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19-1.仲間(19日目)

洞窟の中は悪臭で・・・一向に出られないまま時間だけが過ぎていく・・・

 「出してくれー・・・」


 何の返事も無く、自分の声が反響するのみ・・・


 何度目だろうか? 眠りについてもすぐ起きてしまっていた。

 

 まだ生きている。

 声も出るし、喉の潤いは垂れ落ちる水で賄えている。 腹を下す事は無かったが、糞尿は垂れ流すしかなかった。 悪臭で吐きそうになったが、不思議なものだ…次第に鼻が慣れてしまった。


 転がって周囲を足や顔での触感で調べた限りだと、一面のみ木製になっているようだった。

 洞窟を牢屋とする為、木枠で蓋をしているという事だろう。

 光が一切入って来ない事もあり、浅い洞穴では無く、深い洞窟だろうという憶測までは立てた。


 だが、食料も含め一切を与えられる機会が巡って来ない。

 水さえあればある程度生きながらえるとはいえ、どこまで正気を保っていられるか・・・。


 物音は、雫を除いて何もない。

 そう言えば、深い洞窟だと酸素不足で即死する可能性もあったか? 出入り口や風穴が密閉されていない事を祈るほかない。


 何か無いか・・・何か。。。

 一発逆転する方法が無いか!?


 ・・・召喚魔法・・・頼るものはもうそれしか無かった。

 アリスを探し始めた時に、一度失敗している。 成功するかどうかは分からない。

 だが、思いく事はもうこれしかなかった。


 残りの体力と精神力を全てそこに注ぐことを決意した。

 腹は減ったが、時間は十二分にある。

 条件を整理しながら考えるか・・・


 まずは、召喚する対象との距離だが成功した時は、直線距離にして10mだったろう。

 正直その程度が限界なら、この魔法の価値は大きく目減りする。

 もっと深く調べておくべきだった今後悔しても遅い。 距離に関しては結論を今は出せそうに無かった。


 次は魔力不足の懸念だが、熟れたペアーチを食べた事で、すこぶる体の調子が良くなったこと、眠っていた紅葉(もみじ)も起きるきっかけになったことから、俺の魔力は全快している可能性が高い。 少なくとも1回の発動は問題ないはずだ。 他の条件が原因なのだろう。


 成功した状況を改めて分析するか・・・

 あの時は、アリスをオカズに妄想した時だったか。 後から聞いた話では、服だけ部屋に残して裸で召喚されたとの事だった。 まさかな・・・。

 召喚対象の裸をイメージしないとダメなのか? またはイメージの濃度が重要なのか?


 一旦、イメージの濃度面で考えるか。

 オカズにしたい、その一心から俺のイメージはアリスの全体像よりも胸部や下部に注がれていた。 召喚されただろう瞬間は、顔よりも胸部のみの想像だったはずなのにも関わらずアリス本人が召喚された。 とすると、全体像では無く一極集中でも相手をイメージできれば召喚が成功する可能性が出てきた。


 試すか・・・


 牢屋の中に召喚するのは申し訳なさもあるが、ここは寂し過ぎる・・・

 すまない、アリス・・・

 謝罪と共に、目を閉じてアリスの胸部を念入りにイメージする・・・


 「アリスっ!」


 ・・・

 ・・・・・・


 ダメか。 まだ何かが違うようだった。 


 あの時は、触ろうとしていたか・・・?

 もう一度イメージ(妄想)を膨らませていく・・・今は縛られて手は出ないが、触れる事を想像して・・・


 「アリスっ!?」


 ・・・

 ・・・・・


 ダメなようだ。


 後は・・・

 考えたくなかった。

 だが、もう見て見ぬふりは出来そうになかった。

 今、俺はほぼ裸だ。 あの時はシャツを着ていたし、今との差は少ない。


 しかし、こんなところで・・・何とかなるか?

 簀巻きにされ、糞尿を垂れ流した状態で、寝かされた岩肌も硬く痛い。

 妄想力がそこそこあったって、かなり難しい試練のように感じた。


 だが、試す他ない。 だって、暇なんだもん。

 アリスの事を考え続ける・・・主に夜の方面で・・・深く深く。 自分の置かれた環境を頭の中から追い出し、アリスだけを。 簀巻きのままミミズのように這い、そして妄想を続ける・・・

 アリス…っ!


