる点] オタク趣味の主人公だ!って話だったはずなのにトレッキングシューズとかテントとかサバイバルナイフとかファイヤースターターとか突然出てきて不思議 [一言] キャンプも趣味って描写があったっ…
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