 洞窟に光が差した。


 眩しい・・・


 ドサッ


 ・・・!


 「アリスッ!?」


 「飯は1日1食だ、お前の扱いが決まるまでの残り少ない人生を楽しめよ」


 ・・・

 ・・・・・・


 目を開けると、砂袋から伸びたロープの先に、丸っこい茶色何かが結ばれていた。

 仰向けになって、天井を確認すると小さなから光が漏れており・・・あっ、塞がれた。。。


 一筋の光も途切れ、また暗闇がすべてを包んだ・・・。


 光が差した時間は短かったので、何が落ちてきたかはあまり確認できていない。

 だが、一日一食与えられる事と、何か食べ物であるのは間違いないだろう。

 手前に転がって来ていたのは見ているので、慎重に這いつつ上半身を振って顔に当たる物を探し続けた。


 「あった・・・堅そうだな・・・」


 3mは裕にあるだろう高さから落ちて、原形を保っているのだから当然か・・・。

 匂いは・・・香ばしい・・・まさかこれは!?

 あまりおいしくは無かったが、間違いなくパンだった。

 カチカチでパサパサなのは仕方ないとして、じゃがいもとは違う炭水化物感があった。

 エルフは、穀物を所持している可能性が高い。 これは大発見だ! 穀物があれば、食事事情はもっと明るくなる。 俺はとても楽しくなった。


 垂れ落ちる水を口で受け止めながら、パンを食べ終わる頃に俺のテンションは元に戻っていた。


 今までの状況から導き出せる俺の召喚魔法は・・・家の中でしか効果が得られない可能性が出てきた。

 魔法の概念を認識したのはつい先日のことだ。

 認識するまでは使えないような事をエイシャさんは話していたな。。。

 悲しいが、毛穴操作魔法の方が使い勝手が良いような気さえしてきた。 俺に魔法の才能は無さそうだ。


 真っ暗闇の中で、俺は砂袋を枕にしてそんな事を考えていた。


 このまま出られないのだろうか? 暗闇の中は、時間の流れがおかしい。 抑えていた恐怖心は、次第に膨らんで覆い隠せなくなってきた。

 これが監禁の恐怖だろうか? 頭がおかしくなるのも時間の問題かもしれない。

 光が、音が、声が・・・当たり前にあったもの全てが恋しかった。


 「紅葉(もみじ)、アリス・・・・・・」


 真っ暗闇の中、俺は砂袋を枕にしたまま、眠りに落ちた。

 意識を切ることで、精神の消耗を抑えるかのように。



-----------------------------------------------------

 (ん・・・硬いなぁ・・・)

 「っ!」

 私は、懐かしい枯草の寝床で目を覚ました。 窓から覗く空はまだ薄暗いが、もうじき日の出だろう。 日課をしようと立ち上がった。


 「アリアちゃん、おはよ~」


 「おはよう、ママ」

 ずっと昨夜は隣に居てくれたのだろうか? いつもフラフラと出歩いているが、今日は違っていた。


 「アリアちゃんは今日も~?」


 「日課・・・だからね」

 ちょっと、気恥ずかしさはあったがもう60年以上繰り返してきた事だ。

 子供の頃にママが話してくれた物語・・・それは、作り話だったのだろうし、所詮は子供だまし。 でも、信じた先に何かが。 幼い頃に願った事を今も願い続けている。


 外へ出て、日の出の方向を確認する。 南東はあっちかな。

 膝をつき手を組む・・・


 地獄に居た頃、祈り 願う事が出来ずにいた。 だから、私の願いはもう叶う事は無い・・・そんな風に諦める事は出来なかった。 数々の奇跡が起きたのは、願いが形になったとも言える。


 願っていた事は、半ば叶っているだろう、でも全部じゃない。 私は強欲だ。

 ・・・

 ・・・・・・


 森の木々から陽が出た後、私は立ち上がった。

 後ろには、静かに見守っていたのだろうママが居た。

 「そんなところで、どうしたの?」


 「アリアちゃんを見ていただけよ~」


 「何よそれ」

 クスっと、少しだけ笑い合っていると・・・


 「エイシャ様、アリス、おはようございます」


 「リュウ君、おはよ~」

 「おはよ」


 「昨夜は眠れましたか?」


 「アリアちゃんはぐっすりだったわよ~。 私については昨日話した通りよ~」


 「失礼致しました」


 「そんなに、かしこまらなくても~・・・」


 「そ、そんな事よりっ! 朝から何か騒がしくない・・・? まぁ祭事のような感じだけど」


 「あぁ、そうだった。 すまんなアリス、助かった。 昨夜キウィ様が戻られたんだ、それで村の者が昨夜から飲み明かして・・・」


 そう言われてみると、リュウもお酒臭い。 こいつも一緒になって参加してたんだな・・・ん? キウィ様・・・?

 「今、キウィ様が戻られたって言った!?」


 「お、おぃ、アリス、激しく揺らすな・・・頭が・・・」


 私はリュウに掴みかかって、詳細を聞き出した。

 昨夜、クイナ姉が部屋を出て行ったのは、獣の群れの対処に参加したこと。 その後、キウィ様が川上から走って来られたところを皆で迎え入れたとのこと。


 キウィ様とは、紅葉(もみじ)様の事ではないかと思われた。

 ママに視線を向けると、何も言わず頭を縦に振っていた。

 同じ考えに至っているのだろう、紅葉(もみじ)様が目覚めた可能性が高い。 ではサトシは・・・?


 考えるよりもまず、キウィ様を確認しないと・・・。


 「リュウ! キウィ様に会いたいっ! 一刻も早く!」


 「ど、どうした・・・? お前もキウィ様ファンだったのは分かるが、抑えろ・・・今はクイナ隊長の許可が・・・うっ・・・」


 「なら、クイナ姉と話すから案内して!」

 「私もキウィ様と話したいわ~」


 「・・・わ、分かった・・・どうしたの言うのだ、アリス・・・あー、クイナ隊長に伝言を頼む。 アリアが至急、キウィ様と面会したいとのこと。 おっと、エイシャ様も面会希望とのことだ。」


 リュウをねじ伏せる事には成功した。 次はクイナ姉だ。

 頭の中は色々な想像が交錯している。 最悪な事になっていなければ良いが・・・。


 ぎゅっ・・・


 「きっと・・・だいじょ~ぶだから。 サトシさんも、紅葉(もみじ)ちゃんもそんな軟じゃないわよ~」


 「・・・ぅん、ごめんなさい。 ちょっと取り乱しちゃったかな」

 一呼吸して、


 「もう、大丈夫よっ!」


 クイナ姉は、祠にいるからそこで集まろうとの伝言が返ってきた。

 私の剣幕というよりも、ママの効力が効いたのだろう。


 二日酔い(?)で顔が青くなったリュウの案内で、私達はその祠へと向かった。

 クイナ姉が私達を見つけたからか、向こうからもこちらに向かってきた。


 「エイシャ様、アリス、急用との事だが・・・?」


 「クイナ姉! キウィ様は、自分を“紅葉(もみじ)”様だと言っていなかった!?」


 「ど、どうした、アリス!? どういう事だ・・・?」


 「痛っ」

 「アリアちゃん、性急過ぎるわよ~」


 ママに頭をチョップされて、自分が焦り過ぎている事に気づいた。 急ぎたいのは山々だが、クイナ姉含め村全体にも関わる事だ・・・正しく理解を得る必要があったのだ。


 「ごめん、クイナ姉」


 「気にする事は無い。 それよりも急ぎだったのだろ、教えてくれ」


 私はゴブリンの巣から逃げ今まで生き延びてきた経緯と、ここに来た背景、そして私も間違えたキウィ様とそっくりな紅葉(もみじ)様が居たこと。 その紅葉(もみじ)様が私達を探しに来ていたのかも知れないと伝えた。

 クイナ姉は、真剣に考えてくれているようだった。


 「アリス、信じがたいが言い分は分かった。 この先の祠にキウィ様はおられる。 失礼のないように頼む」


 「ありがとう! クイナ姉!」


 私は、祠に向かって走り出した。

 


---------------------------------------------------

 「エイシャ様・・・どういう事でしょうか?」


 「ん~、アリアちゃんが話した内容で間違いは無いけど、私の予想も含んだ補足を聞く~?」


 「えぇ、お願い致します」

---------------------------------------------------



 木で組まれた祠は簡素ではあったが、村の他の建物と比べると特別な存在だった。

 昨日今日で作られた物で無いのは明白だ。 村の皆が、キウィ様の存在を・・・帰りをどれだけ願っていたかが分かる。 私は今、それを壊そうとしているのだ。 胸は痛いが、現状を紅葉(もみじ)様が望んでいないのは想像に難くない。


 祠を守ってるのだろう兵が、私の顔を見るなり会釈と共にクイナ姉達が居る方へ去っていった。


 何故・・・? クイナ姉が気を利かせたのだろうか?

 そんなことを考えてる場合じゃなかった!


 祠の中に目を向けるとやはり・・・

 「紅葉(もみじ)様! アリスです!」


 「・・・私は紅葉(もみじ)・・・キウィ様じゃない。。キウィ様じゃない。。。」


 ブツブツと呟きつつ、虚空を見ているようだった。

 不敬とは思ったが、今は周囲に兵は居ない。 祠の入り口を開き、紅葉(もみじ)様を抱き寄せた。


 「紅葉(もみじ)様! アリスです。 お願いです、こちらを見て下さい・・・」

 無理やりではあったが、強制的に私を見てもらえるように顔を押さえ、何度も紅葉(もみじ)様を呼んだ。


 「・・・アリス・・・?」


 「・・・はい、アリスです!」

 紅葉(もみじ)様の目がはじめて私を捉え、みるみると目に光が宿っていくのが分かった。


 「アリスッ!」


 紅葉(もみじ)様が初めて私に向かって抱きついて来てくださった。 はじめ、サトシに嫉妬していた頃もあった。 やっぱり紅葉(もみじ)様もふかふかで気持ちい・・・あぁ~・・・もふもふ。。 紅葉(もみじ)様は私がもふもふを堪能するまで、されるがままに・・・


 「・・・アリス、良かった。 やっと会えた・・・みんな悪い人では無かったけど、誰も話を聞いてくれなかった・・・」


 「紅葉(もみじ)様、もう大丈夫です。 私は紅葉(もみじ)様が知っているアリスです。 ママのエイシャも居ます! 私達を探しに来てくれていたんですよね。 ありがとう御座います」


 「そ、そうだっ! そんな事より、サトシが大変なの!! 手伝って!」


 「サトシが!? やっぱり一緒に来ていたのね・・・」

 私達の事は、紅葉(もみじ)様にとって“そんな事”だったようだ。 分かってたけどちょっと悲しい。。。 まぁ、そうだよね。 私はサトシの救出へ気持ちを切り替えた。


 「紅葉(もみじ)様、今は私に着いて来て下さい。 周りが何を言って来ようとも、気にしないで下さい! 紅葉(もみじ)様は紅葉(もみじ)様です!」


 「うんっ! ありがとう、アリス」


 クイナ姉のところに戻ると、ママとクイナ姉達は話し合っているようだった。


 「・・・? ただいま。 やっぱり、紅葉(もみじ)様だったわ!」


 ザザッ


 「・・・クイナ姉・・・?」

 クイナ姉達は、紅葉(もみじ)様の前で跪いて頭を下げていた。


 「紅葉(もみじ)様、誠に申し訳ありません。 我々の非礼に弁解の言葉はありません」


 「ママ・・・? これはどういう事・・・?」

 紅葉(もみじ)様もポカーンとしているが、私も同様だった。


 「色々あったのよ~」

 はぐらかされた様だが、今重要なのはそこでは無かった。


 「紅葉(もみじ)様、混乱しているとは思うけど、今はサトシの事を優先しよ? 今なら話を聞いてくれるわ」


 「アリス、ありがと」


 紅葉(もみじ)様が、先頭で跪くクイナ姉に近寄っていった。


 「私が来た時、一緒に居た男の人はどこにいる? 川で取り囲んでいたよね?」


 かなり紅葉(もみじ)様はお怒りのようだった。 さっきまで居た祠では、死んだような表情だったのが嘘のようだ。


 「もし、サトシの身に何かあったら、私はあなた達を許さない!」


 「・・・現在、牢にて監禁しております・・・」


 「・・・っ・・・ 牢はどこ?」


 「・・・あちらです。」


 指し示した指の方角に、大きな岩があった。

 「・・・あの岩の中?」


 「洞窟の入り口を・・・魔法の岩にて塞いでおります・・・」


 「そう・・・」


 ドンッ!


 紅葉(もみじ)様が空中に足場があるかのように、跳びながら最短距離で洞窟へ向かうと共に、跪いていたクイナ姉達は押し潰されるように地面に押さえつけられていた。 私やママを除いて・・・

 ・・・これはヤバそう・・・。 クイナ姉、ご愁傷様・・・。


 タタタッ・・・


 「紅葉(もみじ)ちゃん、ご立腹ね~・・・まぁ仕方ないわよね~」


 「私だってあぁなっていただろうし・・・」

 申し訳ないが、クイナ姉達はそのまま放置して、私達も洞窟へ向かいながら話し合った。


 「そういえばクイナ姉達、よく紅葉(もみじ)様の事分かってもらえたわね?」


 「さっきも言ったけど、アリアちゃんが行っている間にも、わたしから繰り返し説明したのよ~」


 「・・・ふ~ん」

 それ以上、ママは話す気無いようだった。


 「クイナ姉達、あのままで大丈夫かな?」


 「紅葉(もみじ)ちゃんも、殺さない程度で抑えてたみたいだし~大丈夫と思うわ~」


 「でも、紅葉(もみじ)様が重力操作や空まで飛ぶなんてビックリしたわ。。」


 「あれは、風操作だと思うわよ~? 紅葉(もみじ)ちゃんの柔軟な発想はすごいわ~」


 ママの目がキラキラしている。 今、魔法が使えなかったとしても魔法に対する興味は尽きないようだった。 


 洞窟に着くと、さっきまであったはずの大岩が横にズレて、口を開けていた。

 湿り気の高いヒンヤリと空気が中から外に流れてくる。 異臭もするが、サトシはこんなところに・・・。

 紅葉(もみじ)様の事を言えないかもな・・・。私もクイナ姉達に怒りを覚えた。

 

 洞窟の中は真っ暗で先は見えない。 私にもママにも魔法は使えないし、手元に火も無い。。

 だが、壁伝(かべづた)いに洞窟に入った。

 私も早く会いたかったのだ。 一番は紅葉(もみじ)様に譲っても、二番目は私でありたい。


--------------------------------------------

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


 「・・・っ!」

 洞窟内に激しい音が響き渡り、目を覚ました。


 「な、なんだっ!?」

 立ち上がる事は出来ないが、木枠の彼方から聞こえてくる。 ここへの入り口で何かあったと思われる。 今朝の話を考えると、俺の処遇が決まったという事だろう。

 ここで殺されるのはたまった物ではない。 探しに来たアリスすら見つからずその上、アリスと同族だろうエルフに殺されるのは死んでも死にきれない・・・。


 暗闇を照らす橙色の光が洞窟内を満たし始め、眩しくて目を開けていられなくなる。 響き渡る軽い音が、どんどん近づいてくる・・・。

 「サトシ――――!」


 「!? 紅葉(もみじ)かっ!?」


 「大丈夫!?」


 眩しくて目は閉じたままだ。 長時間の暗闇に目が慣れてしまって、目の前の光に耐えられなかった。

 「あぁ、大丈夫だ。 怪我もないよ。 助けてくれてありがとう」


 「良かった・・・。 今解くね!」


 ザクッ!


 巻かれていたロープが切断された様だ。 手を伸ばすと簾が広がっていく・・・

 あ、俺裸だったか・・・


 「サトシ・・・痣だらけだよ・・・本当に大丈夫?」


 「大丈夫だよ、それより臭い大丈夫か・・・?」


 「・・・鼻に魔法使ってるくらいには苦しい・・・苦しいかな。。。」


 「すまん・・・」

 歯に衣着せぬ物言いに悲しくもあり、潔さが変に気を使われるよりも気楽な感じでもあった。


 「痛くなったら言ってね? 今洗うから!」


 「助かるよ」


 やっと薄目から、目が開けらるようになってきた。

 目の前には大きな回転する水の球体が出来始めている。 直径2mくらいか? 俺が十分入れるだけのサイズか・・・・うぉ!? ゴポッ・・・

 水球は、俺を飲み込んで回り始めた。 こ、これは・・・人間洗・・濯機・・・

 30秒で終わる事を祈りつつ、目を閉じ考える事をやめて酸素消費を減らしていく。


 肌から水が離れていく・・・


 再び目を開くと、体と牢の汚れも取り込んだ水球がふよふよと浮いていた。


 「紅葉(もみじ)、助かったけど魔力は大丈夫か? 体が怠くなったら全体に魔法使うの止めるんだぞ・・・?」


 「うん、まだまだ大丈夫だから! 次は乾かすね?」


 この魔法は、記憶がある。 温かくて気持ちいいやつだ。。。

 はわぁぁぁぁ~~~~

 あー・・・これほんと良いわ。。 さっと濡れていた体が乾いてしまった。


 「ありがとな、ほんと助かったよ」


 「もっと早く助けに来れなくて、ごめんなさい」


 「でも、助けに来てくれただろ? それで十分だよ、ありがとう。 それと、抱きしめても良いか? さっきは汚れてたけど・・・」


 「うんっ♪」


 胸に飛び込んできた紅葉(もみじ)を優しく抱きしめた。

 腕の中で丸まった紅葉(もみじ)を抱いたまま、俺は洞窟の出口を目指して歩き始めた。


 紅葉(もみじ)によって作られた、小さな太陽と汚れた大きな水球と共に・・・。


 洞窟は溶岩洞のようにぽっかりと穴が空いており、壁面の凹凸が少なく整備された物のようにすら見える。 こんな場所を家にするのも面白いなと、救出という安堵感から頭が回り始めた。


 「ん・・・アリスとエイシャさんか・・・?」


 前方から手を振って走ってくるのはアリスのようだ。 エイシャさんはその後をゆっくりと歩いている。

 「アリス、やっと見つけたぞ!」


 「それはこっちのセリフよ・・・何で抵抗しなかったの・・・って、服はどうしたのよ!?」


 「仕方ないだろ・・・身ぐるみ剥がされたんだから・・・」

 汚れも落ちて裸族という独特の解放感に浸っている。


 「体痣だらけだし、大丈夫なの?」


 「まぁ、体も動くし大きな問題は無いと思うよ」


 「そう・・・。 ねぇ、心配かけてごめんね。 探しに来てくれたのよね? ありがとう」


 「お互い様だよ」


 「サトシ、アリスが私のところに来てくれたから来れたんだよ!」


 「おっ、そうだったのか。アリス、ありがとな♪」


 「も、紅葉(もみじ)様!? 私なんて何も・・・」


 「ううん、アリスありがとう。 それと、出来ればもう“様”は付けないで」


 「も、紅葉(もみじ)・・・ちゃん・・・」


 紅葉(もみじ)とアリスの仲が変わる良い機会だったのかもな・・・。

 ふふっ・・・何か微笑ましいな。


 「エイシャさんも助けに来てくれたんですか?」


 「私はアリアちゃんの保護者よ~」


 「なるほど」

 遂に全員が揃った。

 3人で並び、洞窟の出口を目指していく。 俺は裸族であり、下半身もブラブラしているが、寒く無かった。 心の温かさが体まで温めているかのように。


 いや、紅葉(もみじ)の小さな太陽のお陰か。


 洞窟の出口には人だかりが出来ていた。

ふ~ やっと書けた

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